米ビルボードが先月新設した2つのグローバルチャート、最新10月10日付からいくつか見えてきたものがあります。チャート初掲載時にその特徴等を記載しましたが(米ビルボードが新設した2つのグローバルチャートの特徴とは? ビルボードジャパンや日本の音楽業界に対する願いを合わせて記す(9月18日付)参照)、そこからさらに判明したと言えることを記してみます。
・嵐「Whenever You Call」急落にみる、最適なチャートアクションに至るストリーミングとダウンロードのバランスとは
今朝までに、米ビルボードが先月新設した2つのグローバルチャートが更新。最新10月10日付では #Global200 https://t.co/M6gGIllKpD および #GlobalExclUS https://t.co/4GLNtkls01 に前週初登場した #嵐「#WheneverYouCall」は100位以内から姿を消しました
— Kei (@Kei_radio) 2020年10月6日
ツイートにおいて100位以内と書いたのは、101~200位は米ビルボードの有料会員のみ確認可能のため。前週、「Whenever You Call」が2つのチャートで共に日本人歌手最高位で初登場したことについてはビルボードジャパンが翻訳記事を掲載しています。
嵐、米ビルボードの新しいグローバル・チャートに「Whenever You Call」が初登場 https://t.co/mrcwGWPIwC pic.twitter.com/0oVFj03f7G
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2020年10月2日
ただし、この元となる米ビルボードの記事も有料会員向けなのです。
Arashi, @Anitta and @stray_kids make moves on the new global charts. 🌎 https://t.co/FAwBjeeauM
— billboard (@billboard) 2020年10月1日
有料会員になるには最低でも10ドル99セントを支払う必要があり、また有料会員でなければグローバルチャートを遡って確認することもできません。後述しますがグローバルチャートは日本人歌手の登場が少なくなく日本からも注目を集めるだろうことから、そしてランクインにより世界に少なからず認知されていくことから、ビルボードジャパンがグローバルチャートを掲載する際は過去のチャートをきちんと遡ることができるようにしてほしいと切に願います。
嵐に話を戻すと、「Whenever You Call」は前週の段階で『オーディオ/ビデオ・ストリーミングが680万回、48,000ダウンロードを記録』(『』内は上記ビルボードジャパンの翻訳記事記載の内容。ただしこの数値がGlobal 200とGlobal Excl U.S.のどちらを指すかは解りかねます)。一方で、前週2つのチャートをHot 100共々制したBTS「Dynamite」はGlobal 200におけるストリーミングが9210万、ダウンロードが58000であり、Global Excl U.S.においてはストリーミングが7890万、ダウンロードが27000。「Dynamite」が米において所有指標であるダウンロードが強いことは毎週のHot 100速報時に記載していますが、世界規模でいえばサブスクやYouTubeといったストリーミングが強いのが特徴。対して嵐「Whenever You Call」においては比率的に所有指標が強く、この2週の動向を踏まえればダウンロード初週セールスにより上位へ初登場しやすい一方、ストリーミングを押し上げない限り急落は避けられないことが解ります。
「Whenever You Call」は『米国内のデータで構成されるワールド・デジタル・ソング・セールス・チャート“World Digital Song Sales”でも初登場10位を獲得しており(全米ダウンロードが約1,000)』、わずかながらでも海外からのリアクションは得られています(『』内は上記ビルボードジャパンの翻訳記事より)。これは嵐に限らずですが、日本人歌手の作品が高位置で登場しながらロングヒットを記録するためには海外での支持も集め、ストリーミングで長く愛されることが必須と言えます。日本でのダウンロード数は他国より高くグローバルチャートで上位進出が狙えるゆえ、市場を海外に拡げることが急務と言えます。
その点、ストリーミングに長けているYOASOBI「夜に駆ける」は安定したヒットを続けています。
#Global200では #YOASOBI「#夜に駆ける」が日本人歌手で唯一、62位に登場。#GlobalExclUS では30位に上昇し同曲の最高位を更新しています
— Kei (@Kei_radio) 2020年10月6日
Global 200では前週から1ランクアップし、こちらも最高位となった「夜に駆ける」ですが、仮にグローバルチャートでさらなる飛躍を目指すならば、海外での訴求は勿論のこと、カンフル剤の投入が必要かもしれません。そのヒントが、今週登場した他の日本人歌手による楽曲から見えてきます。
・日本人歌手もリミックスを追加投入しチャート上昇することは可能
その他Global Excl U.S.での日本人歌手の状況
— Kei (@Kei_radio) 2020年10月6日
・ #BUMPOFCHICKEN「#アカシア」57位初登場
・ #DISH//「#猫」77→71位 最高位更新
・ #あいみょん「#裸の心」57→90位
・ #NiziU「#Makeyouhappy」54→93位
・ #瑛人「#香水」75→95位
DISH//「猫」の高位置登場は”THE FIRST TAKE ver.”との合算であることは間違いないでしょう。前週BTS「Dynamite」がダウンロード指標でGlobal 200では前週比102%、Global Excl U.S.でも44%上昇しているのですが、これは同日(10月3日)付米ビルボードソングスチャート(Hot 100)でも述べたようにリミックスの追加投入が数値に寄与していることが解ります。ビルボードジャパンとは異なりHot 100ではリミックス等も合算されますが、このチャートポリシーがグローバルチャートでも踏襲された形です。
後述するBUMP OF CHICKEN「アカシア」、そして前週までGlobal Excl U.S.で100位以内に入っていた米津玄師「感電」を除けば、10月5日付ビルボードジャパンソングスチャートにランクインした曲の中でDISH//「猫」はオリジナルバージョンが9位、THE FIRST TAKE ver.が17位と他の曲に比べて低いものの、Global Excl U.S.ではYOASOBI「夜に駆ける」に次ぐ順位となっています。無論ビルボードジャパンとグローバルチャートとで集計対象となる指標に違いはあれど、しかし後者における「猫」の順位の高さは、ビルボードジャパンソングスチャートにおいて仮に2バージョンのポイントを合算した場合の順位を踏まえればしっくりくるのです。
個人的にはビルボードジャパンへリミックス等の合算を希望しますが、日本で合算対象外であってもグローバルチャートが合算対象となるのであれば、カンフル剤の目的も兼ねてリミックス等を投入することを検討する価値はあるのかもしれません。これはミュージックビデオ等公式動画の追加投入も同様であり、また新規リミックスではなくとも、BTS「Dynamite」や今週米ビルボードのHot 100を制しGlobal 200でも7位に初登場したトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」のように69セントでの安価販売を行うことも施策としては面白いかもしれません。
・グローバルチャートの集計期間が世界的に金曜開始と確定
チャート初掲載時から疑問を抱き、ビルボードジャパンのポッドキャスト宛へ質問を投げかけたのですが(Twitterに”#ビルボードポッドキャスト”と付けて質問をつぶやくことが可能)、未だ回答を得られていなかったのが集計期間に関する件。
グローバルチャートは主要デジタルプラットフォームのダウンロードおよびストリーミングで構成。おそらくは9月18日金曜からの1週間が最新10月3日付の集計期間と思われますが、集計期間のアナウンスがこれまでなかったはず。@Billboard_JAPAN の #ビルボードポッドキャスト で回答を願いたいところです
— Kei (@Kei_radio) 2020年9月29日
これが10月10日付けGlobal Excl U.S.におけるBUMP OF CHICKEN「アカシア」の57位初登場で判明したと言えます。
「アカシア」は9月30日水曜に配信を開始しており、ビルボードジャパンソングスチャートでは今日発表予定の10月12日付(集計期間は9月28日月曜からの一週間)で初登場が見込まれています。このビルボードジャパンソングスチャートからの供給データをグローバルチャートに組み込む可能性もあると捉えていたのですが、今回「アカシア」がグローバルチャートに登場したことで、このグローバルチャートが米ビルボードソングスチャート(Hot 100)に即しストリーミング、ダウンロード共に金曜~木曜が集計期間となっていると断定して好いでしょう(なお、Hot 100におけるラジオエアプレイは3日後の月曜が起点となります)。
そうなると、以前も申し上げたのですがやはり日本における日本人歌手の新譜も金曜リリースを基本とし、ビルボードジャパンソングスチャートでも金曜を集計開始日としたほうが、ビルボードジャパンソングスチャートとグローバルチャートがリンクしやすくなる点においても好いと思うのですが、如何でしょう。
・グローバルチャートでは歌手自身のホームページにおける販売分は含まれない
最後に。これは海外の作品についてですが、昨日のブログエントリーでも指摘したダウンロードセールスについて。
グローバルチャートは世界の主要なデジタルプラットフォームにおけるストリーミングおよびダウンロードが加算対象となり、歌手の公式サイトでの販売分は加算されないためトラヴィス・スコット feat. ヤング・サグ & M.I.A.「Franchise」はGlobal 200で7位に。一方でGlobal Excl U.S.ではトップ10に入ることができませんでした。Global 200における「Franchise」の数値はストリーミングが3970万、ダウンロードが19000となっており、デジタルダウンロードにおいてもその多くがトラヴィスのホームページから買われたと推測されます。
そしてこの件についてはBTS「Dynamite」においても指摘しています。
それでも歌手のホームページにて販売する理由は、推測の域を出ないと前置きして書くならばデジタルプラットフォームへの手数料支払を省けるからというのがあるのかもしれません。ゲーム『フォートナイト』とアップルとの係争もこの手数料を巡るものであり、音楽においても係争とまではいかなくとも手数料を気にすることは想像に難くありません。それでもグローバルチャートで存在感を示すならば『歌手はおそらく利益率が高いであろう自身のサイトで売りたい気持ちは解れど、デジタルプラットフォームできちんと売ること』が重要だと考えます(『』内は昨日のブログより)。
デジタルプラットフォームを用いた所有や接触が主流になったことで、日本人歌手はフィジカルを用意しなくとも海外への進出が容易になりました。さらにグローバルチャートが生まれたことで海外での認知度はより高まっていくかもしれません。ビルボードジャパンソングスチャートで連続して10位以内に入ればグローバルチャート(特にGlobal Excl U.S.)での100位以内エントリーも狙えることも解ってきた今、日本人歌手が世界で活躍しやすい環境が整ってきたと言えるでしょう。そしてそれを加速させるためには、ビルボードジャパンソングスチャートの金曜集計開始や、日本の音楽業界が金曜リリースを標準化することが理想であると個人的には考えます。