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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン、ストリーミング1億回再生曲が200を突破…報道等を踏まえストリーミング関連の提案を記す

一昨日のビルボードジャパンによる発表は極めて重要です。

集計期間は2018年3月12日以降。サブスク再生回数等に基づくストリーミングの興隆、ストリーミング人気と曲の認知度との比例、そしてストリーミングヒットを徐々に明確に可視化してきたビルボードジャパンの功績等が解るはずです。

 

ひとつ補足するならば、ストリーミング指標は週間300位までが加算対象の模様ゆえ、累計では1億回を超えながら300位以内に入らない週があったことでビルボードジャパンでは1億回未達という扱いになっている曲もあるでしょう。先日arne代表の松島功さんが提案した内容(下記参照)を軸に、国内再生回数および海外を含む再生回数をより正確に把握すべく日本の音楽業界が一丸となって動くことを強く願います。

 

 

さてストリーミングに関するビルボードジャパンの記事をみるとK-POP歌手も多くの曲で1億回再生を突破。その内訳をみると、男性ダンスボーカルグループではBTS(10曲)のみの一方、女性グループではTWICEが5曲、そしていわゆる第4世代と呼ばれるIVE(3曲)、Kep1er(1曲)、LE SSERAFIM(2曲)、NewJeans(1曲)がそれぞれ獲得しています。この動向は米やグローバルチャートと似ていると感じた次第です。

上記ブログエントリーで記した傾向は、最新のビルボードジャパンソングチャートにおける下記2曲の動向の差にも表れていると考えます。

 

最新5月3日公開分のビルボードジャパンソングチャートではSEVENTEEN「Super」が7位に初登場、またIVE「I AM」は14位につけています。指標構成が似ていることもあり、最新のビルボードジャパンポッドキャストではK-POPが所有指標から接触指標に比重(音楽の聴き方)が移行してきている感じがすると紹介されています。

しかしこの2曲は、LINE MUSIC再生キャンペーンを行っているか否かで大きく異なります。SEVENTEEN「Super」では今回のビルボードジャパンソングチャートの集計期間と完全に重なる形でキャンペーンを実施していることから、次週ストリーミング指標、そして総合順位が急落する可能性は否定できません。

また2曲ともリリースされて間もないアルバムの収録曲。「Super」を含むSEVENTEENのアルバム『FML』は最新ビルボードジャパンアルバムチャートでフィジカルセールス70万枚を突破した一方、「I AM」を収めたIVEのアルバム『I've IVE』は2週前初登場時におけるフィジカルセールスが100位と大差がついています。ただ初登場時のダウンロード数は『FML』の2,512に対し『I've IVE』は1,259と、そこまでの差はついていません。

 

SEVENTEEN「Super」の次週の動向を確認する必要はありますが、K-POPの男性グループ(BTSを除く)と女性グループとではファンダム(コアファンの集団)における作品へのアプローチが大きく異なると考えます。フィジカルセールスは男性グループが圧倒的に強く、また彼らが採用するLINE MUSIC再生キャンペーンは接触指標における所有指標的な動きを活用したものです。ただし曲のロングヒットは女性グループが多いといえます。

そしてK-POP男性グループのソングチャートにおける動向は、J-POPでもみられます。2021年度以降のビルボードジャパンソングチャートにおいてストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートを制した曲のうち、冒頭で紹介した1億回再生リストに未掲載の曲はBE:FIRST「Gifted.」、INI「CALL 119」、めいちゃん「ラナ」、BTS「Yet To Come (The Most Beautiful Moment)」およびYOASOBI「アイドル」ですが、3週で5500万回を突破した「アイドル」以外はLINE MUSIC再生キャンペーンの採用曲です。

ここから、接触指標における所有指標的な動きはロングヒットに結びつきにくいということが解るでしょう。この点を踏まえて昨日のエントリーを再度紹介し、ビルボードジャパンへの改善策を提案します。

ひとつはLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲すべてに係数処理を適用するようチャートポリシー(集計方法)を変更することです。現状のチャートポリシーならば、キャンペーン採用曲がこのチャートでの首位を"敢えて"狙わないという不健全な心理も生まれかねません。その心理を摘むのみならず、ライト層の人気を可視化する接触指標にコアファンの熱量を過度に反映するのを防ぐことが係数処理の広い適用により可能となります。

ただしコアファンの熱量すべてを否定してはいけません。また施策の存在は自然であり、重要なのは過度な施策に対し毅然と対応することです。そしてチャートポリシー変更と共に、フィジカルセールスやフィジカルセールス的なストリーミングの動向がみられた場合は尚の事、それら作品の加算2週目以降における動向を注視することや接触指標の重要性等、チャート設計のスタンスやチャートの見方を伝えることを求めます。

 

そしてもう2点、ビルボードジャパンに対し追加の提案を記載します。

ひとつは以前からお伝えしていることですが、アルバムチャートにおいて米ビルボードのようなストリーミング指標の導入を願います。現状では所有指標のみの構成ゆえファンダムの数や熱量が高い作品が上位に進出する傾向があり、一方で長く支持される作品が見えにくいという状況です。先述したLINE MUSIC再生キャンペーンに関する提案が叶えば、このチャートポリシー変更も行いやすくなるでしょう。

 

そして、ビルボードジャパンの記事やポッドキャストにおいて、チャートにおける好い点のみならず気掛かりな点をきちんと表明することを願います。複合指標から成るチャートで上位に進出しても指標構成の内訳等からは好調と言い難い曲が見えることについては、昨日のエントリー等で紹介しています。

チャートポリシーやスタンスの説明を丁寧に行い、表層では見えにくい気掛かりな点についての率直な提示を行えば、歌手側そしてコアファンの方々には耳の痛い話とは思うものの彼らの未来につながると考えます。それでも提示が非難と受け止められかねないと危惧するならば、ビルボードジャパンの発信は米ビルボード記事のように記録の紹介にとどめ、私見と捉えられかねない表現を載せないという選択も必要でしょう。