イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

”#ぼくらの冬曲キャンペーン”がクリスマス関連曲の上昇にリンク…プレイリスト企画の可能性を考える

青森県おいらせ町にあるタワーレコード下田店が明日閉店します。

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(写真は1月4日に店頭に訪れ撮影したもの。問題があれば削除いたします。)

一部棚においては売り切れゆえか空の状態でした。ただ地方のCDショップ特有というべきか、コアファンが多く且つファンの熱量が高い歌手や、デジタル未解禁歌手による作品が大きく展開されており、それら作品の在庫は充実していました。

 

2000年代半ばまで首都圏に住んでいた者として、CDショップは新たな音楽に出会える場という認識があったのですが、インターネットの普及により海外の情報が容易に手に入り、またデジタルでの所有/接触が充実したことにより、音楽との出会い方は変わりました。実店舗は減少し、さらにラジオでの洋楽(K-POPを除く)OAが減ったことで(下記リンク先参照)、総合ソングチャートでの洋楽ヒットは減ってきています。

 

この洋楽ヒットの減少については、業界内から危ぶむ声が出ています。arne代表の松島功さんが述べているように、2023年度は洋楽ヒットがほぼ生まれていない状況です。

とはいえK-POPにおいて脱K-POP的なアプローチを伴う作品(それこそ松島さんが記したジョングク feat. ラトー「Seven」やNewJeansの各曲)がヒットしたことを踏まえれば、そこから洋楽聴取への流れが生まれるとは思うのですが、洋楽に親しいといえるCDショップの減少やラジオの洋楽OA率低下を踏まえれば、洋楽の復活は厳しいのではというのが正直な思いです。

一年前、洋楽の現状を踏まえ上記エントリーを記載しました。その提案のひとつがサブスクプレイリストの活用です。ビルボードジャパンのソングチャートにおける指標構成を踏まえれば接触、それもサブスクでの聴取が最も影響力が高く、ゆえにそのサブスクでどうやって歌手やジャンル全体の聴取回数を増やすか、そのひとつの策として提案しました。実際、このプレイリスト効果が昨年末のチャートにて現れたと感じています。

 

上記表は、ビルボードジャパンソングチャートにおけるクリスマス関連曲の動向を比較したもの。総合もしくはストリーミング指標で10位までに入った曲についてはストリーミング再生回数を表示しています(ただし総合で10位以内に入りながらもストリーミング指標が50位に達しない場合、総合チャートの記事にて再生回数は公開されません)。

比較した二つの日付におけるチャートのうち、2022年度においては集計期間最終日がクリスマス当日、2023年度は同最終日がクリスマスイブとなるため、クリスマス関連曲は2022年度のほうがポイントが高くなる傾向にあるといえます。ポイントは50位までが可視化されているのですが、その状況下にて2023年度にポイントを伸ばした曲が複数あります。

たとえば山下達郎「クリスマス・イブ」においては一部サブスクサービスにて解禁されており(上記エントリー参照)、それがより多くの方に見つかったことで再生回数が伸び、総合ポイントも伸ばしているといえるでしょう。またアリアナ・グランデ「Santa Tell Me」については2023年のクリスマスシーズンに短尺動画にて多数用いられていたことを確認しており、その人気がヒットを後押ししたと捉えていいかもしれません。

 

その中にあって、back number「クリスマスソング」、そして「ヒロイン」がポイントを伸ばしているのが興味深いのです。「ヒロイン」は2022年度において50位以内に入っていないのですが、2022年度における50位のポイントを踏まえれば「ヒロイン」はポイント前年比105.9%以上を記録したことが解ります。そして「クリスマスソング」についてはストリーミング再生回数も伸びていることが確認できます。

(なおクリスマス関連曲は、特にラジオで上昇しやすい傾向にあります。ゆえにクリスマス当日が集計期間に含まれる2022年度のほうが総合ポイントは高くなるというのが私見です。)

 

実は昨年末の地上波音楽特番(上記リンク先掲載分)にはback numberの名前がなく、歌手側を主体とするメディア展開は大きくは行っていないといえます。その状況にて彼らの作品が伸びた背景には、おそらくこのキャンペーンが影響していると考えます。

ポストに貼付されているCM動画にて、back number「クリスマスソング」および「ヒロイン」が用いられていることが確認できます。このCMはユニバーサルミュージックの”#ぼくらの冬曲キャンペーン”を訴求するものであり、2024年に入ってからもSNSにて展開されています。

@umusicjp_cp 川口春奈さんが #歌詞朗読 にチャレンジ! TVCMで流れる back number - ヒロイン の歌詞を詠んでいただきました! 実際に音楽を聴くのと 歌詞を読むのとでは 雰囲気が変わりますね🗒✨ #ぼくらの冬曲キャンペーン 詳しくはプロフィールのリンクをチェック! #冬曲 #冬ソング #切ない歌 #音楽 #邦楽 #ユニバーサルミュージック ♬ オリジナル楽曲 - #ぼくらの冬曲キャンペーン

ユニバーサルミュージックは公式TikTokアカウントでも、先程紹介したCMのほか吉沢亮さんや川口春奈さんによる歌詞朗読動画を掲載しており、短尺動画からデジタルでの接触/所有への流れを作っています。加えてテレビでもCMがOAされることで、より多くの方にストリーミングでの聴取促進やプレイリストの存在を知らせることが可能です。下記サイトにおいて、購入に関するリンクがないことも特徴といえます。

最終的には歌手の作品を所有し、歌手のコアファンに成ることが理想でしょう。とはいえ気軽にデジタルに触れる、それも日本ではまだまだ新規ユーザー(リスナー)開拓の余地があるサブスクサービスへの誘導をメインに行うことは珍しいといえるかもしれませんが、そこで用いられたback number「クリスマスソング」「ヒロイン」のポイント上昇や前者の再生回数増加を踏まえれば、キャンペーン効果は出ていると感じるのです。

 

 

ユニバーサルミュージックは以前も、藤井風さんの「死ぬのがいいわ」が海外でヒットの兆しをみせた際に各国の現地法人がその国の言語による翻訳をテロップ挿入した動画を用意しています。またユニバーサルミュージックは総合ソングチャートでクリスマス関連曲が強くなるタイミングにて、半世紀以上前にリリースされた定番曲のアニメ版リリックビデオを用意。浸透へのこだわり、そしてチャートへの意識を感じるのです。

今回のユニバーサルミュージックジャパンによる”#ぼくらの冬曲キャンペーン”も、ストリーミング時代における聴取施策の一環と捉えていいでしょう。その成果は大きくないかもしれませんが、実際に表れているというのが自分の見方です。

 

洋楽の危機に対する解決策を一年前に提案しました。そのひとつがプレイリストの活用であり、上記エントリーでは著名人による発信の重要性を謳ったのですが、今回は発信元が異なれどSNSや短尺動画、そしてテレビという様々なメディアを用いたキャンペーンにより、サブスク聴取の楽しさがより広く浸透したのではないかと考えます。ともすればこのようなプレイリスト企画を洋楽でも行えば、状況は変わるかもしれません。