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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

フィジカルシングル収録の3曲がトップ10入りする可能性…BE:FIRST「Bye-Good-Bye」のスケジュール戦略を考える

BE:FIRSTの新曲、「Betrayal Game」が一昨日リリースされました。

ドラマ『探偵が早すぎる 春のトリック返し祭り』(読売テレビ/日本テレビ)主題歌。配信された月曜の夜にはミュージックビデオ(上記)も解禁され、またYouTubeはBE:FIRSTを、日本人歌手として4組目となるArtist on the Riseに選出しています。

「Betrayal Game」はダウンロードも好調に推移しており、ともすれば月曜からの1週間を集計期間とする5月4日公開分(5月9日付)のビルボードジャパンソングスチャートで上位に初登場することが予想されます。そしてもしもトップ10入りするならば、フィジカルシングルのカップリング2曲を含む3曲が、ビルボードジャパンソングスチャートでトップ10入りを果たすという珍しい現象が発生することになるのです。

BE:FIRSTは来月、フィジカルシングル「Bye-Good-Bye」をリリース。前作「Gifted.」がデジタル共々同週リリースだったのに対し、今作の表題曲は既に3月にリリースされ、3月16日公開分(3月21日付)ビルボードジャパンソングスチャートで首位を獲得しています。

カップリング曲は初回盤/通常盤とも3曲が共通。「Betrayal Game」や「Bye-Good-Bye」に先駆けて1月にリリースされた「Brave Generation」は、2月9日公開分(2月14日付)ビルボードジャパンソングスチャートで最高位となる6位を獲得しました。

(上記はリリックビデオ。)

フィジカルリリースまで間もないながら先行でデジタルリリースされた「Betrayal Game」がビルボードジャパンソングスチャートでトップ10入りを果たすならば、2つのカップリングを含む3曲がトップ10入りするという異例の事態となるのです。

 

ここから想起したのが、Official髭男dismが2020年8月にリリースした『HELLO EP』。EPという扱いながらシングルとしてカウントされたこの作品には表題曲「HELLO」を含む4曲が収録。うち3曲が、ビルボードジャパン週間ソングスチャートでトップ10入りを果たしています。そしてこの3曲はいずれも、フィジカルリリースに先駆けてデジタル解禁されているのです。

・「HELLO」(2020年8月12日付 最高4位)

・「Laughter」(2020年7月22日付 最高10位)

・「パラボラ」(2020年4月22日付 最高6位)

いずれの曲もストリーミング指標(上記CHART insightでは青で表示)が強く、またフィジカルセールスおよびルックアップ指標は「HELLO」に加算(フィジカルシングルにおけるフィジカル関連指標は1曲のみに加わります)。2020年度のビルボードジャパン年間ソングスチャート(→こちら)で「HELLO」が39位、「Laughter」が43位、「パラボラ」が45位に入ったのは、接触指標の強さがロングヒットにつながったゆえと言えるでしょう。

 

近年はフィジカルシングルのリリース自体が減り、またリリースされた際はEPの形態となることが散見されます。このEPについては、音楽マーケティングに詳しい宮本浩志さんによる最近のツイートも興味深いものがあります(下記参照)。先程のOfficial髭男dismについては同一アニメタイアップという括りではありませんが、3曲はテレビ、映画そしてCMというタイアップがついています。

またEPではなくシングルとしてフィジカルリリースする場合に増えているのが、ダブルAサイドという形態。Aimer「残響散歌」は共に『「鬼滅の刃遊郭編』に用いられた「朝が来る」とのダブルAサイドとしてリリース。King Gnu「一途」「逆夢」という『劇場版 呪術廻戦 0』使用曲が共に大ヒットしているのも特筆すべきことです。これらはいずれも、宮本さんが紹介したEPに近い形と言えるかもしれません。

一方でAimerさん、King Gnuの作品においては各曲の別形態を除き、2曲以外の収録曲はありません。となると3曲以上のトップ10ヒットを収録し、EPではなくシングルとしてフィジカルリリースされる作品は珍しいものと捉えています。まずはBE:FIRST「Betrayal Game」がビルボードジャパンソングスチャートでトップ10入りするか、注目しましょう。

 

先述した通り、BE:FIRSTは初のフィジカルシングル表題曲「Gifted.」をリリース週にデジタルリリースしたことで、2021年度第4四半期以降では最高となる23658ポイントを獲得しました*1。一方で2枚目のフィジカルシングル表題曲「Bye-Good-Bye」はデジタル解禁からフィジカル化までに2ヶ月というブランクがあり、フィジカル初加算のタイミングまでに勢いをキープできるかがチャート面で重要となってきます。

このフィジカルシングル「Bye-Good-Bye」発売に至るまでに、BE:FIRSTは収録曲3曲のビルボードジャパン週間ソングスチャートトップ10入りを成し遂げようとしています。3曲すべてにタイアップが付いているのも特筆すべき点ですが(表題曲はテレビタイアップ終了後にCMソングに起用され、その流れに驚かされます)、デジタルリリースのひとつの到達(終着)点がフィジカルリリースと言えるスケジュール策定に注目しています。

 

今やフィジカルリリースは限られ、またフィジカル自体がコアなファン向けのものとなっています。4月20日付のブログエントリー(→こちら)で紹介した日本レコード協会会長村松俊亮さんのインタビューでは『CDに代表されるフィジカルは、ファンダムに向けたビジネスとして重要』とありますが、これをいい意味に捉えるならば、ライト層をコアファンに昇華させることでフィジカルセールスにもつながっていくと言えそうです。

先行リリースしたBE:FIRSTのセカンドフィジカルシングル収録曲はいずれもカラーが異なりますが、どれかひとつでも気になったならば全曲が収録されたフィジカルを購入する意欲につながるかもしれない…BE:FIRST側はライト層のコアファンへの昇華の可能性も視野に入れ、今回のリリーススケジュールを組んだのではないでしょうか。

 

音楽チャートにおいて、そして作品の社会への浸透においてより大事なのはロングヒットであり、そのためにはライト層の動きがより大きく反映されたストリーミング指標の拡充が欠かせません。前週のソングスチャートでビルボードジャパンがチャートポリシーが変更され、コアなファンによるストリーミング活動の反映が抑えられたことでライト層の取り込みは尚の事必須となりました。

ライト層拡充にはテレビ露出も重要であるため、特に地上波テレビ局のゴールデン帯音楽番組において男性ダンスボーカルグループに対する厚遇と冷遇の二極化が未だ見られる状況には強い違和感を抱くのですが、BE:FIRSTは3曲のタイアップ獲得によりライト層に届く手はずを整えています。YouTubeにおけるArtist on the Rise選出も、ライト層へのリーチにつながっていくことでしょう。

ライト層の支持もセールスに反映されたならば尚の事、フィジカルシングル表題曲の「Bye-Good-Bye」がフィジカル関連指標初加算週に二度目のソングスチャート首位を獲得する可能性が十分考えられます。そしてその実績がライト層の拡充を生むサイクルへとつながっていくはずです。

 

今回のBE:FIRSTにおけるスケジュール策定は非常に興味深いものがあります。そしてこの策定は、ビルボードジャパンソングスチャートをきちんと研究、分析しているからこそ生まれたものではないでしょうか。運営側の分析力には目を見張るものがあります。

*1:ただしその後、2022年度初週および4月20日公開分(4月27日付)にてビルボードジャパンがチャートポリシー変更を実施したため、チャートポリシー変更前後でのポイントの単純比較はできません。