イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) 三浦大知「片隅」のチャートアクションが高くない状況に…その原因と今後の改善策を考える

先週水曜に発表された、6月24日付ビルボードジャパンソングスチャートで22位にランクインした三浦大知「片隅」について、そのチャートアクションに関する私見を記載します。

 

 

最新週でシングルCDセールスおよびルックアップ指標が初加算となった「片隅」ですが、初加算週での22位、2289ポイントという数値は共に、大ブレイクを果たすきっかけとなった「Cry & Fight」(2016)以降のシングルCD表題曲では最も低くなりました。水曜のビルボードジャパン各種チャート発表時、気掛かりとつぶやいたのですが。

通常ならばその原因等を自分なりに解析した上でブログに掲載するものの、今回はツイートの段階でその原因と思しきものを掲載したこともあり、三浦大知さんファンから少なからず混乱と困惑を招いたとの指摘をいただきました。遅ればせながらお詫び申し上げます。

 

 

ではあらためて、今回のチャートアクションの原因をまとめてみます。まず、最新週に至るまでの「片隅」のチャートアクションを記すと。

※各指標について

 ・ポイント:総合ポイント

 ・ポイント前週比:前週および当週共に50位以内にランクインした場合のみ計算(50位未満は総合ポイントが表示されない)

 ・上記の理由により50位未満、総合ポイントで比較不能時は※で表示

 ・各指標について

  (詳細はビルボードジャパンの自問自答 | Special | Billboard JAPANをご参照ください)

   CD:シングルCDセールス

   DL:デジタルダウンロード

   ST:ストリーミング

   RA:ラジオエアプレイ

   LU:ルックアップ

   TW:Twitter

   MV:動画再生

   KA:カラオケ

 ・各指標毎順位において

   [-]:ランク圏外(101~300位)

   [ ]:(ブランク):ランクインせず(カウント対象前を含む)

   [?]:未表示もしくは計算不能

※これらはCHART insight | Billboard JAPANから曲名をクリックすると確認可能

日付 ポイ
ント
前週
総合
順位
CD DL ST RA LU TW MV KA
2019/4/22   53   15       21    
2019/4/29 89   80 -     20    
2019/5/6 -   -       42    
2019/5/13                  
2019/5/20 -   -            
2019/5/27 -   -            
2019/6/3 -   94            
2019/6/10 -   72       22    
2019/6/17 -   87   -        
2019/6/24 2289 22 14 46   23 11 16    

 これまでの楽曲の動向は上記ツイートのリンク先に記載していますが、ここで比較として3曲挙げてみます。いずれもシングルCD初加算週を含む4週分です。

・「U」

 (2017年8月2日シングルCDリリース、7月12日デジタルダウンロード配信開始)

日付 ポイ
ント
前週
総合
順位
CD DL ST RA LU TW MV KA
2017/8/7 ?  ?      47   46    
2017/8/14 3659 8 7 29   3 13 13  
2017/8/21 1297 35.4% 42 45 47   13 26 93  
2017/8/28 76 78 89   27 28    

 

・「Be Myself」

 (2018年8月22日シングルCDリリース、8月1日デジタルダウンロード配信開始)

日付 ポイ
ント
前週
総合
順位
CD DL ST RA LU TW MV KA
2018/8/27 99       15   55  
2018/9/3 3688 11 12 12 2 14 52  
2018/9/10 1961 53.2% 27 66 47 55 3 23  
2018/9/17 969 49.4% 46 89 72 14 34    

(※ 2018年度まではカラオケ指標は導入されておらず加算対象外。)

 

・「Blizzard」

 (2018年12月19日シングルCDリリース、11月9日デジタルダウンロード配信開始)

日付 ポイ
ント
前週
総合
順位
CD DL ST RA LU TW MV KA
2018/12/24 3518 11   12 42 3   2 9  
2018/12/31 7400 210.3% 2 5 8 14 2 8 3 5  
2019/1/7 4828 65.2% 6 25 10 16 10 14 5 5  
2019/1/14 3548 73.5% 10 19 20 17 10 16 14 9 -

「Blizzard」は映画の大ヒットもあって突出した動きを示していますが、他方自身が出演したCMソングの「Be Myself」および深夜ドラマの主題歌「U」と、タイアップの付いた以前のシングル群に「片隅」は及んでいないことが解ります。


この比較により、「片隅」の弱点がいくつか見えてきます。

① デジタルダウンロード指標の順位が低い

② ストリーミング指標が300位以内に入っていない

③ ラジオエアプレイ指標の順位が低い

Twitter指標の順位が高くない (特に「Blizzard」との比較において)

⑤ 動画再生指標が300位以内に入っていない

これらのうち⑤については、昨夏「Be Myself」をリリースした後に提示しています。

その後、「Blizzard」が今年上半期のビルボードジャパンソングスチャートで13位に入ったこと(【ビルボード 2019年上半期HOT 100】米津玄師「Lemon」2018年年間に続いて総合首位獲得 あいみょん 「マリーゴールド」が続く(コメントあり) | Daily News | Billboard JAPAN(6月7日付)参照)やそのヒットの要因(下記ブログエントリーに記載)をみるに問題点をクリアしたものと思っていたのですが、対照的な結果になってしまったように思います。

付け加えるならば、今回はラジオエアプレイも非常に低い結果に。この原因はどこにあるのでしょうか。

 

 

今回の「片隅」におけるスケジュールを確認してみます。

・4月1日 ドラマ『白衣の戦士!』(日本テレビ)の挿入歌を担当決定とのアナウンス

・4月10日 シングル「片隅 / Corner」(ダブルAサイド)のシングルCD発売日がアナウンス

     「片隅」がドラマ挿入歌になることが発表

     『白衣の戦士!』放送開始

・4月11日 「片隅」デジタルダウンロード配信開始、ストリーミング解禁

・5月28日 「片隅」ミュージックビデオ(YouTubeバージョン)解禁

・6月5日 LIVE DVD & Blu-ray『DAICHI MIURA LIVE TOUR ONE END in 大阪城ホール』より「飛行船」映像解禁

・6月11日 「片隅 / Corner」特設サイト公開→こちら

     「Corner」デジタルダウンロード配信開始、ストリーミング解禁

・6月12日 「片隅 / Corner」シングルCD発売

     LIVE DVD & Blu-ray『DAICHI MIURA LIVE TOUR ONE END in 大阪城ホール』より「Blizzard」映像解禁

 LIVE DVD & Blu-ray『DAICHI MIURA LIVE TOUR ONE END in 大阪城ホール』は6月24日付オリコン週間ブルーレイディスクランキングを制覇しているのとは対照的と言えそうですが、初週のシングルCD売上枚数をみると「Be Myself」(映像盤有り無しの2種での販売)が12634枚だったのに対し「片隅」(映像盤有り、DVDかブルーレイの違いによる2種での販売)は8962枚。この差を大きいとみるか否かは評価が分かれるかもしれません。

 

しかしながらシングルCDセールス同様に”所有”を示す指標であるデジタルダウンロードが低いのが気掛かりです。デジタルダウンロードはシングルCDリリースに先駆けて配信開始されていてもシングルCDセールス指標初加算週に上昇する傾向がある(ゆえに、CDをデジタルが駆逐するとは言えないだろうというのが私見な)のですが、今回は再浮上はしてもそこまでの上昇には至っていません。デジタルダウンロードは先行配信された際にファンが購入(後にシングルCDも購入しますが前もって音源は手に入れたいというファン心理があるでしょう)、CDが出たタイミングで曲のリリースを知り気になった知ったライト層、すなわち歌手のファンというわけではないが曲や歌手に好印象を抱いている方が買う傾向があるものと捉えていますが、そのライト層にいつも以上に届いていないのではないかと思うのです。その理由のひとつには、「片隅」が今に至るまでテレビで披露されていないことが挙げられると思います。また、シングルCDは2種とも映像盤が同梱され、CDのみのバージョンがないことで価格が高くなり買い控えが生じた可能性はゼロではないかもしれません。映像盤がマルチアングル収録とのことでそのこだわりは解れど、ライト層にどこまで訴求出来たのかが気になります。

 

その”届いていない”だろうことは、ライト層のファーストコンタクトとしての位置付けになると思しき”接触”指標群、ストリーミングおよび動画再生の少なさから察することが出来ます。ただし、動画再生指標が300位以内に入っていない理由にはもしかしたら【ISRC未付番によりカウントされない】可能性もあるかもしれません。YouTubeでのミュージックビデオにおける動画の説明欄(”もっと見る”とクリックすると表示されます)には動画の著作権管理団体等が記載されていないのが引っかかっています。ISRC付番の有無とビルボードジャパンでの集計可否については(追記あり) 三浦大知のチャートアクションが内容の良さに追いついていない…その原因と改善策を探る(2018年9月17日付)の最後の方で言及していますが、「片隅」はミュージックビデオ解禁から現在までに120万を超える再生回数を記録しており、仮に「Blizzard」を機に海外のファンの方が増えたとしても動画再生指標は日本での再生回数が加算対象となるゆえ、同指標で300位以内に達しないのは未付番が理由ではないかと考えるに至っています(ただし、未付番だと断言することは出来ません)。

いや、実際はISRCの加算対象であったかもしれません(そうであれば、この仮説をTwitter等で言及したことをお詫びします)。その場合、動画再生指標が300位に満たなかった別の仮説も出てきます。それは、接触を示す指標群の全体の再生回数が増加し各指標の300位のレベルが高まったことで「片隅」は再生回数が一定数あったとしても300位以内に入らなかったという可能性。この仮説については、6月17日付のビルボードジャパンソングスチャートにおけるストリーミング指標の解説で興味深い指摘が。『当週と昨年の同時期(2018年6月18日付チャート)の再生回数と比べると、トップ100の平均が150%増なのに対し、トップ10の平均は226%』とあり(『』内は【ビルボード】Official髭男dism「Pretender」が歴代最高記録を更新しストリーミング3連覇 菅田将暉が2位に初登場 | Daily News | Billboard JAPAN(6月12日付)より)、ストリーミングは全体のレベルが底上げされていることが解ります。ゆえに、仮にテレビ出演等を果たし昨年並のストリーミング再生回数を稼いだとしても順位は低くなるというわけで、スマートフォンの普及や月々のデータ通信量の上限が上昇している傾向等を踏まえるに、動画再生にも波及しているものと考えます。

仮にISRC付番済でも全体のレベルの底上げにより埋もれてしまったのであれば、個人的にはショートバージョンでの公開が気になっています。ショートバージョンが再生回数を稼げず他指標にも波及しないだろうこと、そして「片隅」が前作から一転してショートバージョンでの公開となったことに違和感を覚えるということは、以前まとめて記載しました。

一度フルバージョンで公開した「Blizzard」で成果を出した後にショートバージョンに戻すという手法は、映像盤同梱のCDを購入するわけではないライト層(のみならず、CDプレイヤーを持っていないファンもいらっしゃるかもしれません。その根拠はCDの購入が音楽に触れる最善の選択肢なのか? この1ヶ月の出来事から考えてみる(6月22日付)で引用した調査等からも推測出来ます)にとってはモヤモヤが生じるのではないでしょうか。それも上の疑問視エントリーで書きましたが、短尺へのエディットの仕方があたかもショートバージョンでも1曲として成立しているように錯覚してもおかしくないゆえ、尚の事です。

 

”全体のレベルの底上げ”については、Twitterでも同様のことが言えるでしょう。「Blizzard」におけるいわゆるファンを主体とした活動、いわゆる”ブリ活”がチャートアクションで功を奏したことを踏まえ、今回も同種の活動が行なわれたかもしれませんが、埋もれてしまった可能性があります。

※追記 (6月26日 8時38分)

なお、Twitterにおける全体のレベルの底上げに関しては思うところがあり、新たにブログエントリーを記載しました。

 

最後にラジオエアプレイ指標ですが、(追記あり) 三浦大知のチャートアクションが内容の良さに追いついていない…その原因と改善策を探る(2018年9月17日付)において、「Be Myself」まではチャートアクションが伴っていなかったとしてもラジオエアプレイが常時、非常に高いことが利点だと記載しました。しかしながら今回は同指標23位と伴っていません。ラジオ局は以前から三浦大知さんの実力を知りながらテレビ出演が叶わない状況を憂い応援していた(ゆえにOA数が多かったもの)と捉えているのですが、この数年で一気に認知度が上昇したこと、そして「Blizzard」の大ヒットにより進んで応援することをしなくなった可能性があるかもしれません。また、彼のチャレンジングな姿勢といえば今回は「Corner」に強く表れていますが(後に紹介するサイト等でその姿勢を確認出来ます)、そちらをラジオ局や番組が推していたとしても解禁日が発売週だっただろうことを踏まえれば、同週のラジオエアプレイにおいて「片隅」と「Corner」の票割れが起きていただろうことも否めません。出来れば2曲双方を聴き比べる形でかけたならばリスナーにとっても刺激的だったと思うゆえ、聴き比べによる票割れだと信じたいところですが。

 

 

以上、今回のチャートアクションの原因を列挙してみました。では、今回はどうすればよかったのか、そして今後につなげるにはどうするのが好いか考えてみます。

 

まずはテレビ出演が必須でしょう。今後夏にかけてテレビ局各局が長時間の生放送音楽番組を組み、既に三浦大知さんの出演がアナウンスされているところもあります。そこで「片隅」を披露して息の長いヒットを狙うこと、そして次の作品のリリース以降は新曲リリースのタイミングでテレビ出演することが必要になるでしょう。今のテレビ局が特番攻勢、言い換えれば通常番組が毎週放送されない状況にあるゆえ、最高のタイミングでテレビ出演することは難しくなっているのですが、特に『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)効果は非常に大きいとみています。

さらには動画再生指標において、「Blizzard」でフルバージョン公開したもののショートバージョンに戻したことの功罪を必ず顧みて、罪のほうが多かったならばフルバージョンでの公開を行うことも検討しないといけませんし、ISRCの付番を今一度徹底する必要もあります。またデジタル解禁からシングルCDリリースに至るまでの曲への興味を落とさぬべく、公開等のタイミングを工夫することも効果的です。たとえば米津玄師「Lemon」のようなデジタルダウンロード→ミュージックビデオ→シングルCD→レンタルという4段階解禁や、星野源「アイデア」(シングルCD未リリース)のようにほぼ全ての指標を月曜解禁という手段は有効と言えるでしょう。

ただ単にデジタル先行配信を常態化するのではなく、先行配信に意味を持たせることが重要です。同時配信にするならば、発売週にどれだけのインパクトを持たせられるかが大事だと考えます。デジタルとは別に、ラジオ番組での最速オンエア等ラジオでの仕掛けを図ることも重要でしょう。

 

 

さて今回のシングルCDにおいて、個人的に興味があるのは、「片隅」のメロディラインを用いた「Corner」の存在。

非常に面白い試みがされており、「片隅」を聴いた方は「Corner」を聴いてきっと驚くことでしょう。下記記事は主に三浦大知さんの声に着目したものですが、「Corner」についても説明されています。

この対になった2曲から思い出したのが平井堅「POP STAR」(2005)と「fake star」(2007)。対を成しているというこの2曲のマッシュアップとなる「POP STAR×fake star (MASH UP version)」も制作され、「fake star」のカップリング等に収録されています。

この手法を用い、「片隅」と「Corner」をマッシュアップしたバージョンを制作して音楽番組で披露すると、受け手に与えるインパクトは大きいのではないでしょうか。双方の曲への興味が生じ、またマッシュアップという手法も知らしめることが出来ると思うのですが如何でしょう。さすがに「片隅 / Corner」に追加収録してシングルCD化というのはコストがかかるのみならず元のCDを買った方には負担が増えるゆえお勧めは出来ませんが、ひとつの策にはなるかと思います。