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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BTS「Dynamite」は様々な変化や施策を伴い米ビルボードソングスチャート首位を狙える位置に来ている

BTSが9月5日付米ビルボードソングスチャート(日本時間の9月1日火曜早朝発表予定)を制する可能性が出てきました。

上記ツイートは米ビルボードソングスチャートを予想する方によるものですが、しかしこのツイートは説得力を帯びています。BTSは「Dynamite」において、様々な施策を施しているのです。

 

 

BTSは8月21日金曜、シングル「Dynamite」をリリース。9月5日付米ビルボードソングスチャートでは8月21~27日のストリーミングおよびダウンロード、8月24~30日のラジオエアプレイが加算対象となります。

このリリースタイミング自体が大きな変更に伴うものでした。

Spotifyスタッフ、現arne代表の松島功さんの指摘を勝手ながら引用させていただきましたが、このリリーススケジュールを変えたこと自体は間違いなく、米ビルボードソングスチャートの初週ポイントの最大化を狙っているものと考えます。

 

BTSは「Dynamite」のレコードおよびカセットテープを販売。これらが仮にフィジカル施策の対象ならば、ダウンロード施策に大きく貢献することは間違いありません。歌手の公式サイトにてシングルCDやレコード、カセットテープ(これらを総称してフィジカルと呼びます)を販売し後日それらが届くのとは別に、購入段階でダウンロードが可能となりその両方がダウンロード指標のカウント対象となるのがフィジカル施策の特徴。今年の米ビルボードソングスチャートで初登場首位を獲得した曲に欠かせない手法となったものの、厳しい表現を用いるならばチャートが不健全に陥ったため、米ビルボードでは10月頭から同施策を適用しないようチャートポリシーが変更されますが、今はまだこの施策が通用する段階です。BTSが販売したレコードやカセットテープがこの施策の対象となるかは下記キャプチャだけでは判断できかねるものの、既にレコードおよびカセットテープは完売しており、施策なしでもダウンロード指標が増大することは間違いないでしょう。

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キャプチャ元であるOfficial BTS Music Store(URLは bts-dynamite.us)では上記商品が取り扱われ、レコードやカセットテープの発売が確認できます。これらの売上はすべて米ビルボードチャートに反映される、と各商品の説明文に記載されており(『All US sales will count towards the USA SoundScan and Billboard charts』と表記。下記キャプチャ参照)、この一文はチャート上位進出を願うファンの気持ちを所有行動に昇華させるに十分です。

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また「Dynamite」はEDMおよびアコースティックバージョンを明日リリースすることをアナウンスしています。

リリース時間の設定が『24日午後1時』(上記記事より。おそらく日本時間と考えます)というのは、先述した松島さんがおっしゃるように米マーケットを意識したものではないでしょうか。この設定時間が米ビルボードを意識したであろうのみならず、オリジナルバージョンから程なく、初週の集計期間内にリミックス版をリリースするという戦略もまた、様々なバージョンを合算対象とする米ビルボードソングスチャートへの対策として十分な役割を果たします。今月テイラー・スウィフト「Cardigan」が初登場週に米ビルボードソングスチャートを制したのはまさに、フィジカル施策および別バージョンのリリースをオリジナルバージョンリリースから1週間以内に行ったゆえなのです。

 

「Dynamite」の別バージョンはダウンロードのみならずストリーミングにも影響を及ぼします。そのストリーミングについて、たとえば米Spotifyデイリーチャートでは8月21日付で3位に初登場を果たし、またYouTubeではミュージックビデオがアップされてから24時間で9830万再生という大記録を樹立しています。

YouTubeの再生回数は全世界からのアクセスによるものであり、米ビルボードアメリカからのそれのみが集計対象となりますが、巨大な数値になることは間違いないでしょう。

 

これらストリーミングの強さ、そして先述したダウンロード対策を踏まえれば、これまで「On」の4位が最高だったBTSが米ビルボードソングスチャートで初のトップ3入り、いや首位獲得もあり得るというのは十分な説得力を帯びるのです。

 

 

他方、米ビルボードソングスチャートを構成する指標のひとつ、ラジオエアプレイの動向が気になります。ストリーミングは初動が高く緩やかに降下もしくは維持、ダウンロードは初動が高く降下も速い(フィジカル施策が採られれば尚の事反動が大きい)のに対し、ラジオエアプレイは安定するものの上昇の度合いが非常に遅く、1ヶ月で同指標10位以内に入ることは極めて稀だという特徴があります。

元来BTSにおいてはラジオエアプレイが強くないことがあり、デジタル2指標のダウンにラジオエアプレイが追いつかないためトップ10入りしても2週目以降その位置をキープできないという傾向がありました。加えて、今年初登場でトップに立った曲の動向を見ると、ラジオエアプレイに強くない曲はランクダウンが激しいという法則が成立します。下記は今年度、初登場で首位を獲得した曲の3指標および翌週以降のチャート動向であり、ドレイク「Toosie Slide」のみフィジカル施策を用いていません。

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フィジカル施策を使うと初登場の翌週はその施策の反動でダウンロード指標が急落、一方でラジオエアプレイはどんなに高くとも20位には届かないという傾向は上記で明白。初登場で首位を獲得した曲はすべて翌週その座をキープできず、半数である3曲はトップ10にもとどまることができませんでした(カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」は最新週で首位に初登場したため翌週の動向は不明)。逆にトップ10内をキープできた3曲においては、ドレイクが先述したようにフィジカル施策を用いなかったゆえ安定、テイラー・スウィフトはソングスチャートとアルバムチャートを共に初登場で制し(両方のチャートを同時に初登場で制したのは60年以上の歴史で初)、翌週もある程度アルバムの勢いが反映された結果に因るもの、またレディー・ガガにおいてもテイラーと似ており、ソングスチャートを制した翌週にアルバムが初登場首位を果たしたことでその勢いがソングスチャートにも波及した結果と考えられます。

となると、BTSにおいてもその勢いをキープするための施策が求められますが、彼らにおいては現地時間の8月30日日曜にMTVビデオ・ミュージック・アワードに出演し「Dynamite」を披露することが決定しており、これが登場2週目のチャートアクションに影響するのは間違いないでしょう。

BTS「Dynamite」に関するスケジュールをみると、同曲の別バージョンとなるミュージックビデオも公開が予定されており、初週のストリーミングは勿論のこと、翌週の同指標にも影響を及ぼすことが考えられます。

 

また、「Dynamite」の歌詞が全編英語であることもラジオエアプレイにとってプラスに作用するかもしれません。歌詞は下記Geniusにてご確認ください。

これまでは韓国語がメインだったBTSが全編英語詞の曲を発表することで、仮に英語がメインではないからという理由でOAを避けていたラジオ局や番組側があるとしたら、OAしない理由がひとつ減るのです。

 

 

BTS「Dynamite」が米ビルボードソングスチャートを制したならばそれは間違いなく歴史的快挙です。一方、弊ブログで幾度となく記載していますが、フィジカル施策が多用されたことでトップを獲得しても翌週急落することが目立つようになり、その週だけのチャートでは真の社会的ヒットは測れなくなってきたと考えます。これは日本におけるCDセールスに長けた作品の動向にも言えることですが(ゆえに米ビルボードソングスチャート対策としてのフィジカル施策の多用は、米チャートの"日本化"と形容されてもおかしくないと思うのです)、上位に初登場を果たした曲については少なくとも翌週の動向を、チャートの総合順位のみならず構成指標の前週比をみることで真の社会的ヒットに至ったかを見極めないといけません。年末に発表される年間チャートもチェックが必要です。BTSにおいてはフィジカル施策を採らずともダウンロードが強く、ストリーミングでも人気であるゆえ、ラジオエアプレイを克服さえすれば米でさらなる飛躍を成し遂げたと言えるでしょう。

 

 

 

ここまでは米チャートについて考えましたが、日本においてはどうでしょう。ビルボードジャパンソングスチャートにおける上位登場は8月31日付(8月26日午後発表)の予定。ビルボードジャパンソングスチャートは構成8指標がすべて月曜集計開始となるため、ストリーミングやダウンロード等は金曜からの3日間(実質2日半)が集計対象となり有利とは言えません。それでも8月21日付の日本のSpotifyデイリーチャートでは15位に初登場、それも13万近い数値を獲得しているのは他のサブスクサービスより上昇が遅いと考えられるSpotifyでは凄いことなのです。

また別のサブスクサービスにおいては、LINE MUSICで8月21、22日付デイリーチャートを共に制覇。しかも「Dynamite」のインストゥルメンタルバージョンが31→57位と2日連続で100位以内に入っているのが特筆すべき点ですが、こちらは下記キャンペーンによりインストゥルメンタルを(誤って?)再生した方が少なくなかったことが反映されたのかもしれません。

LINE MUSICの”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”再生回数上位対象プレゼントキャンペーンについては今月弊ブログで取り上げ、個人的には否定的な見解を抱いていますが、2日半という不利な集計期間で如何にチャート上で爪痕を残すかという点においては有利に働くのかもしれません。尚、LINE MUSICキャンペーンについての見解は下記にて記しています。

 

(余談となりますが、そもそもの問題として、日本のチャートがビルボードジャパンであれオリコンであれ、世界的なリリース標準日である金曜を集計開始としないことについて一度議論すべきだと思うのです。フィジカルなしでも世界中でリリースできるようになったにも関わらずチャートは日本のみドメスティックな期間設定のままであれば、金曜リリースを標準とする洋楽や海外展開するために発売日を金曜に合わせた邦楽が不利になり、たとえば洋楽作品は日本で売ることのデメリットを考慮して国内盤のリリースを敬遠する動きが出てくるでしょう。また現在のチャートが邦楽CDの水曜リリース(火曜店着)に合わせた期間設定だとして、よくよく考えればCDセールスは初週6日分のみのカウントとなり隙間が発生するわけで、この機会損失について疑問が生じます。世界に倣い日本でも金曜リリースを定着させれば、週末のCD販売店舗への人手も増えるでしょう。音楽業界とチャート取扱業者が議論の場を設けることを切に願います。)

 

 

BTS「Dynamite」のアメリカ、そして日本におけるソングスチャートの動向、注目していきましょう。