イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アルバムチャートにおけるフィジカル施策の反映を踏まえた、ビルボードジャパンへの提案を記す

最新2月14日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートでは、SEVENTEEN『SEVENTEENTH HEAVEN』が登場16週目にして初登場時以来となる首位に返り咲いています。

この返り咲きについて、ビルボードジャパンの記事に興味深い文言がみられます。

リリースから4か月が経とうとしているが、2月6日より同作購入者を対象とした記念オンラインイベントの実施がアナウンスされた影響か、CDセールスが当週に入って急激に上昇。前週時点での42,445枚から大きく伸び、アルバム・セールス100,147枚で1位を記録している。

 

ビルボードジャパンが指摘したイベントは、下記ポスト内リンク先にて紹介されています。

販売期間は二度設けられ、2回目は2月15日以降となることから、次週2月21日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートでも『SEVENTEENTH HEAVEN』のフィジカルセールスは強いものと思われます。

 

さて、SEVENTEEN『SEVENTEENTH HEAVEN』の上昇は今回だけではありません。

『SEVENTEENTH HEAVEN』はフィジカルセールス指標(CHART insightでは黄色で表示)が大きく動く一方でダウンロード指標(紫)は減少を続けていました。ここから、フィジカルセールスの人気がライト層への浸透を意味しているとは言い難いこと、フィジカルセールス上昇の背景に最新週で反映されたのと同種のコアファン向け施策があることが考えられます。

その施策については上記ポスト内リンク先に掲載。後者におけるキャンペーンの販売期間は1月19~28日であり1月24日公開分に反映されるのが通常と考えますが、これらキャンペーンにおける購入分については到着が長くて2ヶ月後というタイムラグが発生しており、それに合わせて売上が立つタイミングもずれた可能性が考えられます。

 

 

フィジカルセールスに特化したキャンペーンについては、ソングチャートにおけるAKB48「アイドルなんかじゃなかったら」の事例を紹介した際、このように指摘しました。

施策の実行はコアファンの熱量を高める一方でライト層との温度差にもつながります。このことは接触指標群(ストリーミングおよび動画再生)のほぼ未加点や、リリースから時間が経過するほどフィジカルセールス以外の指標を加点できなくなっていることからも明らかであり、このような形で総合チャートを駆け上がりながら急落する(可能性が高い)作品を真の社会的ヒット曲と呼ぶことは厳しいと考えます。

ビルボードジャパンのアルバムチャートは所有指標のみで構成されていますが、サブスクサービスのひとつであるSpotifyには週間アルバムチャートが存在します(集計期間初日は世界標準となる金曜)。収録曲の再生回数を合算したチャートゆえ収録曲数が多いほうが有利となり、8曲入りの『SEVENTEENTH HEAVEN』は上位進出が難しいといわれればそれまでですが、順位面では下降を続けていることが解ります。

ビルボードジャパンアルバムチャートは所有指標のみで構成されるために社会的ヒット作品との乖離が目立っているとこのブログで提示しました(2023年度の年間アルバムチャート、およびビルボードジャパンへの改善提案については下記エントリーをご参照ください)。社会的ヒット作品はサブスクの動向もチェックする必要があると捉えていますが、フィジカルセールスとサブスクとでは乖離が目立つ状況です。

 

加えてSEVENTEEN『SEVENTEENTH HEAVEN』のイベントやキャンペーンについては、フィジカルにおける販売期間と到着時期に小さくないズレが生じています。

そこから思い出したのが、米ビルボードソングチャートでした。フィジカルの予約購入段階で売上が立ち、その際に提供されたダウンロードも売上に加算されるというチャートポリシー(集計方法)を用いた手法(弊ブログでは”フィジカル施策”と名付けています)が一時目立っていました。この施策を利用した曲において急上昇と急落が目立ったこともあり、米ビルボードは後にチャートポリシーを是正し、施策を実質無効化しています。

是正に伴い米ビルボードは、発送段階で売上としてカウントし、提供したダウンロードは加算対象外とする措置を採りました。ビルボードジャパンにおいても、購入と発送にタイムラグがある(いわば予約とも受け取り可能な)場合は米ビルボードに倣い発送段階でのカウントにする必要があると考えます。

 

 

今回はSEVENTEEN『SEVENTEENTH HEAVEN』を例に疑問を記しましたが、これは特定の歌手を非難するという意図はありません。初週に55万枚近いフィジカルセールスを記録したのは特筆すべきことです。売上規模が大きくない歌手においても似た施策を行っている可能性、また今後このような施策が一般化する可能性に対し疑義を唱え、早急の是正を促すという意味で今回紹介した次第です。

 

ビルボードジャパンがアルバムチャートに接触指標を導入することが、チャートポリシー変更の最善と考えます。米ビルボードにおけるSEA(ストリーミングのアルバム換算分)を日本に導入する際は収録曲数が多いほど有利となる形にならないようにする必要がありますが、SEAの導入が広く社会に浸透したアルバムの可視化につながり、フィジカルセールス施策に特化した形での再浮上が総合チャートに反映されにくくなるでしょう。

そして米ビルボードによるフィジカル施策の無効化に倣い、販売期間と到着時期にズレがあり前者にて売上が立っていることがあれば発送段階での売上計上に統一するよう、ビルボードジャパンが各歌手側に対し徹底させていく必要があると考えます。

 

 

フィジカルセールスについては音楽業界内から変わろうとする動きが出始めています。その流れを加速させるためには音楽チャート側が毅然と対応し、チャートが広く社会に認知されると共に信頼を得ていくことで社会的ヒット作品の鑑と成ることが重要です。