イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) 米ビルボード年間チャート発表、2021年のチャートトピックス10項目とは

(※追記(2022年11月24日9時28分):はてなブログにてビルボードジャパンのホームページを貼付すると、きちんと表示されない現象が続いています。そのため、表示できなかった記事についてはそのURLを掲載したビルボードジャパンによるツイートを貼る形に切り替えました。)

 

 

 

12月は今年の音楽業界をチャートから振り返る企画が続きます。今回は日本時間の12月3日金曜早朝に発表された米ビルボード年間チャートをみてみます。集計期間は2020年11月21日付~2021年11月13付となります。

昨年のアメリカの動向についてはこちらをご参照ください。

2021年度における米ビルボードによる記事、およびビルボードジャパンの翻訳記事はこちら。

・ソングスチャート

 

・アルバムチャート

 

・アーティストランキング(翻訳記事なし)

ソングスチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(ウェイトの大きい順にサブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等を基とするストリーミング、ラジオエアプレイ、およびフィジカルを含むダウンロード)はそれぞれ75位まで紹介されています。年間ソングスチャートトップ100について総合順位、期間内の最高位ならびに各指標の順位を一覧化しました。

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それでは、今年度の10項目を取り上げていきます。

 

 

ビルボード年間チャート発表、2021年のチャートトピックス10項目

 

① 「Blinding Lights」、オールタイムソングスチャートで首位

年間3位に入ったザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は2020年度の年間ソングスチャート制覇曲であり、2年連続でトップ3入りという快挙を達成しています。そしてこの曲が、米ビルボードソングスチャート63年の歴史においてチャビー・チェッカー「The Twist」を抜き、歴代1位の座に就きました。

ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は数多もの記録を更新しています。その軌跡については、ブログ【チャート・マニア・ラボ】(→こちら)にて詳しく紹介されていますので、勝手ながら紹介させていただきます(問題があれば削除いたします)。

アリアナ・グランデを迎えた「Save Your Tears」も年間ソングスチャートで2位に入り、アルバム『After Hours』が如何に歴史に残る作品になったかがよく解ります。

 

② ジャンルや時代を超越した曲の人気

先述したザ・ウィークエンド「Blinding Lights」に限らず、今年度もジャンルを超越したり、またモチーフにした年代が多岐に渡る曲が多い印象。ディスコティークな曲が人気なのは昨年も同様でした。

ジャンルを超越した曲として、24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」(年間4位)がまず挙げられます。24Kゴールデンはラッパーとして日本のレコード会社でも紹介されていますが(→こちら)、「Mood」はロック/オルタナティヴ部門のソングスチャートにおいて年間首位を獲得しています。

他にもオリヴィア・ロドリゴによる「Good 4 U」(年間ソングスチャート5位)はロックなアプローチを施し、ジャスティン・ビーバーR&B界の新鋭であるダニエル・シーザーおよびギヴィオンと「Peaches」(同10位)でタッグを組んでいます。

特に「Good 4 U」に代表されるロックアプローチの増加は、主にヒップホップの側面からこのような対談が公開されたばかりです。

 

TikTokからヒット曲が多数輩出

前大統領がアメリカからの追放を目指していたTikTokは、今年もエンタテインメント界に多数のバズをもたらしました。その代表例として挙げられるのが先述した「Mood」やグラス・アニマルズ「Heat Waves」(年間16位)、さらにウォーカー・ヘイズ「Fancy Like」(同27位)等。「Heat Waves」「Fancy Like」が週間チャートでトップ10入りするのは年度後半となりますが、TikTokのバズが長期的な人気に至らせたと言えます。

そして今年を代表する新人といえるザ・キッド・ラロイは、ジャスティン・ビーバーとの「Stay」で週間チャートを7週制し、年間12位の大ヒットに。この曲、そしてザ・キッド・ラロイ自体のバズの背景にもTikTokがありました。

TikTokについてはリリース後のバズ発生のみならず、最近ではリリース前のプレビュー機能としても有効に機能。年間ソングスチャートで33位に入ったリル・ティージェイ feat. 6LACK「Calling My Phone」の活用法は下記ブログエントリーで紹介していますが、音楽業界がTikTokに高い関心を示し、活用しようとする姿勢が感じられます。

今後もTikTokをはじめとするショート動画から生まれるヒット曲が多数登場することでしょう。

 

④ リミックス等追加投入策が有効に作用

先述したザ・ウィークエンド「Save Your Tears」において、アリアナ・グランデ参加版は後に投入されたもので、そのタイミングで初めて米ビルボードソングスチャートを制しています。チャートアクションに影響を与える目的も兼ねたリミックスの投入は以前に比べて減った印象もありますが、有効に作用していると言えます。

そして、年間ソングスチャートを制した曲はこれまでの特徴を網羅しています。

 

⑤ デュア・リパ「Levitating」、ソングスチャートを制覇

昨年10月17日付で初登場した「Levitating」は今年5月22日付で最高位に到達すると、最新12月4日付(すなわち2022年度に入って以降)においてもソングスチャートに在籍。2021年度においては常時40位以内に在籍し、うち41週もの間トップ10にランクインを果たしています。これはザ・ウィークエンド「Blinding Lights」の57週に次ぐ、歴代2位となるトップ10在籍記録です。

この曲のロングヒットには音楽賞でのノミネートやTikTokでのバズ、またダベイビーを招いたバージョンの投入が影響しています。そのダベイビーが今夏の音楽フェスでLGBTQへの差別発言を行ったことで、ラジオを中心に客演参加版の急落が発生。そこでデュア・リパは新たに、客演なしバージョンのミュージックビデオを投入。最終的に年間ソングスチャートのクレジットはデュア・リパ単独名義となっています。

(なお、オリジナルバージョンよりも客演等追加版が上回る場合、週間/年間ソングスチャート共に、また構成する各指標においてクレジットはその追加版となります。)

女性ソロでの年間ソングスチャート首位獲得は、アデル「Rolling In The Deep」以来10年ぶり。デュア・リパはこの喜びをツイートで示しています。

 

⑥ 「Levitating」は週間チャート未制覇、ロングヒットの重要性

そのデュア・リパ「Levitating」、実は一度も週間チャートを制していません。このような作品が年間ソングスチャートを制するのは今回が3度目で、2000年のフェイス・ヒル「Breathe」、2001年のライフハウス「Hanging By A Moment」以来となります。いずれも最高位は2位ですが、ロングヒットする曲(それも年度はじめから)が大ヒットする傾向にあると言えます。これは来週発表されるビルボードジャパンでも同様です。

一方、上記表でオレンジにて示した週間ソングスチャート初登場制覇曲の年間順位は大きく二分されていると言えます。オリヴィア・ロドリゴの各曲やリル・ナズ・X「Montero  (Call Me By Your Name)」(年間9位)等をみると、接触指標群できちんとヒットし続けることが年間ソングスチャート上位進出の鍵であることは間違いありません。

 

BTS「Butter」は年間トップ10入り目前も、目立つ所有指標への偏り

年間ソングスチャート、11位にはBTS「Butter」が入りました。BTSは2020年度に38位を記録した「Dynamite」も41位にランクインしています。

一方で、BTSの曲は所有指標の偏りが目立ちます。年間ソングスチャートでトップ10入りした曲はいずれも3指標がすべて50位以内に入り、また接触指標群(ストリーミングおよびラジオ)のどちらか、もしくは双方で10位以内を記録しているのですが、BTS「Butter」に関しては所有指標のダウンロードが首位となった一方、接触指標群は50位以内に到達していません。

BTSは2021年度において「Life Goes On」「Butter」「Permission To Dance」およびコールドプレイとの「My Universe」の4曲で通算13週、週間ソングスチャートを制していますが、「Butter」以外の3曲は年間ソングスチャートに入っていません。年度後半のリリース作品は不利ではありますが、いずれも所有指標で好調な曲が、一方では接触指標群が伴っていないためにロングヒットしていない状況です。

BTSが所有指標に偏っている件についてはこのブログで以前からお伝えしている通りです。「Butter」がトップ10目前に迫ったことは凄いことですが、10週首位という2021年度最長記録を達成しながらもソングスチャート全体のランクインが20週というのはやはりバランスに欠けます*1。仮に1週でも長くランクインしていたならば年間10傑も有り得たと思うに、如何に接触指標群を伸ばすかを考えないといけないでしょう。

また世界的にはK-Popの人気が高まっている中にあって、米ビルボードにおいては総合ソングスチャートおよび各指標においてBTS以外はランクインしていません。これもK-Pop全体の課題と言えますが、今の韓国の音楽業界が如何に凄いかをBTSから強く感じるのです。

 

モーガン・ウォレンが制したアルバムチャートと、一方での違和感

先述したウォーカー・ヘイズ「Fancy Like」をはじめ、カントリー歌手がこれまで強いとは言えなかったストリーミング指標でヒットに至り総合でも上位進出する例が見られます。とりわけ成功したと言えるのがモーガン・ウォレンです。

モーガン・ウォレンのアルバム『Dangerous: The Double Album』は初登場から10週連続で首位を獲得、また2021年度の集計期間中は一度として週間チャートでトップ10から外れることはありませんでした。カントリーアルバムの年間チャート制覇は、テイラー・スウィフト『Fearless』(2009)以来となります。

しかしながらモーガン・ウォレンは、2月2日に差別発言等を放った映像が公開されたことで、ラジオ局やサブスクサービスのプレイリストから除外されています。にもかかわらず年間チャートを制することができたのは、アルバムチャートの集計方法が理由にあります。

前述の『サワー』の概要に記述したとおり、昨年に続き今年もデラックス盤のリリースと収録曲の数、そしてシングル・ヒットがアルバムのヒットに直結している。というのも、アルバム・チャートの集計は、ストリーミングを換算する=SEA(Streaming Equivalent Album)と、収録各曲の売り上げをアルバムの売り上げとして換算する=TEA(Track Equivalent Albums)、それからダウンロード数とCDやLP、カセットテープのフィジカル・セールスで構成されていて、ヒット・シングルが収録されているアルバムはTEAが、曲数の多い作品はSEAが上昇しやすい傾向にあるからだ。過去の年間チャートにおいても、シングルとアルバムのヒットは比例してはいるが、曲数で稼ぐという戦略はストリーミング時代ならではの傾向といえるだろう。

『Dangerous: The Double Album』は30曲入りとしてリリースされ、後に3曲が追加されました。この収録曲数の多さがストリーミング再生回数のアルバム換算分(SEA)に大きなプラスとなり、また安定したチャートアクションにつながっています。元々モーガン・ウォレンはカントリー界の中でもストリーミングに強い歌手でしたが、ラジオのボイコット等がストリーミング熱を高めたという皮肉な結果も生まれています。

上記引用部分は英語の記事には掲載されておらず、特に最後の一文は執筆した本家一成さんの私見と言えるでしょう。個人的には強く同意し、曲数が多いほど有利になる米ビルボードのチャートポリシーに疑問を抱きます。その仕組みゆえオリジナル版のリリース直後にデラックスエディションが登場すると考えますが、これでは一度所有した方への配慮が欠けており、その点においてもチャートポリシーの変更を願っています。

 

⑨ オリヴィア・ロドリゴ、今年の新人で最高のチャートアクション

アーティストランキングを制したのはドレイクでした。年間ソングスチャートには6曲がエントリーしていますが、最高位はリル・ダークをフィーチャーした「Laugh Now Cry Later」の45位。一方でアーティストランキング2位のオリヴィア・ロドリゴは年間ソングスチャートにおいて「Good 4 U」(5位)、「Drivers License」(8位)の2曲がランクインしています。

年間アルバムチャートでも『Sour』が2位に入っていますが、モーガン・ウォレン『Dangerous: The Double Album』が30+3曲だったのに対し『Sour』は11曲であり、またデラックスエディションはリリースされていません。ドレイク『Certified Lover Boy』は年間アルバムチャートで5位を記録していますが、同作品は21曲入り。曲数が有利となるチャートポリシーを踏まえるに、オリヴィア・ロドリゴの強さは一目瞭然です。

新人部門(トップ・ニュー・アーティスト)においてはオリヴィア・ロドリゴが堂々のトップに立っており、来年のグラミー賞では間違いなく主役のひとりになるはずです。

 

⑩ クリスマスソングが年間ソングスチャートに登場

最新12月4日付米ビルボードソングスチャートでトップ10入り目前まで上昇したマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が、年間ソングスチャート78位に登場。2020年度が67位であり順位こそ下がっていますが、一方でブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」も2021年度で92位にランクイン。同曲は2020年度、年間100位以内に入っていませんでした。

「Rockin' Around The Christmas Tree」は2020年度年間ソングスチャートにおいてストリーミング指標66位でしたが、2021年度は53位に上昇。マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」も48→47位へ上昇しています(なお2曲ともラジオ指標は75位までに入っていません)。季節を彩る曲はストリーミングの興隆によって盛り上がる傾向が高まっていると言えそうです。

 

 

以上10項目を紹介しましたが、如何だったでしょうか。2022年度も素晴らしい作品に出会えることを願っています。

*1:最後のランクインは10月16日付における58位でした。同日付チャートはこちらから確認できます。