イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アルバムチャートへのストリーミング指標非導入の理由を言及したビルボードジャパンと、その見解に対する私見

ここ最近、ビルボードジャパンのポッドキャストにおいてチャートに関する注目の発言が次々登場している印象があります。チャートマネージャーを務める礒崎誠二さんがMCを務めるゆえでしょうが、5月31日に公開された最新のポッドキャストでは現状のアルバムチャートにストリーミング指標を追加しない理由がおそらく初めて言及されています。

今回の発言からは、ストリーミング再生回数があくまで推定値にとどまること、日本は海外に比べフィジカルセールスが大きいことが非加算の根底にあることが解ります。一方で、チャートポリシーの変更を提案する方が少なくないだろうことも感じられます。

 

 

ビルボードジャパンアルバムチャートは現在フィジカルセールスとダウンロードの所有2指標で構成されていますが、昨年度まではルックアップ指標も存在。ルックアップとは、CDをパソコン等インターネット接続機器にインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指し、この数値からはフィジカルの売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数が推測可能でした。

このことからルックアップはレンタル、すなわち所有ではない接触での人気を図る指標とも言えます。このブログではこれまでにもアルバムチャートへのストリーミング指標導入を提案してきましたが、これはルックアップという接触指標的側面がこれまで導入されてきたことを踏まえてのものでした。

また米ビルボードアルバムチャート等では既にストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)を、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)共々導入しています。ただ米アルバムチャートでは曲数に関係なく同じ数式が用いられるために曲数が多いほうが有利になるという特性があり、このブログで提案する際には曲数に応じた計算式を用いることを提案しています。

 

ビルボードジャパンがアルバムチャートにストリーミング指標を導入しないのは、サブスクではアルバムとして(通して)聴かれにくいと考えているだろうことも理由と思われます。

Spotifyには金曜を集計開始日とする週間アルバムチャート(Weekly Top Albums)がありますが、このチャートでは楽曲単位で人気の作品が上位に登場しやすい傾向があります。このチャートについてはおそらく、アルバム収録曲の再生回数を単純加算して算出しているものと思われ、収録曲がヒットしているアルバムが強くなることが見て取れます。

 

上記に2023年度のビルボードジャパンアルバムチャート総合および構成指標別の首位作品、およびSpotifyの週間アルバムチャートの一覧表を掲載。Spotifyチャートは顔ぶれが変わりにくい一方、所有指標のみとなったビルボードジャパンアルバムチャートでは今年度連覇を達成した作品は現時点でゼロ、通算2週以上首位を獲得したのは結束バンド『結束バンド』のみとなっています。

ビルボードアルバムチャートにおいてはモーガン・ウォレンやシザの長期首位を踏まえ、このブログではSEAの計算方法問題を指摘していますが、2組とも米ビルボードのソングチャートにて収録曲が首位を獲得しています。ビルボードジャパンの複合指標から成る、しかし所有指標のみのアルバムチャートにおける入れ替わりの激しさからは、人気のアルバムが読みにくい、またソングチャートとの乖離が目立つと言えるでしょう。

 

 

先程はビルボードジャパンがアルバムチャートにストリーミング指標を導入しない理由として、サブスクではアルバムとして(通して)聴かれにくいと考えているのではという推測を挙げました。一方で、購入された作品が必ずしも曲順通り、全曲均一に聴かれているかと言われれば、必ずしもそうではないでしょう。

またフィジカルの豪華仕様や特典を踏まえ、ひとりが複数枚購入することも考えられます(ビルボードジャパンは最近のポッドキャストにて、豪華パッケージが購入につながる旨の発言を行っています)。買われたすべてのフィジカルが聴かれるわけではなく、それを踏まえフィジカル1枚より1ダウンロードのウエイトを上げる措置が採られていますが、ならばストリーミング指標導入時にもウエイト差を設けることは可能なはずです。

 

 

これらを踏まえ、あくまで自分の見方と前置きして書くならば、ビルボードジャパンのアルバムチャートはやはりストリーミングも加えた米ビルボード方式への変更が必要だという思いは変わりません。ただしストリーミングのアルバム換算分(SEA)は各作品の収録曲数で割る形にする必要があり、また推定値を懸念するならばフィジカルセールスが大きい日本においてSEAのウエイトは低くする必要があるでしょう。

今回の提案は、ビルボードジャパン週間アルバムチャートがソングチャートのヒットと乖離していることも動機となっています。尤もジャニーズ事務所所属歌手を中心にデジタル未解禁作品が少なくないことも考慮に入れる必要がありますが、たとえば日本レコード大賞でアルバム部門が軽視されている状況等を踏まえれば、より聴かれた、または長く支持されることで評価されるアルバムに光を当てる必要があるものと考えます。

礒崎さんはストリーミング指標の導入について”推定値だな”と否定的に発言した後、前向きな考えも提示されています。様々な検討を重ねた上で、前向きな解決を願っています。

 

なお、この提案が叶うとなればSEA算出に関する作業時間確保のため、チャートアナウンスを遅らせる必要が生じるかもしれません。その点においては明日以降、ビルボードジャパンへの提案の中で記載する予定です。