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テイラー・スウィフト、米でアルバム・ソングス両チャートを制覇? サプライズ作の戦略が凄い

12月11日金曜に突如リリースされたテイラー・スウィフト9枚目のオリジナルアルバム、『Evermore』が好調です。

…実は今回のブログエントリーの書き出し、前作『Folklore』を取り上げた時と基本は変わりません。つまりは今回、前作同様の施策を採ってきたと言えます。

実際、『Folklore』およびリード曲の「Cardigan」は共に米ビルボードアルバム/ソングスチャートを制し、テイラー・スウィフトは両チャートを初登場で制した最初の歌手となりました。

『Evermore』はほぼ間違いなく、日本時間の明後日朝発表予定の12月26日付米ビルボードアルバムチャートを制するでしょう。『Folklore』同様、CDのみにボーナストラックが用意されているため、CDを購入しつつその到着までストリーミングを楽しむファンは多いはず。米ビルボードアルバムチャートではストリーミングもカウント対象となります。

ダウンロードバージョンには”エクスクルーシヴ”な写真も収められており、フィジカルもデジタルも買うという選択肢を与えるに十分です。

 

そうなると気になるのは、今作のリード曲となる「Willow」のチャートアクション。米では12月に入るとアルバムリリースが減り、ソングスチャートではクリスマスソングが大挙エントリーを果たすため、この時期に敢えて勝負を仕掛けないという傾向があるように思うのですが、テイラー・スウィフトは果敢に挑んできました。実際に「Cardigan」はフィジカル施策を実施したこともあり、先述したように米ビルボードソングスチャートで首位を獲得しています(ただし年間ソングスチャートでは100位以内に入っていません)。フィジカル施策とは歌手のホームページでCD等フィジカルを販売し、発送ではなく購入段階でカウント、さらにフィジカル到着までの間に楽しんでもらうべく用意されるダウンロードもまた加算されるという手法。後に米ビルボードはダウンロードの加算を中止、且つフィジカルは発送段階で加算という形にチャートポリシーを変更したため、フィジカル施策は使えなくなってしまいました。

その状況下、「Willow」が採った手法は多岐に渡ります。

「Willow」はアルバムリリース日にミュージックビデオおよびリリックビデオを公開。そしてここからリミックスを連発していきます。

誕生日という最高のタイミングでひとつ目のリミックスを公開すると、そこから立て続けに2つのリミックスを解禁。12月26日付米ビルボードソングスチャートの集計期間はストリーミングおよびダウンロードが11日金曜から、ラジオエアプレイが14日月曜からの1週間であり、集計期間内に公開された様々なリミックスはストリーミング等を加速させるに十分です(なお、米ビルボードソングスチャートでは様々なバージョンが合算されます)。

さらには日本時間の18日金曜未明、「Willow」のオリジナルおよびリミックスの全バージョンにおいて、”yule log"なる動画を公開しました。yule logとはクリスマス前夜に炉にたく大きいまきのこと(Weblio英和辞書より)。時期的にも、またたとえばヒーリング映像としてもピッタリなこの動画は現地時間で木曜夜に公開されており、公式動画であれば初週のストリーミング指標に僅かながらでもしっかりと加算されます。

その薪が燃えている動画も出てくるテイラー・スウィフトの公式YouTubeチャンネルをみると、過去の動画のほとんどのサムネイル(表紙画像)が変更され、そこには”willow music video out now”と記載。過去動画のサムネイル変更は今夏、米津玄師「感電」のミュージックビデオが公開される直前にもみられた手法であり、「Willow」への誘導が徹底されていることが解ります。

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(上記12月18日金曜17時台にキャプチャしたものです。)

 

これら施策が立て続けに行われたゆえでしょう、米ビルボードソングスチャートを予想する方々の中には、12月26日付チャートにおいて当初マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が首位をキープすると予想したところを、昨日になって「Willow」に差し替える動きが目立っています。

ロングヒットし年間ソングスチャートに入らなければ、フィジカル施策が大挙発生した時と同様に首位の意味が形骸化しかねないという懸念は抱いているものの、それでもテイラー・スウィフトの施策の徹底っぷりには舌を巻いてしまうのです。