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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードがチャートポリシー変更? 報道の信憑性には疑問も、事実ならばその内容を支持する

ビルボードがチャートポリシー(チャート集計方法)を変更した…そのような情報が先週流れてきました。情報源はこちら。

こちらのツイートの情報源は、昨年末にSingle Musicが報じた記事でした。

 

まず前提として、Single Musicが記事の冒頭で『Billboard & MRC Data have announced charting rule updates for 2022』と記載しているものの米ビルボード自体そのようなアナウンスをしていた記憶はありません。この記事のタイトル等で検索をかけても、米ビルボードによるチャートポリシー変更のアナウンスを見つけることはできませんでした。

これまで米ビルボードによるチャートポリシー変更は事前に、もしくは変更週のチャート速報時にその旨がきちんとアナウンスされています。その点においてSingle Musicによる報道の信憑性には疑問を抱くゆえ、米ビルボードがきちんと発表されることを願いますし、米のメディアは米ビルボードへの取材を行う必要があります。

そのような前提を踏まえ、変更したとされる内容と私見を記載します。

 

 

今回報じられた、米ビルボードにおけるチャートポリシー変更内容は以下の通りです。

デジタルバルクルールの調整

消費者購入に関連する最も注目すべき変更は、複数または一括のデジタル購入とそのチャート作成資格に関するルールの調整です。現在、1人の顧客による1~4個の「ユニット」(アルバムまたはシングル)購入はカウントされますが、5~9個の購入は最大4個の販売に戻されます。同じお客様が10枚、または購入された場合は却下となります。

 

2021年12月31日のトラッキングウィークより、2022年1月6日まで。

  1台の購入がカウントされます

  1人のお客様が2個以上購入された場合は、カウントされません。

物理的なUPC販売については、引き続き上記の基準で一括適用されるため、ポリシーは変更されません。

Billboard Rule Changes | Single Music | Shopify Music Distribution(2021年12月8日付)より、該当箇所をDeepLにて翻訳し掲載。

(DeepL翻訳の引用が不可である場合、削除させていただきます。)

 

まず、このチャートポリシー変更でフィジカルセールスが関係ないことを踏まえ、フィジカルがプラスティックを用いるため環境問題を強く懸念する声が一部にみられます。たしかにその問題はスルーすべきではありませんが、しかし所有に対する選択肢が限られることについては考える必要があります。

またフィジカルセールスは何枚買ってもいいという解釈もみられますが、そうとは言えないでしょう。Single Musicの記事によるとフィジカルについては、既に引き締めが行われていた模様です。

フィジカル関連戦略に対し、米ビルボードは既にメスをいれています。フィジカルの予約段階で売上が立ち、且つ到着までに別途用意されたデジタルダウンロードもカウント対象となっていた仕組みを活用したいわばフィジカル施策が、一昨年秋に売上のタイミングを出荷時へ変更、且つ用意されたデジタルダウンロードのカウントを無効とする内容に変更されました。そしてこの内容は、事前にアナウンスされています。

フィジカルにおいてはそもそも何枚買ってもよいという解釈は、一昨年秋のチャートポリシー変更を踏まえれば当てはまらないだろうというのが私見です。そして上記ブログエントリーではビルボードジャパンによる米ビルボードの翻訳記事を掲載していますが、チャートポリシー変更の際に事前アナウンスを行うことが自然だと捉えています。

 

さて、Single Musicが発表した米ビルボードによるチャートポリシー変更が実際あったものとして考えるならば、今回の変更において最も大きいのは"著しく所有指標に特化した曲の是正"ではないでしょうか。今回の変更発覚後、このような記事が登場しています。

インターナショナル・ビジネス・タイムズの記事では、BTSのファンに因るリアクションが掲載されていますが、これはすなわち今回のチャートポリシー変更がBTSに最も大きく影響するだろうという見方を示していると言えるでしょう。なお、記事で紹介されたBTSファンのツイートではトップソーシャルアーティストチャートに続く今回の変更に対する、米ビルボードへの冷笑とでも言うべき姿勢が記されています。

今回の変更に対し失望などのネガティブな反応をされる方が(BTSのファンに限らないでしょうが)少なくないとして、しかしながら米ビルボードソングスチャートの動向を追う身としては、この変更は自然なものであると考えます。

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上記ブログエントリーにも掲載した表をあらためて掲載しましたが、BTSは2021年度の米ビルボードソングスチャートにて「Butter」が最長となる10週首位を獲得しながら、所有指標が10万を超える一方で接触指標群が大きく乖離していることが解ります。とりわけストリーミングが1000万を下回っている、またはストリーミングが10位を下回っている状況は、総合首位獲得曲では「Butter」に限らずBTS関連のみなのです。

所有指標は本来急速にダウンする傾向がある中で「Butter」が好調をキープするならば、続く「Permission To Dance」でもその数値がキープされると考えるのが自然でしょう。仮に「Butter」における所有指標の高さが相次ぐリミックスの存在に因るものだとして、メーガン・ザ・スタリオンを迎えるまで外部招聘を行わなかったこと、またメーガン参加版の登場時も客演なし版の売上が勝ったという状況がみられます。

さらには「Butter」は、昨年10月16日付を最後に米ビルボードソングスチャート100位以内から姿を消していますが、在籍20週というのは大ヒット曲としては考えにくいバランスだと言えます。これらの状況を踏まえれば「Butter」が果たして真にアメリカで浸透している曲なのか、考えを巡らせることは自然なことでしょう。

 

自分はこの状況を踏まえ、歌手のホームページでのデジタルダウンロードについて除外を提案しました。

ともすれば、歌手のホームページではダウンロードの各バージョンにおいて複数買いが可能であり、それが影響しているのかもしれません。複数買いは日本でもフィジカルにおいてみられますが、一方でダウンロードの複数買いはほぼ耳にしません。加えて日本ではそもそも歌手のホームページにてダウンロード販売されること自体、あまりみられないことです。

さらに、iTunes Store等デジタルプラットフォームで購入した場合は端末が破損した際に無料での再ダウンロードが可能ですが、歌手のホームページにおいては同種の措置が採られているかは疑問です。その便利さがみられないだろう点、そしてデジタルプラットフォームに利益が行き渡り音楽業界全体のプラスになるのではなく一歌手の利益ばかりになる状況も、好いとはいえないのではないでしょうか。

ダウンロードについてはデジタルプラットフォームに一任させることが本来は好いはずゆえ、歌手のホームページでのダウンロードをカウントから排除することを提案します。

報道が事実ならばと仮定した上でですが、米ビルボードのチャートポリシー変更は自分の提案ほど厳しくなく、きちんとバランスを取った上での変更と言えるのではないでしょうか。ただし今回の変更がiTunes Store等デジタルプラットフォームも含むのか、歌手のホームページでのデジタルダウンロードのみなのか等、対象範囲は不明です。またオリジナルとリミックスとを同時に購入した場合の対応についても不明です。

なお、米におけるBTS「Butter」の動向が異質であることは、グローバルチャートの登場およびそこでの動向がよりはっきりと浮き彫りにさせたと言えます。この点についても、上記ブログエントリーにおける引用箇所の直後で述べています。

 

 

そう書くと、BTSのファンからはBTSを標的にした決め打ちだという声が出てくるかもしれませんが、それは違います。まずインターナショナル・ビジネス・タイムズの記事でも紹介されたファンのツイートについて、トップソーシャルアーティストチャートはおそらくSocial 50チャートを指すものと考えますが、その休止についても私見を記載しています。

ビルボードは昨年秋に新たなSNS関連チャートをスタートさせており、そこでBTSは首位を複数週獲得しています。Social 50チャートの休止を非難するならば、代替と言えるHot Trending Songsチャートの登場に対してきちんと評価することも必要でしょう。

そして、今回の米ビルボードによるチャートポリシー変更を経てBTSが不利になると考えるならば、それはデジタルダウンロードにおいてファンが複数買いを行っていたということを暗に示して(認めて)いるのではないかと思うのです。またチャートポリシーが変更されず、同種の手法で別の歌手がチャートを席巻した場合にどう思うかを想像する必要があるでしょう。

 

 

まず何より米ビルボードがチャートポリシー変更について、事実か否か、そして事実ならばその内容や変更に至った背景をきちんと示す必要があります。今回はSingle Musicの記事が事実であることを前提に記載しましたが、事実ならばこの変更を支持します。

ただしどんなにチャートポリシーが変更されても時代によって内容は変わります。そして言葉は悪いですが抜け道も登場するかもしれません。その場合は速やかな変更を求めると共に、変更時はできるだけ事前に、そして必ずアナウンスすることを願います。