イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンは日本レコード協会の理想のチャートではない…会長インタビューを踏まえ提案を記す

このような発言をどう捉えればよいでしょう。

――海外の音楽シーンとの違いといえば、例えば米国におけるグラミー賞など、各国には目標とすべきアワードや基幹となるヒットチャートが存在しています。一方日本では、そうしたもの存在感が薄れてきているように感じますが、ユーザーの音楽への入り口としての必要性をどのようにお考えになりますか。

 

村松 確かに、音楽の楽しみ方が変わってきたため、今は何をもってヒット曲とするかという物差しがないですよね。個人的には、すべての方に納得感のあるヒットチャートのような存在を、どうにかして作り出さなきゃいけないなと考えています。同様に年に1度でよいので、アーティスト自身にも認められるようなアワードの必要性はあると思います。そうしたものが、音楽産業の広がりにつながるのであれば、レコード協会でトライする課題の1つかもしれないので、検討するべきなのかなとは思います。

日本レコード協会会長、村松俊亮さんはインタビューでこのように発言されています。村松さんは現状の日本の音楽業界(音楽産業)において十分なヒットチャートおよびアワード(音楽賞)が存在しないという認識なのかもしれません。後者は自分も深く納得していますが(日本版グラミー賞の創設を希望するのはそのため)、前者においてはビルボードジャパンが村松さんの念頭にないのではという複雑な思いを抱いています。

一方で、デジタル/フィジカル、所有/接触という様々な要素に基づく複合チャートにおいて、"すべての方に納得感"のあるものは存在しないでしょう。たとえばビルボードジャパンは社会的影響力を加味し各指標のウエイトを決めていますが、フィジカルセールス指標への係数処理導入を採用した際、影響を受ける歌手のファン側から反発がみられています。ゆえに、"より多くの方に納得感"と表現したほうがより正しいでしょう。

 

自分はブログを毎日更新するうちに、ビルボードジャパンの音楽チャート(特に総合ソングスチャートであるHot 100)がより社会的ヒットの鑑に成ってきていることを評価し、取り上げる頻度を高めていきました。2017年度にフィジカルセールス指標へ係数処理が適用されたことが、その鑑をさらに高める大きなきっかけになったと捉えています。

一方で、村松さんの理想とする音楽チャートを作るにはどうするかを考えた際、今になってゼロから創り上げることは物理的にも厳しいのではないでしょうか。ならばまず村松さんの理想をより詳しく聴き、それに近いチャートをフックアップし、村松さんとチャート側との議論を経て公式化させていくことが現実的だと考えます。その際、その理想におそらく最も近いだろうチャートがビルボードジャパンではないでしょうか。

 

(そういう意味もあり、インタビューを担当された方(おそらくは記事掲載元にてクレジットされた『日経エンタテインメント!』副編集長の上原太郎さん)が村松さんに対し、もう少しチャートについて踏み込んで聞くべきだったのではと考えます。)

 

しかしながら、ビルボードジャパンへの"絶対的な信頼"は業界的にも、また自分自身にあっても、未だ生まれていないと考えます。【知名度や認知度の(オリコンと比較しての)高くなさ】【チャートポリシー変更の柔軟性】そして【体制や責任感への疑問】という疑問が解決されていないと考えるためです。

 

 

知名度や認知度は今でも、その歴史を踏まえればオリコンのほうが上でしょう。ただしオリコンの姿勢は様々な疑問を抱かせるに十分です。昨年末にもこのような内容を記載しました。

日本最大級のサブスクサービスであるSpotifyを未だ取り扱っていないことも問題であり、その点においてもビルボードジャパンが勝っていますが、しかしながらその知名度を踏まえれば業界側がオリコンを無視できないとも考えます。

一方、ストリーミングの"億超え"がメディアでも散見されるようになったこと、ビルボードジャパン自体のチャートが紹介されていること等を踏まえれば、ビルボードジャパンの認知度上昇を感じるに十分ではあるのですが、いま一歩足りないとも感じています。たとえば『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)のような音楽分析メディアがビルボードジャパンを取り上げるだけでも、状況は大きく変わるのではないでしょうか。

ひとつの理想として、先述した『日経エンタテインメント!』が村松さんのチャートへの意識についてより深く掘り下げるインタビューを再実施する、ビルボードジャパン側を取材する、またビルボードジャパンとは何かについて一度きちんと紹介する等が必要でしょう。尤も『日経エンタテインメント!』以外の媒体でも行うべきですが、村松さんのインタビューを基軸にするならば同誌にまずはお願いしたいところです。

 

チャートポリシー変更の柔軟性については、このブログで以前から語っていることであり詳細は省きます。フィジカルセールス指標のウエイトならびに係数処理適用枚数は減少していますが、それでも未だに高いフィジカルセールスを誇る曲が、翌週急落するとしても上位進出しやすい状況です。

さらにはLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)採用曲について新たなチャートアクションが出てきています。この点については週内に再度言及する予定ですが、このような曲に対してもチャートポリシーを変更し対応する必要があるというのが私見。昨年度は四半期毎にチャートポリシーを変更し柔軟性を高めたビルボードジャパンですが、その頻度はともすればさらに高める必要があるかもしれません。

 

 

そして体制や責任感への疑問について。直近でも信頼度を大きく損ねる動きが生まれています。

前週のビルボードジャパンによるポッドキャスト(ビルボードポッドキャスト)は上記動画でもチェック可能。この回において、MCを務めるチャートディレクターの礒崎誠二さんが冒頭で語っていたお詫びは、自分が前週水曜に気付き指摘させていただいたことでした。いや、ビルボードジャパンはチャート分析に長けた紅蓮・疾風さんが1週間前に指摘した件を半ば放置したと思われてもおかしくありません。

(本日になって、上記ツイートにおける紅蓮・疾風さんの表記がきちんとなされていないことに気付きました。紅蓮・疾風さんに対し心よりお詫び申し上げます。)

ビルボードジャパンには問い合わせフォームがあります(→こちら)。チャート発表後に疑問が生じた際は、問題の大小にかかわらず問い合わせフォームを介して伝えることで、改善につながることがよくあります。またこちらの問い合わせ内容に誤りがあれば、その旨もきちんと伝えてくださっていたのがこれまででした。今回の件についても問い合わせを実施しているのですが、その対応はこれまでと異なるものでした。

今回は比較的大きなミスであった一方で、問い合わせしたこちらへの返信はいただけませんでした。ともすれば問い合わせフォームできちんと送信できていなかった可能性もありますが(そうであるならばお詫び申し上げます)、このような事態は初めてです。管理体制を見直した結果がこれまでの丁寧な対応を削ぐことだとしたら、あまりにも悲しいですね。

 

ともすればこれが私怨的な意味合いに受け止められかねませんが、しかしチャート運営側がそのような態度では、またそもそも1週間を経過しての訂正であり且つそれがあたかもしれっと行われたと捉えられかねないものであっては、信頼とは真逆の状態が生まれると考えるのは自然なことでしょう。

体制強化は以前から謳われていたことでありそれが治っていない、それどころかさらに酷くなってはいないかと感じずにはいられません。そしてチャート運営者としての責任を実感しているならば、訂正は丁寧な事前アナウンスを経た上で行われるべきです。日本レコード協会村松会長がビルボードジャパンを仮に評価しながら、しかし今ひとつ信頼に欠けるという認識だとすれば、その一端が前週の対応に表れたと捉えています。

 

 

ともすれば自分のような存在はうるさいと思われかねませんが、自分は過去の経験から監視することの必要性を学び、そして評価するところはきちんと評価するという姿勢をビルボードジャパンに対しても踏襲しています。評価の姿勢については以前、ビルボードジャパンがフィジカルセールス指標の係数処理適用枚数を引き下げた際、それに対する反発の可能性も踏まえてきちんと支持を表明した際にも記載しています。

また日本に音楽チャートそのもの、また分析の楽しさを根付かせることもブログ執筆の目的のひとつとしています。ゆえに評価と批判(決して非難ではない)はこれからも記載し続けていきます。

 

 

いずれは日本に"公式"の音楽チャートが生まれることを願います。また現段階での希望として、日本レコード協会ビルボードジャパン、また日本の音楽産業の発展を阻むと指摘されてもおかしくないデジタル未解禁側等の、上層部に対するインタビューをメディアが率先して行うことを書き添えておきます。そこに自分が関わることができるならば、積極的に参加させていただきたいと思っております。