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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

MUSIC AWARDS JAPAN、5月21日開催のPremiere Ceremonyを踏まえ改善提案を記す

国際音楽賞、アジア版グラミー賞とも形容される日本の新設音楽賞、MUSIC AWARDS JAPANは今週開催。月曜の演歌・歌謡曲部門に続き昨日はPremiere Ceremonyと題して40部門の表彰が行われました。下記リンクのうち音楽ナタリーでは登壇もしくはメッセージを寄せた歌手のコメントが、Yahoo! JAPANでは受賞作品/歌手およびノミネート一覧が掲載されています。

自分はradikoを通じてPremiere Ceremonyを確認したのですが気になる点が多くみられたため、今回はそれらの改善を願うべく問題を記します。なおnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんがいち早くnoteでPremiere Ceremonyについて採り上げていますが、ブログ執筆時点となる5月22日午前4時45分の段階でもMUSIC AWARDS JAPANの公式YouTubeチャンネルにてPremiere Ceremonyのアーカイブはアップされないままです。

 

 

まず、最大の焦点である受賞結果については本日行われるGrand Ceremonyでもって判断することが必要ですが、たとえば受賞作品/歌手に2023年以前リリースや2023年以前の流行が大きく反映されています。現在の音楽チャートはストリーミング時代ゆえロングヒットする傾向にあるとしても、ここからはMUSIC AWARDS JAPANの投票メンバーによる行動が保守的だと感じた次第です。

投票行動については先日予測を行っています。MUSIC AWARDS JAPANの投票メンバーについて、内訳を開示することを願います。

 

 

さて、”保守的”という表現は、米グラミー賞の受賞結果にて時折みられます。投票会員の人種ならびにジェンダーの偏りに伴い、特に黒人歌手の作品が主要部門で選ばれない傾向の高さを批判する意味で用いられるものですが、グラミー側はこの10年ほどで投票会員の増員等によりバランスの是正に努めた結果、近年のグラミー賞はストリーミング時代のヒット作品が受賞する傾向が高まっているという印象です。

そのグラミー賞における表彰ですが、実に洗練されています。グラミー賞の公式YouTubeチャンネルには主要4部門を主体に表彰するテレビ中継部分のほか、YouTubeで生配信するその他部門の表彰についても部門単位で切り抜かれていますが、そのスピーチは生配信パートで2分弱、テレビ中継パートでも2分程度が一般的です。

上記動画は今年のグラミー賞において最優秀アルバム賞を受賞したビヨンセ『Cowboy Carter』、および最優秀ダンスポップレコーディング賞を受賞したチャーリーXCX「Von Dutch」での受賞コメント動画。テレビ中継された最優秀アルバム賞についてはその受賞の瞬間も含まれています。

ここからは、受賞の瞬間からスピーチ終了までのスマートさが見て取れます。また司会との会話のやり取りはなく、スピーチ後速やかに退場しています。なお最優秀ダンスポップレコーディング賞はチャーリーXCXではなく「Von Dutch」を制作したフィン・キーンが登壇していますが、YouTube生配信部分(MUSIC AWARDS JAPANにおけるPremiere Ceremony)では歌手自身が登場しないことも少なくありません。

とはいえ、昨日のPremiere Ceremonyでは音楽制作関係者ではなくレコード会社担当者等、いわゆる偉い方の登壇が目立った印象です。またひとつひとつのスピーチが長く、スピーチ後には司会者とのやり取りを行うことが通例となっていました。加えて複数の部門を一気に紹介してから表彰することで尚の事、スピーチ部分が長く感じられたというのが私見です。

 

その司会者についてですが、3名も必要だったでしょうか。歌手として活躍される男性が含まれることで登壇する歌手や音楽関係者は安心するかもしれませんが、一方で女性司会者が噛むことの多さは純粋に気になっています。ならばノミネートやエントリー作品紹介時に司会を務めたクリス・ペプラーさんを招聘し、また女性もアナウンス力の高い方が担当する、そして多くても2名体制でよかったのではと考えます。

(個人的にはパフォーマンスを行ったヒューマンビートボクサーのSHOW-GOさんに対し、その声はどこから出るか等の初歩的な質問を行った司会者に強い違和感を抱いています。観てくださる音楽ファンへの配慮として用意された質問かもしれませんが、音楽のプロフェッショナルが集まる賞ゆえ、厳しい物言いですが拙く感じた次第です。)

加えて、MUSIC AWARDS JAPANでは”ルビー”と呼ぶトロフィーを贈呈する側が主催側の偉い方だったようです。それ自体は悪いと思わないものの、彼らが受賞作品/歌手を発表するVTRのフリとして”ルビーゴーズトゥ”と述べる、その発音のぎこちなさや発声の弱さは気になっています。国際音楽賞ゆえ英語でというルールだったのかもしれませんが、格好良くできないならばそのルールを無理に敷く必要はないでしょう。

 

(Premiere Ceremonyの途中でMUSIC AWARDS JAPANを主催するカルチャー アンド エンタテインメント産業振興会の会長、依田巽さんが登壇されていました。依田さんは2004年の著作権法改正に尽力された方ですが、その改正は輸入盤CDが手に入らなくなる可能性を孕んでおり、日本の音楽業界はさらにシュリンクしたかもしれません(監視等の結果、輸入盤は今も手に入ります)。新設音楽賞はそれとは真逆の開かれた動きゆえ、依田さんが今何を思うのか気になります(著作権法改正についてはこちら等で記しています)。)

 

 

radikoにMUSIC AWARDS JAPANを聴いていた者としては、そのradikoの進行にも違和感を抱いています。在阪FM局のDJが結集した形ですが、一方で4名は多すぎます。音楽ジャーナリストの柴那典さんも含む5名体制だったゆえ尚の事です。またPremiere Ceremonyの進行をつかめていなかったためか、ステージ再開時に喋りが被ることが少なくありませんでした。

ステージではVTRにてノミネーション一覧が紹介された後にそのVTRにて受賞作品/歌手が発表されていますが(ひとつひとつをプレゼンターが紹介するほうがワクワク感が生まれるゆえ好かったというのが私見)、VTRではノミネート作品/歌手の名前が紹介されずにradikoではただ曲の一部が流れるのみとなり、聴き手に不親切だったといえます。最初からその問題に対処してほしかったと考えます。

 

そのradikoでは冒頭で”#MAJ2025”をハッシュタグとして紹介していたものの、本来はMUSIC AWARDS JAPANやradikoのXアカウントが事前にその旨を周知すべきであり、以前から使っている方が多い”#MUSICAWARDSJAPAN”でも好かったのではと感じた次第。そしてラジオDJゆえラジオ特別賞の紹介時に熱量が高くなることは自然かもしれませんが、それが進行の支障となっているようにみえたことも残念です。

もっといえば、radikoでは受賞者のコメントをきちんと流さないことがありました。特に裏方部門で受賞者本人が登壇した際に、コメントに被せる形でDJが喋ったのはあってはならないことと愕然としています。仮に裏方だから被せてもよいと捉えているのならば、そのやり方は裏方部門をダイジェストでしか流さない日本アカデミー賞と同様に裏方へのリスペクトがない行為ではないかと、強い違和感を抱いています。

 

 

日本アカデミー賞を悪しき例として挙げましたが、スピーチの長さやスピーチ後の司会とのやり取り、いわゆる偉い方によるプレゼンター担当等は、日本レコード大賞も含む日本の賞全般に当てはまる、いわば”洗練されていない”点を踏襲してはいないかと考えます。偉い方の登壇からは日本でベテランを過度に重用する姿勢を想起したのですが、この問題はMUSICAWARDSJAPAN演歌・歌謡曲部門振り返り時に指摘したばかりです。

司会の人数を減らし進行のプロに託す、プレゼンターは堂々とした態度で臨む、受賞コメントにある程度の時間制限を設ける(それに伴い一部門ずつきちんと表彰する)、radiko中継はステージときちんと連携を取ると共に不足分を自発的に補う等について、MUSIC AWARDS JAPAN側に求めます。YouTubeライブがradikoより30分遅れて開始したことも問題です。

MUSIC AWARDS JAPANのステージングについては米グラミー賞を参考にすることを勧めます。またradikoの進行については『NHK紅白歌合戦』のラジオ生中継を参考にすべきという声もあり、強く納得した次第です。

そして、Grand CeremonyのみならずPremiere Ceremonyであっても、ノミネートされた歌手の出席率を高めることは新設音楽賞の使命でしょう。そのためにも、授賞式が冗長であってはならないはずです。一方で今回のPremiere Ceremonyでは出席した歌手を優先する形で部門紹介の順番を設定したと考えますが、その姿勢がみえたことで”立て続けの受賞は凄い”という感想を抱けなかった自分がいます。

 

 

一日での改善は極めて難しいことは承知で、それでも変わることを願いMUSIC AWARDS JAPANに対する問題提起と改善提案を記しました。来年に活かすことを望みつつ、最後に好い点としてこちらを採り上げます。

STARTO ENTERTAINMENT側は日本レコード大賞について、特に大賞や新人賞のノミネートに関しては消極的な姿勢であると言われています。その中にあってWEST.が受賞し、且つコメントを用意した(壇上でも読み上げられた)ことは、新設音楽賞の創設が日本の音楽業界や芸能界に旧来から存在した慣例や柵の除去につながったと捉えていいかもしれません。その点は純粋に評価します。

一方で、WEST.は現時点でもデジタル解禁を行わず、また表彰者の登壇前にスペシャルバンドが演奏した日本の曲の中にはサブスク解禁に懐疑的な山下達郎さんの「SPARKLE」もありました。サブスク未解禁歌手が受賞やフィーチャーされることが問題とは思いませんが、MUSIC AWARDS JAPANの開催や受賞をきっかけに海外も意識し、彼らがデジタルに明るくなるならばと願うばかりです。