イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり)【ビルボードジャパン最新動向】今年度最高ポイント獲得、INI「CALL 119」の指標構成から考えること

(※追記(8時36分):AWAのラウンジについて、コメントをいただきましたので追記しました。) 

 

 

 

最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

4月18~24日を集計期間とする4月27日公開(5月2日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。INI「CALL 119」が前週より14ランクアップし、キャリア初の頂点に輝きました。

CHART insightを上記に。黒が総合チャートを、構成8指標は黄色がフィジカルセールス、紫がダウンロード、青がストリーミング、黄緑がラジオ、オレンジがルックアップ、水色がTwitter、赤が動画再生、緑がカラオケを、それぞれ示します。

 

INI「CALL 119」の初週フィジカルセールスは742208枚(シングルのタイトルは『I』であり、「CALL 119」はそのリード曲)。前作「Rocketeer」(シングル『A』のリード曲)は初週フィジカルセールスが489587枚であり、今作は25万枚以上上回っています。『Snow Manの『ブラザービート』(809,082枚)、『Secret Touch』(750,618枚)に次ぐ、本年度3番目の最多初週セールス』(下記より)というのは特筆すべき状況です。

デビュー曲の「Rocketeer」は昨年11月10日公開分(11月15日付)において、同日フィジカルリリースのBE:FIRST「Gifted.」にフィジカルセールスでは倍以上の差をつけたものの総合では「Gifted.」に逆転を許していました。それゆえ「CALL 119」はINIにおいて、キャリア初の首位獲得となります。

さて、今回トップに立ったINI「CALL 119」ですが、高いフィジカルセールスを誇る一方で気になる点がいくつかみられます。

 

まずはラジオ指標について。ラジオ指標はプランテックが提供する31のFM/AM局におけるOA回数に基づき、聴取可能人口等を加味してビルボードジャパンが独自に指標化します。

2022年4月27日発表のラジオ・オンエアチャート(集計期間:2022年4月18日〜4月24日プランテック調べ)では、INI「CALL 119」が1位を獲得した。

同グローバルボーイズグループが4月20日にリリースした2ndシングル「I」より、リードトラックとなる同曲。MV公開翌日の3月21日にラジオ解禁されると、名阪エリアを主としてオンエアを獲得し同週95位に初登場。その後FM局を中心にオンエアを伸ばしていき、50位→12位→16位と推移するとリリース週を迎えた今週、オンエアエリアをいっきに拡大し77.4%のステーションでのオンエアを獲得しての首位となった。

また、今週はリクエスト数が急増したことも特筆点だ。ファンダムの影響も大きく作用しているものと推測されるが、これまで積極的なゲスト/コメント出演を重ねてきた成果であることも間違いないだろう。

INI「CALL 119」がOAされたのは24局に限られます。ともすればFM局を中心にOAされた一方、AM局ではゼロというところが少なくないことが想像できるため、たとえばレコード会社による積極的な局への訴求が必要でしょう。積極的な訴求の成果は、たとえばAimer「残響散歌」が3月2日公開分(3月7日付)ビルボードジャパンソングスチャートで通算9週目の総合首位を獲得したことに表れています。

 

次にルックアップ指標について。ルックアップとはパソコン等にCDをインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタルの動向を推測可能とします。

ルックアップ指標の上位から順に並べたCHART insightをみると、この視標の首位はKing & Prince「Lovin' you」。最新チャートにおけるフィジカルセールスは24339枚であり、INI「CALL 119」のわずか3.3%にとどまります。しかしながら「Lovin' you」がルックアップを制したのは、先に推測可能と書いたユニークユーザー数、およびレンタル枚数において「CALL 119」が少ないゆえと捉えることが可能です。

ルックアップ指標においてジャニーズ事務所所属歌手による作品の強さが目立つのは彼らの知名度の高さや、デジタル未解禁に伴う接触先の少なさゆえのレンタル人気に基づくものと考えます。INIのレコード会社や芸能事務所側は、レンタル店舗やオンラインレンタル経由でINIを知ってもらう機会を増やす意味でも、在庫数を増やす努力を行う必要があるでしょう。

 

そして動画再生指標。INI「CALL 119」は前週から6ランクアップしたものの、34位というのは高いとは言えないでしょう。本来はフィジカルセールス週に作品への注目が集まることで、動画再生指標も大きく盛り上がる可能性が考えられました。また動画再生は多くの曲においてストリーミング指標と比例した動きとなるのですが、「CALL 119」は接触指標群が大きく乖離しています。

 

 

そのストリーミング指標においては、INI「CALL 119」は2位に上昇しています。arne代表の松島功さんはこのように述べています。

新たな係数とは、前週4月20日公開分(4月25日付)からビルボードジャパンがストリーミング指標に導入したものであり、チャート分析者の間ではLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)に対して施されたものという共通認識があります。7719431回再生を記録したINI「CALL 119」は、仮に係数処理が行われていなければ1千万回再生を突破したことでしょう。

(ただしビルボードジャパン側は、たとえば本日までに公開されたポッドキャストにおいても係数処理対象先を具体的には言及していません。)

とはいえ、上記ブログエントリーでも掲載したリンク先(→こちら)からも判るように、INI「CALL 119」は日本のSpotifyデイリーチャート200位以内のランクインが現段階において(通算)2日のみにとどまり、LINE MUSICとSpotify等他のデジタルプラットフォームとの乖離の大きさが見て取れます。とはいえ係数処理が施されても強さを発揮しているのは、コアファンの熱量の高さが行動につながったゆえと思われます。

 

なおブログの問い合わせを介して、サブスクサービスのAWAにおけるラウンジを用いたキャンペーンの存在を教えてくださった方がいらっしゃいました。この場を借りて感謝申し上げます。ラウンジに参加した人数分のカウントに加え、ウィンドウを複数開いて再生回数をプラスすることができるという指摘もいただいております。

ビルボードジャパンのストリーミング指標におけるチャートポリシー変更は、その係数処理対象先がひとつのサービスであるとポッドキャストで言及されており、現段階ではAWAに対する措置は採られていないものと考えます。またひとりのユーザーが複数回再生することでプレゼント当選(の可能性)の資格を得るLINE MUSIC再生キャンペーンとは厳密に異なるゆえ、現段階でそこまで問題視されるものではないというのが私見です。

ただし、ウィンドウを複数開いて再生回数をプラスすることができるということが事実ならば、何かしらの措置は採られる必要があります。ストリーミングはひとりのユーザーが同じ曲を複数回聴くこと自体は問題ではないものの、それが施策の形で意図的に、多くの方によって行われ、また歌手側がチャートへの効果を理解した上で開催するならば、早急な議論と措置をビルボードジャパンが講じる必要があるものと考えます。

 

(※追記(8時36分):コメント欄にて、AWAへ問い合せた方のツイートを引用し複数タブでの再生は反映されないように処理されているという指摘をいただきました。この点については後日、直接問い合わせてみようと思います。)

 

 

特にルックアップにおけるフィジカルセールスとの乖離、係数処理が施された一方でのストリーミングでの強さ、その一方でサブスクサービス間でも大きな差が生じているという状況を踏まえれば、コアファンの支えがINI「CALL 119」においてはひときわ大きいと考えます。特にルックアップや動画再生のチャートアクションはAKB48を想起させるというのが、「CALL 119」に対する自分の認識です。

とはいえ、たとえCDがコアファン向けアイテムの意味合いが強くなったとしても、フィジカルセールスの実績自体については無視すべきではないと考えます。上記ツイートで『ミュージックステーション』(テレビ朝日)へ言及したのは、たとえばINIやBE:FIRST、ストリーミング1億超えを果たした「CITRUS」を輩出したDa-iCE等男性ダンスボーカルグループが次々に『CDTVライブ!ライブ!』に出ているのと対照的であるゆえです。

また、INI「CALL 119」が今年度最高ポイントを獲得した点も特筆すべきです。初週フィジカルセールスで「CALL 119」を上回ったSnow Manブラザービート」は16865ポイント(4月6日公開分)、「Secret Touch」は15706ポイント(昨年12月8日公開分)で、「CALL 119」は2曲を上回っています。デジタルを解禁していることが(デジタル指標群がコアファン中心に支えられているとしても)ポイント上乗せに有効だと解るのです。

 

デジタル未解禁歌手が未だ多い一方で彼らが音楽番組にきちんと出られている環境を考慮すれば、ユニークユーザー数やライト層の数に差はあったとしてもINI「CALL 119」の実績は十分と考えます。今後INIが「CALL 119」でより多くの支持を集め(すなわちライト層にも届くことでロングヒットに至り)、メディア露出をよりストレス無く行うことができるようになるか、注目していきます。