イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

YOASOBI「アイドル」がGlobal Excl. U.S.を初めて制した理由、そしてYOASOBI側の巧さに触れる

昨日もお伝えしたとおり、YOASOBI「アイドル」が米ビルボードによるグローバルチャートのうちGlobal Excl. U.S.で首位を獲得しました。

グローバルチャートでも好調だった「アイドル」に英語詞版「Idol」が初加算されたことでYOASOBIは初めてGlobal Excl. U.S.を制した形です。そしてそこにはYOASOBI側のチャートへの意欲の高さが感じられます。

グローバルチャートについては下記エントリーにて解説を行っています。今回、日本語詞(がオリジナル版となる)曲にて遂に首位獲得作品が登場した形です。

 

 

ビルボードが2020年9月にスタートしたグローバルチャートは、世界200を超える国や地域の主要デジタルプラットフォームにおけるストリーミング(動画再生含む)およびダウンロードの2指標から成る複合指標の音楽チャート。Global 200およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.のふたつがあり、YOASOBI「アイドル」は後者を制しています。

上記米ビルボードの記事はビルボードジャパンが翻訳し、記事化しています。

ビルボードジャパンによる記事翻訳版の公開は珍しいことですが、自分は以前からビルボードジャパンに対し、このブログで自主的に行っているグローバルチャートの記事翻訳を毎週行ってほしいと提案しています(直近では下半期チャート開始前に、ビルボードジャパンに対する改善提案をまとめる(6月4日付)にて記しています)。

日本のメディアではレコード会社等によるプレスリリースを元に各メディアが独自のニュアンスを加えて記事を作成する傾向がありますが、今回はビルボードジャパンが米ビルボード記事の翻訳版を掲載した一方、大半のメディアはThe Orchard Japanによるプレスリリース(下記参照)に基づいた記事を掲載しています。

 

YOASOBI「アイドル」は今回Global Excl. U.S.で首位を獲得するまでGlobal Excl. U.S.では6週連続、Global 200では5週続けてトップ10入りを続けていました。今回初めてGlobal Excl. U.S.にて首位に躍り出たのは、英語詞版「Idol」の初加算に伴うもので、海外のチャートは金曜が集計期間初日であることが多く、リリースもチャートに合わせて金曜が主体となっています。そしてYOASOBIも「Idol」を金曜にリリースした形です。

Global 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.ではYOASOBI「アイドル」が初制覇。ストリーミングは前週比14%アップの4570万、ダウンロードは同39%アップの24,000を記録しています。これは集計期間初日となる5月26日に英語詞版「Idol」がリリースされた効果も表れた形です。これにより「アイドル」は、(オリジナルバージョンが)日本語詞曲による作品としてGlobal Excl. U.S.を制した初の作品となりました。

今回のGlobal Excl. U.S.における首位獲得は英語詞版「Idol」加算効果に因ることについては、ビルボードジャパンを除く各種メディアでほぼ報じられていません。また中には”米ビルボードで首位”という見出しにより、YOASOBI「アイドル」があたかも米ソングチャートを制したと混同させかねない記事もありました。これら記事に違和感を抱くと共に、米ビルボードの記事翻訳はここで毎週記す必要があると強く感じた次第です。

 

 

さて、2023年度のグローバルチャートにおける首位曲、および200位までのチャートが確認可能なGlobal 200においてはJ-POPのランクイン曲も記載した表を下記に掲載します。YOASOBI「アイドル」のストリーミング再生回数は決して多いとは言えない一方、ダウンロード数はかなり高いことが解ります。

この表や各指標の前週比から、そもそもダウンロード指標が強かったYOASOBI「アイドル」が英語詞版追加に伴いダウンロードをさらに強靭にしたこと、そしてストリーミングにも英語詞版が反映されたことが考えられます。前週まで2連覇を果たしていたFIFTY FIFTY「Cupid」には当週もストリーミングでは敗れていると思われますが、高いダウンロード数が総合での逆転につながったと言えるでしょう。

 

ちなみに最新のGlobal 200ではテイラー・スウィフト feat. アイス・スパイス「Karma」が6位に上昇。ダウンロードは前週比611%アップの17,000を記録していますが、Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.ではこの数値がより低くなります。テイラー・スウィフトはダウンロードに強い傾向がありますが、この指標でYOASOBI「アイドル」が勝ったことは特筆すべきことと言えるでしょう。

(なおテイラー・スウィフトのコアファンは、テイラーのホームページにてダウンロードする傾向が高いと捉えています。米ビルボードソングチャートでもダウンロード指標は17,000を記録していますが、グローバルチャートでは米ビルボードと異なり歌手のホームページにおける売上は除外。仮に米の売上がすべてデジタルプラットフォーム経由で購入されたならば、「アイドル」を揺るがす存在になっていたかもしれません。)

 

 

今回YOASOBI「アイドル」がGlobal Excl. U.S.を制した背景には英語詞版「Idol」の金曜リリースが大きいのですが、そのリリース日設定以外にもYOASOBI側のチャートへの意識の高さやこだわりを感じることができます。特に強く感じたのは下記ツイート。米ビルボードのチャート専用アカウントによるツイートへの引用が、元ツイートの発信からわずか16分後、日本時間の昨日早朝に行われたのです。

ビルボードによるグローバルチャート速報版の発信は日本時間の火曜早朝が通常となります。YOASOBI側は最新チャートにおいて「アイドル」が英語詞版の投入に伴い上昇することを見越して、予めこの時間からスタンバイしていたと捉えていいかもしれません。

YOASOBI’s ‘Idol’ Tops Billboard Global Excl. U.S. Chart – Billboard(6月6日付)より。掲載動画紹介のためキャプチャしています。

そして英語詞版の用意が重要だということはチャートアクションへの反映のみならず、記事において英語詞版動画が用いられたことからも伝わります。自分は以前TOKIONへ寄稿したコラム(グローバルチャートとは何か、そしてJ-POPの現状と課題をまとめる (最新版)(1月2日付)にリンクを掲載)にて英語詞版は必ずしも必要ではない的な内容を記載しましたが、あるに越したことはない、むしろ重要と考えるに至っています。

 

無論「アイドル」においてはテレビアニメ『【推しの子】』に起用されていること、アニメソングは海外で人気が高いこともグローバルヒットにつながっていることは間違いありませんが、YOASOBIはグローバルを見据えた英語詞版を、グローバルチャートに合わせて金曜にリリースすることでさらなる高みを自ら手に入れた形です。ライブアーカイブ配信、そして海外フェス参加で彼らの人気はさらに高まっていくことでしょう。

昨夜の発信内容も素晴らしく、日本のメディアが曖昧に書きがちなふたつのグローバルチャートについてきちんと別であると紹介し、海外の音楽フェス参加、そしてGlobal 200でも結果を残したいという強い意思を示すことで、コアファンが自然と応援したくなる気持ちを醸成、またライト層の獲得にもつながるものと考えます。エンゲージメントの確立に長けていることがそもそも彼らの強みだったことも再認識した次第です。