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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードが年間グローバルチャート発表、2022年度のチャートを総括しJ-POPの状況を考える

ビルボードが日本時間の12月1日木曜から翌日にかけて、2022年度年間チャートを発表しています。このブログでは昨日、ソングチャートを主体にアメリカの動向を紹介しました。

今日はグローバルチャートについてお伝えします。

 

ビルボードがグローバルチャートを開設して以降、このブログでは動向をお伝えしてきました。グローバルチャートの内容については別途エントリーを用意し説明しています。

今回の年間グローバルチャートは各種チャートと集計期間(2021年11月20日付~2022年11月12付)が統一されています。それではチャートについてみてみましょう。

 

ビルボードによる2022年度のグローバルチャートについて、意訳した内容を紹介します。

2年連続でイギリス人歌手がGlobal 200年間チャートを制しました。そのバトンはデュア・リパ「Levirtating」から、ハリー・スタイルズ「As It Was」へ。「As It Was」はさらに、Global 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.も制しています。

ハリー・スタイルズ「As It Was」はGlobal 200において、4月16日付で初登場で首位を獲得しています。それまでの22週間は6曲が首位に立ち、その中には米ビルボード年間ソングチャートを制したグラス・アニマルズ「Heat Waves」も含まれます。「Heat Waves」は3月5日付から6週連続で首位をキープしていました。

ハリー・スタイルズ「As It Was」は初登場で首位に立つと、Global 200で新記録となる15週もの首位を獲得。初登場から20週目まで2位以内をキープ、同じく24週目までが3位を、さらに29週目まではトップ5に在籍し続けました。年間チャートの最初の5ヶ月には登場しなかったものの、その後の強力なチャートアクションが「As It Was」を年間首位の座に押し上げたのです。

「As It Was」はGlobal Excl. U.S.でも年間チャートを制し、Global 200共々年間首位を獲得した最初の曲となりました(なおグローバルチャートは2020年9月にスタートしており、初の年間チャートが登場したのは2021年度となります。)

 

2022年度のふたつのグローバルチャートにおいては、順位こそ僅かに異なれどトップ10の顔ぶれは変わっていません。グラス・アニマルズ「Heat Waves」はGlobal 200、Global Excl. U.S.双方のチャートで年間2位となり、米ビルボードソングチャートも含む3つのチャートすべてにおいて、首位到達までの最長記録を更新しています。

ふたつのグローバルチャートでトップ10入りしたのは2曲に加えてエド・シーラン(2曲)、ゲイル、アデル、さらにエルトン・ジョン & デュア・リパ、ザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー、イマジン・ドラゴンズ &J.I.D、ザ・ウィークエンド & アリアナ・グランデによるコラボレーション曲も。ザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」およびザ・ウィークエンド & アリアナ・グランデ「Save Your Tears」は昨年度も双方のグローバルチャートでトップ10内に入っています。

 

ふたつのグローバルチャート、歌手別部門では共にバッド・バニーがトップに立ちました。2020年にリリースした2枚のアルバムから収録曲がこれまでエントリーしていましたが、2022年の『Un Verano Sin Ti』リリースがバッド・バニーを頂点に導きました。収録された23曲すべてが5月21日付で初登場、以降ヒットを続けGlobal 200では2022年度最終週までに合計81週トップ10入りしています。

バッド・バニーは年間チャートにおいて、Global 200で12曲、Global Excl. U.S.では10曲を送り込み、年間グローバルチャート全体の10%以上を占めています。

バッド・バニーのほか、ラウ・アレハンドロ、カロルG、ファルッコそしてチェンチョ・コルレオーネといったラテン歌手も双方の歌手別部門30位以内にランクインしています。彼非英語圏歌手では韓国のBTSやBLACKPINKも上位に登場しています。

※2022年度年間グローバルチャート、200位までのGlobal 200はこちら、Global Excl. U.S.はこちら。また年間グローバルチャートの歌手別部門、100位までのGlobal 200はこちら、Global Excl. U.S.はこちら

 

2022年度のグローバルチャート、1位から100位までを表にまとめています。

グローバルチャートは世界200以上の地域における主要デジタルプラットフォームのダウンロードおよびストリーミング(動画再生を含む)で構成され、フィジカルセールスや歌手のホームページで販売されたデジタル/フィジカルを含みません。また米ビルボードソングチャートのようなリカレントルール(一定週数ランクインした曲が一定順位を下回ればチャートから外れるという、新陳代謝を目的とした制度)がないことから、ロングヒット曲が有利となる傾向にあります。

その中にあって、2022年度中盤に初登場したハリー・スタイルズ「As It Was」が双方の年間チャートを制したのは驚異的で、短期間で如何に支持を集めたかがよく解ります。一方で今年度の米ビルボードソングチャートを制したグラス・アニマルズ「Heat Waves」は昨年度のグローバルチャートでもGlobal 200で17位、Global Excl. U.S.では30位と上位に入っており、世界を代表するロングヒット曲になったと言えます。

双方のグローバルチャートで年間トップ10入りこそ逃したもののバッド・バニーの強さが際立つ1年に。加えて週間単位ではアルゼンチンのビザラップとスペインのケベードによる「Bzrp Music Sessions, Vol. 52」が双方のチャートを制したことも大きなトピックでした。ビザラップによるYouTube音楽セッション発の大ヒット誕生は、YouTubeの可能性そしてラテンの強さを感じるに十分です。

ビザラップ & ケベード「Bzrp Music Sessions, Vol. 52」はGlobal 200で年間35位だったのに対しGlobal Excl. U.S.では同21位に。Global Excl. U.S.はGlobal 200から米の分を除いたものであり、Global 200とGlobal Excl. U.S.の順位に乖離があるほどアメリカでの人気が大きいか否かがみえてきます。非英語(圏歌手)曲の順位は”Global 200<Global Excl. U.S.”という傾向が強く、米で強いカントリーやヒップホップはその逆となります。

(それゆえバッド・バニーにおける”Global 200>Global Excl. U.S.”の傾向が興味深く、如何に彼の作品が浸透しているかがよく解るのです。)

リカレントルールが存在しないことで過去曲のランクインも目立ちます。ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」(2019)やエド・シーラン「Perfect」(2017)等近年の大ヒット曲も残り続け、さらには往年の大ヒット曲も存在感を示しています。

クイーン「Bohemian Rhapsody」(1975)は昨年度に続き今年度も双方のグローバルチャートで年間100位以内に登場、またクーリオ feat. L.V.「Gangsta's Paradise」(1995)は今年度双方のチャートで100位以内に入っています。後者においてはクーリオが9月に亡くなったことも影響しているとはいえ、以前からのロングヒットが年間チャート100位以内進出の鍵となっています。

TikTokのバズによるヒット曲はグラス・アニマルズ「Heat Waves」の他にも。米ビルボードソングチャートでは週間最高3位だったゲイル「Abcdefu」が双方のグローバルチャートを制し、年間でもトップ10入りを果たしています。

また年間では下位ながらも、クリス・ブラウンの2019年リリース曲「Under The Influence」がTikTokのバズでフックアップ。クリス・ブラウンが後にTikTokで流行したスピードアップバージョン(”Sped Up”)を公式音源化したり、ミュージックビデオを用意していることも注目すべき動向です。

バズはいつ何時起きるか分かりませんが、たとえばグラス・アニマルズ「Heat Waves」は最初にTikTokで火がつくと、後に自身が投稿に参加したことで今のヒットにつながっているとも言えます。火が付いたタイミングを見極めその曲のプロモートに注力できるかが大事であり、そのためにデジタルをきちんと解禁していることが大前提なのです。

 

 

最後に、昨年度も比較したグローバルチャートにおけるJ-POPとK-POPの動向について紹介。今年度は歌手別部門のチャートも作成しています。

(※後に解説しますが、K-POPにおいては韓国以外の歌手への客演参加や共演曲も含めています。)


J-POPとK-POPでは年間チャートランクイン曲数が大きく異なり、Global Excl. U.S.においてはJ-POP7曲に対してK-POPが18曲、Global 200になるとJ-POP1曲対K-POP10曲と大差がついています。

K-POPにおいてはBTSの強さが目立ちますが、Global 200、Global Excl. U.S.の双方で最も高い位置につけたのがコールドプレイとの「My Universe」でした。さらにはジョングクがチャーリー・プースに招かれた「Left And Right」もふたつのグローバルチャートで年間200位以内に入っています。

「Dynamite」「Butter」「Permission To Dance」といった英語詞曲(いずれも米ビルボード週間ソングチャートを制覇)や大物歌手との共演により、BTSの認知度が更に高まっていったことが見て取れます。「Permission To Dance」においてはエド・シーランがソングライトに参加したことも大きいでしょう。順位が”Global 200<Global Excl. U.S.となっているのは米での人気が世界の水準ほどに達していないことを示していますが、これまでの実績がロングヒットを呼び、グローバルチャートにも反映されていると言えます。

さらにはBLACKPINKのみならず女性ダンスボーカルグループが複数ランクイン。TWICEといった中堅からIVEやLE SSERAFIM、NewJeansといった若手までが登場しています。K-POPはこれまで所有指標が強いながらも接触指標が強くないためにロングヒットしにくく年間チャート上位進出が難しいという印象がありましたが、その点が打破されつつあると思われます。

 

一方でJ-POPは、年間グローバルチャートのランクイン数でK-POPに大きな差がつけられています。その差は昨年度よりはるかに大きくなったと言えるでしょう。昨年度の動向は下記に。

今年度のグローバルチャート歌手別部門では、Global 200ではJ-POP歌手が3組に対しK-POPは4組となっていますが、Global Excl. U.S.では前者が7組、後者が6組となっています。ここでようやくJ-POPが一矢報いたと言えるかもしれません。

(ただし、Global Excl. U.S.の歌手別部門では現段階にて、75位に登場する”Lisa”と書かれた歌手がLiSAさんなのかBLACKPINKのメンバーなのかが不明な状況です。順位の隣のアーティスト写真がなく、別のチャートでは後者の曲ランクイン時に写真が掲載されている状況を踏まえ、LiSAさんだと判断し表に記載しています。)

 

J-POPはアニメソングやTikTokでのバズ曲の強さが際立ち、またK-POP若手歌手に比べれば各歌手の持ち歌の数が多いこともあってかグローバルチャートの歌手別部門に複数登場しています。またビルボードジャパンソングチャートの動向からもわかるように、J-POPはストリーミングに強い曲がグローバルチャートにもランクインする傾向があります。

しかし、たとえばアニメが世界進出を果たしたとしても、グローバルチャートにおけるポイント獲得源の大半は日本という状況です。国内市場だけでもグローバルチャートにランクイン可能ながら、海外の支持を十分得られていないため大きなヒットに至れていないと言えるでしょう。この傾向は、これまでグローバルチャートで週間トップ10入りを果たしたJ-POPを一覧化した際にも紹介しています(下記ブログエントリー参照)。

 

グローバルチャートでJ-POPが強くない原因、そしてもっと強くなれるだろうと考え示した提案については半年前にTOKIONへ寄稿したのですが、その現状、もっといえば日本のエンタテインメント業界全体の視野は寄稿時から変わっていないのではと思わざるを得ません。

上記ツイートは昨日のSKY-HIさんによるツイート(下記参照)を踏まえてのもの。2022年度の年間グローバルチャートが発表されてから間もないタイミングでSKY-HIさんがツイートした問題提起は、日本のエンタテインメント業界全体に共有されなければならないと考えます。

(Yahoo! JAPANの掲載記事は今後消える可能性があるため、掲載元メディアのリンクを上記に貼付しています。また公開された動画も紹介しました。)

 

デジタルリリースにより海外にもリーチ可能な以上、海外を意識するに越したことはないはずです。日本語だと通じにくいという声が出るならば、バッド・バニーがスペイン語曲で今年度大ヒットしたことやK-POPの躍進等に目を向けることを願います。またそもそも日本市場が大きいため、日本でのサブスク認知浸透に伴いストリーミングを上げることで、高いダウンロード数を伴ったグローバルチャート上昇も見込めます。

2023年度にJ-POPが世界に轟くことができるかについては、良質な作品の発信もさることながらエンタテインメント業界全体の改善、環境整備ができるかにかかっています。今年度年間200位以内には入らなかったものの藤井風「死ぬのがいいわ」のような好例が生まれたことが、J-POPの環境を変える一助になるものと期待します(なお、レコード会社側が今回のヒットを十二分に訴求することも必要だということも記しておきます)。

(上記は「死ぬのがいいわ」のライブ映像。TikTokのバズを踏まえてアップされた、施策の一環と言えます。これら施策等については藤井風「死ぬのがいいわ」が次週にもGlobal 200登場の可能性…バズ曲がさらに拡大するための施策を提案する - イマオト(9月14日付)等で言及し、同日付のブログエントリーではTOKIONのコラムも紹介しつつ『「死ぬのがいいわ」のバズの拡がりとこれまでの施策、そして今後考えられる施策の数々をシェアし、日本の音楽業界全体がどんどん仕掛けてほしい』と記しています。)