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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「Try That In A Small Town」「Rich Men North Of Richmond」…米ソングチャート首位曲の変化を考える

日本時間の昨日発表された8月26日付米ビルボードソングチャートは、オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」が初登場で制しています。

ビルボード速報記事を翻訳したエントリーについては私見を混ぜない形で記しています。今回は発表から一日が経過し、データおよび私見をまとめてみます。

 

 

ビルボード各種チャート初エントリーにして初制覇、自主制作盤の首位到達等異例ずくめとなったオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」のソングチャート首位獲得。まず注目すべきは3指標の数値です。

今年度の首位獲得曲における指標構成、および各指標首位曲の数値を上記に掲載。オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」はダウンロードが極めて高いことがよく解ります。

ダウンロード指標においては今年度初週のテイラー・スウィフトAnti-Hero」やJIMIN「Like Crazy」が高水準となっていましたが、「Like Crazy」首位獲得の翌週に米ビルボードは歌手のホームページにおけるデジタルダウンロードを含まない形に変更しています(上記リンク先参照)。その状況下でオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」が15万近い数値を獲得したのは特筆すべきことです。

このダウンロード指標は主にカントリージャンルが強い状況でした。保守的と呼ばれるこのジャンルは主要聴取層の聴取行動に伴いラジオそしてダウンロードが強い一方、ストリーミングが強くないという傾向がありました。その中で若手のルーク・コムズ、そしてモーガン・ウォレンはストリーミングと相性が好く、後者が通算16週首位を獲得した「Last Night」では、そのうち13週ストリーミング指標を制しています。

オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」は、その保守的なカントリージャンルにあってダウンロードの強さのみならずストリーミングでも上位に進出し、ラジオの強くなさを補う形で首位に至っています。ラジオはどんなに強い歌手でも初週トップ10入りを果たすのは稀であり、今後この指標が伸びる可能性は十分です。

 

またこのオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」の指標構成は、8月5日付にてキャリア初となる首位を獲得したジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」と似ています。

(過激な映像が含まれますので、視聴する際は注意が必要です。)

同曲は前週の初登場時にジョングク feat. ラトー「Seven」に首位の座を阻まれたものの、ダウンロードは228,000を記録し同指標トップに立っています(7月29日付米ビルボードソングチャートはこちらで解説)。そして翌週、ダウンロードをキープした上でストリーミングを大きく伸ばし、首位に立ったという次第です。

この「Try That In A Small Town」および「Rich Men North Of Richmond」は、指標構成のほかにも注目に至る背景が共通しています。

ジェイソン・アルディーンは「Try That In A Small Town」のミュージックビデオが、オリヴァー・アンソニー・ミュージックは「Rich Men North Of Richmond」の歌詞が(主に白人にリーチし)強固な保守派を動かしたと捉えることが可能です。ゆえに彼らが得意とするダウンロード指標が大きく動き、そしてストリーミングにも飛び火したと考えていいでしょう。

ダウンロード指標の急落に伴い、ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」は首位獲得の翌週に21位へ急落してしまいますが(この点は米ビルボードソングチャートでほぼみられない"首位獲得翌週の急落"…作品に共通する特徴とは(8月13日付)をご参照ください)、最新8月26日付ソングチャート(→こちら)では25位にとどまっています。ともすればラジオがゆっくり伸び、総合順位を支えているかもしれません。

 

 

ベテランカントリー歌手のキャリア初制覇、そして無名の新人といえる歌手の首位初登場は大きなインパクトをもたらしています。重要なのは中長期的なヒットであり、オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」はジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」のような急落につながりかねないゆえ、まずは曲がロングヒットするか、そして歌手にコアファンが付くか注目する必要があります。

チャートを毎週追いかける身としては、「Try That In A Small Town」そして「Rich Men North Of Richmond」のダウンロード指標はあまりにも高く、単に歌手のファンだから買うという域を超えて保守派の団結の提示(訴求)につながっていると感じています。その彼らがチャートで自分たちの考え方をさらに訴求すべくストリーミングでも再生を増やし、曲の動向に興味を持つ方も惹き付けた結果が表れたのではというのが私見です。

 

尤も重要なのは先述の通りロングヒットです。仮に強固な保守派が自らの考えや思想のために歌手の作品に乗っかる、そして次から次へと移ることで特定の歌手のファンにはならないというやり方がトレンドになるならば、その点には強く異を唱えたいと思います。

まずは彼らの考え方、そして聴取行動の推移を見極めなければなりません。そしてチャート動向にいびつといえる動きが出たならば、その都度冷静に指摘していきます。