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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

"日本人の洋楽離れ"は本当か…アリアナ・グランデの新曲を機に現状を把握する

最新1月24日公開分(集計期間:1月15~21日)のビルボードジャパンソングチャートでは、アリアナ・グランデ「Yes, And?」が35位に初登場。今回はこの「Yes, And?」の動向から、日本における洋楽(K-POPを除く)の現状、いわゆる"日本人の洋楽離れ"について考えます。

(※なおこのブログではすべて大文字の作品、またすべて小文字の作品について、米ビルボードの表記に倣い頭文字のみ大文字という表記で統一します。)

 

 

アリアナ・グランデ「Yes, And?」は3年半ぶりのアルバム『Eternal Sunshine』(3月8日リリース)からの先行曲として1月12日金曜、東部標準時の午前0時にリリース。日本では同日14時に解禁されています。

1月12~18日を集計期間とする1月27日付米ビルボードソングチャート、および米ビルボードによるグローバルチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.)では「Yes, And?」がいずれも初登場で首位を獲得(上記エントリー参照)。14種ものバージョンをリリースしたことの反動で次週はダウンロード指標が急落し、総合でも首位から脱落するかもしれませんが、良いスタートを切っています。

 

海外の動向を踏まえれば、日本におけるアリアナ・グランデ「Yes, And?」の動きは乏しいとはいえますが、最新1月24日公開分のビルボードジャパンソングチャートにおいてポイントの過半数をラジオ指標が占めたことは大きな特徴といえます。冒頭で掲載したCHART insightにおいて、黄緑で示されているのがこの指標です。

2024年1月24日発表のラジオ・オンエア・チャート(集計期間:2024年1月15日〜1月21日プランテック調べ)では、アリアナ・グランデ「イエス, アンド?」が1位を獲得した。

約3年ぶりの新曲となる同曲は、1月12日のリリースと同時にラジオオンエアも開始され前週51位でチャートデビュー。実質的な初週を迎えた今週、さらにオンエアは伸長し、洋楽では昨年11月に話題となった“ザ・ビートルズ最後の新曲”以来8週ぶりの総合チャート首位を飾った。

ラジオ指標は全国31のラジオ局によるOAランキング(プランテック調べ、上記はそのランキング記事)を基に、ビルボードジャパン側が聴取可能人口等を加味して算出。「Yes, And?」は前週においても、解禁からおよそ2日半で一定数のOAを獲得したことが記事から解ります。

一方で「Yes, And?」は、ビルボードジャパンソングチャートにおいてロングヒットの要となる接触指標群(青で表示されるストリーミング、および赤の動画再生)が強いとはいえないというのが自分の見方です。

 

ユニバーサルミュージックではリリース日から一週間に渡ってLINE MUSIC再生キャンペーンを実施しているのですが、「Yes, And?」がストリーミング指標100位以内に進出することは叶いませんでした。

LINE MUSIC再生キャンペーンは主にライト層の人気が反映されるストリーミング指標にコアファンの強い熱量が反映される施策ですが、参加者の物理的/精神的な負担の大きさは気になるところ。それでもこの施策は新曲がリリース日からきちんと聴かれ、日本では未だ多くない初週での上位進出につながるのですが、アリアナ・グランデ「Yes, And?」はストリーミング指標100位以内未達の状況です。

アリアナ・グランデ「Yes, And?」は待望のニューアルバムからの先行曲であることのみならず、アレンジからはマドンナ「Vogue」、ミュージックビデオからはポーラ・アブドゥル「Cold Hearted」という1990年前後の作品群を想起させ、ポーラからの反応が(主に海外で)ニュースになっていたことから、新曲は若年層のアリアナファンのみならず以前洋楽に触れていた30代以上の音楽ファンにも興味を示されるものと捉えていました。

(ただし、Yahoo! JAPANのニュース検索にて"ポーラ・アブドゥル"と入力しても、アリアナ・グランデへのリアクションに関する報道はありませんでした(検索結果はこちら)。このことも、日本の洋楽への対応の現状を知るのひとつの要素となりそうです。)

 

 

実際、日本と海外のソングチャートで洋楽(K-POPを除く)の人気に乖離が生じているのは、何もアリアナ・グランデ「Yes, And?」だけではありません。このことはarne代表の松島功さんが昨年末に指摘されていますが、この内容には多くの反応が寄せられ、反応をまとめたページも登場しています。

ビルボードジャパンによる2023年度ソングチャートのストリーミング指標においても、似た状況が生まれています。

では世界のチャートはどうでしょう。米ビルボードによるグローバルチャート(Global 200およびGlobal Excl. U.S.)の2023年度年間チャートをみると、ロングヒットも入っているものの新しい曲が多い状況です。

 

松島さんのポストに対する反応は様々ですが、洋楽の影響を受けているJ-POPの歌手や作品が今後生まれにくくなる可能性、また現在は円安の影響もあり来日公演や日本の音楽フェス出演を行う海外の歌手が多くいらっしゃるとして、円高基調となればその状況が悪化する可能性は小さくないものと捉えています。その点においても、洋楽の勢いが弱まっているのは好ましい事態ではないと考えます。

 

さて、昨年度のApple Music年間ソングチャートで洋楽での最高位および2位を記録したエド・シーラン「Shape Of You」(2017)およびザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」(2021)については弊ブログにて日本でのヒットの要因を分析しています。後者においては、チョコレートプラネットの松尾駿さんを起用したプロモーションの成果も大きいと考えます(なお当該プロモーション動画は現在削除されています)。

2曲ともロングヒットのきっかけはメディア、中でもテレビでのタイアップやテレビに出演する芸人とのコラボレーションといったマスへの浸透が大きく、加えてジャンルを超越したキャッチーさが高い中毒性につながったものと考えます。そしてこの2曲はロングヒットを続けていることが、複合指標から成るビルボードジャパンソングチャートからも解ります。

では昨年、世界的にヒットした曲の日本での動向はどうでしょう。同年度のグローバルチャートでトップ10内にランクインした曲の中からいくつかを抽出し、ビルボードジャパンソングチャートのCHART insightを紹介します。

いずれの曲もラジオ指標が強い一方でストリーミングや動画再生といった接触指標群が強くないため、総合100位に届かない曲が大半です。「Shape Of You」や「Stay」がリリース当初からヒットし長期的に支持されている一方、今挙げた曲はテレビを介したマスへの訴求が大きくなかったことも影響しているのかもしれませんが、日本では基本的に、"世界で今人気の曲が強くない"ということがCHART insightにて証明された形です。

ちなみに昨年度日本を席巻、さらにGlobal Excl. U.S.も制したYOASOBI「アイドル」は、NewJeansによる昨年末の楽曲に刺激を受けたAyaseさんによる宣言から生まれた曲といえます(Ayaseさんのポストはこちら)。その「アイドル」は展開が激しい曲ながらその一部にサム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」の音世界が踏襲されていると考えるに、「アイドル」から「Unholy」への流れも生まれてよかったのではと感じています。

 

 

"日本人の洋楽離れ"という指摘は、少なくとも現行のヒット曲における世界と日本とのヒット規模の乖離という点では事実というのが私見です。ならばこの現状を踏まえ、日本で洋楽が聴かれるようになるにはどうすべきでしょうか。K-POPと分けて考えていいのかということも含め、明日のブログエントリーで自分なりの提案を記す予定です。