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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ザ・ウィークエンド「Die For You」へのアリアナ・グランデ参加にみる、海外はチャート施策に積極的という事実

海外はチャート施策に意欲的です。

相性の良い2名によるコラボレーションをまた聴くことができると喜んでいる方は少なくないかもしれません。そして自分は、このリリースの噂が出た段階で施策としての巧さを感じていました。実際、海外ではこのようなチャート施策がよく行われているのです。

 

 

オリジナルバージョンとなるザ・ウィークエンド「Die For You」、ミュージックビデオはこちら。

そして今回のリリース発表の直前、このような噂が流れました。

記事の元となるアリアナ・グランデInstagram投稿内容を上記に。この投稿から間もなく正規にリリースタイミングがアナウンスされており、噂の元となるSNSの投稿は話題作りとして最高の役割を果たしたと言えます。

 

ザ・ウィークエンド「Die For You」にアリアナ・グランデが参加したバージョンがなぜ施策なのか、そしてそもそも施策がなぜ海外では意欲的なのかについては下記ツイートでも記しています。

ザ・ウィークエンド「Die For You」は最新2月25日付米ビルボードソングチャートで7位につけています。

ビルボードソングチャートはストリーミング(動画再生を含む)、ダウンロード(フィジカルセールスや、歌手のホームページ内でリリースされたデジタルおよびフィジカルを含む)そしてラジオの3指標で構成。ラジオは2指標に比べて立ち上がりが遅く、1ヶ月でこの指標を制するのは勿論のことトップ10入りすることも難しい指標ですが、「Die For You」は前週まで2週続けてこの指標を制し、最新チャートでは3位につけています。

ビルボードでは各指標の数字がほぼ開示されないため、最新週におけるザ・ウィークエンド「Die For You」のラジオ指標は分かりかねますが、前週までの2週においては8520万→8400万と推移していたことから、最もピークが遅いラジオ指標でもダウンに転じたことが解ります。このままでは「Die For You」がその後の総合ソングチャートにてダウンは免れないと考えるのは自然でしょう。そこで投入されるのがリミックスです。

実際、最新の米ビルボードソングチャートではリミックス効果が反映され、ピンクパンサレス & アイス・スパイス「Boy's A Liar Pt.2」が双方のキャリアにおいて初となるトップ10入りを果たしています。

ピンクパンサレス & アイス・スパイス「Boy's A Liar Pt.2」が14→4位に上昇。ストリーミングは前週比54%アップの3110万、ダウンロードは同58%アップの1,000、ラジオは同258%アップの210万を記録し、トップストリーミングゲイナーを獲得しています。オリジナルは昨年11月にリリースされたピンクパンサレスの単独バージョン(「Boy's A Liar」)ですが、2月3日にアイス・スパイスが追加されたリミックスがリリースされ人気に。なおすべてのバージョンが合算対象となります。

米ではすべてのバージョンが合算対象となり、また獲得ポイントにおいてオリジナル版よりも客演参加や共演バージョンのシェアが高いならば歌手名のクレジットには客演や共演者が追記されます。「Boy's A Liar」においてはリミックス人気が高いことからアイス・スパイスの名も記載された形です。

リミックス投入が作品の順位を押し上げる例は枚挙にいとまがありませんが、実際ザ・ウィークエンドはアリアナ・グランデをリミックスで起用した「Save Your Tears」にて米ビルボードソングチャートを制しています。同曲が初めてトップ10入りしたのは2021年2月13日付(ブログでの翻訳内容はこちら)、そして首位を獲得した同年5月8日付ではアリアナ・グランデ参加版が初の1週間フル加算されたことが功を奏しました。

最新チャートの集計期間はストリーミングおよびダウンロードが4月23日金曜から、ラジオが26日月曜からとなり、今回はリミックスバージョンがフル加算されて首位に到達。また「Save Your Tears」の獲得ポイント全体においてアリアナ・グランデ参加版が多数派となったことから、クレジットも両名併記となっています。

「Save Your Tears」はストリーミングが前週比111%アップの3040万(同指標2位)、ダウンロードが同265%アップの18000(同指標1位)、ラジオが同5%アップの6730万(同指標2位)となり、3指標2位以内となっています。

※ 当時はラジオ指標が他の2指標より集計期間が3日ずれていたため、前週はラジオのみ3日分が加算された形です。なお米ビルボードではその後、ラジオ指標の集計期間も他指標に合わせ、金曜開始となりました。

「Save Your Tears」首位獲得時、すなわちアリアナ・グランデ参加版が初めて1週間フル加算された週においては所有指標が最も大きく動いていますが、ストリーミング指標も大きく上昇しています。アリアナが参加するまでの間、ザ・ウィークエンド単独版はトップ5前後を推移していたことが下記ツイート内画像から解りますが、リミックスの投入はカンフル剤になったと言っていいでしょう。

今回のザ・ウィークエンド「Die For You」におけるアリアナ・グランデ参加は、以前の共演作品となった「Save Your Tears」を彷彿とさせるのです。リリースは2月24日金曜0時(東部標準時。日本では同日14時)であり、2月24日~3月2日を集計期間とする3月11日付米ビルボードソングチャートにて、アリアナ参加版が初加算されることになります。

 

ザ・ウィークエンドは「Die For You」において、他にも施策を打っています。

現地時間の2月25日土曜に米で放送されるライブ特番より、2月16日に「Die For You」のパフォーマンス映像が先行公開(YouTubeでは2月17日が公開日となっています)。ザ・ウィークエンドのYouTubeアカウント発となっていることから、おそらく公式動画としてストリーミング指標の加算対象となります(米ビルボードではストリーミング指標に動画再生分が含まれます)。これが次週3月4日付米ビルボードソングチャート(集計期間:2月17~23日)に加算され、アリアナ・グランデ参加版到達前の援軍となるのです。

 

そもそも「Die For You」自体は2016年リリースのアルバム『Starboy』収録作品であり、新曲ではありません。それがTikTokでのバズを受け、ザ・ウィークエンド側が公式にシングルとして訴求したのが今回のトップ10入りに大きな影響を果たしています。今はデジタルを解禁していれば過去曲がTikTokのバズに伴いフックアップされる時代ですが、ザ・ウィークエンド側はそのバズに柔軟に対応してきたというわけです。2月11日付米ビルボードソングチャートの記事からは、レコード会社の姿勢が見て取れます。

「Die For You」はアルバムリリースから6年以上の時を経てラジオ指標を制し、1990年にラジオソングチャートが開始されて以降、作品のリリースから指標制覇まで最も時間がかかった作品となりました。この数ヶ月はTikTokにてバズが発生し、それを受けて所属レコード会社のリパブリック・レコードが公式にラジオプロモーションを行ったことが功を奏した形です。

なおミュージックビデオはTikTokのバズとは関係なく、『Starboy』リリース5周年のタイミングで2021年に公開されています。ミュージックビデオの存在が、TikTokで曲を知り気になった方の受け入れ先になったのではと推測することも可能です。

 

ザ・ウィークエンド「Die For You」のTikTokでのバズを踏まえたラジオプロモーションの強化やライブパフォーマンス映像の用意、そしてアリアナ・グランデ参加版の登場はいずれもチャート施策として有効であり、特に追加動画やリミックスの用意はチャートを意識して行っていると言っていいでしょう。

また、アリアナ・グランデ参加版のリリース日も狙って設定されたものでしょう。来週3月3日にはカントリー歌手のモーガン・ウォレンがニューアルバム『One Thing At A Time』をリリースします。前作『Dangerous: The Double Album』(2021)はストリーミングが強く、ストリーミング再生回数のユニット換算分を含む米ビルボードアルバムチャートでは2021年度を制しました。仮にアリアナ・グランデ参加版の「Die For You」が1週間リリースを遅くしたならば、モーガン・ウォレンのニューアルバムに話題をさらわれた可能性もあるのです。

おそらくチャートで好成績を収めた場合、ザ・ウィークエンドそしてアリアナ・グランデはチャート結果についてSNSで感謝の思いを述べるのではと考えます。その発信も含め、海外の歌手はチャートで好成績を収めることに意欲的であり、それゆえにチャートへの施策を投入するものと捉えています。

 

 

個人的には、日本の音楽業界側にも音楽チャートに意識的になることを勧めますが、今回「Die For You」で行われたことを日本で採り入れてもビルボードジャパン、そして米ビルボードが2020年に設立したグローバルチャートでは海外の歌手ほどに施策が有効に作用しないと考えます。それは日本の音楽チャートが海外仕様になっていないためです。

ビルボードジャパンにはこのブログエントリーで、また昨年TOKIONに寄稿したコラムも介して、チャートポリシー(集計方法)をグローバルチャートに沿わせる必要性を提案しています。

今一度強く求めたいのが集計期間や合算のルールをグローバルチャートに沿わせること。水曜のフィジカル発売に合わせてビルボードジャパン等各種音楽チャートが月曜を集計期間初日とすることで、金曜集計開始のグローバルチャートと日本のチャートとの双方で初週に好成績を残したい歌手の戦略がどっちつかずになってしまうのは勿体ないことです。

日本市場だけでもグローバルチャートへのランクインは可能であり、また日本はダウンロード指標が大きいため初週の好位置登場が期待できます。日本のチャートを金曜起点とすれば日本でもグローバルチャートでも初週に好成績を収める方が増え、世界におけるJ-POPの認知度は飛躍することでしょう。そして集計期間の金曜開始は、フィジカル以上にデジタル、ドメスティック以上にグローバルへの意識を高められるはずです。

ビルボードジャパンのソングチャートではリミックス版がオリジナルと合算されませんが、動画再生指標ではTHE FIRST TAKE動画が(この動画のパフォーマンス音源がリリースされた場合は除きますが)オリジナル版に合算される、ラジオではセルフカバー等別バージョンが登録する放送局側か集計するプランテック側どちらの問題がは分かりかねるものの合算される等の傾向があり、そこからビルボードジャパンのチャートポリシーは不完全でありすべて合算したほうが良いのではと説いています。

そして、リミックスの投入が音楽チャート以外にも利点を伴うものであるということは、自分の発信内容を引用してくださったみっちー(Mitchie)さんのこちらのツイートからも解ります。なおみっちー(Mitchie)さんは海外でバズが発生した藤井風「死ぬのがいいわ」においても「Die For You」のようなリミックスが投入されることを希望しており、下記ツイートはそのことを記した内容に続くものです。

そもそもリミックスという文化自体、合算に対するスタンスが開かれているとはいえない日本では海外ほど大きくなりにくいとも考えます。加えて海外の作品は音楽チャートの集計開始日を踏まえて金曜リリースが標準となっていますが、それでは月曜集計開始となる日本の音楽チャートの下では不利になるため、海外歌手の来日プロモーションやライブ、日本での音楽フェスへの参加が近い将来減るのではないかとも危惧します。

音楽チャートの考え方が変われば自然と音楽業界の意識もグローバルに向かうものと考えます。そもそも音源をデジタルリリースすることは海外でのデビューとほぼ同等であり(主軸を国内と海外のどちらに置くかでデビューの意味合いは変わるとは考えます)、日本でのヒットの延長線上にグローバルチャートでのヒットも見込める以上、ビルボードジャパンにはグローバルチャート的チャートポリシーの提案を今一度強く求めます。

 

そしてもうひとつ。海外では音楽チャートでの上位進出に意欲的だということが、チャートの戦略のみならずチャート結果へのリアクション等から感じることができます。

ともすればチャート施策を好ましく思わない方もいらっしゃるかもしれませんが、大事なのは過度な施策に対しては音楽チャート管理者がそれを反映させにくいようチャートポリシーを変更すること、そしてそもそも施策は当たり前に存在することを認識し、受け入れることです。音楽業界の関係者の中でもその意識が希薄ではと感じることがあり、海外事例から理解していただきたいと考え今回のエントリーを記載した次第です。