イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり)『ミュージックステーション』初出演のDa-iCE…"J-POPを極める"こととチャートへの結実について

(※追記(5月16日19時04分):記載内容(ハッシュタグ)に誤りがありました。エントリーの後半にて『Da-iCE側はこの法則を理解の上で、"#ダンスくる恋ダンス"を意識して投入しているかもしれません。』と書きましたが、『Da-iCE側はこの法則を理解の上で、"#ダイスくる恋ダンス"を意識して投入しているかもしれません。』が正しい内容です。訂正し、お詫び申し上げます。

 

 

 

今週金曜の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に、Da-iCEが初出演を果たします。

彼らの初出演についてはこのブログにて先日紹介したばかりですが、披露する2曲のうち最新曲「I wonder」(ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』(TBS)主題歌)はチャートで上昇の兆し。リリース後の上昇というチャート動向は男女問わず日本のダンスボーカルグループにおいて珍しいものの、Da-iCEにおいては実は珍しくありません。

 

4月17日水曜、ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』(TBS)第2回の放送翌日にリリースされた「I wonder」は、初の1週間フル加算対象となった5月1日公開分(集計期間:4月22~28日)にて68位に初登場し、最新5月8日公開分では40位に上昇。動画再生指標、ストリーミング指標共に上昇を続けていますが、発売週は後者が300位以内に達せず加算対象となっていません。つまり評判が高まった結果の上昇といえるのです。

 

男女を問わず、ダンスボーカルグループ/アイドルグループのシングルは基本的にフィジカルセールス指標の加算初週に最高位を獲得することが大半であり、他方デジタル、特に接触指標群が上位で安定することによりロングヒットに至ることは多くありません。フィジカルシングル未リリース曲でも同様であり、またDa-iCEもすべての曲がロングヒットしているわけではありませんが、「I wonder」は「CITRUS」(2020)、「スターマイン」(2022)の流れを汲む曲に成る可能性を持ち合わせているといえます。

CITRUS」は昨年末の段階でビルボードジャパンによるストリーミング再生回数が4億回、「スターマイン」はTikTokにおける総再生回数が昨年11月に6億回をそれぞれ突破。ビルボードジャパンソングチャート(TikTokは構成指標に含まず)では「CITRUS」が2022年度に年間18位、翌年度は同72位に、また「スターマイン」は2023年度に年間42位に登場していますが、2曲の週間最高位は「CITRUS」が7位(2022年1月5日公開分 100位以内在籍48週目)および「スターマイン」が13位(同年12月7日公開分 同7週目)であり、ダンスボーカルグループの動向としては珍しいタイプのヒット曲なのです。

(「CITRUS」および「スターマイン」のビルボードジャパンソングチャートにおけるCHART insightは好調のNumber_i「GOAT」、昨年度ヒットした男性アイドル/ダンスボーカルグループ曲と比べる(2月11日付)にて紹介しています。なおビルボードジャパンはこの春にCHART insightをリニューアルしており、当時掲載したCHART insightは現在表示されるものとは異なります。)

 

 

Da-iCEによる「CITRUS」「スターマイン」そして新曲の「I wonder」はいずれも、メンバーがソングライトに参加しています。Da-iCEは現在の主流となったコライトを早い段階から採り入れていますが、メンバー自身の参加率は徐々に高まっています。

メンバー参加の有無にかかわらずコライトが目立つのは2010年代の作品群も同様ながら、その中で「TOKYO MERRY GO ROUND」および「FAKESHOW」(共に2018)はコモリタミノルさんによる提供曲(後者は作詞が別)。コモリタさんはSMAPの代表曲を手掛けたことで知られ、前者からは「SHAKE」、後者からは「ダイナマイト」を想起した自分がいます。

SMAPは旧ジャニーズ事務所所属歌手の中で、フィジカルセールスがコンスタントに強かったというわけではないと感じています。しかし、それは言い換えれば先述した2曲のみならず「夜空ノムコウ」「世界に一つだけの花」「らいおんハート」「セロリ」等、突出したセールスを誇る曲が目立つということ。無論、フィジカルセールスに関係なく良曲を多数輩出し、記憶に残る曲が多い歌手でもあります。

Da-iCEは自分たちでのソングライトへと徐々にシフトしていきますが、このタイミングでコモリタミノルさんの作品に出会えたことはJ-POPの何たるかを知るに大きな意味を持つものだったと考えます(またDa-iCESMAPに対する憧れもみえてくるかもしれません)。この提供等も経て、Da-iCEはJ-POPを極めていったと実感しています。

 

 

J-POPを極めるというのは、メロディの美しさや巧さは勿論のこと、それをよりキャッチーに魅せるということ。Da-iCEがそこに意識的なのは、「CITRUS」のTHE FIRST TAKE披露時(2021)からも見て取れます。

 

THE FIRST TAKE版にて「CITRUS」は冒頭にサビを配置。強力なツインボーカル(であること)を訴求したのみならず、サビ頭での力強さをより前面に押し出すのに成功したといえます。テレビのカラオケ企画(音を外さずに歌えるか)やオーディションの増加そしてニーズに合致し、難易度の高い曲として積極的に用いられるようになっていきました。

冒頭でのサビ配置は「スターマイン」、そして「I wonder」(サビ後半部分)でも受け継がれ、曲をよりキャッチーに魅せる意味も持つことが解ります。さらに「スターマイン」では花村想太さんの第一声に被せる形でメンバーが次々ボケていくという遊びも。THE FIRST TAKE版(2023)のみならず様々なライブで披露されている多様なボケは、たとえばザ・ドリフターズの音楽コントに触れた身には懐かしさも感じるものでした。

 

実際、曲で遊ぶということについて、全てのソングライターが心から許容できるということはないはずです。その点において、Da-iCEは自らがソングライティングに携わることで、遊べるという選択肢も身につけたと感じています。

4月29日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)にて西武園ゆうえんちから披露した「I wonder」では、出だしの歌詞を演出に採用。同番組で既に一度披露しているゆえ遊びに徹することができたのかもしれませんが、制作サイドとの打ち合わせ時に同曲の"遊べるポイント"を踏まえてライブプランを作り上げたことがパフォーマンス前に紹介。加えてロケーションを活かした演出を組んでいます。

Da-iCEが行っているのは、曲をよりキャッチーに魅せる、そしてそこに遊びの要素も加えることでより多くの方が楽しめる形へと間口を広げているということ。「I wonder」は『CDTVライブ!ライブ!』でのパフォーマンスから間もなくミュージックビデオを公開したこともあり、同日を集計期間初日とする5月8日公開分ビルボードジャパンソングチャートで上昇を果たすのです。

 

そしてDa-iCEによる遊びは、周囲の方々も巻き込んでいます。

@da_ice_official 「I wonder」× 山里亮太さん(南海キャンディーズ) @DayDay.【日テレ公式】 Choreographer: 花村想太(Da-iCE)×Shungo(avex ROYALBRATS) @花村想太 from Da-iCE SOTA HANAMURA @Shungo #南海キャンディーズ #山里亮太 #DayDay. #Da_iCE #Iwonder ♬ I wonder - Da-iCE

くるり〜誰が私と恋をした?〜』に出演中で歌手としても活動している宮世琉弥さんや南海キャンディーズ山里亮太さん等、歌手を中心にしかし幅広い方々が"#ダンスくる恋ダンス"に参加。ダンスは比較的容易で親しみやすいのですが(山里亮太さんは途中からおふざけに入っていますが、それはそれで有りだと感じます)、このようななダンスが流行する傾向については直近のReal Soundによるコラムにて分析されています。

何がバズるかわからないショート動画の世界だが、このように実際にバズを量産してきた超ときめき♡宣伝部や、新しい学校のリーダーズの楽曲や動画に注目してみると「ショート動画のフォーマットに順応した簡単な振り付けのダンス」がバズを呼び込むひとつの法則であるという仮説も確信性を帯びてくる。たしかに大量の動画が次から次に流れていくTikTokなどの特性から考えると、短い再生時間で完結するダンスやスマホ画面に収まる振り付けは理にかなっている。

Da-iCE側はこの法則を理解の上で、"#ダイスくる恋ダンス"を意識して投入しているかもしれません。そしてそこにはあざとさ(狙い等が透けて見えることで冷めてしまう)よりも楽しさが勝っていると感じています。また、この曲に限らず同業者を巻き込むことでDa-iCEを無視できない状況を築き上げたことも、ともすれば『ミュージックステーション』出演につながった(番組側が招聘した)一因かもしれないと感じています。

 

 

Da-iCEがJ-POPを極めることに意識的であることについては、インタビューにて自らが明かしています。

特に前者のインタビューにおける『一昔前の徐々に浸透していってヒット曲になっていくような流れに近い』という発言からは今の音楽チャートへの理解、ヒットを掴み取れるという意識が見て取れます。「I wonder」は最新のビルボードジャパンソングチャートで最高位を更新していますが、テレビ出演やミュージックビデオ公開というスケジュール策定、コンテンツカレンダーの用意といった施策は、その意識の表れでしょう。

今の時代のヒットの仕方はJ-POPというより歌謡曲時代のそれに近いかもしれませんが、それを解って仕掛けることを止めないDa-iCEの姿勢は、音楽チャートそして業界に実績を刻みたいと思う方には最良の教材と成るはずです。

 

 

この春までスタッフの一員を務めていたラジオ番組にてDa-iCEの音楽特集を担当した際の模様、選曲の背景等は上記エントリーにてまとめています。その後「スターマイン」がヒットし、テレビ朝日の番組にてタイアップも得ながら、『ミュージックステーション』への出演は叶わないままでした。今回の出演は社会問題を踏まえての番組側の自省も背景にあると考えますが、Da-iCEが複数曲でヒットを輩出したことの結果でしょう。

 

Da-iCEが新曲「I wonder」そして「スターマイン」で視聴者、男性ダンスボーカルグループ/アイドルグループを中心とする出演者、そして番組制作側を楽しませるパフォーマンスを『ミュージックステーション』にて魅せてくれることは容易に想像できます。実力は申し分ない彼らが業界内外にその名をさらに轟かせ、「I wonder」のさらなるヒットで最終的に『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)出場を掴むか、注目していきます。