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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Da-iCE、『REVERSi』リード曲「DOSE」誕生のきっかけに驚く…そこから思い出した作品とは

先週水曜にリリースされたEP『REVERSi』の冒頭を飾るDa-iCEのリード曲「DOSE」は、2分40秒というタイトな尺の中で3連符のラップも登場するなど展開の移り変わりが目立つも心地よく、シンセの上モノが薄くもファンキーなアクセントを与え、サビのいい意味でJ-Popらしくない落ち着きが格好良く、貫禄も漂わせています。

この余裕を思わせるクールな作品が、実は急造を迫られていたというのだから驚きです。

元来『REVERSi』のリード曲として用意する予定の作品がなぜ手元から離れたのか、その真相はDa-iCE側のみが知り得ることです。Da-iCE側のコンペ(コンペティション)で満場一致だったならば、制作者側はたとえばより条件の好い歌手側に移ったのかもしれませんし、もしくはDa-iCE側のコンペに落選したと勘違いしたのしれません。それが今回の流麗なスムースダンサーを生んだというのですから、世の中不思議なものです。

 

これで思い出したのが、2000代半ばのR&Bで起きた出来事でした。

ジェニファー・ロペスのシングル曲「Get Right」(2005年)は米ビルボードで最高12位を獲得するスマッシュヒット。プロデュースを手掛けたのは、ビヨンセ feat. ジェイ・Z「Crazy In Love」(2003年 米1位)やエイメリーの作品を手掛け一躍スターダムに躍り出たリッチ・ハリソン。

リッチ・ハリソンはそのサンプリングのセンスに長け、「Crazy In Love」ではザ・シャイライツ「Are You My Woman? (Tell Me So)」(1970年)のホーンセクションを引用。そしコリー・ルーニーと共同でプロデュースした「Get Right」では、メイシオ & ザ・マックス「Soul Power '74」の複数の部分をループして用いています。

しかしこの「Get Right」における印象的なオケは、アッシャーが以前「Ride」で用いていたものと同一と言えるものでした。それもそのはずで、2曲ともリッチ・ハリソンが関わっていたのです。リッチはアッシャーのアルバム『Confessions』(2004年)で収録が見送られた(もののクラブ向け12インチレコードとしては用意されていた)オケをジェニファー・ロペスに渡したという流れ。つまりアッシャーのコンペに破れたと言えます。

『俺はあの曲の権利のいくらかをもらうべきだ』(上記記事より)と話したというアッシャーはおそらく権利を獲得している模様であり、「Get Right」のWikipedia(英語版はこちら)をみるとアッシャーがソングライターにクレジットされていることが判ります。

 

Da-iCE「DOSE」とジェニファー・ロペス「Get Right」/アッシャー「Ride」は厳密には異なる事例ですが、今回過去の事例を思い出した理由は、以前ブログエントリーで紹介した"コライト"の日本での拡大も背景にあります。

コライトの好いところは複数名が知恵を出し合って曲をさらに良くしていくところにありますが、ともすればコンペでボツになった作品を他の歌手が採用したり、ある方による曲の一部分が別の作品のエッセンスに採用されたために元の曲自体がボツとなる等、後のトラブルに成る可能性はゼロではないでしょう。コライトには実はリスクも伴い、ともすれば今後増えていくのではということを、今回の事例から想像した次第です。

DOSE=“どうせ”という諦めや悲観的な感情を揶揄しながら、OverDOSE=“ヤリ過ぎる”というもうひとつの意味に『REVERSi』に込めた“白黒つける”というDa-iCEの意志をのせた、リード曲にふさわしい1曲に仕上がっている。

その中にあって、Da-iCEのメンバーがソングライティングを手掛けるようになったのは強みであり、今回の出来事によって生まれた「DOSE」は彼らに蔓延ってきた逆境や枷、不条理等をクールに、そして確実に跳ね返す代名詞たる曲にもなったと言えるでしょう。