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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

チャートで安定した動きをみせるDa-iCE「CITRUS」から、CDとレコード会社の役割を思う

Da-iCECITRUS」が興味深いチャートアクションを示しています。

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ドラマ『極主夫道』(日本テレビ)の主題歌として11月25日にCDリリースされた「CITRUS」は、12月7日付ビルボードジャパンソングスチャートでCD関連指標初加算に伴い47位に登場。CDセールスは翌週以降落ち込むもののダウンロードや動画再生指標が緩やかに伸び、総合でも86→82位と上昇しています。

この曲において面白いのは、シングルCDを1万枚限定で販売している点。エイベックスへ移籍しての第一弾シングル(CD表題曲)となる「DREAMIN' ON」はテレビアニメ『ONE PIECE』(フジテレビ)オープニングテーマとして枚数制限なしでリリースしていますが、以降のシングルは今月リリースの「EASY TASTY」まで1万枚限定でのCDリリースを続けています。枚数限定はアルバム『SiX』(2021年1月20日発売)のリリースを控えているゆえの策かもしれませんが、しかし枚数限定のない「DREAMIN' ON」と今回の「CITRUS」ではチャートアクションに大きな違いが生まれています。

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「DREAMIN' ON」のチャート推移(CHART insight)について、ビルボードジャパンソングスチャートの総合および構成8指標すべてを掲載したもの、およびダウンロード(紫の折れ線で表示)・ストリーミング(青)・動画再生(赤)のみを抽出したものの2つを掲載。「DREAMIN' ON」はCDセールスが大きく牽引しながらデジタル指標群が強くないためCD関連指標加算2週目に前週の35位から100位圏外に急落。これはアイドルの典型的な動きといえます。

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一方で「CITRUS」において、同様にデジタル指標群のみ抽出したものをみると、ストリーミングは解禁後から常時300位以内をキープし、ダウンロードは登場2週目の53位が最も低い状況。さらに動画再生はここ3週で上昇しています(なお、動画再生が上昇したタイミングとなる12月7日付にて、動画再生からUGC(ユーザー生成コンテンツ)が加算対象外となるチャートポリシー変更を実施。詳しくはこちら等で記載しています)。接触指標群であるストリーミングや動画再生はまだまだ強くはないかもしれませんが、これらの動向がシングルCDリリース曲におけるCDセールス後の安定したチャートアクションに寄与していることは間違いありません。

 

 

Da-iCEは「DREAMIN' ON」以降エイベックスからリリースしていますが、そのエイベックスに対し、CDセールスに重きを置いた戦略を採るイメージを抱いている方は少なくないでしょう。先日報じられた本社売却の件(ただし同社はその事実について肯定はしていません)は、旧態依然のアプローチが苦しくなってきたことをある種象徴するものかもしれません。

その中にあってDa-iCEは、たしかにアルバム『SiX』まで6ヶ月連続のCDリリースを行うという昔ながらと言える戦略を採っていますが、「DREAMIN' ON」以降はCD出荷枚数に1万枚という制限をかけています。その中で「CITRUS」はドラマ熱の高まり(『極主夫道』の平均視聴率は9.22%(ビデオリサーチ調べ)であり特段高いとは言えないものの)を受けて伸びてきた側面があり、さらには以下の動画を順番に公開しドラマ熱とより深くリンクさせていったことが功を奏したと言えるでしょう。

 

Da-iCEは今年に入り、移籍前の段階ですがEXITと組み『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)に、そして「DREAMIN' ON」で『うたコン』(NHK総合)に出演する等、地上波テレビ番組出演の足がかりを築きはじめています。穿った見方かもしれませんが、特にプライムタイム(19~23時)の番組において、男性アイドルは特に大きなヒットや注目度の高い(そしてメディアが無視できない)作品が出ない限り、ジャニーズ事務所所属歌手と同じ場に立つことはできません。後者はDA PUMP「U.S.A.」(2018)やDISH//「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」(2020)が、前者はおそらく三浦大知「EXCITE」が同じ場に立てています(厳密には『ミュージックステーション』(テレビ朝日)における三浦大知さんの初出演は「Cry & Fight」(2016)でしたが、同年放送開始の『仮面ライダーエグゼイド』(テレビ朝日)の主題歌に「EXCITE」(2017)が起用されることがその段階で決定していただろうことが大きいかもしれません。無論「Cry & Fight」の業界内での評価の高さは特筆すべきものがありましたが)。

Da-iCEはエイベックス移籍において、同社が強力なコネクションを持つ『ONE PIECE』主題歌という武器を与え、メディアが無視すべきではないという状況を作り上げました。そこからさらに『極主夫道』というタイアップに至ったと考えます。大型タイアップの用意は旧来からのレコード会社における方法論のひとつと言えますが、Da-iCEはそこにデジタルの公開タイミングの徹底という現在ならではのアプローチを加えてきました。ミュージックビデオはドラマ終了のタイミングで今週日曜に公開。月曜0時というビルボードジャパンソングスチャートの集計開始時刻に合わせなかったことに僅かながら違和感を抱きつつ、しかしこの姿勢はまさに今っぽいと思うのです。

 

レコード会社には、歌手がその名を轟かせるきっかけとなる大型タイアップを用意するという武器があります。その武器を活かしつつも同時に、以前ソニーミュージックの成功理由として挙げた”CDセールス最優先という姿勢を手放すこと”がステップアップ(もしくは再浮上)の契機と考えます。CDはリリースしても配信の後押し等と位置付け、フィジカルとデジタルの双方で押し出す姿勢こそ、現在最も重要なアプローチ手法ではないでしょうか。

来週水曜に発表される12月28日付ビルボードジャパンソングスチャートでは、「CITRUS」のミュージックビデオが丸一週間分、動画再生指標等に加算されます。「CITRUS」の次週の順位に期待すると共に、エイベックスが今後どのような取組を行うかも気になります。

 

ちなみに、Da-iCECITRUS」のミュージックビデオが自身のYouTubeアカウントから発信されていることに、個人的に安堵しています。「DREAMIN' ON」はエイベックスのアカウント発でしたが、このように歌手のYouTubeアカウントではなくレコード会社から発信されることは検索する方にとって枷になるのではと思うのです。レコード会社が黒子に徹すること、その上で自身の名を如何にさり気なく広げるかが重要ではというのが私見です。