イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

音楽チャートの中身を知るとチャートチェックが楽しくなる(米ビルボードソングスチャート編)

ほぼ毎日音楽チャートに関してアウトプットしているのですが、ふと”音楽チャートの基礎を押さえた記事はなかったっけ?”と思ったのです。チャートの基礎が解るとチャートの見え方が俄然楽しくなると考え、基礎的なレクチャーを書いてみようと思います。

 

目次

ソングスチャートとは何か?

ビルボードソングスチャート(Hot 100)は1958年にローンチされ、62年以上の歴史を誇ります。現在の構成指標はその影響力の大きさの順に【ストリーミング・ラジオ・ダウンロード】。米ビルボードの記事ではストリーミングは"streaming"とそのまま表示されますが、ラジオは"radio songs"、ダウンロードは"digital songs"と表記されています。このブログではストリーミング、ラジオおよびダウンロードと記載します。

ストリーミングにはApple MusicやSpotify等定額制音楽配信サービスでの再生やYouTubeの動画再生等が含まれます。定額制音楽配信、いわゆるサブスクでは有料会員と無料会員との1回再生にウェイト差があり、金銭をきちんと支払ったユーザーによる再生のウェイトがより大きく設定されています。またYouTubeについては公式動画のみが対象となり、たとえば歌ってみたや踊ってみたに代表されるユーザー生成コンテンツ、いわゆるUGCについては対象外となります。

ラジオは1000以上の放送局のオンエア回数を基に、聴取可能人口等を加味した総インプレッション数で算出されます。総インプレッション数とは、どのくらいの方に届いたかという数値です。

ダウンロードはiTunes Store等デジタルプラットフォームで販売されたデジタルダウンロードに加え、フィジカルセールスも含まれます。フィジカルとはCD、レコードおよびカセットテープを意味し、さらに歌手のホームページにおけるデジタルダウンロードおよびフィジカルの販売数も含みます。

 

チャートのスケジュールは?

先程紹介した3つの指標を組み合わせて、現地時間の月曜にトップ10の速報が、火曜早朝にHot 100全体が発表されます(日本では速報が火曜早朝、全体が同日夕方に発表)。ただし米で月曜が祝日の場合は翌日にずれ込むことが多くみられます。

チャートのスケジュールを、最新2021年3月13日付米ビルボードソングスチャートを例に確認してみましょう。

・トップ10速報発表:3月8日月曜(日本時間 3月9日火曜)

  ストリーミング・ダウンロード集計期間:2月26日金曜~3月4日木曜

  ラジオ集計期間:3月1日月曜~7日日曜

3つの指標のうちラジオだけが月曜開始に。一方で、海外作品のリリースは基本的に金曜となっており、ラジオ以外の指標はそれに準じています。

 

チャート構成指標の動向は?

チャート初登場時の各指標の傾向、特に認知度の高い歌手の作品においてはこの表が当てはまるかもしれません。

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分かりやすい例がカーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」(2020)です。

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2020年8月22日付米ビルボードソングスチャートで初登場にて首位を獲得した「WAP」は連覇達成後、2週間のブランクを経て再度2連覇を記録。「WAP」はリリックがかなりエロティックなためにラジオから敬遠されがちと言えたかもしれませんが、それでもそのラジオを含めて手本といえる推移となっているのです。

(ちなみに、デジタル2指標とブログで呼んでいるストリーミングおよびダウンロードが初加算されるタイミングで初登場を決める作品が多いのですが、金曜解禁の曲であればデジタル2指標の加算前週はラジオの3日間の成績が集計対象に。このラジオのみで、下位ながらもソングスチャート100位以内に登場する曲が稀に存在します。)

この3つの指標の動きを踏まえれば、高位置に初登場を果たしても翌週にはデジタル2指標のダウンをラジオがカバーできないために総合ではダウンする曲が少なくありません。この指標の特性を巧く利用し、より高位置に登場させようという動きが昨年特に目立ちました。それが"フィジカル施策"と呼ばれるものです。

 

ビルボードチャートはチャート設計方法を常にブラッシュアップしている

ダウンロードにおいては歌手のホームページで販売されるデジタルダウンロードやフィジカルが加算対象となることは先述したとおり。フィジカル施策はそのシステムを活用して音源リリース日にホームページ内でフィジカルの予約を受け付け、そこでの購入分は発送日のタイミングではなく購入時に売上として加算、また到着までの間に別途用意されたデジタルダウンロードもまた加算されるという、いわゆる二重取りの手段なのです。実は先程の「WAP」でも採用されたこの手法、テイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」(2019)がはじめて行ったと言われていますが、2019年末から2020年夏にかけて初登場にて首位を獲得する曲が散見された一方でダウンロードの反動が登場2週目における首位からの急落につながり、首位獲得の翌週にトップ10落ちする曲があまりに増えてしまったのです。

ビルボードは首位という称号の形骸化を憂い、昨年秋にフィジカルは発送段階でカウントすること、フィジカル購入時に付与されるデジタルダウンロードはカウントしないこととしたチャート設計の変更(チャートポリシー変更)を行っています。

実はこのようなチャートポリシー変更は適宜行われています。2021年3月27日付米ビルボードソングスチャート(日本時間の3月23日火曜発表)からは、Facebookにおける公式動画の再生回数も加算対象となるのです。

影響力が増すサービスについては積極的に導入する姿勢を怠らない、一方でチャート設計を悪用するものはその都度是正する…設計に穴がある事自体は問題といえども速やかに改善する米ビルボードソングスチャートの姿勢は、チャート設計者の鑑と言えるでしょう。

(ちなみに「Me!」は初登場で100位以内に入ると、翌週にはフィジカル施策の影響で2位に躍進しましたが終ぞ首位には至れず。この「Me!」を阻んだのは史上最長の19週首位を獲得したリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」でした。)

なお、フィジカル施策は無効となりましたが、しかしダウンロードに強い作品が上位に登場する傾向は変わりません。特にアイドル的な人気を誇る歌手は以前から上位に初登場しやすい傾向にありましたが、「WAP」を一時阻んだBTS「Dynamite」(2020)についてはまさにその動きが表れています。

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ダウンロードが大きいのが「Dynamite」の特徴であり、また登場5週目にこの指標を大きく伸ばしたのは4つのリミックスバージョンを追加投入したことに因るもの。

ともすれば今後このようなリミックスの大量投入にも米ビルボードのメスが入るかもしれませんが、今は有効に作用していることが解ります。

 

チャートアクションの最善策は?

たとえばブログ執筆から間もなく、日本時間で3月15日月曜に行われるグラミー賞等、テレビでの影響力が大きく反映される傾向があります。2021年のグラミー賞で完全に無視され、賞との決裂という最悪の形と採ったザ・ウィークエンドはスーパーボウルハーフタイムショー効果で2020年の年間チャートを制した「Blinding Lights」のさらなるロングヒット化に成功しています。

最近ではミュージックビデオの工夫も。公開タイミングも影響を及ぼしますが、スマートフォン時代における縦型ミュージックビデオやミュージックビデオの制作過程(ビハインド・ザ・シーン)がストリーミングにおける動画再生を強化しています。

また、リミックスの追加投入も重要です。先述したBTS「Dynamite」では最終的に10近いリミックスが投入されています。さすがにそれは極端かもしれませんが、しかしリミックスを追加投入し押し上げを図ることはよくみられます。昨年ブレイクしたドージャ・キャットは「Say So」でニッキー・ミナージュを、メーガン・ザ・スタリオンは「Savage」でビヨンセを招き、週間1位の栄冠を手にしました。尤もこちらでもフィジカル施策が使われていますが、初登場時ではなく十分に機が熟したところでの投入であり、翌週の急落にはつながっていません。

最近では特に、リミックス時の招聘に限らずジャンルを超えたコラボレーションが増えています。特にカントリー歌手と他ジャンルとの交流からは様々なヒット曲が誕生。

先に3つの指標について取り上げましたが、ジャンルによって得手不得手が存在します。ヒップホップは所有指標に乏しくラジオに弱い、カントリーは接触指標が弱くラジオに強いというのが分かりやすい特徴。カントリーはその人気の土地柄も踏まえるに保守と呼ばれる傾向があるのですが、ジャンルを超越したヒットは保守層にも届き、互いのジャンルの弱点を補い合った結果生まれるものなのです。とりわけ「Me!」を抑え込んだリル・ナズ・X「Old Town Road」は、当初カントリー曲ではないとして米ビルボードのジャンル別チャートから除外されていましたが、それに異を唱えたベテランカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスが客演参加しカントリーのカラーを際立たせることに成功。最終的に史上最長となる19週もの首位を獲得するに至っています。

この「Old Town Road」に代表されるように、現在のチャートにおいてはTikTokでのムーブメントが波及することがよくあります。流行のきっかけは様々ですが、たとえばリル・ナズ・Xは元々ニッキー・ミナージュのファンアカウントを運営していたとのことでバズを起こすことに長けていたと言われています。また2021年2月27日付で3位に初登場を果たしたリル・ティージェイ feat. 6LACK「Calling My Phone」はそのプレビューをTikTokで行い、以降積極的に訴求してきたことが両者にとって初となるトップ10入りの原動力と言われています。

TikTokは少し前の曲、さらにはクラシックと呼ばれる過去の名曲に光を当てますが、2020年秋にはフリートウッド・マック「Dreams」が43年ぶりにリバイバルヒットを果たしています。このきっかけもまたTikTokなのですが、バズを起こした動画にフリートウッド・マックのメンバーが"乗っかった"ことがヒットをさらに強固なものとし、米ビルボードソングスチャートでは12位まで浮上しました。

@mickfleetwood

@420doggface208 had it right. Dreams and Cranberry just hits different. ##Dreams ##CranberryDreams ##FleetwoodMac

♬ Dreams (2004 Remaster) - Fleetwood Mac

いついかなる時にスポットが当たってもすぐに接触や所有できる環境を整えておくことは勿論必要ですが、TikTokを積極的に活用することがヒットにつながる事例はドレイクやリゾ等多数あるわけで、TikTokを活用しない手段はないのです。そしてタイミングも極めて重要で、金曜解禁時に最良のロケットスタートを切るべくリリースアナウンスをどう行うかの熟考もまた必要です。


最後に

ビルボードソングスチャート(Hot 100)について解説してきました。今後チャートポリシー変更時等のタイミングで加筆修正していきます。

このチャートは2020年秋に米ビルボードが新設したグローバルチャートの基礎にもなっています。グローバルチャートについては下記エントリーをご参照ください。

日本人歌手の中には海外での成功を目指す方もいらっしゃるでしょう。チャートアクションをどう最大化し歌手の名を轟かせるか、このブログエントリーからヒントを得ていただけたならば幸いです。

また毎週水曜夕方に、米ビルボードやグローバルチャート、ビルボードジャパンのソングスチャートを紹介するポッドキャストBillboard Top Hits】をAnchor、Spotify、stand.fm等で配信していますので是非お聴きください。

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