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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードが年間グローバルチャート発表、2021年のチャートトピックスとは

ビルボードが日本時間の12月3日未明、2021年度年間チャートを発表しています。このブログでは昨日、ソングスチャートを主体にアメリカの動向を紹介しました。

今日はグローバルチャートについて紹介します。

 

 

ビルボードが昨秋グローバルチャートを開設して以降、このブログでは動向をお伝えしてきました。グローバルチャートの内容については別途エントリーを用意し説明しています。

また米ビルボードは、グローバルチャート開設後1年が経過したタイミングで報告書を作成しており、その解説も行っています。このブログエントリーの最後に、リンク先を掲載しています。

 

今回の年間グローバルチャートは各種チャートと集計期間が統一されています(2020年11月21日付~2021年11月13付)。それではチャートについてみてみましょう。

 

年間チャートはGlobal 200がこちら、Global Excl. U.S. はこちらから確認できます。そしてその主な結果については下記表にまとめています。

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ビルボードではグローバルチャートの開設記事を用意しています。以下、翻訳内容(意訳)を記載します。

 

(以下は米ビルボードの記事を意訳した内容です。)

 

 

2021年度年間グローバルチャートはデュア・リパ「Levitating」がGlobal 200を、BTS「Dynamite」がGlobal Excl. U.S. を制し、歌手別ではオリヴィア・ロドリゴがGlobal 200、BTSがGlobal Excl. U.S. で頂点に立っています。

 

デュア・リパ「Levitating」は米ビルボードソングスチャートを制したのみならず、世界中のヒット曲を示したチャートをも制しました。一方で米ビルボード同様にGlobal 200でも週間チャートを制していません。

「Levitating」は2020年10月17日付で51位に初登場し、翌年1月16日付で13→8位へ上昇。トップ10入りは通算32週に及びます。トップ10から一度脱落するも再浮上を果たし、最終的には5月後半に最高位となる2位に。なお、その際の首位獲得曲はオリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」でした。

「Levitating」が最後にトップ10入りしたのは9月4日付における8位。その後デュア・リパは、エルトン・ジョンとの「Cold Heart (PNAU Remix)」で11月に5位にランクインしています。

その「Levitating」の週間チャート制覇を阻んだオリヴィア・ロドリゴは、Global 200においてトップアーティストの称号を獲得しました。Global 200では年間200位以内に8曲を送り込み、トップ10においては「Drivers License」(4位)と「Good 4 U」(9位)の2曲がランクイン。主演を務めるドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』関連曲以外では11曲のリリースにとどまりながら、この成績は見事です。

オリヴィア・ロドリゴの快進撃は、1月に「Drivers License」が双方のグローバルチャートで初登場にて首位に立ったことに始まります。同曲はGlobal 200で8週、Global Excl. U.S. では9週その座に就きました。「Good 4 U」もGlobal 200において5月29日付で初登場で首位の座を射止め、6週首位を記録しています。

Global 200年間チャートにおける複数曲エントリーではジャスティン・ビーバーが11曲でトップとなり、オリヴィア・ロドリゴはドージャ・キャットおよびドレイクと並んでいますが、オリヴィア・ロドリゴの特徴は他の歌手とは一切コラボレートを行っていない点にあります。

Global Excl. U.S. においてはBTSの英語詞曲「Dynamite」が年間チャートを制し、BTS自身もトップアーティストを獲得しました。Global Excl. U.S. では同じく英語詞曲の「Butter」も年間チャート5位にランクイン。BTSはGlobal Excl. U.S. において、「Life Goes On」「Permission To Dance」およびコールドプレイとの「My Universe」もそれぞれ1週、首位に輝きました。

Global 200からアメリカの分を除くGlobal Excl. U.S. では海外の歌手が活躍。カナダ出身のザ・ウィークエンドはアリアナ・グランデとの「Save Your Tears」を2位に、「Blinding Lights」を4位に送り込んでいます。またイギリス出身のデュア・リパによる「Levitating」は3位に入っています。

このGlobal Excl. U.S. ではBTS以外に、ジャスティン・ビーバーも複数曲で首位を獲得。ダニエル・シーザーおよびギヴィオンを迎えた「Peaches」は5週、ザ・キッド・ラロイと共演した「Stay」は9週その座に就いています。なおジャスティン・ビーバーはカナダ、ザ・キッド・ラロイはオーストラリア出身となります。

 

これまで採り上げた曲は米ビルボードソングスチャートでもヒットしていますが、グローバルチャート、とりわけGlobal Excl. U.S. においては米ビルボードソングスチャートと正反対ともいえるチャート結果と言えます。その象徴と言えるのが先述したBTS「Dynamite」。米ビルボードソングスチャート、Global Excl. U.S. 共に首位を獲得しながら年間チャートでは前者が41位、後者が首位と大きく異なるのです。

「Dynamite」と同様の例として、バッド・バニー & ジェイ・コルテス「Dákiti」が挙げられます。米ビルボードソングスチャートでは年間チャート28位だったこの曲はGlobal Excl. U.S. において6位にランクイン。その他、イタリアのマネスキンによる「Beggin'」は前者66位に対し後者16位、プエルトリコ出身のラウ・アレハンドロによる「Todo De Ti」はそれぞれ100位、25位となっています。

Global Excl. U.S. で年間25位までに入っている曲のうち、コロンビアのマルーマによる「Hawaii」(年間19位)、イギリスのジョエル・コリー & MNEK「Head & Heart」(年間22位)そして日本のYOASOBIによる「夜に駆ける」(年間24位)は、米ビルボードソングスチャート年間100位以内に入っていません。

 

 

(米ビルボードによる記事の意訳はここまで。)

 

やはりデュア・リパ「Levitating」の強さが際立ち、ロングヒットする曲が年間チャートで上位に進出するという図式は米ビルボードと変わらないと言えますが、一方でBTSがグローバルチャートでより強いことが見て取れます。「Dynamite」以外にも「Butter」は米で11位だった一方でGlobal 200では12位、Global Excl. U.S. では5位となっているのは興味深い動向です。

現在はGlobal Excl. U.S. の週間チャートは米ビルボードの有料会員のみ閲覧可能という状況ですが、Global 200では最新12月4日付(→こちら)において「Butter」が34位にランクイン。英語詞の4曲は同日付で20~86位につけています。グローバルチャートにはリカレントルールは(今のところ)ないということもありますが、これは海外での人気が接触指標の充実に因るものであり、米と異なることが考えられます。

BTSに限らず、Global Excl. U.S. の年間チャート順位がGlobal 200より大きく上回るほど、米での人気が高くないことを示していると言えるかもしれません。米ビルボードの記事で紹介されたマネスキン「Beggin'」やマルーマ「Hawaii」はまさにその一例と言えます。またバッド・バニー & ジェイ・コルテス「Dákiti」はGlobal 200とGlobal Excl. U.S. の順位は共に年間6位ながら、米ビルボードでは年間28位と乖離しています。

逆に、米では順位が高い一方でグローバルではそこまでではないという曲も。米ビルボード年間ソングスチャートトップ10ランクイン曲はGlobal 200で16位、Global Excl. U.S. では23位までに登場していますが、双方のグローバルチャートで最も低かったのはシルク・ソニック「Leave The Door Open」(米年間7位)。時代を超越したサウンドがヒットする中にあって、アメリカらしさが強い曲は世界でヒットし難いかもしれません。

似た傾向として、米ビルボード年間ソングスチャートで25位までに登場した曲のうち、ルーク・コムズ「Forever After All」(米年間18位)、クリス・ブラウン & ヤング・サグ「Go Crazy」(米年間19位)およびマシン・ガン・ケリー & ブラックベアー「My EX's Best Friend」(米年間23位)はグローバルチャートで100位以内に入っておらず、さらに言えばGlobal 200では200位以内に入るもののGlobal Excl. U.S. では未達の状況です。カントリーやヒップホップの人気が米と米以外で差が生じていると言えるでしょう。

(特にカントリーにおいてはラジオ人気が強いのがジャンル全体の特徴と言えますが、グローバルチャートはストリーミングとダウンロードの2指標で構成されラジオを除外していることが大きく影響していると考えられます。)

 

先述の通り、グローバルチャートにはリカレントルールが現在のところは導入されていません。一定週数以上ランクインした曲が一定の順位を下回るとチャートから除外されるというこのルールは新陳代謝を目的に米ビルボードソングスチャートで導入されていますが、グローバルチャートは適用されていないため、数年前の曲もランクインする傾向があります。

トーンズ・アンド・アイ「Dance Monkey」(2019)はその好例で、Global 200で年間22位、Global Excl. U.S. では同18位を記録しています。さらにクイーン「Bohemian Rhapsody」(1975)はGlobal 200で年間87位、Global Excl. U.S. では同92位にランクイン。グローバルチャートをみるとニルヴァーナガンズ・アンド・ローゼズ等の名前もあり、名曲は長く親しまれていることが解ります。

TikTokでの人気曲が上位に登場するのは米ビルボード年間ソングスチャートと同様。米ビルボードの記事にも登場したデュア・リパ「Levitating」やザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」等もさることながら、昨年秋に人気が再燃したフリートウッド・マック「Dreams」(1977)はGlobal 200年間64位、Global Excl. U.S. 年間189位に登場。新旧の作品に関係なく、TikTokが人気を支えていることが解ります。

 

最後に、グローバルチャートにおけるJ-PopおよびK-Popの動向についても比較してみます。
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J-PopおよびK-PopのGlobal Excl. U.S. 年間チャート200位以内ランクインは共に11曲である一方、Global 200となるとJ-Popの3曲に対しK-Popは7曲と倍以上の差がつきます。他方K-Pop人気はBTSに因るところが大きく、J-Popはバラエティに富んでいると言えるかもしれません。

K-Popは特に米ビルボードにおいて顕著ですが、所有指標が強い一方で接触指標群には強くないことを昨日のブログエントリーでお伝えしました。しかしながら先述した通り、世界ではBTS接触指標群が強い状況であり、またBLACKPINKのLISAによるソロ曲「Money」は動画のバズに伴い緩やかに順位を上げ、米ビルボードソングスチャートでも100位以内に到達しました。これはK-Popにおける新しい動きと言えるでしょう。

一方でJ-Popにおいては、年間のグローバルチャートにランクインした曲は総じてストリーミングが強く、ロングヒットする傾向にあります。これらの曲は今週金曜に発表されるビルボードジャパンソングスチャートでの上位登場も予想されており、ストリーミングの支持が世界で活躍するための鍵であることが、このチャートから実証されたと言えるでしょう。とりわけ、英語詞版を用意したYOASOBIの強さが際立つ印象です。

(※注意:「夜に駆ける」は自死をテーマにした作品と言われているため、YouTubeでは閲覧制限および注意勧告を設けています。このブログではこの秋以降、同曲のミュージックビデオ紹介の際、全国のいのちの電話|一般社団法人日本いのちの電話連盟のリンクを掲載しています。掲載理由等はこちらで記しています。)

 

J-PopとK-Popではチャート面においてほぼ互角ですが、BTSのような突出した人気を誇る歌手や作品がJ-Popには少ないとも言えます。今回の結果を踏まえ、日本の音楽業界がどうやって海外の方々に自身の音楽を訴求していくか、業界全体で考える必要があるでしょう。また日本での購入や聴取がグローバルチャートにも影響することや、グローバルチャートの存在自体を日本国内で浸透させることも、有効に作用するはずです。

J-Pop人気拡大のための施策については、グローバルチャート設立1周年での報告書や総括記事が米ビルボードにアップされたタイミングで上記ブログエントリーにて記しています。2022年度年間グローバルチャートでJ-Popが活躍することを願わずにはいられません。

 

 

グローバルチャートのチャートトピックスをお伝えしましたが、如何だったでしょうか。2022年度も素晴らしい作品に出会えることを願っています。