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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードアルバムチャートがバンドル(音源のセット販売)を無効化してから1年…その検証結果が公表されている件

ビルボードが今月、チャートポリシー変更の検証結果をレポートしています。

バンドル(Bandles)とは、音源をグッズやライブチケットとセット販売することを指します。昨年1月に一度チャートポリシー変更が行われましたが、その際チケットバンドルは無効化の対象外となっていました*1。それが同年10月24日付以降、米ビルボードはバンドル自体を無効化する措置を採るに至っています。

このバンドルは、急減するフィジカルやデジタルのユニット数を補足する目的で行われており、およそ10年前から顕著になってきた施策でした。これにより初週のユニット数が堅調に推移してきたとのことですが、バンドルの無効化以降は果たしてどのように推移したのでしょうか。

今回のレポートはこのバンドルセールスのカウント除外から1年が経過したことを踏まえての米ビルボードによる"自問自答"となります。ビルボードジャパン等では今回の記事が登場していないことから、このブログで要約し私見を交えて記載します。

 

"チャートポリシー変更に伴いバンドルを削除してから1年、米ビルボードアルバムチャートはどのように変化したか" その5つのポイント

 

 

① 首位初登場作品の初週のユニット数が全体的に低下

ビルボードアルバムチャートはデジタル/フィジカルのセールスのみならず、単曲ダウンロードのアルバム換算分、およびストリーミング再生回数のアルバム換算分を加えたユニット単位で計算されます。その数値の変遷が最も分かりやすい変化となって表れています。

チャートポリシー変更が行われる前後である2020年10月17日付までの52週分と同年10月24日付以降の52週分を比べると、首位獲得作品の平均ユニット数は前者が174000、後者が151000となり、チャートポリシー変更後のユニット数がダウンしていることが解ります。チャートポリシー変更後の1年間においては、40万ユニットを突破した作品がドレイク『Certified Lover Boy』(613000ユニット)1週分にとどまっています。

一方で、チャートポリシー変更前の52週においては40万ユニット超えがテイラー・スウィフト『Folklore』(846000ユニット)、ジュース・ワールド『Legends Never Die』(497000ユニット)、ハリー・スタイルズ『Fine Line』(478000ユニット)、ザ・ウィークエンド『After Hours』(444000ユニット)およびBTS『Map Of The Soul: 7』(422000ユニット)と5作品が登場。BTS以外はバンドルがユニット数の上昇に貢献しているのです。

ただし10万ユニット超えを果たした作品数ではチャートポリシー変更前後で大差はありません(変更前が35作品、変更後が32作品)。これは歌手やレコード会社側がフィジカルパッケージに工夫を凝らしたことや、フィジカルを入手しやすい環境が醸成されたことに因るものであり、フィジカルがコレクターズアイテムという位置付けとなったことの結果と言えます。

 

②  フィジカル出荷のタイミングで首位返り咲きが増加

バンドルの無効化と同時に行われたチャートポリシー変更に、フィジカルの売上加算タイミングを予約購入時から出荷時に切り替えたことが挙げられます。これはソングスチャートでも行われた措置であり、このブログでフィジカル施策と形容した慣例がこれで影響を及ぼすことがなくなりました。

一方で、フィジカルがデジタル解禁と同時に発売されながら後日に、もしくは遅れて発送されることで、首位に返り咲く作品が登場しています。テイラー・スウィフト『Evermore』や『Fearless (Taylor's Version)』、オリヴィア・ロドリゴ『Sour』等はリリースから数カ月後に返り咲き、またルーク・コムズ『What You See Is What You Get』はデラックス盤の発売に伴い返り咲きを果たしています。

(なおバンドルを無効化する前の1年間ではリル・ベイビー『My Turn』が唯一リリースから1ヶ月以上経過した後に首位に返り咲いていますが、これは新型コロナウイルスの影響で2020年夏が全体的に低調であり、ストリーミングに強いこの作品が存在感を示したゆえです。)

これはレコード需要の上昇も影響しており、先述したテイラー・スウィフトの2作品およびオリヴィア・ロドリゴ『Sour』のレコードセールスは、『Evermore』における102000枚(6月12日付)を筆頭に、1991年以降の週間レコードセールスの上位4作品のうち3つを占めています。

さらに、フィジカル販売時の工夫もみられます。『Fearless (Taylor's Version)』はテイラー・スウィフトのホームページでサイン入りCDが期間限定で販売され、レコードと同時に出荷されたことも大きく、人気歌手の初週ユニット数が以前ほどではなくなったとしても通算では複数週首位を獲得できるようになったのです。

 

③ トップ10入りする作品が減少

バンドルが有効だった際はその影響がとりわけ初登場時に表れる一方で翌週はバンドルの反動および新作の登場に押される形で急落する作品が多かったのですが、そのバンドルが無効化されたことによりトップ10入りする作品自体が減少。直近1年間が92作品だった一方、その前の1年間は118作品であり、2割以上も少なくなっています。

 

④ 収録曲がソングスチャートでヒットしない作品は首位獲得困難

チャートポリシー変更前の2年間にはバックストリート・ボーイズやマドンナ、ピンクやセリーヌ・ディオンといったかつてのヒットの常連だった歌手がアルバムチャートを制していました。これらポップスに該当するジャンルの作品に共通するのが、アルバム収録曲からソングスチャートでトップ40に入る曲が出なかったこと。そしてこの1年間、ライブで定評のあるポップス歌手のアルバムは終ぞ1位になれませんでした。

この1年で首位を獲得したアルバムのうち、収録曲がひとつもソングスチャートでトップ40入りしなかったのはAC/DC『Power Up』およびプレイボーイ・カーティ*2『Whole Lotta Red』の2作品のみ。ストリーミング再生回数や単曲ダウンロードのアルバム換算分がユニット換算されるというチャート特性もありますが、アルバムチャートとソングスチャートが如何にリンクしているかがよく解るのです。

 

⑤ ロックは首位獲得こそ厳しくなったがトップ10入りしやすい状況

所有指標が強い一方で接触指標が強くないといえるロックは、ソングスチャート同様複合指標に基づくアルバムチャートにおいても、ストリーミングに長けたヒップホップのような強さを誇ることができなくなっています。ボン・ジョヴィやデイヴ・マシューズ・バンドが2018年に1位を記録していますが、アルバムセールス自体がダウンしてもチケット売上が堅調であり、バンドルが有効に作用したゆえの首位到達と言えます。

ロックにおいて、この1年間でアルバムチャートを制した作品は先述したAC/DC『Power Up』のみ。実際、ロックのアルバムはその前の1年間でも1作品のみが首位に到達していますが(マシン・ガン・ケリー『Tickets To My Downfall』。ただしこちらもバンドル効果に伴い首位に)、遡れば2010年代後半は先程のボン・ジョヴィ等、バンドルの力を借りたロックアルバムが多く首位を獲得していました。

ではなぜAC/DCは『Power Up』で首位に至れたのでしょう。それはCDのデラックス盤や複数種のレコードを用意しフィジカルを豪華にすることで惹き付けるという戦略のおかげと言えます*3

このフィジカル戦略が功を奏し、ロックに属する歌手の作品はこの1年で、首位にこそ至れなかったとしても多数がトップ10入り。ポール・マッカートニー『McCartney III』やジョン・メイヤー『Sob Rock』が2位、アイアン・メイデン『Senjutsu』が3位等を獲得しています。アイアン・メイデンはこの作品で自己最高位を更新しているのです。

 

 

以上5点が、チャートポリシー変更に伴いバンドルを削除してから1年で米ビルボードアルバムチャートがどのように変化したかについての、米ビルボードのレポートとなります。詳細は、最上段に掲載した元のニュースをご確認いただければ幸いです。

 

個人的には米ビルボードに対し、アルバムチャートにおけるユニット数の計算方法について改善を希望しています(上記リンク先参照)。音楽チャート側が今回のような自問自答を行うことが、様々な声に耳を傾けより好いチャートにしようとする意志だと感じるゆえ、自分が希望する内容が叶うならば嬉しいですね。

*1:米ビルボード・アルバム・チャート、来年からバンドル販売のカウント方法を変更 | Daily News | Billboard JAPAN(2019年11月27日付)参照。

*2:プレイボーイ・カルティと表記するメディアも。

*3:フィジカルの様々なバージョンについてはHMVをご参照ください→こちら