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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BMK「だって今日まで恋煩い」再浮上の背景にある、演歌歌謡曲的リパッケージ盤販売手法の導入を危惧する

ビルボードジャパンのチャートディレクターを務める磯崎誠二さんは、ソングスチャートを100位まで見ることの重要性を幾度となく仰っています。以降自分も100位までチェックするようにしているのですが、時折業界の変化に気付くことが出来、たしかに下位への注目も怠ってはならないと実感するのです。今回は最新チャートから見えてきたことについて、記載します。

 

最新9月28日公開分(10月3日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは、MK「だって今日まで恋煩い」が28位にBランクイン。テレビアニメ『デジモンゴーストゲーム』エンディング曲として1月に配信された曲が最新チャートでフィジカルセールス指標2位を獲得しています。CHART insightをみると、黄色で示されたフィジカルセールスを除く7指標が強くないこともあり、総合100位以内登場は今回が2週目(2回目)となります。

(上記はBMK「だって今日まで恋煩い」のCHART insight。後者は総合順位(黒で表示)およびフィジカルセールス指標を除いたもの。)

最新チャートでの総合100位以内到達の理由は、BMK「だって今日まで恋煩い」が新形態でフィジカルリリースされたため。ビルボードジャパンはアニメソングスチャート(Hot Animation)の記事にてこの件を解説し、リパッケージ盤と形容しています。

アルバムにおいてはデラックスエディションとして曲追加等を施したものがリリースされることが時折ありますが、シングルでは"複数種×時間差で再リリース"という手段が演歌歌謡曲界で行われており、この点はブログにて3年前に問題提起しています(リンク先は後述)。その際紹介した氷川きよし「大丈夫」の商法のみならずチャートアクションも、BMK「だって今日まで恋煩い」はなぞっていると言えるでしょう。

 

演歌歌謡曲においてはこの複数種×時間差で再リリースという手法が未だ見られます。先述した氷川きよしさんについては「甲州路」のリパッケージ3バージョンを11月にリリース。また純烈は「君を奪い去りたい」の二度目となるリパッケージ盤(3バージョンのうちGタイプにはダチョウ倶楽部とのコラボ曲を収録)を、先月リリースしています。

いずれもカップリング曲が異なるためフィジカルセールスは表題曲に加算されますがデジタルが弱いため、ビルボードジャパンでは演歌歌謡曲の総合ソングスチャート100位以内への登場が難しい状況です。純烈「君を奪い去りたい」は結果的に一度も総合100位以内には登場せず、この傾向がビルボードジャパンソングスチャートを参考にしているであろう『NHK紅白歌合戦』での同ジャンルの枠数減少の要因と捉えています。

演歌歌謡曲界に対してはデジタル施策を提案していますが、中高年層のデジタル活用への反発等を懸念し消極的なのかもしれません。3年前の問題提起ではかなり厳しい私見を記していますが、結果的に演歌歌謡曲界は変わっていないと言えるでしょう。

CDを購入出来る環境の減少もさることながら、このような売り出し方に嫌気が差してファンをやめる方も実は少なくないのでは?というのが私見。そしてどんどん体力のある方に頼っていくのだとしたら、そのうち演歌は衰退することは間違いないと言っても過言ではないでしょう。

そしてこの手法をなぞったのが、BMK「だって今日まで恋煩い」でした。BMKはボーイズバンド、BOYS AND MENの弟分の存在であり、いわばアイドル的な位置付けにいます。アイドルの複数種リリースはもはや当たり前にはなっていますが、このジャンルでのリパッケージ盤リリースはほぼ聞いたことがありません。

フィジカルシングル表題曲と複数種のカップリング曲すべてを網羅したものをアルバムやEPの形でリリースするのがいいのではと思ったのですが、3月リリース、そして今回リリースについてはデジタルで一括りとしてリリースされています。この配慮もしつつ、フィジカル売上枚数の増加を目指していることが伺えます。

 

BMK「だって今日まで恋煩い」は3月リリースのフィジカルシングルが初週37,231枚を売り上げ、そして今回のリパッケージ盤が34,093枚を売り上げています。ともすれば10万枚にも届くかもしれないことを踏まえれば、この手法を今後取り入れ続ける可能性は否定できません。

しかしながらBMK「だって今日まで恋煩い」はデジタルに強くないのみならず、レンタル枚数やユニークユーザー数(売上枚数に対する実際の購入者数)を推測可能とするルックアップ指標が一度として300位以内に入っていません。この点から同曲はライト層が少なく、コアファンによって支えられていると推測できるのですが、運営側はそのコアファンが疲弊し離れてしまう可能性を考える必要があるのではないでしょうか。

 

 

フィジカルセールスに長けたアイドルやボーイズバンドの演歌歌謡曲的リパッケージ盤の導入に、このジャンルが禁断の領域に入ってしまったのではないかと感じる自分がいます。本当にこれでいいのか、中長期的に活動できるようにするにはどうするか等を自問自答することが必要なのではないでしょうか。