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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BE:FIRST『BE:1』発売前にサブスクで上位進出…この報道から総合アルバムチャートの米ビルボード化を再考する

昨日はこのようなブログエントリーを記載しました。

このエントリーで取り上げたチャート施策のひとつが、BE:FIRSTによるLINE MUSIC再生キャンペーン。この施策自体は個人的に疑問を覚えるということは上記ブログエントリーで記した通りですが、実際「Scream」リリース週に実施された施策の多くはマーケティングの面において特筆すべきものが多いと考えます。

BE:FIRSTおよび運営側の巧さは、記事の多さからも解ります。THE FIRST TIMESでは「Scream」解禁日の7月25日以降、BE:FIRSTに関する記事が今朝までに17本も登場。1日に1本近いペースでアップされる記事の中にはミュージックビデオの大台突破等もあり、メディアの注目度の高さもありますが歌手の運営側がプレスリリースをその都度用意しているだろうことが想起されます。これもまた面白い試みです。

 

その記事の中でとりわけ気になるものが。フィジカルは8月31日に、デジタルはその2日前の月曜に解禁されるアルバム『BE:1』が、既にサブスクサービスでランクインしているのです。

リリース前のアルバムのランクインは、アルバムとしてサブスクサービスにアップしているからこその現象です。BE:FIRST『BE:1』のSpotifyのリンクを下記に。現段階では解禁済の曲のみ聴取可能となっています。

BE:FIRST『BE:1』は日本におけるSpotifyのウイークリーアルバムチャートでも16→14→14位と推移しています(最新週は8月5日金曜~8月11日木曜)。なおSpotifyにおける1週間の区切り方(金曜起点)は世界の音楽チャートのそれを踏襲しています(個人的にはビルボードジャパンも金曜起点とすべきと考えます)。

一方で、ビルボードジャパンアルバムチャートではBE:FIRST『BE:1』は最新8月10日公開分(8月15日付)まで一度もランクインしていません。これはアルバムとして(全曲解禁の形で)リリースされなければランクインできないチャートポリシーに基づきますが、フィジカルセールス、ダウンロードおよびルックアップから成る総合アルバムチャートでは、ストリーミングや単曲ダウンロードが対象外となっています。

THE FIRST TIMESのみならずQJWebでも紹介されているBE:FIRST『BE:1』のデジタルチャート登場の記事を読んで、ビルボードジャパンのアルバムチャートを米ビルボード方式にすべきではないかという考えが再燃しています。明後日発表の8月17日公開分(8月22日付)チャートの結果次第では、その思いをさらに強めるかもしれません。

 

 

既に何度もこのブログで取り上げているように、「新時代」をはじめとするAdoさんの映画『ONE PIECE FILM RED』関連曲がデジタルチャートを席巻しています。次回8月17日公開分(8月22日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおける「新時代」の首位獲得は確定と言えますが、一方でアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』はB'z『Highway X』と接戦を繰り広げることが予想されます。

収録曲のソングスチャートにおける実績ではAdoさんが圧倒的に強いながら、アルバムチャートでは『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』がB'z『Highway X』に敗れる可能性があります。複合指標から成る総合チャートでは逆転する可能性も考えられる一方、フィジカルセールス単体においては追いつけないかもしれません。

そのビルボードジャパンアルバムチャート、今年度の総合および各指標の首位作品の推移をみると、フィジカルセールスに強い作品の首位獲得率が高いことが解ります。アルバムには高いフィジカルセールスに伴いソングスチャートを制した曲も収められている傾向が強いものの、たとえば「ドライフラワー」や「ベテルギウス」といったロングヒット曲が複数収録された優里『壱』は週間チャート首位の座を逃しています。

優里『壱』はビルボードジャパンの最新アルバムチャートで41位となっていますが、日本におけるSpotifyのウイークリーアルバムチャートででは最新週(集計期間:8月5~11日)において3位に。Tani Yuuki『Memories』やYOASOBIのEP2作品を上回っています。そして2位にはBTS『Proof』が入り、Ado『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』が初登場で首位の座に就きました。所有指標主体のビルボードジャパンと大きく異なるのです。

仮にビルボードジャパンのアルバムチャートが、米ビルボードのようにストリーミング再生回数(米では動画再生を含みます)、および単曲ダウンロードのアルバム換算分を含めたならば、優里『壱』の総合首位や、Ado『狂言』やYOASOBI『THE BOOK 2』のより上位での安定もあり得たでしょう。そしてAdo『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』はB'z『Highway X』を逆転する可能性も。『Highway X』がデジタル未解禁ゆえ尚の事です。

 

こう書くとAdo『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』がB'z『Highway X』を上回るべきだと聞こえるかもしれませんが、そもそもビルボードジャパンのアルバムチャートはソングスチャートでヒットした曲を収録した作品が上位に届きにくい構造ではという認識がチャート分析者の間でみられます。ビルボードジャパンは一度米ビルボードのチャートポリシーを踏襲したシミュレーションを実施し、導入を検討してほしいと願います。

そもそも、ビルボードジャパンアルバムチャートではルックアップが構成指標のひとつとなっています。ルックアップとはCDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示す指標であり、所有CDのみならずレンタルの取込分も換算されます。レンタルは接触行動であるゆえ、ビルボードジャパンアルバムチャートに接触指標のストリーミングを含めても問題はないでしょう。

ビルボードジャパンのCHART insightでルックアップの上位作品を調べる、また各サブスクサービスでのアルバムチャートをみれば、(所有以上に)接触されている作品が見えるはずです。そして所有主体の総合アルバムチャートとの乖離もまた感じることでしょう。その乖離を違和感と感じるならば、現行のチャートポリシーは変更の余地があるはずです。

 

ビルボードジャパンアルバムチャートにおける米ビルボードチャートポリシー採用の検討は、このブログで以前から提唱し続けています。ストリーミング等を導入し、実際に多く聴かれている作品が上位に登場するようになれば、たとえば封入等特典により売上が上昇しながら実際の購入者数(ユニークユーザー数)と大きく乖離する作品が瞬間風速的に上位に進出することはできにくくなります。

また先述したB'z『Highway X』のみならず、Mr.Childrenのベストアルバムや森口博子さんのガンダムソングカバー集のようなフィジカルセールス優先のためのデジタル後発施策は行われにくくなるでしょう。特典封入やデジタル後発のみならず、フィジカル複数種販売やデジタル未解禁といった各種施策にも、アルバムチャートの米ビルボード方式は優位に作用するはずです。

尤もその場合、ビルボードジャパンがチャートに責任と威厳を持ち毅然と対応する姿勢や、チャートの認知や信頼の上昇が必要です。そのチャートの確立が、デジタル解禁を頑なに拒む歌手の姿勢も改められるかもしれません。

 

 

BE:FIRST『BE:1』の様々な施策は、再生キャンペーンのような極度なものには個人的に違和感を覚えるとしても、マーケットリサーチや機動力に長けていることを示していると言えます。そしてTHE FIRST TIMES等の記事は、ビルボードジャパン等チャートのシステムを再構築に至らせ、大御所歌手のデジタル柔軟化も促すきっかけになるかもしれません。その意味でも、違和感のある現行制度に果敢に挑む姿勢が感じられるのです。