イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

King & Prince「ツキヨミ」ミュージックビデオ1億回再生を踏まえ、人気動画はサブスクでもヒットするのではと考える

King & Prince「ツキヨミ」のミュージックビデオが、YouTubeにて1億回再生を突破しました。

ジャニーズ事務所所属歌手の作品では初となるこの記録については、チャート分析担当のあささんもこのように紹介しています。

 

今回、「ツキヨミ」の記録達成にヒントを得て、ある時期のビルボードジャパンソングチャートを定点観測してみました。今回はその結果、そして私見を記します。

 

ビルボードジャパンソングチャートは2022年度まで8指標、現在は6指標にて構成。ロングヒットや年間チャート上位進出の鍵となるのはサブスク再生回数等に基づくストリーミングや動画再生といった接触指標であり、特にストリーミングは、2022年度の年間ソングチャートにおいて総合のトップ10と順位こそ異なれど顔ぶれは一緒だったことから、重要度の高さは明らかでしょう。

 

さて今回、ビルボードジャパンがソングチャートのフィジカルセールス指標に係数処理を施したことで同チャートが社会的ヒットの鑑となったと考える2017年度以降の、3月3回目公開分におけるチャートを定点観測します。

 

<2017年度以降のビルボードジャパンソングチャートCHART insight>

 ※総合トップ10、ストリーミングおよび動画再生指標のトップ10の順に表示。総合は黒、ストリーミングは青、動画再生は赤にて、トップ10ランクイン作品が色付けされています。

 

・2017年度(2017年3月15日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:3曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:3曲

・2018年度(2018年3月21日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:5曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:3曲

・2019年度(2019年3月20日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:5曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:5曲

・2020年度(2020年3月18日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:6曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:7曲

・2021年度(2021年3月17日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:8曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:9曲

・2022年度(2022年3月16日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:5曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:8曲

・2023年度(2023年3月15日公開分)

 ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複:1曲

 ストリーミングトップ10と総合トップ10の重複:7曲

 

 

ストリーミングトップ10と動画再生トップ10の重複は2021年度まで上昇を続けたものの、2023年度は最も少なくなっています。一方でストリーミングトップ10と総合トップ10との重複においても2021年度まで上昇を続けた後にダウンしていますが、動画再生トップ10の重複のような落ち込みにはなっていません。

 

この結果について、まずビルボードジャパンによる当時のチャートやチャートポリシー(集計方法)を知る必要があります。

2017年度の段階ではサブスク解禁歌手が今ほど多くありませんでした。当時はプチリリによる歌詞表示にてストリーミングを推定する方法が採られており、2017年度では翌年8月にサブスクを解禁する星野源さんによる「恋」がストリーミング指標でも上位に進出していました(参照→ブログ)。また米津玄師さんは2018年度において動画再生が強かったものの、サブスク解禁は2020年8月まで行われていません。

(なおストリーミング指標にはYouTubeのオーディオストリーミングも含まれます。この点については後述します。)

また、2020年度までは動画再生指標においてUGC(ユーザー生成コンテンツ)がカウント対象となっていました。UGCは歌ってみたや踊ってみた等に代表されるもので、(キャプチャ画像にはありませんが)たとえば2020年3月18日公開分においてはソングチャートの動画再生指標で12位にフィッツ & ザ・タントラムズ「HandClap」、15位にイエス「Roundabout」がランクインしていたのも特徴です。UGCは2021年度以降別途チャート(Top User Generated Songsチャート)が用意される形で動画再生指標から除外されましたが、これらの曲はストリーミングが強くない傾向がありました。

 

これらが2020年度以前のストリーミングと動画再生指標の乖離の理由である一方、2022年度以降はサブスク未解禁歌手の動画再生指標の強さが乖離の大きな要因と考えます。その最たる例がジャニーズ事務所所属歌手で、高いフィジカルセールスを誇るKing & Prince以降のデビュー組(Travis Japanを除く)は未だサブスクを解禁していません。しかし彼らの作品は動画再生指標で好位置に登場し、上位をキープする作品も目立ちます。

<2022年度第1四半期~2023年度第1四半期 ビルボードジャパンソングチャート動画再生指標における上位20傑>

 ※ ジャニーズ事務所所属歌手の作品は青で表示

2021年度第3四半期以降この傾向は大きくなり、ジャニーズ事務所が動画公開に積極的という姿勢が広く世間に浸透したとも言えます。またビルボードジャパン側もこの施策に一目置いていることがスタッフ担当のポッドキャスト、また下記年間ソングチャートの記事から見えてきます。

 

動画再生指標ではK-POPアクトの好位置での登場も目立ちます。たとえばTWICE「SET ME FREE」は3月15日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおいて、公開から2日半で総合73位、動画再生7位に登場していますが、K-POPは公開直後の動画の話題が高く、コアファンを主体に視聴習慣が身についていることが解ります。

加えて、BE:FIRST「Boom Boom Back」(総合28位 動画再生6位)に代表されるような複数の動画展開がK-POP、J-POPのダンスボーカルグループで顕著になったことも、動画再生指標とストリーミングの乖離の一因と言えるでしょう。

複数の動画公開に伴う動画再生指標の強化は悪いことではなく、海外では動画等施策実施が自然です(海外の施策事例はこちら等で記しています)。ゆえに動画関連施策を実施する曲がストリーミングでも上位に進出できるかが課題となりますが、そもそもサブスク解禁していない曲は動画視聴からの導線が途絶えるという意味でも勿体ないと感じるのです。

 

実は2021年度、SixTONES「マスカラ」やSnow Man「HELLO HELLO」、なにわ男子「初心LOVE」においてストリーミング指標が加算されていました。

これはYouTubeのオーディオストリーミングのみで同指標300位以内に到達したことを示しますが、2022年度以降はサブスク未解禁のジャニーズ関連曲で加算された曲は少なくなっています。これはサブスクの利用者が増え、サブスク再生回数が押し上がったことを意味します。

ジャニーズ事務所側がフィジカルセールスを第一義と考えるゆえデジタルに積極的にならないと想像できますが、2023年3月15日公開分のソングチャートをみると総合トップ10の大半は動画再生指標でも(トップ10までとはいかずも)上位に登場しています。百足 & 韻マン「君のまま」はおそらくは動画再生指標が欠測の状況であり、これが解消されればより上位に到達するはずです(欠測についてはこちらで説明しています)。

それを踏まえれば、動画再生に強いジャニーズ事務所所属歌手の作品がサブスク解禁されれば総合でも上位に進出し、中にはロングヒットに至る曲も登場すると考えるのは自然なことです。高いフィジカルセールスにデジタルをプラスすることで、より安定したチャートアクションが狙えるでしょう。解禁していればKing & Prince「ツキヨミ」やSnow Manブラザービート」等の年間チャート上位進出も狙える(狙えた)はずです。

 

ゆえに、ジャニーズ事務所側がなぜサブスクの解禁に至らないのかを分析し、解禁を前向きに捉えていただくべく提案することが必要です。少なくとも今回のCHART insightからは、動画再生に強い曲がストリーミングでもヒットするだろうことが見えてきたものと感じています。

最後に私見と前置きして述べるならば。YouTubeにアップされているKing & Prince「ツキヨミ」のミュージックビデオはショートバージョンであり、海外では短尺版での公開はほぼみかけません。ショートバージョンで1億回再生を突破したという実績を、ジャニーズ事務所側がフルバージョンを上げなくていいという解釈に捉える可能性は捨てきれず、その点を危惧しています。

 

 

今回使用したCHART insightはこちらから確認可能です。