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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

優里「おにごっこ」がTHE FIRST TAKEで"初解禁&初披露"…チャンネルや歌手側の意図がみえてくる

昨日はアヴリル・ラヴィーンの出演が話題になったTHE FIRST TAKE。その前の回で披露されたのは優里さんの新曲「おにごっこ」でした。

本日午前5時の段階で既に450万回再生を突破した「おにごっこ」、実はTHE FIRST TAKEで初解禁および初披露された作品となります。

この事実を知り、自分が真っ先に思ったのは”THE FIRST TAKEはソニーミュージックのものである"、そして“チャートへの意識が高い"ということでした。

 

THE FIRST TAKEの認知上昇に伴い、チャンネルスタッフがインタビューされる機会も増えていますが、その際スタッフは組織名を明かしません。しかし、出演者の所属レコード会社の(主にチャンネル初期における)傾向やソニーのテレビブランドBRAVIAが家電量販店にてこのチャンネルの映像を使用していること、また使用ヘッドフォン等の状況から、ソニーミュージックが大きく関わっていることはほぼ間違いないと捉えています。

THE FIRST TAKEは徐々に間口を拡げ、他のレコード会社の所属歌手を積極的に起用してはいますが、THE FIRST TAKEで初解禁および初披露ができる歌手は多くはありません。その中で優里さんは、同チャンネルでの初解禁および初披露が「ベテルギウス」(2021)に次いで二度目。優里さんはソニーミュージック系列のアリオラジャパンに所属しており、チャンネルがソニーミュージック運営だと再認識した次第です。

ではなぜ優里「おにごっこ」はTHE FIRST TAKEが初解禁および初披露の場となったのでしょう。推測の域を出ませんが、いくつか浮かび上がってきます。

 

 

まずはチャンネルとしての箔を再びつけること。初解禁&初披露というエクスクルーシブな動画の用意、そしてアヴリル・ラヴィーンが(K-Popを除く)洋楽で2組目の出演を果たしたことで、今週THE FIRST TAKEに対する注目度は抜群に高まったことでしょう。チャンネル自身の訴求力を高めたいという狙いがあったのは確実と言えます。

 

その訴求力については、優里さん側も高めたいという思いがあったのではないでしょうか。優里さんは「ベテルギウス」、そして「ドライフラワー」がロングヒットしましたが、今年に入ってからはこの2曲以外でビルボードジャパンソングスチャートでのトップ10入りが生まれていません。また「ベテルギウス」は7月13日公開分(7月18日付)、「ドライフラワー」はその前週を最後に、トップ10から離れています。

(2曲のCHART insightは直近8月31日公開分(9月5日付)までの30週分。総合ソングスチャートは黒で表示。)

今年に入り優里さんは「うぉ」がビルボードジャパンソングスチャートで最高54位(100位以内登場3週)、「タイムマシン」が65位(同2週)だったこともあり、「おにごっこ」で大きなインパクトを残したいと感じていたかもしれません。ただその意図があったとしても通せる環境がなければ初解禁および初披露は難しいのですが、THE FIRST TAKEがソニーミュージック運営のチャンネルゆえ叶いやすかったのではないかと考えます。

 

そしてこの関連として、THE FIRST TAKEとビルボードジャパンソングスチャートとの相性の良さも初解禁および初披露に大きく関わったのではと考えます。「ドライフラワー」は昨年の、そしてYOASOBI「夜に駆ける」は一昨年のビルボードジャパン年間ソングスチャートを制しており、共にTHE FIRST TAKEが大きく寄与していることは間違いありません(なお「夜に駆ける」はTHE HOME TAKEとして披露)。

(※ブログエントリーにビルボードジャパンのホームページのリンクを貼っていますが、なぜか"Not Found“の状況が続いています。こちらの仕様ミスではないものの、お詫び申し上げます。また「夜に駆ける」は自死をテーマにした作品と言われているため、全国のいのちの電話|一般社団法人日本いのちの電話連盟のリンクを掲載します。掲載理由等は以前こちらで記しています。)

(上記は「ベテルギウス」における、初めて総合ソングスチャート300位以内にランクインしてから11週分のCHART insight。)

THE FIRST TAKE動画のビルボードジャパンソングスチャートへの反映については、同チャンネルで初解禁および初披露された優里「ベテルギウス」のCHART insightでよく解ります。ストリーミング(青で表示)やダウンロード(紫)に先立って、動画再生指標(赤)が2021年10月20日公開分(10月27日付)でまず登場するのです。これは同年10月13日にTHE FIRST TAKEが、11月4日にオリジナル音源が解禁されたことに伴うものです。

ただしTHE FIRST TAKEの動画は、本来オリジナルバージョンに含めることはできないはずです。合算に関するチャートポリシー(集計方法)についてはビルボードジャパンに対し4年前に問い合わせた際に明らかになっているのみならず(下記ブログエントリー参照)、問い合わせ後も合算に関するチャートポリシーが変更された形跡(ビルボードジャパンからのアナウンス)はありません。

オリジナルバージョンと言語以外異なる場合は合算しないというチャートポリシーの下で、さらなる好成績に至れなかったのがDISH//「猫」でした。THE FIRST TAKE版の動画はその音源化版(THE FIRST TAKEバージョン)に加算され、オリジナルバージョンと別扱いとなったのです。ただしオリジナルの公式動画はライブバージョンとなっており、この動画がオリジナルバージョンの動画再生指標に合算されることも実は問題です。

オリジナルバージョンと言語以外が異なる場合は合算しないチャートポリシーを敷きながらも動画再生指標だけは別という矛盾。これは、ビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標のカウント対象がISRC(国際標準レコーディングコード)付番の作品であり、オリジナルバージョンと異なるものであってもISRCが共通していれば合算されるために発生します。

また、大半のTHE FIRST TAKEバージョンは音源化されながらYOASOBIのTHE FIRST TAKEはそのすべて、優里さんにおいては「かくれんぼ」以外音源化されていません。仮に音源化されたならば動画再生回数はオリジナルバージョンではなくTHE FIRST TAKEバージョンに加算されるため、オリジナルバージョンのヒットを強靭化することにはつながらなかったわけです。それを踏まえ、敢えて音源化しなかったと捉えることも可能です。

THE FIRST TAKEはビルボードジャパンのチャートポリシーの矛盾を理解し、ビルボードジャパンは自身の矛盾を理解しながら目をつむっているというのが厳しくも私見。これは様々なバージョンを合算するチャートポリシーにすることで解決可能なのですが(米ビルボードやグローバルチャートはこの方式であり、また様々なバージョンを合算すれば「夜に駆ける」や「ドライフラワー」等が極端な不利に陥ることはないでしょう)、現行のチャートポリシーをTHE FIRST TAKE側は意識した上で、実践していると考えます。

 

 

優里「かくれんぼ」は次週のビルボードジャパンソングスチャートに初登場し、「ドライフラワー」等に連なるストーリーやTHE FIRST TAKEの訴求力が評価を集めることでしょう。今後のビルボードジャパンソングスチャートにおける推移を追いかける一方で、ビルボードジャパン側にはTHE FIRST TAKEが浮かび上がらせたとも言えるチャートポリシーの矛盾を早急に解決するよう自問自答することを強く願います。