イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Number_i「未確認領域」のビルボードジャパンソングチャートにおける後退を、Spotifyの動向から読む

このブログでは毎週土曜、ビルボードジャパンソングチャートで前週初めてトップ10入りした曲の翌週動向を紹介しています。8月27日公開分についてはこちら。

ここでは2位をキープしたMrs. GREEN APPLE「夏の影」をメインに紹介していますが、前週初登場で首位を獲得したNumber_i「未確認領域」は24位に後退しています。今回はこの曲の動向について、背景を分析します。

 

 

上記はビルボードジャパンソングチャートにおいてNumber_iが週間2位以上を獲得した曲における、初動および翌週動向の一覧表。ここからは「未確認領域」におけるポイント、また初週におけるストリーミング再生回数がこれまでより低いことが解ります。

また上記は、冒頭で紹介した土曜のエントリーでも貼付しているストリーミング表の最新分。こちらでは「未確認領域」が主要サブスクサービスのうちSpotifyで特に人気であることが解ります。なお、Number_iがSpotifyで強いことについては以前紹介しています。

Number_iにおいては公式もしくはファンダムによるStationheadの徹底した活用(リスニングパーティーの開催等)がその背景にあると考えます。StationheadはSpotifyのほかApple Musicとも紐付くのですが、Spotifyは上位曲の再生回数を日々可視化しているため音楽チャートに貢献したいと考えるファンダムの頑張りにつながりやすく、ゆえにSpotifyでの再生回数が高いのではないでしょうか。

(Number_iにおいてはデビュー当時、業界の慣例等に伴いメディア露出が難しいのではという見方があったと聞きます。ゆえにファンダムはその状況を打破すべく、大ヒットさせてメディアが無視できない状況を作るためにも音楽チャートの知識を深めたのではないかと捉えています。)

 

 

※ なお最近ではSpotify自体が公式リスニングパーティーを開催する傾向にあります。

 

ゆえにNumber_i「未確認領域」についてはSpotifyの動向を追うことでビルボードジャパンソングチャートにおける推移の背景がみえてくるものと捉えていますが、そのSpotifyにおける「未確認領域」のリリース前後では、同曲のみならず他の主要作品でも気になる動きがみられます。

上記は日本のSpotifyデイリーチャートにおける、Number_i主要5曲の初登場時から22日分、および直近28日分のデイリーチャート動向をまとめたもの。Number_iはいずれも月曜にデジタルリリースしており、日本のSpotifyにおける一日の区切りが午前9時とみられるため該当曲すべてがフライング的な形で初登場を果たしています。

その中で「未確認領域」は初の24時間フル加算となった8月11日付で3位に上昇するも翌日以降はトップ10内から後退し、10位以内在籍は1日にとどまっています。そして同曲の初登場以前から8月17日日曜までの間、「GOAT」において順位の大きな変動が生まれていました。

Number_i「GOAT」における50位前後の行き来は、日本のSpotifyデイリーチャート独特の特性である”50位の壁”に伴うもの。この特性については、1ヶ月近くにわたり行き来していたtuki.「晩餐歌」の動向を紹介する際にも説明していますが(上記リンク先参照)、「GOAT」においても8月2日以降に行き来が発生。そして注目すべきは、8月11日付にて50位以内に戻らず、8月13日付では123位まで後退した点にあります。

 

 

「未確認領域」がこれまでの作品よりも伸びなかったこと、また「GOAT」が100位未満へ後退したことの背景には、お盆が影響しているのではないかという仮説を立てています。Number_iの作品はファンダムの聴取率がライト層(歌手のファンではないが曲が気になる方)やグレーゾーンより高いとみられますが、そのファンダムにおいてお盆期間に聴取時間を確保できなかった方が多いのではと考えた次第です。

 

上記ふたつのデータを踏まえるに、Number_iを注目する方そしてファンダムは共に女性比率が高く、注目する方の年齢層が幅広いこと、そしてファンダムの平均年齢は(昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)に出演した)アイドルやダンスボーカルグループの中で高いことが読み取れます(なお後者の記事ではファンダムではなく”推しファン”との表現が用いられています)。

この点から、Number_iのファンダムはお盆に帰省等を理由として聴取時間を確保できなかった方が他の歌手のファンダムより多く、それが「未確認領域」におけるデイリートップ10入りの短さ、また「GOAT」の100位未満への後退につながったのではと捉えています。尤も他の歌手の作品でも似た動向がみられたかもしれませんが、「GOAT」の極端とも呼べるチャート動向はその仮説を想起するに十分かもしれません。

 

上記は先述した表を一部変更し、日本のSpotifyにおける初週再生回数(フラゲ日をカウントする/しないの双方を抽出)と、ビルボードジャパンStreaming Songsチャート(ソングチャートにおけるストリーミング指標の基となるもの)での初週再生回数に占めるSpotifyの初週割合を示したもの。これをみると、「未確認領域」は全体のストリーミング再生回数が下がりながらもSpotifyの比率が高まっていることが解ります。

お盆におけるファンダムの再生回数低下という先述した仮説が成り立つならば、Spotify以外のサブスクサービスを用いるファンダムでも同種の事態が発生したといえるでしょう。その中でSpotifyはデイリー順位のみならず再生回数も可視化されることでファンダムの発奮につながりやすく、結果として「GOAT」のデイリー50位以内回復につながった、そして再生比率が高まったのではないかというのが自分の見方です。

 

 

尤もNumber_i側は、お盆の時期に新曲リリースが多くないだろうことを踏まえて「未確認領域」を解禁したのかもしれません。ただし今回の動向を踏まえれば、この時期のリリースを今後は避けたほうが好いと感じています。そして歌手におけるSpotify比率の高さ、また2週目における後退度合いの大きさを踏まえれば、歌手側がファンダム外へ訴求し、コアファンに昇華し得るライト層の発掘に力を入れることが最善と考えます。