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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードが年間グローバルチャート発表…2023年度の傾向、そしてJ-POPの現状を考える

ビルボードが日本時間の11月22日水曜、2022年度年間チャートを発表しています。このブログでは昨日、ソングチャートを主体にアメリカの動向を紹介しました。

今日はグローバルチャートについてお伝えします。

 

 

ビルボードがグローバルチャートを開設して以降、このブログでは動向をお伝えしてきました。グローバルチャートの内容等については別途エントリーを用意し説明しています。

今回の年間グローバルチャートは各種チャートと集計期間が同一となります(2022年11月19日付~2023年10月21付)。それではチャートについてみてみましょう。

 

 

ビルボードは2023年度グローバルチャートの記事について、米ビルボード有料会員に向けてのみ公開しています。情報を閲覧できる者がその内容を広く流布することはルールやマナー違反に当たるため、記事を紹介することはできません。ビルボードジャパンが現時点で翻訳記事を掲載していないこともあり、今回はまず公開されているチャートを表にまとめた上で紹介します。

なおGlobal 200はこちら、Global Excl. U.S.はこちらにて、2023年度の年間チャートを確認可能です(200位まで公開されています)。

 

 

Global 200、およびGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.は共にマイリー・サイラス「Flowers」が制しました。

この曲の世界的なヒットの要因については米の年間動向を紹介したエントリーでも紹介していますが、今一度掲載します。

マイリー・サイラス「Flowers」はGlobal 200で通算12週、Global Excl. U.S.では同13週もの首位を獲得し、ストリーミング指標の週間1億回超えはGlobal 200で通算8週(回)という驚異的なヒットとなりました。

 

Global 200とGlobal Excl. U.S.とでは8位まで、順番が異なるものの顔ぶれは変わりません。グローバルチャートは米ビルボードソングチャートとは異なり、新陳代謝を目的としたリカレントルール(一定週数以上ランクインした曲が一定順位を下回ればチャートから外れるという仕組み)が敷かれていないため、たとえば昨年度に双方のチャートを制したハリー・スタイルズ「As It Was」が今年もトップ10入りを続けています。

 

一方でGlobal 200とGlobal Excl. U.S.では、後者が名前の通り米の分を含まない(Exclude)ことから、前者のチャートでは米が強いジャンルの作品が上位に入る傾向があります。特に、米の年間総括で最初に挙げた若手カントリー歌手(そのほとんどが男性)については、米を制したモーガン・ウォレン「Last Night」がGlobal 200で10位なのに対しGlobal Excl. U.S.では100位未満(実際は160位)と大差がついている状況です。

若手カントリーというジャンルに限らず、ヒップホップやR&B等においてもGlobal 200とGlobal Excl. U.S.とで順位の乖離が目立ちます(前者が高い状態)。テイラー・スウィフトは双方のチャートにてトップアーティストに輝いていますが、Global 200で100位以内に入った5曲はいずれもGlobal Excl. U.S.での順位が下回っているのも特徴といえます。

 

Global 200よりGlobal Excl. U.S.が高く、後者で10位以内に入ったのがトム・オデール「Another Love」およびジョングク feat. ラトー「Seven」。両者は共にTikTokでの人気も影響していますが、そのうち「Another Love」は元々2012年の作品。比較的最近リリースされた曲がTikTokを機にフックアップされるという、米年間チャート総括時にも取り上げた現象により、欧州やオーストラリアで(再)ブレイクを果たしています。

Global Excl. U.S.がGlobal 200よりも高いジャンルとして、ラテンやK-POP、またJ-POPも当てはまるでしょう。たとえばコロンビア共和国出身のフェイド(Feid)は、レゲトンやラテンヒップホップ等様々なジャンルを包括した音楽ジャンル、ウルバーノを代表する歌手ですが、Global Excl. U.S.では4曲が100位以内にランクイン。いずれの作品もGlobal 200より順位が高くなっています。

2023年度における、Global 200のランクインに伴うトップアーティストチャート(→こちら)と、Global Excl. U.S.でのトップアーティストチャート(→こちら)を比較すると、より解りやすいかもしれません。100位までが表示されたこれらチャートではテイラー・スウィフトが双方を制していますが、モーガン・ウォレンはGlobal 200で5位に対しGlobal Excl. U.S.では100位圏外、一方フェイドは前者が14位、後者が8位となっています。

 

 

Global Excl. U.S.がGlobal 200より順位が高くなる曲の特徴として、英語以外の言葉で歌われる作品も該当するかもしれません。その中で先程挙げたJ-POPとK-POPについては、今年度において差が大きく拡がった印象です。昨年度までの2年分は米ビルボードが年間グローバルチャート発表、2022年度のチャートを総括しJ-POPの状況を考える(2022年12月3日付)にて紹介しています。

 

J-POPは日本語曲で初めてGlobal Excl. U.S.を制したYOASOBI「アイドル」がGlobal 200で42位、Global Excl. U.S.では19位に入ったのを皮切りに、米津玄師「KICK BACK」およびOfficial髭男dism「Subtitle」が双方で200位以内に入っていますが、K-POPはGlobal 200で14曲、Global Excl. U.S.では21曲がランクインしています。

またトップアーティストチャートにおいては、J-POPではYOASOBIがGlobal 200で57位、Global Excl. U.S.では28位に入ったほか、Official髭男dismおよび米津玄師さんがGlobal Excl. U.S.で100位以内にランクインしていますが、K-POPはGlobal 200で8組、Global Excl. U.S.では12組となっています。

 

J-POPとK-POPの差については、ジョングク feat. ラトー「Seven」やFIFTY FIFTY「Cupid」といった米ビルボード年間ソングチャートで100位以内に入った作品の存在も大きいと考えますが、何と言ってもNewJeansの強さは特筆すべきでしょう。

NewJeansは現地時間の11月19日に行われたビルボードミュージック・アワードにて「Super Shy」および「OMG」を披露。「Super Shy」は年度後半のリリースゆえ年間チャートでは不利になるのですが、Global 200およびGlobal Excl. U.S.の双方にて年間200位以内にランクインを果たしています。

上記はNewJeansやLE SSERAFIMに代表されるK-POP第4世代女性ダンスボーカルグループの、ビルボードジャパンにおけるトップアーティストチャート(ソングチャートとアルバムチャートを合算)の推移を紹介したエントリーですが、接触指標の強さに伴いロングヒットすること、そして新曲の登場が過去曲にも波及し新旧双方で歌手全体の勢いを強化することは、グローバルチャートにも当てはまるものと捉えていいでしょう。

NewJeansはセカンドEP『Get Up』が米ビルボードアルバムチャートにて、映画『バービー』サウンドトラックを破り首位の座に就きましたが、最上位に進出することが増えたK-POPのアルバムの中でもストリーミングに長けていることが特徴です(上記エントリー参照)。米アワードでのパフォーマンス等も相まって今後は世界、さらに米での人気も高まるものと思われます。

 

接触指標群のロングヒットに伴い年間チャート上位進出を果たしたK-POPは第4世代女性ダンスボーカルグループに限らず、K-POPの中で最高位を記録したジョングク feat. ラトー「Seven」でも当てはまります(「Seven」はGlobal 200、Global Excl. U.S.双方にておよそ1ヶ月に渡りストリーミング週間1億回超えを達成)。今後この傾向がK-POP全体に波及すれば、ジャンル自体が確固たるものになるはずです。

他方日本は、国内で特大ヒットした曲が年間チャートに登場するにとどまっています。

このJ-POPの現状、そしてK-POPとの差については上記エントリーの後半にて記し、改善提案を添えています(が、差は実際に拡大しています)。その中で、メディアによるチャート記事発信の重要性も記していますが、チャート発表から1日経過したブログ執筆段階で、日本のメディアから年間グローバルチャートや、そこでのJ-POPの成績紹介はみられません。またYOASOBI側が成績を発信していないことにも勿体なく感じます。

他方、K-POPについては韓国メディアが11月22日夜に発信しており、グローバル以外の米ビルボード各種チャートも記しています(上記リンク先参照)。このメディア側の意識の差も、やはり大きいといえるでしょう。

 

 

配信は世界リリースとほぼ同義であり、歌手側は(少なくとも周囲のスタッフはきちんと)チャートへの意識を高い状態で保ち続けることが必要です。メディアも発信を欠かさないことで、コアファン、そして広く音楽ファン全体がグローバルへの意識を少しでも高めることができると考えます。

日本は今年とりわけアニメ関連曲がヒットしましたが、世界ではタイアップに関係なく様々な曲がヒットしています。タイアップがあるに越したことはありませんが、その有無にかかわらず世界に轟くJ-POPヒット曲が誕生することを、心から願っています。そしてそれは意識の変化により少しでも近くに手繰り寄せることができるのではないでしょうか。