イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

藤井風『HELP EVER HURT NEVER』のロングヒットはテレビ番組の影響だけにあらず

藤井風さんのアルバム、『HELP EVER HURT NEVER』が依然として好調です。YouTubeで注目を集め、「何なんw」や「もうええわ」といった興味を惹くタイトルでも認知度を高めていきましたが、それら先行曲を収録したアルバム『HELP EVER HURT NEVER』は、CD初加算週にビルボードジャパンアルバムチャートを制しています。同作については、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日 日曜23時)で特集された後のチャートアクションを8月末に紹介しました。

番組効果で総合6位に返り咲いて以降、安定したチャートアクションを示しています。最新10月12日付の動向は下記に。

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9月22日火曜には『報道ステーション』(テレビ朝日 月-金曜21時54分)にて取り上げられたことで、同日を集計期間に含む10月5日付では総合12位に浮上。高値安定の一因となっています。

 

さて昨日は、ビルボードジャパンアルバムチャートで丸一年ランクインしたOfficial髭男dism『Traveler』について取り上げました。ロングヒットの要因には『アルバムリリース以降の新曲投入ならびにテレビ出演でのインパクトが刺激になったこと』が挙げられます(『』内は下記ブログエントリーより)。

他方、藤井風さんについてはアルバム後に新曲はリリースしておらず、メディア出演もラジオこそあれどテレビはほぼ皆無、ましてや音楽番組への出演は未だないはずです。その状況でロングヒットにつながっている(そのことは、最新10月12日付のビルボードジャパンアルバムチャート上位20作品の中で『Traveler』に次ぐ20週という在籍週数を誇っていることからも明らか)のはなぜでしょう。

 

 

藤井風『HELP EVER HURT NEVER』のロングヒットに大きく貢献したのは、アルバムからのリード曲となる「優しさ」の強さにあります。

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アルバム初登場週に黒の折れ線で表示される総合ソングスチャートで34位に浮上、また緑で示されるラジオエアプレイでは3位まで上昇した「優しさ」。ラジオエアプレイはラジオスタッフのお勧め曲が多く流れ流行を先取りせんとするラジオ側の気概が表れることから、ラジオがいち早く藤井風さんの魅力に気付いたと言えるでしょう。このラジオの気概はちゃんみな「Never Grow Up」でも証明されています。

ラジオのピーク後にはサブスクの再生回数に基づくストリーミング指標(青の折れ線で表示)が下位ながらもピークを迎え、こちらは現在まで一度も300位圏外となることはなく同指標は加算され続けています。日本のSpotifyデイリーチャートでは「優しさ」が最高62位を記録し、最新10月7日付では84位にランクイン。『HELP EVER HURT NEVER』のサブスク解禁、ならびに収録曲のミュージックビデオをフルバージョンできちんと解禁していることで、リード曲のラジオによる受動的接触に加えてサブスクや動画再生による能動的接触も高まり、興味はありながらもファンというわけではなかったライト層を所有行動へ昇華させることにつながったのではと考えます。接触指標の充実が所有指標に昇華することは昨日のOfficial髭男dism『Traveler』でも紹介していますが、『HELP EVER HURT NEVER』においてはミュージックビデオ未制作曲でも公式オーディオを用意し、すべての方が聴取可能になっているのは素晴らしいですね。下記キャプチャはYouTubeでの『HELP EVER HURT NEVER』プレイリストとなります。

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ミュージックビデオでいえば、『HELP EVER HURT NEVER』からはアルバムリリース前の3曲に続き、リリース後には「キリがないから」そして「帰ろう」を発表しています。

アルバムリリース後にミュージックビデオが発表されることは、サブスク興隆前のアメリカ的だなと個人的には感じています。アメリカではオリジナルアルバムを売上および評価の面から尊重する向きが強いこともあり、アルバムから立て続けにシングルカットしてアルバムへの注目度をキープさせようという流れがありました。サブスク時代の今ではアルバム初登場週に全曲ソングスチャートランクインという現象が少なくないのですが、そこからチャートアクションが良かった曲を次のシングルに位置付けることも行われています。

藤井風さんに話を戻すと、アルバムリリース後に収録曲のミュージックビデオを、それも複数発表していますが、これは日本では珍しいかもしれません。先述したOfficial髭男dismは『Traveler』リリースから間もなく「ビンテージ」(→YouTube)を、上半期のビルボードジャパンアルバムチャートを制したKing Gnuは『CEREMONY』から「どろん」(→YouTube)を公開しましたが、それぞれ1曲のみの発表でありまたタイアップ付きという側面もありました。一方で藤井風さんの場合、ノンタイアップながら2曲が発表されることはやはり珍しいと感じています。これはオリジナルアルバムを推したい、長期的に売り出したいという戦略の表れではないかと思うのです。

 

実際、「帰ろう」は成果を上げています。

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報道ステーション』でも弾き語りで披露された「帰ろう」のミュージックビデオは9月4日金曜23時に解禁。この日時を集計期間に含む9月14日付ソングスチャートではラジオエアプレイが前週の100位圏外から4位に急浮上しており、まずはラジオに刺激を与えた形。ピークは異なりますが、最新10月4日放送の『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE 日曜13時)では6位に上昇しています。

そして『報道ステーション』のリアクションは、10月5日付におけるダウンロード48位に表れています(ダウンロードは濃い紫の折れ線にて表示)。なお、ミュージックビデオの解禁前に「帰ろう」は4週連続で総合100位圏外ながら300位以内に登場していますが、この初週はアルバム初登場週と同日付であることから、アルバムリリース直後から収録曲全体への注目が集まっていたことも解ります。

なお、10月5日付のビルボードジャパンアルバムチャートにおける上昇には『報道ステーション』で特集された翌日にリリースされたアナログ盤も寄与しており、同日付のアルバムフィジカルセールスは前週の1768枚から6461枚へ増加していますが、アナログがリリースされること自体アルバムへの評価の高さと発売を望む方の多さの結実と言えるかもしれません。そして「帰ろう」および『HELP EVER HURT NEVER』の直近5週のチャートアクションを照合すれば、「帰ろう」のミュージックビデオが『HELP EVER HURT NEVER』に影響を与えただろうことが想像できるのです。

 

 

藤井風『HELP EVER HURT NEVER』のロングヒットはテレビ番組に取り上げられたことも勿論のこと、リード曲(特に「優しさ」)の安定した人気、接触先の充実、アルバムリリース後の複数のミュージックビデオ発表が起因したと言えるでしょう。ミュージックビデオ発表等からは、オリジナルアルバムを推したい、長期的に売り出したいという強い意志が戦略として形になっていることが見えてくるのです。そしてその意志は見事にチャートに反映していると捉えています。

 

アルバムチャートではベストアルバムの上位安定が未だみられますが、サブスクのプレイリストが充実しサブスク自体のユーザーが増えれば、ベストアルバムの今後のリリース量は減っていくかもしれません(もしくはフィジカルを豪華にする等、デジタルとの差別化が目立っていく可能性も)。となると日本のアルバムチャートで、そして音楽業界全体でオリジナルアルバムが重要であるとの機運が高まっていくのではないかと期待しています。『HELP EVER HURT NEVER』は内容的にもチャートアクションの面でも、その動きを加速させる作品ではないでしょうか。

10月12日付ビルボードジャパンアルバムチャートで丸一年ランクインを達成したOfficial髭男dism『Traveler』から見えてくるものとは

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。

9月28日~10月4日を集計期間とする10月12日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)、初週のシングルCDセールス加算に伴いHey! Say! JUMP「Your Song」が制しました。

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シングルCDセールスのみならずルックアップ、Twitterが1位、またラジオエアプレイも2位と高位置に。ジャニーズ事務所所属歌手の作品はコロナ禍以降ラジオエアプレイが強い印象がありましたが、その中でも特筆すべき位置と言えます。また、CDは3種リリースでカップリング曲が全種異なりますが、CD表題曲を含む6曲すべてがTwitter指標13位までに登場。カップリング曲の異なるCD収録曲すべてがランクインする現象からは、ファンによるTwitter活動が見て取れます。

他方、2週前に首位を獲得したKis-My-Ft2「ENDLESS SUMMER」は前週の53位から、V6「It's my life」は前週の2位から、どちらも100位圏外となってしまいました。いずれもシングルCDの初週セールスに伴い1位もしくは2位となりながら、ソングスチャート滞在期間は極端に短いものとなっています。

上記の通りジャニーズ事務所所属歌手はコロナ禍においてもCDセールスが強いのですが、もしかしたら売上がより初週に偏ってきているのかもしれません。そしてデジタル未解禁が接触指標の伸びにつながらないとも言えそうです。

 

 

さて今週は、Official髭男dism『Traveler』を取り上げます。今週のアルバムチャートで14位に入り、52週連続、丸一年チャートインを果たしました。

他にも長期滞在の作品はありますが、『Traveler』の凄いところは3指標がいずれも高位置をキープしていることにあります。

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アルバムチャートは47週連続でトップ10入り。CDセールスは今週がこれまでで最低となる27位となっていますが、ダウンロードは20位以内、そしてパソコン等に取り込んだ際インターネットデータベースに繋がった数を示すルックアップが5位以内を常時キープしているのは極めて素晴らしいことです。

 

チャート推移および判明しうる限りの数値をまとめると、面白い傾向が見えてきます。

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ビルボードジャパンの上半期チャートで『Traveler』がKing Gnu『CEREMONY』に次ぐ2位を記録したタイミングで作成した表は下記ブログエントリーに掲載しました。その表を加筆修正したのが上記となります。

コロナ禍に伴う緊急事態宣言発令期間はCDリリースが全体的に抑えられたことで『Traveler』が上位滞在できたという声があるかもしれませんが、緊急事態宣言解除後も好調なアクションが続いているのは作品、そしてOfficial髭男dism自身の人気の証。今年に入ってからリリースされた「I LOVE...」や「HELLO EP」収録曲がソングスチャートで好調に推移していますが、これらの(CDに先駆けた)配信ならびにCDリリースのタイミングで、『Traveler』のセールスが上昇していることが解ります。

 

そして注目は8月10日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS 月曜22時。同日放送回は4時間スペシャル)における1時間近い”ヒゲダンフェス”開催。放送日が集計期間初日にあたる8月24日付では総合で5→2位に上昇、CDセールスは前週比163.6%、ダウンロードセールスは同214.3%となっています。『NHK紅白歌合戦』放送前後もセールス増加につながっていましたが、インパクトのあるメディア露出がアルバムセールス等に大きく貢献したのは自明です。

このヒゲダンフェス効果、ソングスチャートの面から以前まとめていました。

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上記表は下記ブログエントリーに掲載したものであり。このエントリーにおいて、ヒゲダンフェスの影響は『「HELLO」以外はすべてポイントが上昇。一方で「HELLO」はポイント前週比が77.0%とダウンしているものの、シングルCDセールス加算2週目における加算初週からの反動に伴うものであり、シングルCDセールスが前週の4分の1未満となりながらポイントの落ち込みが2割強にとどまっているのは他指標の上昇によるもの』と指摘しました。

加えて上記エントリーでは、『ほぼすべての曲でストリーミングおよび動画再生指標という接触2指標が上昇し、全曲2指標50位以内となっていることを踏まえれば、チャートを押し上げるのに効果的且つメディア露出が反映されやすいのはこれら接触指標群と言えるでしょう』とも記載しましたが、ヒゲダンフェスはこの接触指標の上昇のみならず、ルックアップ以外は所有指標で構成されるアルバムチャートにも反映されたと言えるでしょう(ただし、ルックアップには購入者のパソコン等への取り込みも含まれますので接触指標とは断定できないのですが)。おそらくは放送直後に接触した方のうち、行動を所有に移した方が少なくないのではと思うのです。

(一方で、9月26日開催のオンラインライブの効果はヒゲダンフェスに比べれば見えにくいかもしれません。ただし、オンラインライブ開催日を集計期間に含む10月5日付、および翌週のソングスチャートにおいてポイント前週比が1割以上ダウンする曲がほぼなかったことから、一定の成果は得られたはずです。とはいえ地上波テレビでのヒゲダンフェス開催のほうが、ライト層を取り込み一部をコアなファンに昇華させるのにより効果的だったと言えそうです。)

 

 

『Traveler』の丸一年におけるランクインからは、アルバムリリース以降の新曲投入ならびにテレビ出演でのインパクトが刺激になったことが解ります。そして接触指標の充実が所有指標に昇華していることが見て取れ、ライト層を確実にコアなファン化させていることもまた解るのです。Official髭男dismにおいてはサブスクならびにミュージックビデオのフルバージョンでの解禁を徹底し、またSNSでの告知に長けていること(ツイートの徹底やそのタイムリーさ等は、松島功&宮本浩志が教える、デジタルプロモーションで押さえておくべきポイント | 令和のアーティストとSNS 第1回 - 音楽ナタリー(9月4日付)にて指摘されています)で、コアなファンを築き上げるための基礎固め、すなわちまずは接触してもらうことが完璧に出来上がっていると言えます。そしてその成果こそが『Traveler』のランクインに反映されていると思うのです。

 

 

日本の音楽業界においては接触できる環境を十分に整えていない歌手が未だ少なくありません。おそらくは旧来の所有指標を押し上げることを最優先とし、接触環境の充実が所有を妨げると捉えているのではないかと思いますが、その考えが杞憂ではないかということを、Official髭男dismが、『Traveler』が証明したのではないでしょうか。

米ビルボードが先月新設したグローバルチャートから見えてきたこと…日本人歌手が存在感を示すにはどうすべきか?

ビルボードが先月新設した2つのグローバルチャート、最新10月10日付からいくつか見えてきたものがあります。チャート初掲載時にその特徴等を記載しましたが(米ビルボードが新設した2つのグローバルチャートの特徴とは? ビルボードジャパンや日本の音楽業界に対する願いを合わせて記す(9月18日付)参照)、そこからさらに判明したと言えることを記してみます。

 

 

嵐「Whenever You Call」急落にみる、最適なチャートアクションに至るストリーミングとダウンロードのバランスとは

ツイートにおいて100位以内と書いたのは、101~200位は米ビルボードの有料会員のみ確認可能のため。前週、「Whenever You Call」が2つのチャートで共に日本人歌手最高位で初登場したことについてはビルボードジャパンが翻訳記事を掲載しています。

ただし、この元となる米ビルボードの記事も有料会員向けなのです。

有料会員になるには最低でも10ドル99セントを支払う必要があり、また有料会員でなければグローバルチャートを遡って確認することもできません。後述しますがグローバルチャートは日本人歌手の登場が少なくなく日本からも注目を集めるだろうことから、そしてランクインにより世界に少なからず認知されていくことから、ビルボードジャパンがグローバルチャートを掲載する際は過去のチャートをきちんと遡ることができるようにしてほしいと切に願います。

 

嵐に話を戻すと、「Whenever You Call」は前週の段階で『オーディオ/ビデオ・ストリーミングが680万回、48,000ダウンロードを記録』(『』内は上記ビルボードジャパンの翻訳記事記載の内容。ただしこの数値がGlobal 200とGlobal Excl U.S.のどちらを指すかは解りかねます)。一方で、前週2つのチャートをHot 100共々制したBTS「Dynamite」はGlobal 200におけるストリーミングが9210万、ダウンロードが58000であり、Global Excl U.S.においてはストリーミングが7890万、ダウンロードが27000。「Dynamite」が米において所有指標であるダウンロードが強いことは毎週のHot 100速報時に記載していますが、世界規模でいえばサブスクやYouTubeといったストリーミングが強いのが特徴。対して嵐「Whenever You Call」においては比率的に所有指標が強く、この2週の動向を踏まえればダウンロード初週セールスにより上位へ初登場しやすい一方、ストリーミングを押し上げない限り急落は避けられないことが解ります。

「Whenever You Call」は『米国内のデータで構成されるワールド・デジタル・ソング・セールス・チャート“World Digital Song Sales”でも初登場10位を獲得しており(全米ダウンロードが約1,000)』、わずかながらでも海外からのリアクションは得られています(『』内は上記ビルボードジャパンの翻訳記事より)。これは嵐に限らずですが、日本人歌手の作品が高位置で登場しながらロングヒットを記録するためには海外での支持も集め、ストリーミングで長く愛されることが必須と言えます。日本でのダウンロード数は他国より高くグローバルチャートで上位進出が狙えるゆえ、市場を海外に拡げることが急務と言えます。

 

その点、ストリーミングに長けているYOASOBI「夜に駆ける」は安定したヒットを続けています。

Global 200では前週から1ランクアップし、こちらも最高位となった「夜に駆ける」ですが、仮にグローバルチャートでさらなる飛躍を目指すならば、海外での訴求は勿論のこと、カンフル剤の投入が必要かもしれません。そのヒントが、今週登場した他の日本人歌手による楽曲から見えてきます。

 

日本人歌手もリミックスを追加投入しチャート上昇することは可能

DISH//「猫」の高位置登場は”THE FIRST TAKE ver.”との合算であることは間違いないでしょう。前週BTS「Dynamite」がダウンロード指標でGlobal 200では前週比102%、Global Excl U.S.でも44%上昇しているのですが、これは同日(10月3日)付米ビルボードソングスチャート(Hot 100)でも述べたようにリミックスの追加投入が数値に寄与していることが解ります。ビルボードジャパンとは異なりHot 100ではリミックス等も合算されますが、このチャートポリシーがグローバルチャートでも踏襲された形です。

後述するBUMP OF CHICKEN「アカシア」、そして前週までGlobal Excl U.S.で100位以内に入っていた米津玄師「感電」を除けば、10月5日付ビルボードジャパンソングスチャートにランクインした曲の中でDISH//「猫」はオリジナルバージョンが9位、THE FIRST TAKE ver.が17位と他の曲に比べて低いものの、Global Excl U.S.ではYOASOBI「夜に駆ける」に次ぐ順位となっています。無論ビルボードジャパンとグローバルチャートとで集計対象となる指標に違いはあれど、しかし後者における「猫」の順位の高さは、ビルボードジャパンソングスチャートにおいて仮に2バージョンのポイントを合算した場合の順位を踏まえればしっくりくるのです。

個人的にはビルボードジャパンへリミックス等の合算を希望しますが、日本で合算対象外であってもグローバルチャートが合算対象となるのであれば、カンフル剤の目的も兼ねてリミックス等を投入することを検討する価値はあるのかもしれません。これはミュージックビデオ等公式動画の追加投入も同様であり、また新規リミックスではなくとも、BTS「Dynamite」や今週米ビルボードのHot 100を制しGlobal 200でも7位に初登場したトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」のように69セントでの安価販売を行うことも施策としては面白いかもしれません。

 

グローバルチャートの集計期間が世界的に金曜開始と確定

チャート初掲載時から疑問を抱き、ビルボードジャパンのポッドキャスト宛へ質問を投げかけたのですが(Twitterに”#ビルボードポッドキャスト”と付けて質問をつぶやくことが可能)、未だ回答を得られていなかったのが集計期間に関する件。

これが10月10日付けGlobal Excl U.S.におけるBUMP OF CHICKEN「アカシア」の57位初登場で判明したと言えます。

「アカシア」は9月30日水曜に配信を開始しており、ビルボードジャパンソングスチャートでは今日発表予定の10月12日付(集計期間は9月28日月曜からの一週間)で初登場が見込まれています。このビルボードジャパンソングスチャートからの供給データをグローバルチャートに組み込む可能性もあると捉えていたのですが、今回「アカシア」がグローバルチャートに登場したことで、このグローバルチャートが米ビルボードソングスチャート(Hot 100)に即しストリーミング、ダウンロード共に金曜~木曜が集計期間となっていると断定して好いでしょう(なお、Hot 100におけるラジオエアプレイは3日後の月曜が起点となります)。

そうなると、以前も申し上げたのですがやはり日本における日本人歌手の新譜も金曜リリースを基本とし、ビルボードジャパンソングスチャートでも金曜を集計開始日としたほうが、ビルボードジャパンソングスチャートとグローバルチャートがリンクしやすくなる点においても好いと思うのですが、如何でしょう。

 

グローバルチャートでは歌手自身のホームページにおける販売分は含まれない

最後に。これは海外の作品についてですが、昨日のブログエントリーでも指摘したダウンロードセールスについて。

グローバルチャートは世界の主要なデジタルプラットフォームにおけるストリーミングおよびダウンロードが加算対象となり、歌手の公式サイトでの販売分は加算されないためトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」はGlobal 200で7位に。一方でGlobal Excl U.S.ではトップ10に入ることができませんでした。Global 200における「Franchise」の数値はストリーミングが3970万、ダウンロードが19000となっており、デジタルダウンロードにおいてもその多くがトラヴィスのホームページから買われたと推測されます。

そしてこの件についてはBTS「Dynamite」においても指摘しています。

それでも歌手のホームページにて販売する理由は、推測の域を出ないと前置きして書くならばデジタルプラットフォームへの手数料支払を省けるからというのがあるのかもしれません。ゲーム『フォートナイト』とアップルとの係争もこの手数料を巡るものであり、音楽においても係争とまではいかなくとも手数料を気にすることは想像に難くありません。それでもグローバルチャートで存在感を示すならば『歌手はおそらく利益率が高いであろう自身のサイトで売りたい気持ちは解れど、デジタルプラットフォームできちんと売ること』が重要だと考えます(『』内は昨日のブログより)。

 

 

デジタルプラットフォームを用いた所有や接触が主流になったことで、日本人歌手はフィジカルを用意しなくとも海外への進出が容易になりました。さらにグローバルチャートが生まれたことで海外での認知度はより高まっていくかもしれません。ビルボードジャパンソングスチャートで連続して10位以内に入ればグローバルチャート(特にGlobal Excl U.S.)での100位以内エントリーも狙えることも解ってきた今、日本人歌手が世界で活躍しやすい環境が整ってきたと言えるでしょう。そしてそれを加速させるためには、ビルボードジャパンソングスチャートの金曜集計開始や、日本の音楽業界が金曜リリースを標準化することが理想であると個人的には考えます。

トラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」が初登場で首位を獲得…10月10日付米ビルボードソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の10月5日月曜に発表された10月10日付最新ソングスチャート(Hot 100)、前週首位に返り咲いたBTS「Dynamite」は2位に後退、トラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」が初登場で首位を獲得しました。

1ランク後退したBTS「Dynamite」(2位)は、前週リミックス追加投入で10万台を回復したダウンロードが前週比44%ダウンの86000(同指標1位)、ストリーミングは同2%ダウンの1370万(同指標13位)、ラジオエアプレイは同11%アップの2310万(同指標39位)に。ラジオエアプレイの伸びが2桁に達した一方、所有指標の反動が目立ちます。

一方、初登場で首位に立ったトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」はストリーミングが1940万で6位発進、ラジオエアプレイは1060万(同指標50位未満)となり、またダウンロードは98000を獲得し同指標2位となっています。BTS「Dynamite」の86000を上回りながらも2位というのは、米ビルボードがダウンロード指標の順位においてはデジダルダウンロードのみをカウントし、フィジカルセールスは含まないため。今回の「Franchise」におけるセールスの内訳は、デジダルダウンロードが40000に対し、カセットテープおよびCDは58000となっています。

「Franchise」において販売されたのはデジダルダウンロード、カセット1種およびCD2種。さらにデジタルダウンロードではインストゥルメンタルバージョンも用意され、フィジカルおよびインストゥルメンタルはトラヴィス・スコットのホームページにて販売されています。今回の集計期間(ダウンロードはストリーミング同様9月25日金曜からの1週間。なおラジオエアプレイは9月28日からの1週間)において、デジダルダウンロードは69セント、フィジカルは1ドルにて販売された模様で、これがダウンロード指標押し上げの要因と言えます。

(なお、米ビルボードでは「Franchise」がフィジカル施策であるとは言及されていません。フィジカル施策とは、フィジカル購入時にその発送が後日であっても購入段階で売上にカウントされ、また購入の瞬間にダウンロードが可能になりそちらもカウントされるという手法であり、今年この施策により多くの楽曲が1位に初登場を果たしながら翌週以降急落したことを受け、米ビルボードはおそらくはチャートの健全化を図る目的で後日発送分は発送段階でカウントさせる等チャートポリシーを変更しました。このチャートポリシー変更日の具体的な言及はどうやら米ビルボードの有料記事でのみ行われている模様ですが10月1週目からの変更と伺っており、今回の「Franchise」が最後のフィジカル施策による首位獲得と言えるかもしれません。ただ、今後デジタルダウンロード69セント安価販売が有効な施策になるだろうことは考えられます。)

ラヴィス・スコットにとっては「Franchise」が4曲目の首位獲得にして、初の首位となった「Sicko Mode」(2018)を除けば、「Highest In The Room」(2019年10月19日付)、「The Scotts」(2020年5月9日付 トラヴィス・スコット & キッド・カディによるザ・スコッツ名義)、そして今回の「Franchise」はいずれも初登場にて首位を獲得。3曲以上初登場で首位を獲得したのはアリアナ・グランデ(唯一の4曲)、ジャスティン・ビーバーマライア・キャリー、ドレイクに次いで5組目となります。また3曲を1年以内で初登場首位に到達したのは最短記録であり、アリアナの1年と4ヶ月を上回りました(「7 Rings」~ジャスティン・ビーバーとの「Stuck With U」~レディー・ガガとの「Rain On Me」)。

客演参加したヤング・サグにとっては、カミラ・カベロにフィーチャーされた「Havana」が2018年1月に首位に到達して以来2曲目の1位。一方M.I.A.にとっては初の首位獲得となり、トップ10入りは自身の「Paper Planes」(2008 4位)、マドンナにニッキー・ミナージュ共々フィーチャーされた「Give Me All Your Luvin'」(2012 10位)以来3曲目となります。M.I.A.のHot 100初登場は2008年8月2日付であり、そこから12年2ヶ月1週間を経て頂点に達しましたが、女性におけるHot 100初登場から首位獲得までの最長期間はベッド・ミドラーで、1972年12月23日付けで初登場してから1989年に「Wind Beneath My Wings」で首位獲得に至るまで16年と5ヶ月2週間を有しています。またすべての歌手での最長記録はサンタナで、1969年10月のHot 100初登場からロブ・トーマスを迎えた「Smooth」が1999年10月に首位を獲得するまで、実に30年近く経過しているのです。

先述したフィジカル施策の影響で今年は初登場での首位獲得が最多となり、「Franchise」が9曲目、1995年および2018年の4曲を大きく上回っています。Hot 100の歴史においては初登場での首位獲得は「Franchise」が44曲目であり、また初登場に関係なく2020年における首位獲得曲はこれが15曲目。ちなみに昨年の首位獲得曲数も15曲となります。

 

今回、米ビルボードHot 100予想担当者のほとんどはカーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン(発音の関係でこう表記。ネットではミーガン・ジー・スタリオンとの表記が多い印象)による「WAP」が首位に返り咲くと予想されていました。「WAP」はストリーミングを今週も制しているものの、前週比12%ダウンの3160万となっています。またラジオエアプレイは3週ぶりにザ・ウィークエンド「Blinding Lights」(今週総合6位)が返り咲き、同指標では前人未到となる通算24週目の首位を獲得しました(前週比5%アップの8010万)。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (初登場) トラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」

2位 (1位) BTS「Dynamite」

3位 (2位) カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」

4位 (4位) ドレイク feat. リル・ダーク「Laugh Now Cry Later」

5位 (5位) 24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」

6位 (7位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

7位 (6位) ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」

8位 (9位) ジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」

9位 (8位) ハリー・スタイルズ「Watermelon Sugar」

10位 (10位) ギャビー・バレット feat. チャーリー・プース「I Hope」

前週初登場で3位に入ったジャスティン・ビーバー feat. チャンス・ザ・ラッパー「Holy」がトップ10落ちとなり、入れ替わる形でトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」がトップに登場。一方、米ビルボードが先月新設した2つのグローバルチャートにおいて、10月10日付のGlobal 200ではカーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」が首位に返り咲き、Global 200からアメリカの分を除いたGlobal Excl U.S.ではBTS「Dynamite」が3週目の首位を達成しています。

グローバルチャートは世界の主要なデジタルプラットフォームにおけるストリーミングおよびダウンロードが加算対象となり、歌手の公式サイトでの販売分は加算されないためトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」はGlobal 200で7位に。一方でGlobal Excl U.S.ではトップ10に入ることができませんでした。Global 200における「Franchise」の数値はストリーミングが3970万、ダウンロードが19000となっており、デジタルダウンロードにおいてもその多くがトラヴィスのホームページから買われたと推測されます。歌手はおそらく利益率が高いであろう自身のサイトで売りたい気持ちは解れど、デジタルプラットフォームできちんと売ることがグローバルチャートでの上昇につながるものと考えます。

CDでのアルバム訴求、今の時代に即した印象的な3作品

CDという存在がどうなっていくか、気になります。シングルにおいてはアイドルやK-Popアクト等、万単位の売上が見込める歌手以外のリリースが減っている印象がありますが、アルバムにおいてはジャンルに関係なくCDでリリースすることが減っていく予感がします。だからでしょうか、サブスクが興隆する今の時代にあって敢えてフィジカルを用意することで、CDはコアなファンのコレクターズアイテムとしての意味合いを強めていると感じています。

 

 

EPとしてリリースされるYOASOBIの初CDは1種のみ、そして完全生産限定盤。以前出演した『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日 日曜23時)にて『NHK紅白歌合戦』出場への意志を表明しており、紅白出場をEP売上増につなげるものと考えます。完全生産限定盤ながら店舗での販売も予想されるため、店舗側は紅白出場を見越した上で入荷数に強気になることもまた考えられます。いわゆる”夜好性”と呼ばれる歌手のフィジカルリリースでは小説やカセットテープという前例もあり(ヨルシカ『盗作』(2020)については音楽ナタリー参照)、音楽の世界観に関連するアイテムを付属する姿勢は今後のムーブメントとなることでしょう。

 

サブスクでプレイリストを作ればベストアルバムやオムニバスは極端に言えば不要だとする声もあるかもしれず、それを踏まえてかリリース後しばらくはサブスクやダウンロードすら解禁しないという歌手も未だ存在します。そんな状況を理解した上で、『極端な話、このCDを買わなくても、サブスクとかでプレイリストに登録してもらえれば同じ曲を聴くことができるので』と言っていたのが、ピヤホンを監修しピヤホン同梱オムニバスCDを手掛けた凛として時雨ピエール中野さん。このCD収録曲がジャンルも多様で、すべての曲がピヤホンでの聴取によりさらに素晴らしく聴こえてくるのだろうという期待を抱かせます。

先の『』内は上記インタビュー内でのものですが、ピヤホンで聴くことによって『いざ聴いてみたら、CDも欲しくなると思いますから』『「CDで聴く」という体験に改めて触れてみてほしい、という思いはありますね』と語っているのが印象的。サブスク等の十分な解禁がライト層をコアなファンに昇華させることはOfficial髭男dismやKing GnuのCDセールスの堅調から明らかですが、ピヤホン同梱CD自体や収録された歌手自身のCDもそうなっていくのかもしれません。下記はピヤホン同梱CD収録曲のひとつで、ダンサブルなサウンドとの相性の好さを想起させます。

 

SKY-HIさんのベストアルバムは先月リリースされ、お名前入り受注生産限定盤は2万円に別途消費税という価格の高さはあれど、同梱内容の豪華さや購入者の名前を入れてくれる特典はコアなファンにとって価値があると考えるに十分です。

そのベストアルバムリリース後、ベストアルバム収録曲を基にしながら新たにレコーディングした声等を交えたプレイリストを公開しています。

曲の新たな聴き方を提示することで曲の多面性等を新たに発見できるのみならず、CD購入後もサブスク再生により収益がきちんとSKY-HIさん側に入っていくのです。そしてピヤホンCDでも言及したように、サブスクからCD購入につながること、ライト層からコアなファンに昇華することも考えられます。こういう提示の仕方は実に面白いのではないでしょうか。

 

 

冒頭で 『サブスクが興隆する今の時代にあって敢えてフィジカルを用意することで、CDはコアなファンのコレクターズアイテムとしての意味合いを強めている』と書きましたが、そのコレクターズアイテムとしての価値をさらに高めさせてくれるのが同梱されるグッズであり、そしてSKY-HIさんのプレイリストからはCD購入への促進がみてとれます。これらはむしろCDへの回帰と呼べるかもしれません。尤もその場合、デジタルプラットフォームへの十分な解禁が大前提になります。

2020年9月の私的トップ10ソングス+α、選びました

1月からはじめている【私的トップ10ソングス+α】企画、今回は9月号です。前の月にリリースされた曲を中心に、しかしその縛りは出来る限り緩くした上で選んでみました。ミュージックビデオ等動画がない曲は巻末のプレイリスト(Spotify)でチェックしてみてください。過去の私的トップ10ソングス、および2020年上半期の邦楽ベストソングスについてはこちらに。

ちなみに個人的に毎回チェックしているプレイリストは現時点において主に、New Music WednesdayNew Music Friday JapanNew Music FridayおよびMonday Spinとなっています。

 

 

10位 Tokimeki Records feat. ひかり「Dang Dang 気になる」

イントロを除けば中村由真さんによるオリジナルバージョンをほぼ踏襲したようなアレンジですが、ひかりさんによるメロディを丁寧に紡ぐかのような歌唱に惹かれました。主題歌に使われたアニメ『美味しんぼ』がYouTubeでの配信を開始する週の公開という偶然もまた素敵です。

 

9位 嵐「Whenever You Call」

この曲については、その施策の素晴らしさも含め以前紹介しています。

日本のチャートアクションがこれまでのデジタルシングルの中で失速気味なのが残念であり、その遠因となったであろう一部記事のトーンには引っかかりを覚えます。純粋に好い曲と思うゆえ、この位置に選びました。

 

8位 Beni Daniels feat. Devin Morrison「UI」

海外進出を果たしたBENIさんによる流麗なR&B。カバー曲が多い印象もありますが、たとえば「Kiss Kiss Kiss」(2009 →YouTube)のようなR&Bアプローチにも長けているわけで、この進出には嬉しくなります。デヴィン・モリソンはかつて日本に住んだこともあり、『スラムダンク』や矢野顕子さんが好きだそう。

 

7位 カイリー・ミノーグ「Magic」

デュア・リパが80年代マナーのアルバムをリリースしそのリミックス集にマドンナを招聘する等、新鋭やベテランを問わず当時の音をアップデートさせたかのような曲が主流の現在、マドンナと並び30年以上シーンを引っ張るカイリーがこのシーンに降臨。ジェシー・ウェアの最新作も彷彿とさせる音で、アルバムリリースが楽しみになりました。

 

6位 SZA feat. タイ・ダラー・サイン「Hit Different」

久々の主演としての新曲はネプチューンズによるミディアム。サビでのタイ・ダラー・サインによるタイトルの連呼がより中毒性を高めてくれます。ミュージックビデオでは次なる曲?を惜しげもなく披露しており、今後のリリースに注目です。

 

5位 ヨンシー with ロビン「Salt Licorice」

シガー・ロスのボーカル、ヨンシーによる10年ぶりのソロアルバム『Shiver』からの先行曲は鐘のような高音のウワモノとノイジーな音、加工されたヨンシーの裏声とがまとわりつく、こちらも中毒性の高い一曲。2018年のアルバム『Honey』が評判高かったロビンとの声が似ている?ことも中毒性の高さに一役買っています。前作収録の「Go Do」(2010)は日本でも様々なフォロワー作品が生まれていることから、今作の伝播力にも期待したいところ。

 

4位 MAX feat. SUGA of BTS「Blueberry Eyes」

ナッシュをフィーチャーした「Lights Down Low」(2016)のミュージックビデオが感動的なのですが(→YouTube)、こちらも素晴らしい作品。ビデオに登場するのは妊娠中の実の奥さんであり、仲睦まじい様子が見られます。そしてこのあまりにも心地よい作品に華を添えたBTSのSUGAによるラップも素敵です。

 

3位 BBHF「疲れてく」

ゴスペル的な作品が好きで以前プレイリスト的に紹介したこともあるのですが、そこに新たな一曲が。とはいえ高揚感に溢れ希望を謳うゴスペルを、困惑というネガティブなテーマのこの曲に用いるというBBHF独特のアプローチが面白いですね。

 

2位 SAULT「Strong」

どうやら”ソー”と読むらしい?ロンドン発のバンドによる今年2枚目のアルバムの巻頭曲。アレンジの展開が何度も変わっていく楽しさ、それでいて芯となるビートの逞しさに惹かれます。マイケル・キワヌーカの作品を思い出しましたが、そのキワヌーカの昨年の作品『Kiwanuka』が今年のマーキュリー賞を受賞したとなると、SAULTもどんどん注目を集めていくのではないかと期待したくなります。

 

1位 SUKISHA feat. ぜったくん「夕陽が落ちるまで」

リリースはどうやら8月だったのですが、プレイリスト経由で知ったのが9月。そして昨日のブログで紹介した同じ組み合わせによる「Sweet Secret」同様、歌詞がいい意味で引っかかるのです。”誰かの代わりにただ 謝り続けてもらう給与” ”子供のような大人が言う 「大人らしさ」”などがその代表格ですが、”満員電車でブチ切れてた あの人の左手の薬指に結婚指輪 なんかどっかいいとこあるらしい (ならイイ)”というフレーズはRHYMESTER「POP LIFE」(2011)のリリックを想起させ、心に余裕が生まれるかのよう。この先、気持ちが疲れたときにはきっとこの曲が浮かぶことでしょう。

 

 

以下、次点として10曲。

・WONK「Orange Mug (Myd Remix)」

・Wu Mang「ミラー」

大橋トリオ「Favorite Rendezvous

・SUKISHA feat. ぜったくん「Sweet Secret」

・TENDER feat. Ryohu「FRESH」

東京スカパラダイスオーケストラ「Great Conjuction 2020」

・MONO NO AWARE「ゾッコン」

ギャランティス & ナイトメア feat. リアム・オドネル「Tu Tu Tu (That's Why We)」

・サラーム・レミ & マック・ワイルズ「Home Vacation (FamilyOverEverything)」

・ヤング・ベー feat. マーク・E・ベイシー「Revolving」

WONK「Orange Mug」のオリジナルは昨年の私的邦楽年間ベストに選んでいますが、ここまで大きく変容させるのかと嬉しい驚きに。サラーム・レミ & マック・ワイルズのマイケルマナー、MONO NO AWARE独特の言葉のセンス等、今月も素晴らしい作品が多かったですね。

 

Spotifyのプレイリストはこちらに。

今月も素晴らしい音楽に出逢えることを願っています。

歌詞よりメロディ派の人間にとってSpotifyの歌詞表示機能は有り難いということ、そして日本人歌手の活用を願うということ

自分はメロディ派の人間です…といきなりの宣言でアレですが、これは『たまむすび』(TBSラジオ 月-金曜13時)の月曜コーナーにおける『歌詞が頭に入ってこない!自分と同じような人いますか?』というリスナーの方からの調査依頼についての自分の立ち位置。

ゲストとして登場したRHYMESTER宇多丸さん(実は月曜パートナーのカンニング竹山さんがRHYMESTERの大ファンだったことがこの調査依頼で判明)のロジカルな解説、そして木曜パートナーの土屋礼央さんがラジオネーム”元有楽町”としてさらにロジカルなメールを投稿していました。個人的には元有楽町というラジオネームを聞いた段階でもしや土屋さんではと察したのですが…なぜ察したかはこちらをご参照ください。

 

自分は完全にメロディ派で、歌詞は後から知ることが大半なのですが、一方で歌詞と全く異なる使われ方をしている曲には激しい違和感を覚えます。レーガン氏が大統領選でブルース・スプリングスティーン「Born In The U.S.A.」を使用した問題もそうでしたが、あの”エンダーイ”が未だに誤用される状況もまた違和感だったりします。

 

さて、自分は普段新曲主体にSpotifyで曲をチェックしていますが、時折日本語の曲にいい意味でギョッとさせられます。たとえば先月リリースの曲で強く気に入っているSUKISHA feat. ぜったくん「Sweet Secret」ではこれからだというふたりの甘い瞬間が歌われているのですが、そこに”フォロワー100万人”や”チャンネル登録”という愛や情事とは遠い言葉が(おそらくは比較対象として)出てくるのが面白いんですよね。

このいい意味での引っ掛かりを確認できるのがSpotifyの歌詞表示機能であり、「Sweet Secret」ではきちんと用いられています。歌詞を振り返ったり、曲を聴きながら歌詞を味わうことで、曲の良さがさらに増幅されるのです。

 

しかしながらSpotifyの歌詞表示機能について、特に新曲においては日本人歌手の多くが用いていない印象があります。新曲リリースの数日後に掲載されたり、もしくは掲載されてもカラオケのように唄われている箇所をなぞらないというならまだしも(それはそれで問題ですが)、歌詞自体載せないというケースが大半なのです。ゆえに、メロディ派の自分は歌詞掲載していただけただけでもその曲や歌手の印象が向上します。

一方で洋楽の場合は歌詞掲載が多いとは言えないものの、映像ループ機能を活用している曲が多い印象があります。この映像ループもまた、日本人歌手で用いる方は非常に少ないですね。

歌詞の代わりにストーリーという機能を用いてこの曲の背景等を紹介することもあります。たとえば昨日リリースされたBLACKPINKのファーストフルアルバム『The Album』から、カーディ・Bをフィーチャーした「Bet You Wanna」が世界中の新曲プレイリスト【New Music Friday】の巻頭を飾っていますが、再生するとメンバー4名のかわいらしい&クールな表情がループすると共に、この曲の説明がなされています。


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ワールドワイドでのリリースゆえ、説明をより丁寧に行いたいという思いもあるのかもしれませんが、実は彼女たちの地元である韓国では未だSpotifyは進出していないのです。にもかかわらずBLACKPINKやBTS、また先のループ機能で例示したイェジ等はリリースタイミングで既にこれら機能を充実させているのですから素晴らしいですね。

 

 

メロディが大きく先行して頭に入る自分にとって歌詞表示は非常に有り難い存在であり、曲を聴きながらすぐさまいい意味での違和感に気づけます。そしてループ機能やストーリー表示は、メロディや歌詞どちらを重視するかに関係なく曲を聴く方の目を喜ばせてくれます。今回『たまむすび』における調査報告を聞いて、特に日本人歌手はリリース当初の段階からせめて歌詞表示だけでも徹底させてほしい、そうすれば多数派とされるメロディ派(メロディ先行)の人間にありがたがられるのではないかと考えた次第。このSpotify各種機能の利用率の低さ、日本人歌手が自らの好さをより広く伝えられないという点でとても勿体ないと感じています。