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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

にしな「ヘビースモーク」、ビルボードジャパントップ40入りもそのヒットが局地的という課題をどう解消するか

最新4月14日公開(4月19日付)ビルボードジャパンソングスチャートで前週より52ランクアップし32位につけたのが、にしな「ヘビースモーク」です。

この「ヘビースモーク」、最新チャートではラジオ指標を制しています。

各所で大きな注目を浴びている女性シンガー・ソングライター、にしなが4月7日にリリースした1stアルバム「odds and ends」からの同曲。全国広範囲の多数ステーションで4月度のパワープレイに選出されていることから大量オンエアが約束されるなか、リリース週を迎えた今週さらに急伸。前週からオンエア数が倍増するとともに、リクエストも同じく倍以上となる数が集まっており、その“やさしくも儚く、中毒性のある声”の虜になったリスナーが増えていることが窺える。

ビルボードジャパンにラジオ関連データを提供するプランテックのラジオOAチャート(ミュージックマン掲載)によると、4月14日公開(4月19日付)ビルボードジャパンソングスチャートと集計期間を同一とするラジオOA数チャートでは、OA回数が倍増しています。

(このプランテックのデータはビルボードジャパンのラジオ指標の基となりますが、指標化の際に聴取可能人口等が加味されます。)

 

上記記事にもあるように、「ヘビースモーク」はにしなさんのファーストアルバム、『odds and ends』の収録曲。インディ在籍時代からメジャー(ワーナーミュージック・ジャパン)に移籍しアルバムをリリースするまでに7曲ものデジタルシングルをカットしていますが(Spotify調べ)、「ヘビースモーク」はリリースの1週間前に配信を開始しておりアルバムの実質的なリード曲となっています。

元々「ヘビースモーク」はインディ時代から歌い続けてきた曲であり、アコースティックを基調とする歌手が多くライブを行った四谷天窓によるコンピレーションアルバムにも収録。ちなみに四谷天窓については、閉店のタイミングでブログに自分の思いを綴っています(→こちら)。

ソニーミュージックのアーティスト養成講座であるthe LESSON出身でぷらそにかにも参加していたということで、YOASOBIのikuraこと幾田りらさんとの共通項があるにしなさん。その声は川谷絵音さんに認められ、川谷さんのプロジェクトである美的計画の第一弾楽曲でボーカルを務めています。

今年冒頭にはSpotifyが発表した【RADAR:Early Noise 2021】の10組にも選出されたことで、にしなさんの注目度は好事家を中心に高まっているものと思われます。

 

それゆえ「ヘビースモーク」のチャート上昇に納得しつつ、しかしながらチャート推移(CHART insight)からは気になる点が浮かび上がります。

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上記チャート推移において緑の折れ線がラジオ指標、黒が総合の順位を示すのですが、ラジオ指標を制した「ヘビースモーク」はほぼそのポイントのみで総合40位以内に登場。ラジオの強さを如実に示している一方で、Twitter以外のデジタル関連指標がひとつとしてカウント対象となる300位以内に入っていないのが気掛かりなのです。水色で示されるTwitter指標も300位以内ではあれど100位圏外であり、現段階における「ヘビースモーク」は局地的ヒットと言えるでしょう。

 

 

先に幾田りらさんとの共通項を示しましたが、にしな「ヘビースモーク」がYOASOBI「夜に駆ける」のブレイク初期と大きく異なる点はラジオの盛り上がるタイミングにあります。昨年以降複数登場した、「夜に駆ける」をはじめとするTikTokYouTube等動画発端のヒット曲はそのブレイク初期においてラジオが追いついていないということを、瑛人「香水」を取り上げた下記ブログエントリーにて記しています。つまり、「夜に駆ける」「香水」と「ヘビースモーク」のヒットに至る動きはある種真逆なのです。

 

気になるのは、7曲ものアルバム先行曲がありながらもラジオOAが「ヘビースモーク」に集約されている点。推測の域を出ませんが、おそらくレコード会社や芸能事務所側がひとつの曲にOAを集約するようお願いした可能性があると考えられます。先述の記事には『全国広範囲の多数ステーションで4月度のパワープレイに選出』とありますが、このパワープレイ(ヘビーローテション)には放送局や番組毎のこだわりもありつつ、レコード会社等の推薦も影響するだろうことから、「ヘビースモーク」にOAが集中しているのではと捉えています。仮にそうならば、ラジオでのヒットはある意味”作られたもの”と言えたかもしれません。 

”作られたもの”という表現はいやらしいかもしれません。しかしレコード会社等にとって正当なプロモーション手段であることには間違いなく、ラジオで大量OAを稼いでいるのは立派なことです。そして最新チャートにおいては『前週からオンエア数が倍増するとともに、リクエストも同じく倍以上となる数が集まって』おり、当初のOAが仮に作られたものであったとしてもそこから徐々にリスナーに浸透してきていることは間違いありません(『』内は上記ミュージックマンの記事より)。

 

「ヘビースモーク」の課題は、ラジオ以外の指標の盛り上げにかかっています。ラジオは早々に失速する傾向にあり、他指標を伸ばさなければいけません。最近ではHakubi「在る日々」が2月10-17日公開(2月15-22日付)ビルボードジャパンソングスチャートのラジオ指標を制しながら他指標で300位以内、総合で100位以内に入ることができず、3月5日公開(3月10日付)でラジオ指標も総合もランク外となってしまった経緯があるゆえ尚の事です。

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他方、にしな「ヘビースモーク」には希望が見えたとも言えます。ラジオリクエスト数の倍増もさることながら、サブスクにおいては日本のSpotifyデイリーチャートにおいて最新4月15日付まで10日連続で200位以内にランクインしており、芽が出ていることが実感できます。

 

 

にしな「ヘビースモーク」が盛り上がり、大きな花を咲かせるためにはどうすればよいでしょう。個人的には、たとえば今のにしなさんによるアコースティック弾き語りバージョンの「ヘビースモーク」を動画等で発表し、歌ってみた動画を誘発することを勧めたいと思います。

(上記は3年前の映像。)

「ヘビースモーク」はその歌詞や曲調が日常を映す動画のBGMに使われやすいのではと感じていますが、動画BGMに用いられるためには何より曲自体の浸透が欠かせないと思うのです。昨年以降ブレイクした動画発のヒット曲においては数々の歌ってみた動画が投稿されたことでヒットの礎を築き、そして曲自体もアコースティックを基調としたシンプルな作品が多かったわけです。動画に取り入れやすいと思わせるきっかけを作るためにも、アコースティックバージョンを用意することが重要ではないでしょうか。

またラジオ局には、OA曲のサブスクプレイリストを用意することを望みます。OA曲検索はできますが、気になったリスナーが曲に接触したり所有するのにたどり着くための導線を用意することはリスナーにとっても、レコード会社や芸能事務所にとっても意味のあることだと思うのです。ともすればサブスクをライバル視している局もあるかもしれませんが、共存するほうがより好いと捉えています。