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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

宇多田ヒカル「Face My Fears」、シングルCD化におけるふたつの特徴

昨年のアルバム『初恋』が2018年度ビルボードジャパン年間アルバムチャートで3位を記録するなど高い評価を受けた宇多田ヒカルさんが、久々のシングルCD「Face My Fears」を1月18日金曜にリリースしています。

今回はあのスクリレックスと共作。スクリレックスといえばEDM界に独自の音世界を轟かせた「Scary Monsters And Nice Sprites」および同名アルバムで2012年のグラミー賞を受賞、その影響は三浦大知さんをはじめ多くの歌手に及んでいます。近年ではマライア・キャリーのアルバムにもR&Bライクな楽曲で参加し、ジャンルの幅を広げているのも特徴的です。

 

そのシングルですが、大きな特徴が2つあります。

ひとつめは【およそ10年8ヶ月ぶりのシングルCD】ということ。「Prisoner Of Love」(2018)以降、一時活動休止期間もあれどリミックスを除いて「桜流し」(2012)、「花束を君に」(2016)、「あなた」(2017)等10曲近くが配信限定でリリースされていましたがいずれもCD化していません。今回「Face My Fears」をシングル"CD化"した理由は『キングダム ハーツIII』がタイアップ先ゆえではないかと。

シングルCDにはゲームの映像が同梱されてはいませんが、ゲームの世界観を好む方(且つ宇多田ヒカルさんの作品を積極的には購入しない方)が手に取ることを見越した上でのフィジカル化だと想像出来ます。ちなみに、ゲームやアニメーションのタイアップ作品がCD化されやすいのでは?ということを、BUMP OF CHICKENが昨秋リリースしたトリプルAサイドシングルCD(CDでのリリースはおよそ3年半ぶり)からも感じています。歌手のコアなファン以外の方々を取り込むアニメやゲームのタイアップ、その作品の(もしくはそれのみの)CD化は今後トレンドと化すかもしれません。

 

そしてもうひとつは【金曜発売】。

アメリカなど海外では金曜発売がデフォルトとなっています。これは、たとえばアメリカにおいてはビルボードソングスチャートのデジタルダウンロードおよびストリーミング各指標の集計期間が金曜を開始日とするため…との理由でツイートしたのですが、実際はもっと大きな理由があり、既に3年半前に変更(統一化)されています。

現に海外でも同日発売され、高位置をマーク。

ビルボードソングスチャートではストリーミングおよびラジオエアプレイ各指標に比べてデジタルダウンロード指標のウェイトが高くなく、ダウンロード数自体も下がってはいるのですが、もしかしたらセールスが牽引することで「Face My Fears」がトップ100入りする可能性もあるのでは。そのアメリカをはじめとする海外での展開を基準として、日本でもシングルCDを金曜発売に設定したと考えるのが自然かと思われます。

欲を言えば、「Face My Fears」のミュージックビデオを、たとえ曲終盤をフェードアウトしたとしても構わないのでアップしてほしかった…という思いに駆られます。海外ではフル尺での公開が自然なことであり、ましてコンサートで忙しかったとしても昨秋からシングルCDリリースをアナウンスしていたならば尚の事かもしれません。シングル収録曲の「誓い」については『有料会員サービスPlayStation Plusの加入者を対象に』『1月18日に全世界で無料配信』とのことですが(『』内は宇多田ヒカルVRライブ映像のメイキング公開、「誓い」は全世界で無料配信(動画あり) - 音楽ナタリー(2018年12月25日付)より)。YouTubeでの動画再生が米ビルボードソングスチャートではストリーミング指標にカウントされることで、同チャートでより伸びる可能性があったゆえ、ストリーミングが伸びにくい点において残念に思います。

 

さて日本の動向ですが、金曜発売といえども"フラゲ日"が設定されていたようで、オリコンでは1月17日付デイリーランキングで既に初登場。木曜および金曜で7000枚近く売り上げています。初週はV6とぶつかったことでシングルCDセールスでの首位獲得は難しく、また水曜発売ではないため同週発売の他の作品に比べて販売期間が2日少ないという不利な状況ですが、シングルCDセールスだけをみて憂うべきではない…ということは海外を見据えた展開を踏まえれば解ります(その理解を広める上で、今回のエントリーを綴った次第です)。

フィジカルを作らずとも配信で、以前より容易に世界進出可能な時代にあっては、今後海外での展開を見据えた歌手は金曜発売を考えないといけないでしょう。いや、先述した世界の動向を踏まえれば、レコード会社が一律金曜発売にシフトさせないといけないと思うのですが。