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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボード、ソングチャートにおけるダウンロード指標のチャートポリシー変更を実施か…その内容と私見を記す

日本時間の昨日昼以降、米ビルボードのチャートポリシー(集計方法)が変更されることについて、チャート予想等のアカウントが一斉に発信を行っています。たとえば下記ツイートについてはブログエントリー執筆段階で1300万回も表示されています。

他方、米ビルボードではチャートポリシー変更について発信していませんが、多くのアカウントが上記ツイートと同様の発信を行っていること、またこれまでのチャートポリシー変更についても米ビルボード側が公式発表を行っていないことを踏まえれば、上記で述べられた内容は正しいと思われます。その前提の下、チャートポリシーの変更内容、そして私見を記します。

 

 

今回の米ビルボードによるチャートポリシー変更は、ソングチャート(Hot 100)の構成指標であるダウンロードにおいて、歌手のホームページ上でのデジタルダウンロードをカウント対象から外すというものです。変更開始は6月30日金曜、すなわち同日を集計期間とする7月15日付(日本時間7月11日早朝予定)からとなります。

 

ビルボードのソングチャートはストリーミング(動画再生含む)、ダウンロードおよびラジオという3つの指標から成るチャートです。ダウンロードは唯一の所有指標であり、ここにはフィジカルセールス、そして歌手のホームページにおけるデジタルおよびフィジカルセールスも含まれます。今回の変更により、歌手のホームページにおけるデジタルダウンロードがカウント対象外と成ったという形です。

 

ビルボードはソングチャートにおいて、この1年半ほどの間に二度チャートポリシーを変更していますが、いずれもダウンロード指標に関連したものであり、加えてそのどちらについても米ビルボードは正式に発表していません。チャート予想者が予想と結果の大幅な違いを前提に変更を見つけたという経緯もありますが、本来は米ビルボードが事前にきちんとアナウンスする必要があるのではとブログにて記し続けています。

その事前アナウンスのなかった直近二度のチャートポリシー変更については下記エントリーをご参照ください。これら変更はいずれも、ダウンロード指標の1ユーザーにおける同一曲(バージョン)購入回数の上限を低くするというものでした。

加えてこの指標においては、2020年度の後半にいわゆるフィジカル施策の無効化も行われています。歌手のホームページ上で販売されるフィジカルが予約された段階でカウントされ、到着までの間に用意されたデジタルダウンロードについてもカウントされるというこの施策は、チャートポリシー変更に伴い後者はカウント対象外、また前者は発送の段階でカウントされるという形に変わっています。

 

これらチャートポリシーの変更はいずれも、コアファンの熱量が強く反映される、そして歌手側がコアファンの熱量を反映(利用)しやすい施策が過度にチャートに反映されるのを防ぎ、ライト層により浸透している曲(ストリーミングやラジオといった接触指標が強い曲)こそが真の社会的ヒット曲であるという米ビルボードの理念に基づいたものであると考えます。ゆえに今回の変更が事実ならば、自分はそれを支持します。

(一方で、冒頭で紹介したツイートには今回の変更に強く反発する声が散見されます。おそらくは推す歌手チャートで不利になることを背景に、米ビルボードを無礼とみなす声が増えたと考えますが、その非難の声が大きいほどその発し手が推す歌手の印象は下がりかねないものと危惧します。ファンの行動は歌手の(良くも悪くも)鑑であると認識する必要があるでしょう。)

今回のチャートポリシー変更は歌手のホームページにおける”デジタル”の非加算化であり、フィジカルは引き続き加算対象となります。ゆえにチャート上でコアファンの支持を集め上位進出を狙うならばフィジカルの活用が重要となります。実際、(これは米ビルボードが事前予告していますが)アルバムチャートにおいては奇しくも6月30日以降、一定の条件下にてバンドルのカウントが再開しているのも重要なポイントです。

 

 

今回米ビルボードがチャートポリシー変更を実施したのは、過度なチャート施策、特に歌手のホームページ上でのみ販売される曲やバージョンが目立ってきたことが背景にあるものと考えます。ダウンロード指標上の施策はとりわけチャートにおける極度の上昇と極端な急落を招いてきました。

今回の変更からまず思い出したのが、テイラー・スウィフトAnti-Hero」登場3週目におけるダウンロード指標の急伸。これによりドレイク & 21サヴェージ「Rich Flex」は初登場で首位を獲得することができませんでした。

テイラー・スウィフトAnti-Hero」はストリーミングが前週比13%ダウンの3110万(同指標9位)、ダウンロードが同1,793%アップの327,000(同指標1位)、ラジオが同37%アップの5130万(同指標9位)を記録しています。

ダウンロードにおいて、テイラー・スウィフトは自身の持つ最多首位獲得記録を25曲に伸ばしました。トップセールスゲイナーを獲得した同曲の急伸の理由は、集計期間(11月4~10日)において7種のリミックスを用意したため。これまでのオリジナルバージョンおよびインストゥルメンタル版に加えて、ブリーチャーズ参加版(エクスプリシットバージョンおよびクリーンバージョン)をテイラーのホームページ先行で7日にリリース(翌日デジタルプラットフォームに登場)、ルーズベルトによるリミックスをテイラーのホームページ先行で9日リリース(翌日デジタルプラットフォームに登場)、そしてジェイダ・Gによるリミックスおよびクングスによるリミックス(後者のリミックスのエクステンデッドバージョンを含む)、さらにアコースティックバージョンを10日に、それぞれリリースしています。全てのバージョンは10日の東部標準時で14時半から深夜までテイラーのホームページで、デジタルプラットフォームでは同日16時から深夜にかけて69セント(0.69ドル)で安価販売。なおクングスによるリミックスのエクステンデッドバージョンおよびアコースティックバージョンは10日の東部標準時で22時から深夜にかけてのみ、一般のデジタルプラットフォームで販売されています。

ビルボードではリミックスやインストゥルメンタル等様々なバージョンがオリジナル版と合算されます。リミックスのほうがオリジナルバージョンよりも有名になることもあり、またリミックスの文化的側面も踏まえれば合算は必要と考えますが、「Anti-Hero」で行われた施策に対しては違和感を覚え、翌日のブログエントリーにて以下のように指摘しています。

リミックスの投入は問題ないことです。リミックス文化の醸成やリミキサー、客演参加者の知名度向上につながります。チャート施策だとして、他の歌手も行っています。ただ今回感じたのは、テイラー・スウィフトが自身のホームページで先行もしくは独占販売することで、デジタルプラットフォームで販売し最終的に音楽業界へ利益を還元させるよりも自身のチャートアクションや利益を優先させすぎたのではという違和感です。

テイラー・スウィフトはサブスクサービスでの有料会員による無料時期の再生分に対する利益の正当な支払いを求めてサブスクサービスを批判し、音源を引き上げた経緯があります。その際のテイラーの行動は全歌手への大きな味方になりましたが、今回の行動はiTunes Store等ダウンロードサービスに対してとても好意的とは考えにくいのです。

(デジタルプラットフォームへの利益還元は音楽業界の興隆とは別という見方もあるかもしれませんが、たとえばデジタルプラットフォームのプレイリストやリコメンド(レコメンド)システムによりユーザーが新たに気に入る歌手や作品が見つかる可能性があります。その意味で、デジタルプラットフォームへの利益還元は音楽業界の興隆につながるというのが私見です。)

この問題を踏まえ、ブログエントリーの最後には米ビルボードに対し複数の提案を掲載。そのひとつが歌手のホームページ上におけるダウンロード販売を加算対象から外すことでしたが、今回の変更にてこの提案がある種叶ったことになります。

 

 

何よりもまず、米ビルボードはチャートポリシー変更をきちんとアナウンスしないといけないと考えます。未アナウンスはあたかも逃げやチャート管理者としての責任能力の高くなさと捉えられかねないため、ダウンロード指標に長けた歌手のコアファンを中心とする強い反発や不信感の理由となりかねません。米ビルボードの発信の仕方については今一度、強い違和感を表明します。

そして、今回のチャートポリシー変更は支持できるものであり、よりライト層に支持される曲が安定して上位に登場するようになります。ホームページのデジタルダウンロード販売にて上位進出を狙ってきた歌手は曲をライト層により強く認知浸透させる方法を考える必要があり、コアファンもアイデアを議論すべきです。ただしチャートポリシーの隙間を踏まえた施策は、いずれ米ビルボードが修正するため使えなくなるでしょう。