2023年度下半期に社会的にヒットした、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲を選びました。J-POPについては12月8日に発表されたビルボードジャパンによる各種年間チャート、海外の作品については先月発表された米ビルボードによる各種年間チャート(特にソングチャートおよびグローバルチャート)を参考にしています。
2023年度上半期についてはこちら。
今回は6月から11月の間にヒットした作品を取り上げています。リリースタイミングはこの限りではありません。
<2023年度下半期の社会的なヒット曲、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲>
- ① Ado「唱」
- ② Mrs. GREEN APPLE「Magic」
- ③ キタニタツヤ「青のすみか」/ King Gnu「SPECIALZ」
- ④ BE:FIRST「Mainstream」
- ⑤ NewJeans「Super Shy」
- ⑥ ジョングク feat. ラトー「Seven」
- ⑦ ルーク・コムズ「Fast Car」
- ⑧ ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」/ オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」
- ⑨ ドージャ・キャット「Paint The Town Red」
- ⑩ テイラー・スウィフト「Cruel Summer」
- (番外編) ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」
① Ado「唱」
2023年度は上半期リリースのYOASOBI「アイドル」、そして下半期のこの曲がチャートヒットにおける二大巨頭と言っても過言ではありません。ビルボードジャパンソングチャートは下半期リリース曲が年間単位では不利になりかねない中、第4四半期に登場したAdo「唱」が年間17位に至っていることがこの曲の強さを物語っています。このブログでは多角的なヒットを踏まえ、"活用"が大ヒットに結びつくことを紹介しました。
② Mrs. GREEN APPLE「Magic」
フェーズ2のスタート、「ダンスホール」のヒットで2022年に存在感を示したMrs. GREEN APPLEは、2023年になってさらなる高みに。アルバム『ANTENNA』のヒット、そしてアルバムのリード作であるこの曲をはじめとした多くのヒットに伴い今夏初めてビルボードジャパントップアーティストチャートを制覇、年間では2位に。Mrs. GREEN APPLEは2023年度を代表する歌手の一組といって差し支えないでしょう。
③ キタニタツヤ「青のすみか」/ King Gnu「SPECIALZ」
2023年度は日本のみならず、米ビルボードによるグローバルチャートでもJ-POPのアニメソングが存在感を示した一年に。その中でもアニメ自体が強い、且つその世界観を見事に踏襲したテーマ曲がアニメ共々覇権を握りました。その代表格が『呪術廻戦』であり、エンディングテーマの崎山蒼志「燈」や羊文学「more than words」もヒットしています。
④ BE:FIRST「Mainstream」
YOASOBI、そしてBE:FIRSTほど音楽チャートに意識的で、施策に長けている歌手はいないでしょう。2023年度のビルボードジャパン週間ソングチャートで1万5千ポイントを突破したのはYOASOBI「アイドル」(14週)、そしてBE:FIRSTによる「Smile Again」および「Mainstream」のみ(各1週)。「Mainstream」はロングヒットの流れに乗りつつもあり、そして今後彼らが進むべき道を照らす曲に成ったのではないでしょうか。
K-POPの一部歌手を除き、日韓のアイドル/ダンスボーカルグループは所有指標(特にフィジカルセールス)が強い一方で接触指標が乏しくロングヒットが難しいという側面があることは否めません。ただ男性アイドル/ダンスボーカルグループでは2024年にかけてメディアの厚遇/冷遇が大きく改善されるはずであり、ライト層にリーチしやすい環境が整うものと捉えています。BE:FIRSTはその先頭にいるといっていいでしょう。
⑤ NewJeans「Super Shy」
リリースの度に新鮮な驚きを与えてくれるNewJeans。今夏リリースのEP『Get Up』は今年を代表する大ヒット映画『バービー』のサウンドトラックを破り米ビルボードアルバムチャートを制覇。米ビルボードによるグローバルチャートの歌手部門でGlobal 200にて年間9位、Global Excl. U.S.では同4位に入っています。NewJeansは大晦日、米のテレビ特番に出演が決定する等、世界で活躍を拡げています。
⑥ ジョングク feat. ラトー「Seven」
BTSのジョングクによるソロ曲はY2Kサウンドの踏襲、TikTokでのヒットも相まって世界中で人気に。米ビルボードやグローバルで週間ソングチャートを制したのみならず、日本でも年間29位にランクインしています。Global 200ではストリーミングが5週連続で1億回を突破、日本ではLINE MUSIC再生キャンペーン終了後も人気が継続しており、コアファンのみならずライト層も魅了し大ヒットとなりました。
⑦ ルーク・コムズ「Fast Car」
カントリージャンルが躍進した2023年において、その中心的役割を担ったひとりがルーク・コムズ。1986年のトレイシー・チャップマンによるトップ10ヒットをカバーし、本家の最高位を超える週間2位を記録(年間では8位に)。カントリーが強いラジオ指標を制したのみならず、保守的と呼ばれるカントリーが強くないとされていたストリーミングでもヒットし、ジャンル全体の認知浸透に大きく貢献しています。
⑧ ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」/ オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」
(ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」のミュージックビデオはこちら。暴力的な内容を含むため、目に見える形での掲載は控えています。)
興隆するカントリーの中でも特殊なヒットとなった2曲。いずれも社会への言及が示されており(ただし「Try That In A Small Town」のミュージックビデオにおいては差別的と取れる表現も)、それを強固な保守派が自分たちの姿勢や思想を投影する形で支持。結果ストリーミング、ダウンロードの双方で瞬間的ながら大きく上昇しています。オリヴァーは政治利用への懸念を表明しましたが、この流れは続くかもしれません。
⑨ ドージャ・キャット「Paint The Town Red」
米で2023年度初めて首位を獲得したヒップホップ曲であるのみならず、グローバルチャートのうちGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.では発足以降初めて制したヒップホップ作品に。強さの理由はTikTokであり、米ビルボードはそのTikTokにおけるヒットを可視化したTikTok Billboard Top 50をこの秋ローンチ。一時は米からの撤退が噂されたTikTokを契機とするヒット曲が、今後も次々と登場することでしょう。
⑩ テイラー・スウィフト「Cruel Summer」
今年のツアーを代表する曲としてリリースから4年を経てチャートに再登場。ツアーの映画版も大ヒットした2023年はテイラー・スウィフトの年となりましたが、その映画公開から間もなく別バージョンをリリースしたこと等が功を奏し、「Cruel Summer」は米チャートを初制覇。この別バージョン投入のタイミングも巧く、テイラーが施策に長けている歌手であることがあらためて証明されたといえます。
ツアー映画に関連して、テイラー・スウィフトは『ショービジネス界の最高の戦術家』と形容されています(テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR - Wikipediaより)。テイラーはグラミー賞の常連でもあり作品の質の高さは多くの方が知るところですが、一方ではその作品をより広く訴求すること、コアファンをより魅了することに長けていることを、チャートを追う中で常に実感しています。
以上10項目をお送りしましたが、今回はさらにもう1曲、番外編的な形で紹介します。
(番外編) ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」
1958年リリースのブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が、発売から65年が経過した今年12月に米ソングチャートを制覇。クリスマス関連曲はストリーミングの興隆に合わせてチャート上で存在感を高め、2019年以降はマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が制してきましたが、そのマライアに敵わず長らく2位止まりだったブレンダが遂に勝った形です。
「Rockin' Around The Christmas Tree」の首位獲得には、公式TikTokアカウントの開設、テレビパフォーマンス、そしてミュージックビデオ(上記)の制作等、同曲のリリース65周年を記念した各種イベントが大きく影響しています。これらは施策の意味合いも持ち合わせており、この曲の首位獲得に結実した形です。
施策はどんな歌手のどの作品でも、何かしらの形で行われているはずです。またデジタル時代には施策がよりダイレクトに反映されやすくなっているともいえるでしょう。ならば、すべての歌手が施策に対しこれまで以上に意欲的になることが重要だというのが自分の見方であり、このブログで説き続けています。ただし、コアファンを精神的/物理的に過度に疲弊させるものであってはならないとも考えます。
素晴らしい作品を制作することが前提であり、強力なタイアップがあればなお好いでしょう。その上で、TikTokやYouTubeショート等重要度が高まっている短尺動画のプラットフォーム等を利用し、最良のタイミングでより多くの方に訴求、そしてコアファンを魅了する施策を運営側が常に考え、実行することがますます重要に成るというのが私見です。ただし過度な施策はチャート管理者が反映させにくくすることもまた必要です。
今回紹介した曲のSpotifyプレイリストは下記に掲載。是非ご活用ください。