最近は藤井風「死ぬのがいいわ」のSpotifyにおけるグローバルの動向を紹介しています。J-Popでは珍しいタイプでのグローバルヒットゆえその都度取り上げていますが、Spotifyが世界的に人気のサブスクサービスのひとつである、サブスクが今の音楽チャートの人気を計る指標である、そして特にSpotifyが上位200曲の再生回数を開示している(ログインすることが必要ですが)こともまた、Spotifyの動向を取り上げる理由です。
さて、そのSpotifyで気になることが発生しています。
9月16日付 @SpotifyJP デイリーチャートでは”Go Stream”シリーズのビデオシングル公開作品がさらに上昇。
— Kei (@Kei_radio) September 17, 2022
50位以内では #MrsGREENAPPLE「#ダンスホール」が再生回数前日比112.0%となり5→2位へ。また #宇多田ヒカル「Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-」の再登場を含む全曲が上昇。
ずっと真夜中でいいのに。やVaundyさんによる第1弾に続き、Mrs. GREEN APPLE、星野源さんそして宇多田ヒカルさんをフィーチャーしたSpotifyの独自シリーズ”Go Stream”の第2弾が先週金曜に公開。その影響は大きく、”Go Stream”で披露された曲は急上昇を続けています。
・Spotify ”Go Stream”披露曲、日本におけるSpotifyデイリーチャートの動向
(水曜以降の順位 / 水曜以降の再生回数)
・宇多田ヒカル「Somewhere Near Marseillesーマルセイユ辺りー」
(200位圏外)→(200位圏外)→139位
(200位圏外につき再生回数不明)→(再生回数不明)→37,024回
・星野源「喜劇」
131→75→52位
37,476→52,183→86,473回
・星野源「不思議」
(200位圏外)→181→91位
(再生回数不明)→30,505→48,436回
111→85→59位
41,661→49,882→66,210回
6→5→2位
196,537→207,551→232,498回
・Mrs. GREEN APPLE「ニュー・マイ・ノーマル」
(200位圏外)→160→99位
(再生回数不明)→33,132→46,679回
127→106→64位
38,234→43,558→56,814回
日本におけるSpotifyデイリーチャートを追いかけると、注目曲が午前0時解禁ながら前日にフライングで初登場する場合が少なくないため、Spotifyにおける一日の区切りは午前2時頃と捉えています。今回の”Go Stream”披露曲の木曜の上昇も、この一日の区切り時間の設定が影響しているものと思われます。
しかしながら気になるのは、今回披露された7曲の上昇幅の大きさ。Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」はこのタイミングでデイリー2位まで上昇しているのです。
通常、金曜は他の平日よりも再生回数が減少する傾向にあり、9月16日付の日本におけるSpotifyデイリーチャート50位以内登場作品における再生回数前日超え達成は6曲のみ。うちBLACKPINK「Pink Venom」の再生回数前日比119.2%はアルバム『Born Pink』のリリースに伴うことゆえ自然と言えますが、「ダンスホール」が同112.0%というのはおそらく、”Go Stream”のオリジナルバージョンへの合算の影響と捉えています。
現在Spotifyに対し、合算という認識が正しいかを一日の区切り時間共々問い合わせ中です。回答をいただき且つ掲載許可を得られたならば公開しますが、仮に合算が正しいとすれば、気になるのがビルボードジャパンソングスチャートのチャートポリシー。ビルボードジャパンでは言語のみが異なるならば合算し、リミックスや客演追加等別要素が加われば合算しないというチャートポリシーを続けています。
一方で、ビルボードジャパンの合算に関するチャートポリシーは矛盾といえる状態が続いています。動画再生指標においてはISRC(国際標準レコーディングコード)が付番された動画がカウント対象となりながら、ライブバージョン等にオリジナルバージョンのISRCが付番された場合には合算されるという事態が続いています。下記リンク先におけるTHE FIRST TAKEはその解りやすい例と言えます。
今回のSpotifyによる”Go Stream”披露曲のオリジナルバージョンへの再生回数合算はあくまでSpotifyでのチャートポリシーに基づくものですが、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標にもそのまま反映されることでしょう。ならばストリーミング指標にも矛盾が生じることになるため、ビルボードジャパンはこの状況をきちんと受け止めないといけないのではと考えます。
米ビルボードソングスチャートや米ビルボードが一昨年開始したグローバルチャート(Global 200およびGlobal Excl. U.S.)では、リミックス等もオリジナルバージョンに合算されます。次回9月24日付のグローバルチャートで藤井風「死ぬのがいいわ」のGlobal 200登場も見込まれ、J-Popの新たなヒットが生まれるこのタイミングで、ビルボードジャパンにはチャートポリシーを海外仕様に合わせることを論じるべきと強く提案します。
ビルボードジャパンに様々なバージョンの合算を提案する理由は、上記「死ぬのがいいわ」のライブ動画における動画再生指標が、オリジナルバージョンに合算されているだろうと考えるゆえでもあります。動画の概要欄にクレジットされているのは「死ぬのがいいわ」オリジナルバージョンであり、おそらくISRCもオリジナルバージョンと思われます。
「死ぬのがいいわ」は次週のビルボードジャパンソングスチャートで構成指標のひとつが20位以内に入り、CHART insightが確認可能となるかもしれません*1。「死ぬのがいいわ」ライブバージョンの動画再生指標への加算が確認されれば、ビルボードジャパンはチャートポリシーの矛盾を認め、正式な合算の方向に舵を取るべきです。音楽チャートの世界標準化はJ-Popのヒットを世界的にする上でも重要と考えるゆえ、尚の事です。
このチャートポリシー変更提案は、上記コラムでも記しています。柔軟な対応を願うばかりです。