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藤井風「死ぬのがいいわ」が米ビルボードによるグローバルチャートに初登場…チャート特性と上昇曲を分析する

昨日のブログにて、米ビルボードによる9月24日付グローバルチャートのトップ10速報をお伝えしました。

グローバルチャートの全容は日本時間の昨夜公開され、2020年のアルバム『HELP EVER HURT NEVER』に収録された藤井風「死ぬのがいいわ」がGlobal 200で188位、Global Excl. U.S.では127位にそれぞれ初登場を果たしたことが判明しています。

Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.については米ビルボードのチャート専用Twitterアカウントが初登場曲のみ発表するのですが(ただし週によっては発表しないこともあり、米ビルボードにはGlobal Excl. U.S.の全容公開も含めて発表を徹底してほしいと願っています)、9月24日付Global Excl. U.S.の初登場作品についてはきちんとアナウンスされています。

 

藤井風「死ぬのがいいわ」の快進撃については、藤井風さんのコアファンの皆さんによる情報発信と共有が見事であり、そちらを是非チェックしていただければと思います。このブログでは以下のエントリーにて取り上げています。

(上記はライブバージョン。この曲の公開効果については9月6日付のブログエントリーでも取り上げています。)

 

今回は、ふたつのグローバルチャートから見えてくることをまとめてみます。

 

何よりまず、過去のJ-Pop曲がTikTokを機にブレイクしグローバルチャートにランクインすること自体が極めて稀です。いや、おそらく初と言えるこの事態は快挙と言って差し支えないでしょう。

上記はkworb.netによるFujii Kaze - 死ぬのがいいわ - Spotify Chart Historyより。藤井風「死ぬのがいいわ」のブレイクが可視化されたSpotifyでは、9月17日付の段階で複数国でのデイリーチャート200位以内登場が判ります(なお、上記には未掲載の国も)。タイのTikTokを機に広がったこの曲が日本に逆輸入されたのみならず、直近ではオセアニアや東欧に拡がっており、欧米のデイリーチャートに登場するのも時間の問題でしょう。

Spotifyもストリーミング指標に含んでいる米ビルボードのグローバルチャートでは、ジャンルによりGlobal 200とGlobal Excl. U.S.どちらが強いかが見て取れます。上記は最新9月24日付におけるふたつのチャートのトップ10ですが、ラテンやK-PopはGlobal 200よりGlobal Excl. U.S.が、ヒップホップ(や今週は双方にランクインしていないカントリー)はGlobal Excl. U.S.よりGlobal 200が強い傾向があります。

藤井風「死ぬのがいいわ」はGlobal 200で188位、Global Excl. U.S.では127位に初登場。順位面ではK-Pop等と同様、Global Excl. U.S.が強いことが解ります。ただ、TikTok発のヒットはジャンルの分け隔てをあまり意識しなくてもいいのかもしれず、バズが世界全体に行き渡ることでふたつのチャートの乖離はある程度解消できるかもしれません。

 

さて、今後この藤井風「死ぬのがいいわ」がどこまで上昇するかが気になるところですが、そのためにはチャートの特性も押さえなければなりません。

最新9月24日付Global 200で前人未到となる15週目の首位を獲得したハリー・スタイルズ「As It Was」は、ストリーミングが5660万、ダウンロードが7,000を記録。Global 200トップ10記事においてはデヴィッド・ゲッタ & ビービー・レクサ「I'm Good (Blue)」(3位)のストリーミング4390万、クリス・ブラウン「Under The Influence」(9位)のストリーミング4660万およびダウンロード3,000という数値が可視化されています。

クリス・ブラウン「Under The Influence」は藤井風「死ぬのがいいわ」同様にTikTokから火がついた3年前の作品。ストリーミング自体はデヴィッド・ゲッタ & ビービー・レクサ「I'm Good (Blue)」に勝っているため、ダウンロードが強くないことが解ります。

最新9月24日付Global 200ではAdo「新時代」がJ-Pop最高位となる58位に登場。「新時代」はSpotifyで複数国のデイリーチャート200位以内に登場していますが、Spotifyのグローバル週間チャートでは200位以内に登場していません。一方で、集計期間は異なりますが最新9月14日公開分(9月19日付 集計期間:9月5~11日)のビルボードジャパンソングスチャートにおいては「新時代」が13,756ダウンロードを記録しています。

これらから、新曲は過去曲よりダウンロード指標が大きい(ダウンロード数が多い)、またJ-Popは他国に比べてダウンロードの高さが目立つという特性があるものと考えます。

 

過去曲のリバイバルヒットは所有より接触指標に先に火がつき、また収録されたアルバム単位で購入する方もいらっしゃるかもしれません。米ビルボードによるグローバルチャートは米ビルボードソングスチャート同様に様々なバージョンを合算可能とすることから、藤井風「死ぬのがいいわ」については9月14日付ブログエントリーで提案したように、ライブ音源を配信リリースする施策を採ることが有効に作用するでしょう。

 

 
 
 
 
 
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これまでのブログエントリーでは藤井風「死ぬのがいいわ」のバズがより増幅するための施策を提案してきましたが、藤井風さん自らが現地でプロモーションすることは想像していませんでした。プロモーションではない可能性もありますが、上記写真はインドでの一コマであり、現地レコード会社関係者と接触したことも考えられます。またバズ発生源のタイにも行かれた模様であり、今後施策を仕掛ける可能性も考えられます。

 

 

さて、TikTokでのバズをいち早く総合ヒットにつなげたクリス・ブラウン「Under The Influence」についても詳しく取り上げます。この曲は前週9月17日付のGlobal Excl. U.S.でトップ10入りし、最新週ではGlobal 200で9位に登場しました。2週分の米ビルボードによる記事を読むと、TikTokでの同曲使用動画は36万から40万に増加していることが解ります(米ビルボードの記事はチャート紹介時のブログエントリーに掲載しています)。

また「Under The Influence」は最新9月24日付の米ビルボードソングスチャート(→こちら)で36位に初登場を果たしました。Apple Musicではいち早くグローバルを制したこの曲が、米総合ソングスチャートにも登場した形です。今後はラジオでも火が付くことで、さらなる上昇も有り得るでしょう。そしてこの上昇に寄与したのが、早回しと呼べる新バージョンの投入と考えられます。

今年6月にアルバム『Breezy』をリリースしたばかりのクリス・ブラウンが、9月6日に早回し版”Body Language”とオリジナルバージョンとの2曲入りシングルを投入。TikTokのバズを活用しようとする思いが見て取れます。このシングル化は音楽評論家の林剛さんがいち早く紹介されていました。

ビルボードやグローバルにおける最新9月24日付ソングスチャートの集計期間は9月2~8日。ともすれば「Under The Influence」のシングル化の影響が、米の分を含むグローバルチャートのGlobal 200、そして米ビルボードソングスチャートにも伝わったのではないでしょうか。

 

クリス・ブラウンは新譜のみならず、もしくはそれ以上に、TikTokによる過去曲のバズをより大きくする方向にも力を入れています。TikTokで過去曲が取り上げられた際のバズ増幅の施策は、J-Popそして日本の音楽業界にとっても大きな学びとなることでしょう。そしてアメリカでもバズが大きくなったならば、藤井風「死ぬのがいいわ」は米ビルボードソングスチャート(Hot 100)にも登場することができるかもしれません。