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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2022年、サブスク未解禁により大きなヒットに至れなかったと考える曲一覧

昨日は宇多田ヒカル「First Love」のリバイバルヒットについてお伝えしました。チャートアクションをより強固なものにさせる施策も紹介しましたが、施策が活きるにはまず何よりデジタル解禁が前提であることが理解できるはずです。

今回は宇多田ヒカル「First Love」とは逆の動きと言える、今年サブスク未解禁のためにより大きなヒットに至れなかったと捉えている曲について紹介します。ともすれば何様と言われかねませんが、ヒットの可能性を拡げることができず利益を得られないのは純粋な機会損失だと考えます。

 

 

・2022年 サブスク未解禁により大きなヒットに至れなかったと考える曲

 

 

① なにわ男子「初心LOVE」

(上記はショートバージョン。)

(上記は2022年度最終週までの60週分におけるCHART insight。)

なにわ男子のデビューシングル「初心LOVE」は2022年度ビルボードジャパン年間ソングチャート79位となり、ジャニーズ事務所所属歌手による作品では最高位に。注目はこの曲の初週フィジカルセールスが2021年度に加算されたことで、2022年度のフィジカルセールスは年間55位となっています。

「初心LOVE」がダウンロードも未リリースながら年間チャートにランクインできたのは動画施策ゆえ。TikTokのヒットもさることながら、YouTubeでは短尺版でアップされたミュージックビデオよりもフルバージョンのダンスミュージックビデオが倍近い再生回数を獲得。またYouTubeのオーディオストリーミングはストリーミング指標に加算されますが、「初心LOVE」は2022年度のジャニーズ曲で唯一の加点対象曲となりました。

次の項目で紹介する歌手共々、動画の活用がビルボードジャパン側からとりわけ注目されてきたのがなにわ男子。動画施策を踏まえれば、彼らこそデジタルの世界に作品を放ちたいのではないかと思わずにいられません。

 

 

Snow Manブラザービート」「JUICY

(上記は2022年度最終週までのCHART insight。)

ジャニーズ事務所所属歌手の中でシングル、アルバム共に最高クラスの売上をコンスタントに記録するSnow Manですが、2022年度ビルボードジャパン年間ソングチャート100位以内エントリーは「ブラザービート」のみ。フィジカルの強さにとどまらず、この曲もTikTokや動画再生指標を武器に年間チャートランクインに至っています。ジャニーズ曲では珍しくミュージックビデオもフルバージョンでアップされ、貢献しました。

Snow Manにおいては2022年度年間アルバムチャートを制した『Snow Labo. S2』のリード曲「JUICY」も話題に。こちらも動画再生指標が好位置で推移し、最終的にはアルバムのヒットを加速させたと言っていいでしょう。

(上記は12月21日公開分までのCHART insight。)

ビルボードジャパンが2023年度にルックアップおよびTwitter指標を廃止したことで、前者に強いジャニーズ事務所所属歌手作品はロングヒットのみならず週間チャート単位でも最上位への進出が難しくなりました。それにより得意なフィジカルセールス単体で首位を獲ることに集中するようになるという懸念もありますが、フィジカルセールスのみのランキングが社会的ヒット曲と言えないのは、このブログで幾度も記した通りです。

先述したなにわ男子共々、Snow Manの動画戦略は結果にはっきりつながっています。ともすればなにわ男子はデジタル解禁をした嵐、Snow ManはLINE MUSIC限定ながらサブスク解禁を実施したKis-My-Ft2という所属レコード会社における先輩の姿勢に刺激を受け、施策を練ったと言えるかもしれません。ジャニーズ事務所所属歌手やレコード会社側がデジタルを前向きに捉えていると考えるのは自然なことでしょう。

 

 

SixTONES「Imitation Rain」

THE FIRST TAKEは元日にエクスクルーシブ動画を用意する傾向があり、2022年の幕開けに選ばれたのがSixTONESでした。デビュー曲「Imitation Rain」は話題を集め、ともすればデジタル解禁の序章ではないかという見方もありましたが。現段階においても未解禁の状況が続いています。

(上記は12月21日公開分までのCHART insight。)

動画再生指標(赤で表示)の伸びはTHE FIRST TAKE公開に因るもの。その動画効果はダウンロードやストリーミングに移行するのですが、「Imitation Rain」にはその受け皿がありませんでした。たとえばYouTubeにてアルバム収録予定曲をサプライズで公開する等、SixTONESの姿勢からはデジタルを解禁したいという欲求が人一倍強いことを感じずにはいられません。

THE FIRST TAKE側も、SixTONESのデジタル解禁を見越して起用した可能性もあるでしょう(尤も運営がおそらくソニーミュージックであることを踏まえれば、グループに属するSixTONESに白羽の矢を立てたのかもしれません)。THE FIRST TAKEは海外のユーザーも多いのですが、動画が気に入ってもそこからサブスク聴取に移行できないため、デジタル未解禁歌手を起用したTHE FIRST TAKEのイメージ悪化も招きかねないでしょう。

ジャニーズ事務所所属歌手のデジタルへの明るくなさは昔からゆえに仕方ないと納得する方は多いでしょうが、それは日本の事情を知っているからこそ。海外の方からすれば未解禁から生まれる不信感は歌手やチャンネル、そして日本のエンタテインメント業界全体に対しても宿ることでしょう。そして元来、日本に住む私たちがエンタテインメント業界に通底する不条理に慣らされてはならず、指摘し続ける必要があるのです。

 

 

④ King & Prince「ツキヨミ」「ichiban」

(上記はショートバージョン。)

(上記は12月21日公開分までのCHART insight。)

リリース時期にメンバーの脱退アナウンスがあったことでコアファンを主体とするフィジカル購入活動もみられたと感じていますが、同時にミュージックビデオの人気にも波及。公開動画は短尺版ながら、動画再生指標は現在までに通算4週首位を記憶し、2023年度に入ってからは負け無しの状況です。

(上記はショートバージョン。他にも2バージョンの動画が公開。)

(上記は12月21日公開分までのCHART insight。)

King & Princeの動画については今夏リリースのアルバム『Made in』からのリード曲である「ichiban」でも注目されていたわけで、その流れが「ツキヨミ」に続いたとも言えるでしょう。動画再生という接触行動が大きなヒットにつながることが証明され、同時にジャニーズ事務所所属歌手のコアファンの方々においても接触指標の重要性を実感されたものと思われます。

勿論、重要なのはチャートアクションだけではありません。デジタルの世界にこれまでの活動を発信すれば、5人(岩橋玄樹さんを含めれば6人)時代の活動を広く知らしめ、残すことができます。逆に未解禁のままならば、5人や6人時代の彼らの記録を存分に語ることはできなくなると言えるでしょう。ベストアルバムがリリースされることが決定したこのタイミングで、彼らの足跡をデジタルに残すことを願います。

@befirst_official 大好きなichibanをichiban楽しみたい #ichiban #kingandprince #キンプリ #BEFIRST #ヤンチャトリオ #SOTA #MANATO #RYUHEI ♬ ichiban - King & Prince

「ichiban」はTikTokにおいて大ヒットしたのみならず、たとえばボーイズグループではBE:FIRST等の挑戦も話題になりました。ボーイズグループが所属事務所の枠を超えて盛り上がろうという気概がみられながら、ジャニーズ事務所所属歌手が大挙出演した『ミュージックステーション』(テレビ朝日)の年末特番でBE:FIRSTやDa-iCE等ボーイズグループが出ておらず、未だ枷が存在することを痛感。この点も至極勿体ないと思うのです。

 

 

男闘呼組「DAYBREAK」「TIME ZONE」

(上記はローチケにおけるチケット発売動画。披露曲は「パズル」となります。)

7月放送の『音楽の日』(TBS)でサプライズ出演を果たし再結成を宣言、現在コンサートツアー中の男闘呼組ですが、その音源は容易に手に入れられません。デジタルは動画も含め未解禁のままであり、中古CDは高額で取引されています。一部シングル曲がオムニバスアルバムでチェックできる以外、フィジカルを持っていない方は過去の記憶を思い出すしかありません。

話題になってもすぐチェックできないのは大きな機会損失と言えます。そしてそもそもジャニーズ事務所に以前所属していた歌手の作品はデジタル未解禁のため、廃盤となったフィジカルの再発がない限りその時代の作品には容易に触れられないのです。

他方ジャニーズJr.が登場するYouTubeチャンネル"+81 DANCE STUDIO"では過去のジャニーズソングが用いられています。穿った見方と言われるのを覚悟で書くならば、ジャニーズ事務所側は過去曲を自分たちのために用いることを最優先し、一方でライト層のみならず以前からのコアファンにも音源を提供することを好んで行わないのではという姿勢を感じています。男闘呼組もその縛りから抜け出せないのではと考えます。

これでは過去作品が注目されてもさらなる上昇につながりません。そしてジャニーズがデジタルに消極的である以上は日本のエンタテインメント業界全体が開かれることはないと言えるでしょう。『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)の見逃し配信時におけるジャニーズ関連分のカットもまた、業界全体がネット時代に即して動こうという姿勢に逆行するものです。

ジャニーズ事務所側には、所属歌手やタレント、そして彼らの作品が文化を担っていること、そしてネット時代にあっては海外からも注目が集まっているという意識を抱いていただきたいと強く願います。

 

 

山下達郎「LOVE'S ON FIRE」

(上記は6月1日~9月28日公開分におけるCHART insight。)

ジャニーズ事務所所属歌手への提供曲も多い山下達郎さん。11年ぶりのオリジナルアルバム『SOFTLY』のリード曲は高いラジオ人気も相俟ってビルボードジャパンソングチャートでトップ10目前まで上昇するも、他指標が伴わず総合トップ10入りは叶いませんでした。サブスク未解禁ゆえストリーミング未加算の状況ですが、そのサブスクには解禁しないことをインタビューにて宣言されています(ただしその記事は既に削除済)。

しかしながら、実は「クリスマス・イブ」については一部サブスクサービスにて4年前に解禁されており、サブスク未解禁を貫く発言には違和感を覚えます。実際、最新12月21日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおいては同曲にストリーミング指標が加点され、恩恵を受けているのです。

加えて、「クリスマス・イブ」関連曲が最新12月24日付の日本におけるSpotifyデイリーチャートで200位以内に進出しています。CHEMISTRYによるカバーバージョンが74位に初登場、KICK THE CAN CREWがサンプリング使用した「クリスマス・イブRap」が102位に再登場を果たしました。何よりカバー版が好位置に初登場したことを踏まえれば、これがオリジナル版だったならばと思わずにはいられないのです。

SpotifyApple Music等で解禁しない状況ながらビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標で300位以内に入るという人気からは、サブスクで聴きたい方が多いだろうことが想像でき、解禁することにメリットがあるものと考えます。そしてそもそも影響力のある立場の方ならば、日本の音楽業界を前向きに変えるべく率先して動いてほしいですし、そのほうが断然格好いいと思うのです。

 

 

モーニング娘。「そうだ! We're ALIVE」「ザ☆ピース!」

米津玄師「KICK BACK」が引用したことで注目を集めた作品。手掛けたつんくさんがnoteで綴った内容も話題になりました。下記ツイートは現段階で1万5千もリツイートされています。

その「KICK BACK」はこれまでに二度ビルボードジャパンソングチャートを制し、ストリーミング再生回数は週間1千万回超えを続けています。1億回再生突破においても歴代2番目(3位タイ)の速さとなっているのです。

(上記は12月21日公開分までのCHART insight。)

仮に「KICK BACK」再生回数のうち1%がモーニング娘。「そうだ! We're ALIVE」も聴いたならば、それだけで100万回再生を突破します。デジタルの所有よりも接触の重要性はビルボードジャパンソングチャートのチャートポリシーや年間チャートからも明らかであり、あらゆる接触行動に配慮して解禁することが必要です。

モーニング娘。においては「ザ☆ピース!」も。"選挙の日って ウチじゃなぜか 投票行って 外食するんだ"というフレーズが入ったこの曲が国政選挙の度に話題になっています。クリスマス曲等季節感のある曲はストリーミングチャートを駆け上がる傾向がありますが、季節に関係なく選挙の日に上昇する曲というのは非常に格好いいのではないでしょうか。

 

 

松浦亜弥「Yeah! めっちゃホリディ」「♡桃色片想い♡」

先述した男闘呼組同様、歌手単位では今年復活した松浦亜弥さんも未解禁の状況です。ただし活動時期が比較的新しいことや、ダウンロードで解禁されている状況を踏まえればハードルは大きく異なると言えるかもしれません。それでもマシュー南さんのポッドキャスト初回放送分への出演(マシュー南さんの活動再開もまた大きいのですが)やCMでの歌声披露も踏まえれば、サブスク解禁には十分なニーズがあったと思われます。

松浦亜弥さんは夫であるw-inds.橘慶太さんが手掛けた「Addicted」で久々の音源リリースを果たしました。この作品以降はサブスクが充実するものと思われますが、2000年代を代表するアイドル歌手がサブスクのみならずYouTubeでも未解禁という状況は、当時のアイドル文化が伝わらないという意味でも至極勿体ないと考えます。

 

 

ブラックビスケッツ「Timing ~タイミング~」

今年Klang RulerによるカバーバージョンがTikTokリバイバルヒットしたタイミングでは、ブラックビスケッツによるオリジナルバージョンはサブスクもダウンロードも未解禁でした。

そのブラビが12月3日放送の『ベストアーティスト2022』(日本テレビ)で復活し、同日デジタル解禁も果たしましたが、CHART insightを見る限りはKlang Ruler版がヒットしている時にサブスクで解禁されていたならばという思いは拭えません。

上記はブラックビスケッツ版「タイミング~Timing~」の、最新12月21日公開分におけるCHART insight。ダウンロードとラジオが3週連続で加点されているものの、ストリーミングや動画再生指標は一度も加算されていません。

そもそもお笑い芸人の方々による音楽作品は、関わる番組や放送局等の兼ね合いでレコード会社が異なることもあってか、オールタイムベストアルバムがリリースされにくい状況と捉えています。一方でウッチャンナンチャンダウンタウン等はテレビで人気であり話題になりやすい以上、ともすれば他の歌手以上に過去曲へ注目が集まりやすいと言えるでしょう。オールタイムベストの用意、そしてサブスク解禁は必要と考えます。

 

 

WANDS世界が終るまでは…

映画『THE FIRST SLAM DUNK』が、過去のアニメ作品関連曲にも影響を与えています。

上記ツイートの翌週、最新12月21日公開分では『スラムダンク テーマソング集』の勢いは小さくなったものの、WANDS世界が終るまでは…」はカラオケ指標16位に上昇しています。しかしこの曲もサブスク未解禁の状況です。

いや、WANDS自体は一部サブスク解禁しています。現在第5期のWANDSはその体制下で「世界が終るまでは…」をセルフカバーし、8月28日にデジタル解禁しています。また下記ミュージックビデオは今月中旬に公開されています(公開タイミング的は『THE FIRST SLAM DUNK』を意識したものと言えるでしょう)。その第5期バージョンですが、現在まで一度も総合100位以内に入っていない状況です。

(上記は最新週までにおけるCHART insight。)

第5期版が公開されているWANDSの公式YouTubeチャンネルには、オリジナル版の「世界が終るまでは…」ミュージックビデオがありません。そのオリジナル版はカラオケのみならずダウンロードやラジオ指標も加点されながら、サブスクや動画未解禁により総合100位以内に至れていないのは実に勿体ないと考えます。第5期を売り出したいゆえの未解禁かもしれませんが、開かれなさは現体制へのイメージ悪化も招きかねません。

世界最大のアニソンライブであるアニサマの公式YouTubeチャンネルにアップされた、WANDSの元ボーカルである上杉昇さんと、曲を手掛けた織田哲郎さんによる2012年のパフォーマンス映像は、公開から2年半近くで2700万回近い再生回数を記録しています。オリジナル版がデジタルで充実していたならばという思いはやはり拭えないのです。

 

 

デジタル未解禁を続ける歌手の、その背景にあるものは本人が語らない限りは厳密には解りません。フィジカル購入の促進、所属事務所やレコード会社側の意向、サブスク運営側への不信感等が想像できますが、サブスクユーザーにとってはそれら理由に関係なく、"気になった音楽を聴くことができない"という点において等しくマイナスです。ダウンロード未解禁でフィジカルが廃盤ならば、いわば詰んだとすら言えるのです。

ましてやコアファンも置き去りにしかねないこと、また海外の音楽ファンが日本のエンタテインメント業界そのものに不信感を抱きかねないこともマイナスイメージに大きく作用します。日本のエンタテインメント業界側は総出で未解禁歌手や芸能事務所等の説得を試みるべきであり、それは同時にこれまで従ってきた不条理をなくす第一歩でもあると考えるのは決して大げさなことではないはずです。