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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン上半期アルバムチャート、上位作品における昨年度とのCHART insightの違いからみえてくるものとは

ビルボードジャパンは6月9日金曜に上半期各種チャートを発表しています。このブログでは同日にソングチャート主体とした分析を行ったほか、今回データがより細かく公開されたソングチャートおよびトップアーティストチャートについて、一覧表を作成し詳細な分析を実施しています。

今回はアルバムチャートを取り上げますが、このチャートが大きく変わっていると実感しています。

 

 

ビルボードジャパンは上半期アルバムチャート20位まで、構成2指標についても20位までが数値付にて公開されています。それらを踏まえ、下記表を作成しました。

今回は比較対象として、2022年度の上半期アルバムチャートの表も用意。こちらでは総合および各指標の10位までが公開されています。

際立つのはフィジカルセールスの高さ。2023年度上半期においてはフィジカルセールス指標5位までが昨年度同指標首位作品を上回っています。

2022年上半期は1位から10位までの合計販売枚数が2,609,112枚だったが、2023年上半期は5,891,022枚と倍以上になっており、非常に高レベルのランキングとなっている。また、トップ10の内訳は、男性グループが9組、男性ソロが1組と上位を男性アーティストが占め、SEVENTEENの2作ランクインをはじめ半数の5作をK-POPが占める結果となった。

無論King & PrinceのベストアルバムやSnow Manのオリジナルアルバムといった、昨年度上半期にはリリースされていない歌手の作品登場も大きいのですが、男性ダンスボーカルグループ(男性アイドル)のフィジカルセールスの大きさはここ最近の米ビルボードアルバムチャートにおけるK-POP男性ダンスボーカルグループの強さとも共通するのではと感じています。最新6月17日付米ビルボードアルバムチャートの記事を以下に。

 

 

さて、アルバムチャートの記事には気になる文言がみられます。

総合4位にはStray Kidsの『THE SOUND』がCDセールス4位(617,849枚)、ダウンロード54位(2,546DL)を記録してチャートイン。そして、1月4日にリリースされたSixTONESの『声』がCDセールス595,008枚を記録し総合5位に登場している。両作ともに5月31日発表のチャートではランク外になってしまったものの、『THE SOUND』は発売から13週、『声』はじつに20週にわたって“Hot Albums”にチャートインし続けるという長期的なチャートアクションを見せていた。

気になったのは『長期的なチャートアクション』という部分。むしろ今年度に入り、アルバムはロングヒットしにくくなっているのではと感じるのです。

そこで、2023年度および前年度の総合トップ10におけるCHART insightを以下に掲載。CHART insightにおける色の内訳は総合が黒、フィジカルリリースが黄色、ダウンロードが紫で表示されます。なおオレンジで示されるルックアップは2023年度以降廃止されています。

 

2023年度上半期アルバムチャート トップ10のCHART insight

※ CHART insightは6月7日公開分までを表示(一部異なる場合については別途記載)

※ 順位、チャートイン回数およびチャート構成比は6月7日公開分を示しています

 

1位 King & Prince『Mr.5』

2位 Snow Man『i DO ME』

3位 SEVENTEEN『FML』

4位 Stray Kids『THE SOUND』

5位 SixTONES『声』

6位 結束バンド『結束バンド』

7位 INI『Awakening』

(CHART insightは5月31日公開分までの24週分)

8位 JIMIN『FACE』

9位 back number『ユーモア』

10位 ジャニーズWEST『POWER』

 

2022年度上半期アルバムチャート トップ10のCHART insight

※ CHART insightは初登場週からの30週分を表示

※ 順位、チャートイン回数およびチャート構成比は総合チャート最終登場時のものを示しています

 

1位 SixTONES『CITY』

(CHART insightは2022年8月3日公開分までの30週分)

2位 Ado『狂言

(CHART insightは2022年8月24日公開分までの30週分)

3位 乃木坂46『Time flies』

(CHART insightは2022年7月13日公開分までの30週分)

4位 YOASOBI『THE BOOK 2』

(CHART insightは2022年6月29日公開分までの30週分)

5位 JO1『KIZUNA』

(CHART insightは2022年12月21日公開分までの30週分)

6位 宇多田ヒカル『BADモード』

(CHART insightは2022年8月17日公開分までの30週分)

7位 藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』

(CHART insightは2022年10月19日公開分までの30週分)

8位 ジャニーズWEST『Mixed Juice』

(CHART insightは2022年10月5日公開分までの30週分)

9位 Mr.ChildrenMr.Children 2015-2021 & NOW』

(CHART insightは2022年12月7日公開分までの30週分)

10位 Mr.ChildrenMr.Children 2011-2015』

(CHART insightは2022年12月7日公開分までの30週分)

特にSixTONESの作品が、比較するには最もわかりやすいものと考えます(3枚のアルバムがいずれも新年第一週にリリースされているため)。セカンドアルバム『CITY』は登場51週目にはじめて総合100位圏外となり、またファーストアルバム『1ST』(2021)は同41週目にはじめて100位圏外となっています。ゆえに『声』における21週目での100位圏外はこれまでより断然早くなっているのです。

(『1ST』および『CITY』の上記CHART insightは、いずれも初週からの60週分を表示しています。)

 

ロングヒットする/しないには、2023年度に廃止となったルックアップ指標が大きくかかわってきます。CHART insightにおいてオレンジで示されるこの指標は、2022年度上半期アルバムチャートで上位に入った作品の多くで、週を追う毎に他指標よりも高い順位をキープしていることが解ります。

このルックアップは、パソコン等インターネット接続機器にCDをインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数のこと。売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)のみならず、レンタル数の推測にも役立っていました。ゆえにアルバムチャートにおけるルックアップの上位安定はレンタル人気と捉えることが可能でしたが、この指標は2023年度に廃止されています。

レンタルはフィジカルを所有ではなく接触する行動であり、ゆえにルックアップ指標廃止によりアルバムチャートは今年度以降所有指標のみとなりました。これがアルバムチャートの早期のランクダウンを招くことが、実際に今年度のアルバムチャートから証明されたと言えるかもしれません。

 

 

ルックアップ指標の廃止に加えて、フィジカルセールス指標よりも1枚/1DLあたりのウエイトが大きいダウンロード指標においては全体の売上がフィジカルセールスより小さいため、ともすれば2023年度の年間アルバムチャートはフィジカルセールスに強い作品が上位を占める可能性が高いでしょう。実際、上半期チャートにおいては総合チャートとフィジカルセールス指標の上位20作品が、順位は異なれど一致しています。

一方で、アルバムチャートには昨年度まで接触指標が実質的に導入されていたこと、またソングチャートでヒットした曲を含む作品がアルバムチャートで上位に登場しにくいといえる状況を踏まえれば、接触指標の導入は必要というのが自分の見方です。この点は以前もブログエントリーに記しており(上記参照)、ビルボードジャパン側に対し前向きな検討を願っています。