音楽チャートをチェックしていくと時折興味深い動きに遭遇します。その気付きを与えてくれるのが、ビルボードジャパンのCHART insightという機能。是非体感していただきたいと思います。
「所有」と「接触」を組み合わせたヒットチャートは日本ではまだまだ馴染みがありません。それらの複数のデータがどう関連して総合順位が決まるのを知っていただきたいという思いから、「体験型ヒットチャート」=「CHART insight」というアイディアが生まれました。チャートページでは、各指標をソートしたり、期間を設定したり、グラフページでは、別の曲と比較したり、関連ニュースをまとめて読むことが可能です。この解析サービスには、ヒットチャートをもっと楽しくする機能が満載です。ぜひ触ってみて下さい。
・【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANより
有料会員は総合および各指標100位まで確認できますが、無料会員は20位まで。それでも十分ヒットの中身が解ります。なお有料会員のみが知り得る情報を公開することはマナーに反するため、このブログでは無料会員でもチェックできる部分のみ公開しています。
さてCHART insightに触れた結果、「ラジオ体操 第1」がヒットしていることが解りました。
最新6月9日公開(6月14日付)ビルボードジャパンソングスチャートではカラオケ指標が23位にダウンするも、その前2週は14→13位と推移。カラオケでのヒットが可視化されたのみならず、総合順位(黒の折れ線で表示)もほぼ毎週、100位未満ながら300位圏内に入っていることが解ったのです。
CHART insightにおいて、「ラジオ体操 第1」が総合300位以内に初めて登場したのは2018年12月5日公開(同年12月10日付)において。2019年度初回となるこの週、ビルボードジャパンはソングスチャートを構成する指標にカラオケを追加しました。
ビルボードジャパンの総合チャートに“カラオケ”指標が誕生! 大手2社による初のデータ提供が実現 https://t.co/zPxuMVR0vH pic.twitter.com/wcbOgaLxzO
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2018年11月29日
緑の折れ線で表示されるカラオケ指標のみを抽出したのが上記。「ラジオ体操 第1」はカラオケ指標追加初週から総合でもランクインしており、カラオケがこの曲のヒットを後押していることが解ります。一方でグラフの中間あたりにブランクがあるのは、コロナ禍による昨年の緊急事態宣言を踏まえてビルボードジャパンがカラオケ指標の集計を一時停止したことに因るもの。
<総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”について>
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2020年4月10日
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、政府による緊急事態宣言などで外出自粛が求められている状況を鑑み、2020年4月14日発表分より当面の間、カラオケ指標の集計を取り止めることに致しました。何卒ご了承くださいますようお願い致します。
2020年4月15日公開(同年4月20日付)~6月24日公開(6月29日付)の11週に渡ってカラオケ指標は集計停止となっていましたが、「ラジオ体操 第1」はこの期間ずっと総合300位未満というわけではありません。
「ラジオ体操 第1」のCHART insightのうち、昨年はじめから夏にかけての30週分を抜き出したのが上記。72~82週目がカラオケ指標取り止め期間に該当しますが、総合300位未満はわずか3週にとどまっています。これはこの期間、フィジカルセールス(黄)およびダウンロード(紫)が300位以内に入り、これら所有指標が総合順位を牽引したためです。
(なお上記CHART insightは、総合チャートやカラオケ以上にフィジカルセールスやダウンロードを際立たせる形で表示しています。)
そもそもカラオケにおける「ラジオ体操 第1」の人気は、主にご年配の方々の需要に支えられていました。
カラオケボックス等で歌われた一方で、高齢者・介護施設においても多くの方にカラオケで楽しんでいただいた。「ラジオ体操」が1位となり、その他ラジオ体操関連楽曲が10位内で4曲を占める結果に。外出自粛要請により、カラオケ機器を使って身体を動かした施設利用者が多かったことが伺える。
第一興商のDAMによる、昨年の高齢者・介護施設におけるカラオケランキングを制したのが「ラジオ体操 第1」であり、施設のカラオケ導入やラジオ体操がルーティンとなっていることが見て取れます。一方でカラオケ未導入の施設をはじめ、コロナ禍で身体を動かさないといけないと考える方々が昨年の緊急事態宣言発令時にCD等を購入したことで、先述した所有指標の増加および総合順位の維持につながったと言えるでしょう。
その後もコロナ禍が続き身体を動かすことがルーティンとなった方が増えたこと、またランキング登場や履歴での出現に興味を持ち再生する人が出てきただろうことがカラオケ需要を高めたと想像できますが、この数週における高水準にはどうやらドラマの影響がありそうです。
5月15日に放送されたドラマ『コントが始まる』(日本テレビ)の冒頭、コントに登場したのが「ラジオ体操 第1」。放送翌日までを集計期間とする5月19日公開(5月24日付)ではカラオケ指標58位でしたが、翌週以降2週連続で14→13位にランクインしています。ドラマの影響でカラオケにおける「ラジオ体操 第1」の需要が高まったことによりカラオケ指標でトップ20入りし、CHART insightでヒットが可視化されたのです。
「ラジオ体操 第1」のチャートアクションは、ヒットするには理由があるということを実感できる事例と言えます。そして「ラジオ体操 第1」をカラオケに導入した/導入を許可したことは英断だったのではないでしょうか。