イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

SixTONESによる動画投入策の影響は、そしてチャートアクション増幅のために必要なこととは

先週のこの日、ビルボードジャパンが上半期チャートを公開しました。このブログでも同日、ソングスチャートを中心に総括エントリーを公開していますので是非ご参照ください。

この上半期チャート、アルバム部門を制したのはSixTONES『1ST』でした。フィジカルセールス、ダウンロードおよびルックアップ(パソコン等に取り込んだ際、インターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる回数)の3指標で構成されるアルバムチャートにおいて、デジタル未解禁の『1ST』は1指標欠けた状態でトップに立っています。

レンタルの動向も推測可能なルックアップで常時トップ10内をキープしていることからライト層への浸透も見て取れるSixTONES『1ST』ですが、今回注目したいのはフィジカルセールスの推移。4月以降週間売上枚数は1000枚台となっていますが、決して右肩下がりではないのです。

f:id:face_urbansoul:20210611053931p:plain

f:id:face_urbansoul:20210611052743p:plain

グループとしてのYouTube活動、グループやソロでのメディア出演の多さでその名が浸透してきているとして、フィジカルセールスの安定は特筆すべきと言えます。これは同じジャニーズ事務所所属で、上半期アルバムチャートでトップ10入りしたHey! Say! JUMP『Fab! -Music speaks.-』(6位)、ジャニーズWEST『rainboW』(7位)、Sexy Zone『SZ10TH』(9位)とは異なる動きです。

f:id:face_urbansoul:20210611054143j:plain

f:id:face_urbansoul:20210611054240p:plain

f:id:face_urbansoul:20210611054340p:plain

上記は先述した3作品における6月9日公開(6月14日付)でのチャート推移(CHART insight)。オレンジの折れ線で表示されるルックアップの高さはライト層へのリーチの証拠と言えますが、フィジカルセールス(黄)が右肩下がりに近く、総合(黒)がそれに沿う形でダウンしています。Sexy Zone『SZ10TH』はベストアルバムという特性上、オリジナル作品よりもルックアップが高くなる傾向があると言えますが、SixTONES『1ST』はこれら3作品よりも高いチャート推移を示しているのです。


アルバム初作が伸びやすいという傾向もあるでしょうが、今回大きな要因と捉えているのがアルバムリリース後の施策と考えます。

アルバムのリリースタイミングでミュージックビデオが公開された「うやむや」(通常盤収録)について、新たな動画を作成するという試みがYouTubeに投稿されたのはゴールデンウイーク後半のこと。

5月中旬には、アルバム本編に収録された「Lifetime」のミュージックビデオが公開。動画はフルバージョンではないというのはジャニーズ事務所所属歌手の作品にほぼ共通する傾向ですが、5月のフィジカルセールスを維持したのはこれらの投入があるゆえと思われます。

「Lifetime」公開のおよそ1週間前には、今年2月リリースのシングル「僕が僕じゃないみたいだ」の初回盤Aに収録された「Strawberry Breakfast」のミュージックビデオも公開。「僕が僕じゃないみたいだ」は全バージョンがレンタル可能ですが、フィジカルセールスは5月12日公開(集計期間:5月3-9日)が1,256枚だったのに対し、動画公開日を集計期間に含む翌週は2,517枚と倍増。「僕が僕じゃないみたいだ」の総合順位も100位未満(300位圏外)→88位と上昇したのです。

 

 

海外ではアルバムリリース後のシングルカットが多い一方、アルバムをひとつの区切りと考え早いうちに次のフェーズに入る歌手が多い日本において、SixTONESは『1ST』の1ヶ月後に「僕が僕じゃないみたいだ」を発表しながらもそのカップリング曲やアルバム収録曲の動画を5月に連投し、それらがフィジカルセールスや総合順位に影響を与えていることが見て取れます。この戦略はYouTubeチャンネルがなくとも影響を及ぼしたでしょうが、YouTubeチャンネルを持つことでより有効に作用したはずです。

 

動画を機にフィジカル購入に動いた方はネット経由で買ったとも考えられる一方で、実店舗に出向いたことも想像できます。しかし、YouTubeを含むメディアを受けてのリアクションはダウンロードによりはっきり反映されます。直近6月9日公開(6月14日付)では集計期間中に『ボヘミアン・ラプソディ』がテレビ放映されたことで、クイーン関連作品がダウンロードチャートで100位以内に4作、うち3作が11位までに登場しました。

他方で同日付のフィジカルセールスではサウンドトラックの85位を最高に、100位以内に2作品が入るのみ。瞬発力ではデジタルのほうが勝ると言えます。

このメディアに触発されたユーザーの行動については、現在は所有指標が強くとも今後接触指標に移行する可能性が考えられるのですが、これらについては今週ビルボードジャパンが配信したポッドキャストにて言及されています。

 

メディアに触発されたユーザーの行動がフィジカルよりダウンロードに、そして今後は接触指標に移行するだろう点においても、デジタルに明るくない作品や歌手はチャート上で成果を上げることがより難しくなるかもしれません。

とはいえ、フィジカルセールスにも少なからず影響が及ぶことは事実。上記ポッドキャストではビルボードジャパン側が、下半期におけるソングスチャートでのフィジカルセールス指標ウェイト減少というチャートポリシー変更がフィジカルセールスを決して無視するものではないと強く述べていますが、今回紹介した『1ST』や「僕が僕じゃないみたいだ」の動きはその見解のひとつの証明と言えるかもしれません。またフィジカルはデジタル以上に購入金額もかかるため、フィジカルセールス購入という行動をコアなファンへの昇華と捉えることも可能です。

 

その一方でデジタル未解禁は、タイムラグなく即座に購入や聴取したいという方の取りこぼしにつながりかねません。仮にデジタル解禁が十分行われていたならばチャートアクションがより大きくなったのではないかと思うに、デジタルを解禁しない作品のチャートの動きには限界があると考えることもまた可能なのです。

 

SixTONESが5月の施策から何を学び、次に生かしていくかが気になります。新曲アナウンスの際にRYO@音楽ブログさんが述べた以下の内容に、個人的には強く賛同し、そして強く期待しています。