イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【海外ビルボード】オリヴァー・アンソニー・ミュージック、各種チャート初エントリーにて米ソングチャート制覇

現地時間の8月21日月曜に発表された、最新8月26日付米ビルボードソングチャート(集計期間:8月11~17日)。前週まで通算16週首位を獲得していたモーガン・ウォレン「Last Night」は3位に後退し、オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」が初登場で首位を獲得しました。オリヴァー・アンソニー・ミュージックにとって、米ビルボード各種チャート初エントリーでの記録達成となります。

ビルボード65年の歴史において通算1,153曲目の首位獲得曲、初登場での最高位到達は69曲目となるオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」。8月11日にリリースされた同曲はストリーミング1750万(同指標4位)、ダウンロード147,000(同指標首位)およびラジオ553,000(同指標50位未満)をそれぞれ記録。ラジオにおいてはカントリージャンルの放送局で大量にOAされています。なお初登場での首位獲得曲一覧は下記リンク先から確認可能です。

バージニア州ファームヴィルを拠点に活動するシンガー・ソングライターで、以前工場で働いていた経験を持つオリヴァー・アンソニー・ミュージックことクリストファー・アンソニー・ランスフォード(歌手名は祖父であるオリバー・アンソニーにちなんで名付けられています)。「Rich Men North Of Richmond」は、バージニアやウェスト・バージニア地域のレコード会社未契約となるアメリカーナもしくはカントリー系歌手にスポットを当てるradiowvのYouTubeアカウントにて8月11日に投稿される前から、150万人のフォロワーを誇るTikTokなどのネット上で話題を集めていました。

労働者の怒りを謳った「Rich Men North Of Richmond」は右派からの賞賛および左派からの反対という両方のリアクションがみられます。歌詞には、"your dollar taxed to no end ’cause of rich men north of Richmond (リッチモンドの北の金持ちのせいで、あなたの収入には際限なく課税される)"、"the obese milkin’ welfare (肥満の牛乳生活保護) "などのフレーズが登場。オリヴァー・アンソニー・ミュージックは政治に関しては右でも左でもないスタンスを表明しており、8月17日にはFacebookにて"みんなが互いに喧嘩している今の世の中を見るのは悲しい"と投稿しています。

オリヴァー・アンソニー・ミュージックの共同マネージャーをブライアン・プレンティスと共に務めたドレイヴン・リフ(「Rich Men North Of Richmond」の単独プロデューサーであり、先述したradiowvを2018年に共同設立)は、"私たちはただ、ビデオを世に出せば人々がこの曲を気に入り、多くの人々の心に響くだろうと思っていた"と述べています。"このプロジェクトは大規模な企画チームがあったわけではなく、リリースに際してはカントリー・セントラルというページを所有する友人のジョシュ・ベア等、少数の人々が協力してくれた"とも語っています。

 

オリヴァー・アンソニー・ミュージックは当週、米ビルボード各種チャートに初めて登場。これまで一度もチャートに登場しなかった歌手のソングチャート首位初登場は史上初となります。

ソングチャート初の100位以内エントリーにして首位に初登場を果たした歌手はクレイ・エイケン、ファンテイジア、キャリー・アンダーウッド、バウアー、ゼインに続きオリヴァー・アンソニー・ミュージックが6組目。ゼインはワン・ダイレクション脱退後の2016年に「Pillowtalk」が首位に。バウアーは「Harlem Shake」がバイラルヒットし、ダンス/エレクトロニック系チャートへランクインした翌週に総合チャートを制しています。残る3名はいずれも『アメリカン・アイドル』出身であり、クレイ・エイケンは2003年に2位、ファンテイジアは2004年、キャリー・アンダーウッドは2005年にいずれも優勝。彼らの作品はいずれも番組のシーズンファイナル後にセールスが牽引した形で首位に到達しています。キャリー・アンダーウッド「Inside Your Heaven」は彼女がファイナリストによるグループ曲「When You Tell Me That You Loved Me」で初めてチャートインした後、単独で初めてソングチャートに登場した作品。ファンテイジア「I Believe」は彼女にとってのチャートデビューとなりましたが、バウアー「Harlem Shake」同様にソングチャート初登場の前週にはそれ以外のチャートにランクインしていました。 また、クレイ・エイケンは「This Is Night」の前に、ファイナリストたちとのコラボ曲「God Bless the U.S.A.」の一員としてランクインしています。

オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」はレーベル・クレジットを兼ねた自主制作曲「Rich Men North of Richmond」にて初の首位を獲得。レコード会社未所属の歌手によるソングチャート制覇は珍しく、たとえばリサ・ローブは「Stay (I Missed You)」にて1994年に首位に立っています。同曲は大ヒットした映画『リアリティ・バイツ』のサウンドトラックに収録され、RCAレコードからリリース。リサはその後、ゲフィン・レコードと契約しています。

オリヴァー・アンソニー・ミュージックはFacebookにて、"業界"の皆が契約するよう急かしてくると記した上で、"今はただゆっくりしたい、皆さんの忍耐に感謝します"と述べています。

 

「Rich Men North Of Richmond」はオリヴァー・アンソニー・ミュージックが単独でソングライトを手掛けた作品に。単独ソングライターによる曲での首位到達は、2022年3-4月におけるグラス・アニマルズ「Heat Waves」以来となります(バンドのフロントマンであるデイヴ・ベイリーが担当)。またソロ歌手による単独ソングライトでの首位獲得は、エド・シーラン「Perfect」(2018年1月 6週)以来となります。

「Rich Men North Of Richmond」はソングチャートと集計方法を同一とするホットカントリーソングチャートでも首位に。ソングチャートおよびホットカントリーソングチャートを同時に制したのは今月初めのジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」、前週まで通算16週総合ソングチャートを制していたモーガン・ウォレン「Last Night」に続き、2023年においては3曲目となり、1975年以来の高水準となります。また双方のチャートを初登場で制したのはオリヴァー・アンソニー・ミュージックが2組目であり、男性ソロ歌手では初。初登場同時制覇を最初に成し遂げたのはテイラー・スウィフトで、「All Too Well (Taylor's Version)」が2021年11月27日付にて記録しています。なおホットカントリーソングチャートが総合ソングチャートと計算方法を同一としたのは2012年10月以降となります。

<米ビルボードソングチャートおよびホットカントリーソングチャート双方を制した曲>

・オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」(2023)

・ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」(2023)

モーガン・ウォレン「Last Night」(2023)

テイラー・スウィフト「All Too Well (Taylor's Version)」(2021)

テイラー・スウィフト「We Are Never Ever Getting Back Together」(2012)

ローンスター「Amazed」(1999-2000)

ケニー・ロジャース duet with ドリー・パートン「Islands In The Stream」(1983)

・エディ・ラビット「I Love A Rainy Night」(1981)

ドリー・パートン「9 To 5」(1981)

ケニー・ロジャース「Lady」(1980)

グレン・キャンベル「Southern Nights」(1977)

・C.W.マッコール「Convoy」(1975-1976)

ジョン・デンバー「I'm Sorry」(1975)

グレン・キャンベル「Rhinestone Cowboy」(1975)

ジョン・デンバー「Thank God I'm A Country Boy」(1975)

・フレディ・フェンダー「Before The Next Teardrop Falls」(1975)

・B.J.トーマス「(Hey Won’t You Play) Another Somebody Done Somebody Wrong Song」(1975)

・チャーリー・リッチ「The Most Beautiful Girl」(1973)

・ボビー・ゴールズボロ「Honey」(1968)

・ジェニー・C. ライリー「Harper Valley P.T.A.」(1968)

・ジミー・ディーン「Big Bad John」(1961)

マーティ・ロビンス「El Paso」(1959-1960)

・ジョニー・ホートン「The Battle Of New Orleans」(1959)

上記23曲のうち12曲は1973-1983年に集中しています。またグレン・キャンベルジョン・デンバードリー・パートンケニー・ロジャースおよびテイラー・スウィフトは2曲を、双方のチャートで首位に送り込んでいます。

ビルボードが7月6日に報じたように、カントリー・ミュージックは今年急成長。ルミネート社によると、アメリカにおけるカントリージャンルの消費量は2023年の前半26週において前年比20.3%増に。2022年の同期間で2.5%増となっており、今年このジャンルが大きく伸びていることが解ります。

 

(なお、米ビルボードの記事とは異なりますが、このブログではオリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」におけるバズ発生の理由等について取り上げています。米ビルボードで次週首位初登場が見込まれる曲の背景とは、そして"真の社会的ヒット曲"を今一度定義する(8月16日付)をご参照ください。)

 

 

ルーク・コムズによるトレイシー・チャップマンのカバー、「Fast Car」は通算6週目の2位に。またモーガン・ウォレン「Last Night」は首位から3位に後退しています。オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」も含め、(ホットカントリーソングチャートにランクインしている)カントリージャンルの作品が総合ソングチャートでトップ3を独占したのは8月5日付以来二度目となります。その際は「Last Night」が2位、「Fast Car」が3位となり、ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」が首位を獲得していました。

なお「Last Night」は米ビルボードによる今年度のソング・オブ・ザ・サマーチャート(Songs Of The Summer)において、開始から12週連続で首位に立っています。

 

レマ & セレーナ・ゴメス「Calm Down」はワンランクダウンし5位に。ラジオは前週比2%ダウンの8590万を記録し、同指標9週目の首位に立っています。またこの指標でトップエアプレイゲイナーを2週連続で獲得したニッキー・ミナージュ & アイス・スパイス with アクア「Barbie World」は総合でワンランクダウンし9位に。前週比41%アップの3680万を記録しています。

 

オリヴィア・ロドリゴ「Bad Idea Right?」が10位に初登場。ストリーミング1970万、ダウンロード4,000およびラジオ530万を、それぞれ記録しています。

「Bad Idea Right?」はオリヴィア・ロドリゴにとって「Drivers License」(2021年1月 8週首位)、「Good 4 U」(2021年5月 1週首位)、「Deja Vu」(2021年6月 3位)、「Traitor」(2021年6月 9位)、「Vampire」(2023年7月 1週首位)に続く6曲目のトップ10入りとなり、全曲がトップ10内に初登場を果たしています。「Traitor」までの4曲はアルバム『Sour』(2021)に収録され、「Vampire」以降は9月8日にリリース予定の『Guts』に収録される予定です。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (初登場) オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」

2位 (2位) ルーク・コムズ「Fast Car」

3位 (1位) モーガン・ウォレン「Last Night」

4位 (3位) テイラー・スウィフト「Cruel Summer」

5位 (4位) レマ & セレーナ・ゴメス「Calm Down」

6位 (6位) オリヴィア・ロドリゴ「Vampire」

7位 (5位) ガンナ「Fukumean」

8位 (7位) デュア・リパ「Dance The Night」

9位 (8位) ニッキー・ミナージュ & アイス・スパイス with アクア「Barbie World」

10位 (初登場) オリヴィア・ロドリゴ「Bad Idea Right?」

 

 

ビルボードが一昨年新設したグローバルチャートもチェック。200を超える地域の主要デジタルプラットフォームによるストリーミングとデジタルダウンロードで構成され、歌手のホームページでの販売分を含まないグローバルチャート。8月26日付ではGlobal 200、Global Excl. U.S.共に、ジョングク feat. ラトー「Seven」が初登場から5連覇を達成しています。

ジョングク feat. ラトー「Seven」はGlobal 200においてストリーミングが前週比7%ダウンの1億430万、ダウンロードが同9%ダウンの4,000を、Global 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.ではストリーミングが前週比7%ダウンの9510万、ダウンロードが同4%ダウンの3,000を、それぞれ記録しています。

初登場で首位を獲得し、その週を含め5週以上その座をキープしているのはマイリー・サイラス「Flowers」(2023年1月以降 初登場から6週連続で双方のチャートを制覇)以来、「Seven」が今年2曲目となります。

オリヴァー・アンソニー・ミュージック「Rich Men North Of Richmond」がGlobal 200で2位に初登場。ストリーミング2020万、ダウンロード156,000をそれぞれ記録しています。「Rich Men North Of Richmond」はアメリカの現状に焦点を当てている曲ということもあり、ストリーミング全体の88%、ダウンロード全体の95%を米のみで獲得しています。米国外ではストリーミング280万、ダウンロード9,000にとどまり、Global Excl. U.S.では200位以内に登場していません。

オリヴィア・ロドリゴ「Bad Idea Right?」がGlobal 200で7位に初登場。ストリーミング4350万、ダウンロード5,000をそれぞれ記録しています。同チャートにおいてオリヴィア・ロドリゴは6曲目のトップ10ヒットとなり、来月リリースされるアルバム『Guts』からは「Vampire」が、7月にキャリア3曲目となる首位を獲得しています。

Vによる2曲がGlobal Excl. U.S.で初登場にてトップ10入り。「Love Me Again」が6位(ストリーミング3730万、ダウンロード19,000)、「Rainy Days」が8位(ストリーミング3600万、ダウンロード18,000)に登場しています。BTSのメンバーがソロ作品でGlobal Excl. U.S.にてトップ10入りするのはVが5人目となり、トップ10ヒットは11曲となりました。なおBTSとしては11曲のトップ10ヒットを輩出し、うち7曲が首位を獲得しています。

BTSメンバーのソロ曲 Global Excl. U.S.におけるトップ10ヒット>

・JUNG KOOK「Stay Alive」(2022年2月 8位)

・PSY feat. SUGA「That That」(2022年5月 2位)

チャーリー・プース feat. JUNG KOOK「Left And Right」(2022年7月 2位)

・JIN「The Astronaut」(2022年11月 6位)

・JUNG KOOK「Dreamers (Music From The FIFA World Cup Qatar 2022)」(2022年12月 4位)

・TAEYANG feat. JIMIN「Vibe」(2023年1月 9位)

・JIMIN「Set Me Free Pt.2」(2023年4月 8位)

・JIMIN「Like Crazy」(2023年4月 2位)

・ジョングク feat. ラトー「Seven」(2023年7月以降 5週首位)

・V「Love Me Again」(2023年8月 6位)

・V「Rainy Days」(2023年8月 8位)