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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

シングルCDセールスが強い曲が上位進出しながらさらなる加点に至れなかった理由を考える…8月31日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。

8月17~23日を集計期間とする8月31日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。前週首位のTwenty★Twenty「smile」は13位に後退し、同ユニットにも参加する関ジャニ∞「Re:LIVE」がシングルCDセールス初加算に伴い、前週の100位圏外からトップに躍り出ました。

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6月以降、関ジャニ∞も在籍するジャニーズ事務所所属歌手の作品が続々とシングルCDをリリースし首位に立っていますが、シングルCDセールスが前作を上回る、ラジオエアプレイが高い、そしてルックアップが高いという傾向がありました。Twitterの高さは言うまでもありませんが、気になるのは「Re:LIVE」のルックアップが2位にとどまっているということ。今週この指標を制したのはOfficial髭男dism「HELLO」(総合11位)であり、たとえば今月10日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS 月曜22時)におけるヒゲダンフェスや、前週放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜21時)等の効果がより強く表れたものと考えます。

 

今週は関ジャニ∞「Re:LIVE」も含め、シングルCDセールスが10万を超える作品が3つ登場しています。

22万以上売り上げシングルCDセールス指標2位に入ったNMB48「だってだってだって」は総合2位、11万以上売り上げ同指標3位のTOMORROW X TOGETHER「DRAMA」は総合4位に登場。一方でパソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる数を示すルックアップ指標では前者が13位、後者が25位と、シングルCDセールスと乖離が生じています。これは購入枚数に対する取り込み数の多くなさに加え、ユニークユーザー数やレンタル回数の多くなさを示すものと考えますが、個人的には後者において、男性アイドルについてはジャニーズ事務所所属歌手と彼ら以外、女性アイドルでは坂道グループと彼女ら以外、K-PopではBTSやTWICE等日本でも成功を収め続ける歌手と彼ら以外とで、レンタルCDの在庫数に大きな開きがあることも背景にあるものと捉えています。

 

さてTOMORROW X TOGETHER「Drama」(シングルCD「DRAMA」の表題曲)において、個人的に勿体ないと感じた点が。

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上記チャート推移(CHART insight)ではわかりにくいかもしれませんが、今週は動画再生指標が100位未満ながら300位圏内のため加算対象になった一方、動画再生指標同様にロングヒットに至る曲に欠かせないはずのサブスク再生回数に基づくストリーミング指標は300位未満となり加算対象外に。前週まで2週連続入っていながら、今週加算に至ることができませんでした。

 

この「Drama」は8月7日に先行解禁されその日から5日間、LINE MUSIC限定で”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”再生回数上位対象プレゼントキャンペーンの対象曲となっていました。

その結果LINE MUSICでは好成績を収めることができた一方、各サブスクサービスの再生回数に基づくビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標では上位に至れず、さらにキャンペーン終了後はそのLINE MUSICでも失速してしまったのです。LINE MUSICキャンペーン対象曲の、同サービスおよびビルボードジャパン各種チャートにおける順位の推移は下記の表をご参照ください。

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(順位欄の灰色表示は集計期間中に曲が解禁されていないためランクインできないことを、黄色表示は集計期間中にキャンペーンが終了済であることを示します。)

LINE MUSICで前週ウイークリーチャートを制したBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「SUMMER HYPE」ですら最新週では100位と急落し、ビルボードジャパン各種チャートからも姿を消しました。TOMORROW X TOGETHER「Drama」はシングルCDセールス加算初週の影響で総合4位に入ったものの、ストリーミング指標が一切加算されなかったのは至極勿体ないと思うのです。

TOMORROW X TOGETHER「Drama」については、デジタル先行解禁は行ってもシングルCDが売り出される頃にキャンペーンを組むべきではなかったでしょうか。キャンペーンをCDリリースのタイミングに合わせたとしても、”CDは買わなくてもサブスクで十分”と捉える方はおそらく稀ではないでしょうか。キャンペーンが5日間で500回以上再生というハードルの高さを踏まえれば、キャンペーン参加者はプレゼントを希望するコアなファンが主体であり、イコールCDを確実に買う方々であるはずです。LINE MUSICキャンペーンの時期をCDリリースのタイミングで組むこと、さらに再生回数のハードルを抑え参加賞を用意しライト層にも訴求できるようにすることが、チャートアクションの最大化を生むには重要だったと考えます。

 

 

さて次週は、ジャニーズ事務所所属歌手のシングルCDセールス初登場がない週となります。首位を狙える位置にいるのはJO1、そして三浦春馬さん。CDセールスはJO1が優勢かもしれませんが、三浦春馬「Night Diver」の逆転もあり得るでしょう。CDセールスのみならず様々な指標に注目し、動向を注視していきましょう。

 

#FreeAaliyahsMusic…命日を迎えたアリーヤの音楽が近い将来デジタル解禁されるか、推移を見守らないといけない

1990年代半ばにデビューを飾り、「The Boy Is Mine」(1998)が米ビルボードソングスチャートで13週もの首位を獲得、同年の年間チャート2位に到達したブランディとモニカ。この両者が米で人気の音楽企画、Verzuzで今月末共演するのですからたまりません。

このブランディ&モニカと同じくティーンエイジで、ふたりに先駆けてデビューしたアリーヤは2001年、22歳の若さで飛行機事故によりその生涯を閉じました。8月25日でちょうど19年が経過したことになります。わずか3枚のオリジナルアルバムを残し急逝した彼女へあらためて哀悼の意を表す一方、彼女の音楽を十分に聴くことができないデジタル環境に強い疑問を抱きます。

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今朝の段階でのSpotifyにおけるアリーヤのアーティストページは上記に。オリジナルアルバムはファーストの『Age Ain't Nothing But A Number』(1994)のみが掲載され、その後の作品は『Next Friday』サウンドトラック(1999)に収録されている「I Don't Wanna」は出てくるものの、セカンドアルバム『One In A Million』(1996)やサードアルバム『Aaliyah』(2001)の収録曲はとても正規と思えない(ジャケットの)作品にてお目見えするばかり。これらは仮に正規ではない場合、再生すればアリーヤエステート(遺産管理団体)側にお金が落ちないのではないでしょうか。そしてアリーヤのデジタル未解禁はサブスクに限らず、ダウンロードサービスのiTunes Storeでも同じことなのです。下記キャプチャは本日朝の段階でのもの。

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この中途半端な状態に陥った理由は、セカンドアルバム以降の作品をリリースしたレーベル、ブラックグラウンド(Blackground)からの作品が解禁されていないゆえ。音楽評論家の林剛さんがその旨を指摘されています。

(勝手ながら取り上げさせていただきました。問題があれば削除いたします。)

R.ケリーの問題については様々ありますが、アリーヤとの関係性(そしてそれが如何に問題だったか)はbmrの記事を読めば明らか。そしてこの記事に登場するアリーヤの叔父、バリー・ハンカーソンがブラックグラウンドの創業者であるゆえ、バリーを名指ししてアリーヤのデジタル未解禁の元凶だとする声が散見されるのです。

 

このようなデジタル環境の中、命日にアリーヤの公式Twitterアカウントが発表した内容に注目が集まっています。

先述した林剛さんも歓迎したその内容とは、アリーヤエステートが様々なレーベルと交渉を開始し、各種ストリーミングサービスに"近い将来(in the near future)"解禁されるという声明。米ビルボードの記事によると、各種カタログはバリー・ハンカーソンの管理下にあると記載されており、やはりバリーをどう説得するかが最大の鍵となるのかもしれません。

 

ブラックグラウンドはどうやらホームページも閉鎖され、とてもバリー・ハンカーソンがきちんと管理しているとは言い難い状況。そんな中、一時期同レーベルに所属していたトニ・ブラクストンは唯一ブラックグラウンドからリリースしたアルバム『Libra』(2005)を『Midnite』として、昨年ようやく解禁に至らせた経緯があります。

上記ブログエントリーではアリーヤの件も取り上げていますが、レーベルの消失や機能不全、管理者の権利独占等がサブスクサービスのカタログ不十分さに影響していると言えます。バリー・ハンカーソンのやり方は、アリーヤのカタログ未放出がバリーの傲慢さに基づくものとしたならば尚の事許されるものではありませんが、ファンが時にバックアップしながら、まずは推移を見守っていかないといけないと考えます。タイトルに据えたハッシュタグは以前から、そして昨日からはさらに多くのファンによって用いられており、こういう応援の仕方は今の時代に十分な役割を果たすと思うのです。

 

ちなみにブラックグラウンド発の作品は下記の通り(Wikipedia - Blackground Recordsより)。Spotifyで確認するとリリースされているものもありますが、たとえばタンク『Sex, Love & Pain』は米ビルボードソングスチャートで42位とスマッシュヒットとなった「Please Don't Go」、およびボーナストラックと思しき3曲を除き再生ができない状態です。もしかしたら米では再生可能かもしれませんが、おそらくはブラックグラウンドの、そしてバリー・ハンカーソンのデジタル未解禁の姿勢に因るものではないかと思うと、早期の解決を尚の事強く願うばかりなのです。

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カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」、ドレイクの猛追をかわし初登場から2週連続で首位を獲得…8月29日付米ビルボードソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の8月24日月曜に発表された8月29日付最新ソングスチャート。前週初登場で首位を獲得したカーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」がその座をキープしました。なお弊ブログでは前週より、米ビルボード動画コンテンツでの発音を踏まえ、Megan Thee Stallionをミーガン・ジー・スタリオンではなくメーガン・ザ・スタリオンと表記しています。

前週フィジカル施策を行った反動でダウンロードは前週比71%ダウンの36000(同指標1位)と急落した一方、ストリーミングは同22%ダウンに留まり7220万を獲得(同指標2位)。またラジオエアプレイは同42%アップの1650万となり同指標48位に登場しました。

初登場で首位を獲得した曲が翌週も1位を獲得するとのはアリアナ・グランデ「7 Rings」が昨年2月2日付で初登場してから5週連続、通算8週首位を記録して以来となります。この間、8曲が初登場首位を成し遂げましたが「WAP」は久々となる初登場から2週連続の首位キープとなるのです。初登場首位獲得曲で2週目もその位置をキープしたのは42曲中19曲と半数に満たず、今年に入ってからはその確率がどんどん下がっていくばかりでした。今年に入ってから初登場首位を獲得した曲の動向についてはこちらに。

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「WAP」は初登場から連続で首位を獲得したのみならず、女性歌手ではマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」(2019-2020)の3週連続以来となる連覇を達成しています。

 

さて今週、ドレイク feat. リル・ダーク「Laugh Now Cry Later」が初登場で2位に入ったのですが、「WAP」が逃げ切った形です。

「Laugh Now Cry Later」はストリーミングが6980万で同指標1位、ダウンロードが21000で同指標4位、ラジオエアプレイは1710万で同指標47位に登場。ストリーミングは有料の音楽配信サービスにおける1再生分と無料サービスやYouTube等とでウェイトが異なる等のウェイト付けにより、数値の少ない「Laugh Now Cry Later」が「WAP」に勝利、さらにラジオエアプレイも前者が上回っているのですが、ダウンロードの差が総合チャートに響いた形です。なおドレイクは今年初登場で首位を記録した「Toosie Slide」でも今回においてもフィジカル施策は行っていない模様であり、また「Toosie Slide」の初週ストリーミングが5550万だったことから「Laugh Now Cry Later」が大きく上回った形となります。

ドレイクは「Laugh Now Cry Later」で歴代最多となる41曲目のトップ10入りとなり(一方でリル・ダークは初)、通算トップ10入り曲数2位のマドンナ(38曲)をさらに引き離しています。また自身の持つ最多100位以内エントリー曲数を225に、最多初登場トップ10入り曲数を26にそれぞれ伸ばしています。

 

記録更新といえば、前週単独でのラジオエアプレイ最長首位獲得記録を達成したザ・ウィークエンド「Blinding Lights」(総合4位)は同指標において前週比2%ダウンながら7870万を記録、前人未到となる20週目の首位獲得を果たしました。

 

今週はカントリーの躍進が目立ちますが、2曲の躍進の形は実に極端なのです。

モーガン・ウォレン「7 Summers」は初登場で6位を獲得。カントリー曲が初登場でトップ10入りしたのはガース・ブルックス「Lost In You」(ただし名義はガースのオルター・エゴであるクリス・ゲインズとなっています)が1999年9月に5位に入って以来、今回が2例目なのです。

モーガンにとって初のトップ10入りとなった「7 Summers」はストリーミングが2350万を獲得し同指標4位、ダウンロードが28000で同指標2位にそれぞれ初登場を果たしています。一方でラジオエアプレイは50位未満となっていますが、本来カントリーというジャンルは所有指標およびラジオエアプレイが強い一方でストリーミングが弱いというイメージでした。

決して更新の多くないモーガン・ウォレンのツイートにて、Spotifyビルボード(街の大きな看板の意味)、そしてApple Music内ラジオでの訴求が確認でき、カントリーにおいてもストリーミングが重要な意味を帯びてきているのではと実感させられます。今後はカントリーだからといってストリーミングが少ないという定説を適用させてはいけないと感じた次第です。

 

一方、ギャビー・バレット「I Hope」が前週から1ランクアップし遂にトップ10入り。キャリー・アンダーウッド「Before He Cheats」(2007 38週目)、クリード「Higher」(2000 36週目)に次いで、歴代3位となる34週目でのトップ10入りとなります。

一昨年、オーディション番組『アメリカン・アイドル』で3位を獲得したギャビー・バレットのデビューシングルがこの「I Hope」。カントリーの女性歌手が客演を招かずにトップ10入りを果たしたのはテイラー・スウィフト「Red」が2012年10月に6位に登場して以来となります(なおテイラーはその後もトップ10ヒットを量産していますが、ここでは総合ソングスチャート(Hot 100)およびカントリーソングスチャート(Hot Country Songs)の両方に入った曲を指します)。カントリーソングスチャートでは今週モーガン・ウォレン「7 Summers」に首位の座を譲った「I Hope」ですが、デビュー曲もしくは初のチャートイン曲がカントリーソングスチャートを制し且つソングスチャート(Hot 100)でトップ10入りを果たした女性歌手はジェシー・コルター「I'm Not Lisa」(1975 総合4位)以来、実に45年ぶりの快挙となるのです。

「I Hope」はラジオエアプレイが前週比8%アップの5240万(同指標8位)、ダウンロードが前週とほぼ変わらず8000(同指標9位)、ストリーミングが同8%アップの1170万(同指標27位)。ラジオエアプレイで既に強さを発揮する一方ストリーミングも上昇していますが、4月にリリースされたチャーリー・プース客演参加版のリリックビデオがストリーミングおよびダウンロードの集計期間初日にあたる8月14日金曜に解禁されたことが影響しているものと思われます(なおラジオエアプレイの集計期間は8月17日月曜からの1週間)。

 

最新のトップ10はこちら。

[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (1位) カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」

2位 (初登場) ドレイク feat. リル・ダーク「Laugh Now Cry Later」

3位 (2位) ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」

4位 (3位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

5位 (4位) ジャック・ハーロウ feat. ダベイビー、トリー・レーンズ & リル・ウェイン「Whats Poppin」

6位 (初登場) モーガン・ウォレン「7 Summers」

7位 (5位) ハリー・スタイルズ「Watermelon Sugar」

8位 (6位) セイント・ジョン「Roses」

9位 (7位) ジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」

10位 (11位) ギャビー・バレット「I Hope」

 

次週は、BTS「Dynamite」が初登場で首位を獲得するという予想が少なくありません。アメリカ、そして日本でも様々な施策を実施している「Dynamite」が次週どのポジションで初登場を果たすかに注目。無論その翌週の動向もチェックし、真のヒットかを見極めていきましょう。

サブスク3サービスの順位を比較して見えてくるそれぞれの特徴…次のブレイク候補曲がとりわけ明確に示してくれる

昨年5月にICT総研が発表した2019年定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査における利用者が多いサービスの中で、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標にデータを提供し且つサービス内のチャートが明示されているところにおける、最新チャートの動向をチェックしてみましょう。5月中旬7月上旬に続く三度目の観測です。

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LINE MUSIC、Apple MusicそしてSpotifyについて上位40曲をリスト化。ひとつのサービスのみに登場する曲を色付けしたほか、LINE MUSICにおけるオレンジの表示は同サービス独自の"沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”再生回数上位対象プレゼントキャンペーン実施曲に該当します。キャンペーン該当曲については下記に。

 

7月の分析時にも記載しましたが、LINE MUSICにおいてはTikTokで話題だったり映像作品のタイアップだったりと、若年層に人気がある曲がいち早く上位に進出、時にロングヒットを続ける状況です。BTS「Dynamite」は前週金曜に解禁されたばかりですが3日連続で1位をキープ。実はこの曲もLINE MUSIC独自の再生回数上位対象プレゼントキャンペーン該当曲ですが、他サービスの順位も踏まえるに「Dynamite」についてはこのキャンペーンがなくとも上位進出は間違いなかったものと考えます。なお、BTSの日米におけるリリース戦略についてはBTS「Dynamite」は様々な変化や施策を伴い米ビルボードソングスチャート首位を狙える位置に来ている(8月23日付)をご参照ください。

一方で、LINE MUSIC独自の再生回数上位対象プレゼントキャンペーンが昨日終了した曲は、本日に入り順位が急落。8月24日7時におけるリアルタイムチャートではSuperM「100」が60位、Team Mercury From Zero PLANET「Happy Happy Birthday!」が49位となっており、キャンペーンが終わった途端に人気が持続しなくなるならばヒットとは言えないのでは…という疑問を抱きます。その点を踏まえて8月15日付のブログエントリーではLINE MUSICへの違和感を記載したのですが、しかしキャンペーン該当曲のやや極端なチャートアクションを除けば、LINE MUSICが若年層主体で流行がいち早く反映されやすいチャートであることは間違いありません。またLINE MUSICで面白いのは、Spotifyキャンペーン曲であるVaundy「不可幸力」がそのSpotifyの順位(52位)より高い38位に登場していること。さらに欅坂46「誰がその鐘を鳴らすのか?」が唯一、且つ4位という高位置に入っているのも、若年層に欅坂46が支持され浸透していることの証明と言えるでしょう。

 

一方で、以前保守的と評したSpotifyについてはロングヒット曲が多い傾向が変わらず、またLINE MUSICとSpotifyの中間と記したApple Musicの場合は、今月5日に解禁した米津玄師さんの楽曲が他サービスより多く入っているのが特徴。そんな3サービスで、保守的か革新的かを見極めるのに最適と言えるかもしれないのがオレンジスパイニクラブ「キンモクセイ」ではないでしょうか。

二度の改名を経て昨年1月にリリースしたファーストシングル「敏感少女」のカップリングに収録され、今年1月に発表したファーストミニアルバム『イラつくときはいつだって』の冒頭を飾るこの「キンモクセイ」は、前週水曜に発表された8月24日付ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標で20位に入り、総合では41位に上昇しています。

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しかも最新週においてはTwitterは3週連続で、カラオケは初となる100位未満ながら300位以内に入り加点対象に。動画再生指標が未だカウントされず、またYouTubeの動画説明欄に権利関係のクレジットが見当たらないことから、ISRC(国際標準レコーディングコード)未付番のため動画再生指標がカウント対象外ではという懸念がありますが、動画が伸び加点されることになれば次の大ブレイク候補になるかもしれません。

そのオレンジスパイニクラブ「キンモクセイ」の順位はLINE MUSICが7位、Apple Musicが15位そしてSpotifyが29位。この1曲だけで実証するのは無理があるでしょうがこれまでの観測も踏まえれば、ブレイクの可能性を秘めた曲の順位から各サービスの流行反映度(保守的か革新的か)の差が見えてくるかのようです。

BTS「Dynamite」は様々な変化や施策を伴い米ビルボードソングスチャート首位を狙える位置に来ている

BTSが9月5日付米ビルボードソングスチャート(日本時間の9月1日火曜早朝発表予定)を制する可能性が出てきました。

上記ツイートは米ビルボードソングスチャートを予想する方によるものですが、しかしこのツイートは説得力を帯びています。BTSは「Dynamite」において、様々な施策を施しているのです。

 

 

BTSは8月21日金曜、シングル「Dynamite」をリリース。9月5日付米ビルボードソングスチャートでは8月21~27日のストリーミングおよびダウンロード、8月24~30日のラジオエアプレイが加算対象となります。

このリリースタイミング自体が大きな変更に伴うものでした。

Spotifyスタッフ、現arne代表の松島功さんの指摘を勝手ながら引用させていただきましたが、このリリーススケジュールを変えたこと自体は間違いなく、米ビルボードソングスチャートの初週ポイントの最大化を狙っているものと考えます。

 

BTSは「Dynamite」のレコードおよびカセットテープを販売。これらが仮にフィジカル施策の対象ならば、ダウンロード施策に大きく貢献することは間違いありません。歌手の公式サイトにてシングルCDやレコード、カセットテープ(これらを総称してフィジカルと呼びます)を販売し後日それらが届くのとは別に、購入段階でダウンロードが可能となりその両方がダウンロード指標のカウント対象となるのがフィジカル施策の特徴。今年の米ビルボードソングスチャートで初登場首位を獲得した曲に欠かせない手法となったものの、厳しい表現を用いるならばチャートが不健全に陥ったため、米ビルボードでは10月頭から同施策を適用しないようチャートポリシーが変更されますが、今はまだこの施策が通用する段階です。BTSが販売したレコードやカセットテープがこの施策の対象となるかは下記キャプチャだけでは判断できかねるものの、既にレコードおよびカセットテープは完売しており、施策なしでもダウンロード指標が増大することは間違いないでしょう。

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キャプチャ元であるOfficial BTS Music Store(URLは bts-dynamite.us)では上記商品が取り扱われ、レコードやカセットテープの発売が確認できます。これらの売上はすべて米ビルボードチャートに反映される、と各商品の説明文に記載されており(『All US sales will count towards the USA SoundScan and Billboard charts』と表記。下記キャプチャ参照)、この一文はチャート上位進出を願うファンの気持ちを所有行動に昇華させるに十分です。

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また「Dynamite」はEDMおよびアコースティックバージョンを明日リリースすることをアナウンスしています。

リリース時間の設定が『24日午後1時』(上記記事より。おそらく日本時間と考えます)というのは、先述した松島さんがおっしゃるように米マーケットを意識したものではないでしょうか。この設定時間が米ビルボードを意識したであろうのみならず、オリジナルバージョンから程なく、初週の集計期間内にリミックス版をリリースするという戦略もまた、様々なバージョンを合算対象とする米ビルボードソングスチャートへの対策として十分な役割を果たします。今月テイラー・スウィフト「Cardigan」が初登場週に米ビルボードソングスチャートを制したのはまさに、フィジカル施策および別バージョンのリリースをオリジナルバージョンリリースから1週間以内に行ったゆえなのです。

 

「Dynamite」の別バージョンはダウンロードのみならずストリーミングにも影響を及ぼします。そのストリーミングについて、たとえば米Spotifyデイリーチャートでは8月21日付で3位に初登場を果たし、またYouTubeではミュージックビデオがアップされてから24時間で9830万再生という大記録を樹立しています。

YouTubeの再生回数は全世界からのアクセスによるものであり、米ビルボードアメリカからのそれのみが集計対象となりますが、巨大な数値になることは間違いないでしょう。

 

これらストリーミングの強さ、そして先述したダウンロード対策を踏まえれば、これまで「On」の4位が最高だったBTSが米ビルボードソングスチャートで初のトップ3入り、いや首位獲得もあり得るというのは十分な説得力を帯びるのです。

 

 

他方、米ビルボードソングスチャートを構成する指標のひとつ、ラジオエアプレイの動向が気になります。ストリーミングは初動が高く緩やかに降下もしくは維持、ダウンロードは初動が高く降下も速い(フィジカル施策が採られれば尚の事反動が大きい)のに対し、ラジオエアプレイは安定するものの上昇の度合いが非常に遅く、1ヶ月で同指標10位以内に入ることは極めて稀だという特徴があります。

元来BTSにおいてはラジオエアプレイが強くないことがあり、デジタル2指標のダウンにラジオエアプレイが追いつかないためトップ10入りしても2週目以降その位置をキープできないという傾向がありました。加えて、今年初登場でトップに立った曲の動向を見ると、ラジオエアプレイに強くない曲はランクダウンが激しいという法則が成立します。下記は今年度、初登場で首位を獲得した曲の3指標および翌週以降のチャート動向であり、ドレイク「Toosie Slide」のみフィジカル施策を用いていません。

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フィジカル施策を使うと初登場の翌週はその施策の反動でダウンロード指標が急落、一方でラジオエアプレイはどんなに高くとも20位には届かないという傾向は上記で明白。初登場で首位を獲得した曲はすべて翌週その座をキープできず、半数である3曲はトップ10にもとどまることができませんでした(カーディ・B feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」は最新週で首位に初登場したため翌週の動向は不明)。逆にトップ10内をキープできた3曲においては、ドレイクが先述したようにフィジカル施策を用いなかったゆえ安定、テイラー・スウィフトはソングスチャートとアルバムチャートを共に初登場で制し(両方のチャートを同時に初登場で制したのは60年以上の歴史で初)、翌週もある程度アルバムの勢いが反映された結果に因るもの、またレディー・ガガにおいてもテイラーと似ており、ソングスチャートを制した翌週にアルバムが初登場首位を果たしたことでその勢いがソングスチャートにも波及した結果と考えられます。

となると、BTSにおいてもその勢いをキープするための施策が求められますが、彼らにおいては現地時間の8月30日日曜にMTVビデオ・ミュージック・アワードに出演し「Dynamite」を披露することが決定しており、これが登場2週目のチャートアクションに影響するのは間違いないでしょう。

BTS「Dynamite」に関するスケジュールをみると、同曲の別バージョンとなるミュージックビデオも公開が予定されており、初週のストリーミングは勿論のこと、翌週の同指標にも影響を及ぼすことが考えられます。

 

また、「Dynamite」の歌詞が全編英語であることもラジオエアプレイにとってプラスに作用するかもしれません。歌詞は下記Geniusにてご確認ください。

これまでは韓国語がメインだったBTSが全編英語詞の曲を発表することで、仮に英語がメインではないからという理由でOAを避けていたラジオ局や番組側があるとしたら、OAしない理由がひとつ減るのです。

 

 

BTS「Dynamite」が米ビルボードソングスチャートを制したならばそれは間違いなく歴史的快挙です。一方、弊ブログで幾度となく記載していますが、フィジカル施策が多用されたことでトップを獲得しても翌週急落することが目立つようになり、その週だけのチャートでは真の社会的ヒットは測れなくなってきたと考えます。これは日本におけるCDセールスに長けた作品の動向にも言えることですが(ゆえに米ビルボードソングスチャート対策としてのフィジカル施策の多用は、米チャートの"日本化"と形容されてもおかしくないと思うのです)、上位に初登場を果たした曲については少なくとも翌週の動向を、チャートの総合順位のみならず構成指標の前週比をみることで真の社会的ヒットに至ったかを見極めないといけません。年末に発表される年間チャートもチェックが必要です。BTSにおいてはフィジカル施策を採らずともダウンロードが強く、ストリーミングでも人気であるゆえ、ラジオエアプレイを克服さえすれば米でさらなる飛躍を成し遂げたと言えるでしょう。

 

 

 

ここまでは米チャートについて考えましたが、日本においてはどうでしょう。ビルボードジャパンソングスチャートにおける上位登場は8月31日付(8月26日午後発表)の予定。ビルボードジャパンソングスチャートは構成8指標がすべて月曜集計開始となるため、ストリーミングやダウンロード等は金曜からの3日間(実質2日半)が集計対象となり有利とは言えません。それでも8月21日付の日本のSpotifyデイリーチャートでは15位に初登場、それも13万近い数値を獲得しているのは他のサブスクサービスより上昇が遅いと考えられるSpotifyでは凄いことなのです。

また別のサブスクサービスにおいては、LINE MUSICで8月21、22日付デイリーチャートを共に制覇。しかも「Dynamite」のインストゥルメンタルバージョンが31→57位と2日連続で100位以内に入っているのが特筆すべき点ですが、こちらは下記キャンペーンによりインストゥルメンタルを(誤って?)再生した方が少なくなかったことが反映されたのかもしれません。

LINE MUSICの”沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する”再生回数上位対象プレゼントキャンペーンについては今月弊ブログで取り上げ、個人的には否定的な見解を抱いていますが、2日半という不利な集計期間で如何にチャート上で爪痕を残すかという点においては有利に働くのかもしれません。尚、LINE MUSICキャンペーンについての見解は下記にて記しています。

 

(余談となりますが、そもそもの問題として、日本のチャートがビルボードジャパンであれオリコンであれ、世界的なリリース標準日である金曜を集計開始としないことについて一度議論すべきだと思うのです。フィジカルなしでも世界中でリリースできるようになったにも関わらずチャートは日本のみドメスティックな期間設定のままであれば、金曜リリースを標準とする洋楽や海外展開するために発売日を金曜に合わせた邦楽が不利になり、たとえば洋楽作品は日本で売ることのデメリットを考慮して国内盤のリリースを敬遠する動きが出てくるでしょう。また現在のチャートが邦楽CDの水曜リリース(火曜店着)に合わせた期間設定だとして、よくよく考えればCDセールスは初週6日分のみのカウントとなり隙間が発生するわけで、この機会損失について疑問が生じます。世界に倣い日本でも金曜リリースを定着させれば、週末のCD販売店舗への人手も増えるでしょう。音楽業界とチャート取扱業者が議論の場を設けることを切に願います。)

 

 

BTS「Dynamite」のアメリカ、そして日本におけるソングスチャートの動向、注目していきましょう。

back numberの近年の楽曲における接触指標群の非充実…ミュージックビデオフルバージョン公開曲との差は広がるばかりでは

最新8月24日付のビルボードジャパンソングスチャートでは、サブスクを解禁した米津玄師さんやヒゲダンフェス開催に伴うOfficial髭男dismの大挙エントリーが目立ちます。そちらについては一昨日のブログエントリーに記載していますが、それら楽曲に負けじと残り続けているのがback number「高嶺の花子さん」。今週は76位にランクインしています。

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直近90週における「高嶺の花子さん」のチャート推移(CHART insight)で解るように、前週突如動画再生指標(赤の折れ線グラフ)が100位以内に登場し、これにより「高嶺の花子さん」はチャート構成比においてストリーミング指標5割、動画再生指標2割強というロングヒットの法則に見事合致しました(この法則については以前記しています)。元々「高嶺の花子さん」には短尺版のミュージックビデオが用意され、動画再生指標では100位未満ながら300位以内に入り加点対象となることはあったのですが、7月29日にback numberの公式YouTubeチャンネルが開設され、この曲を含む19本のミュージックビデオが一挙に公開されたことで動画再生指標が跳ね上がった形です。

上記がこれまで公開されていた短尺版、そして下記がフルバージョン。

短尺版のミュージックビデオがフルバージョンに比べて動画再生指標加算に貢献しない件については以前、Mrs. GREEN APPLEを例に挙げていますが、Mrs. GREEN APPLEが比較的短期間でフルバージョンを別途アップした一方、back numberについてはようやくというところでしょう。

 

それにしても驚くのは、back numberの公式YouTubeチャンネルが今までなかったということ。これまでの短尺版は彼らの所属レコード会社、ユニバーサルミュージックの公式YouTubeアカウントにアップされていたのですが、これは先述したMrs.GREEN APPLEにおいても同じこと。さらにback numberにおいては、フルバージョンが解禁されたのはベストアルバム『アンコール』(2016)までの作品およびシングル「瞬き」(2017)のカップリングである「ARTIST」までであり、「瞬き」以降のシングル(CD表題曲)等が含まれるアルバム『MAGIC』(2019)関連曲は解禁に至っていません。フルバージョンで解禁された19曲についてはビルボードジャパンの記事に掲載されていますが、ミュージックビデオ公開範囲の限定は、以前指摘したサブスク解禁のそれとほぼ被るのです。

ミュージックビデオの公開元はback number側と所属レコード会社側の2箇所あり、最近の曲は前者で未公開、後者で短尺版のみとなっています。一方、今月18日に突如発表された新曲「水平線」についてはback numberの公式YouTubeチャンネルのみで公開(デジタル解禁の予定は今のところみられず)というのは、back numberとユニバーサルミュージックの間に何か問題があったと思われてもおかしくないのではないでしょうか。今回のミュージックビデオのアップの理由(思い)を踏まえれば邪推なのかもしれませんが。

back numberと所属レコード会社の関係が良好だというのであれば、仮に『アンコール』後の作品については現在も売上が見込めるためサブスクもYouTubeも未解禁のままにするという取り決めがあると推測するのが最も自然かもしれません。これはMrs. GREEN APPLEについても立てた仮説ですが、ならばそれは非常に勿体無いことなのです。

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サブスクおよびミュージックビデオフルバージョンで解禁されていないシングル4曲の、直近90週におけるチャート推移(CHART insight)をみると「高嶺の花子さん」と大きく異なることは明らかです。これら4曲のポイント獲得源はダウンロードとカラオケであり、所有指標のダウンロードでポイントを獲得していることはすなわち、現在も売上が見込めるため解禁しなくても…という先述した所属レコード会社の考え(の仮説)通りになっていると言えるでしょう。

しかし「高嶺の花子さん」の獲得ポイント源はサブスク再生に基づくストリーミングであり、所有指標より稼げないとしても再生回数に伴う売上高は所属レコード会社等へ入ってきます。またサブスク等の盛り上がりは注目度の上昇や維持につながり、ソングスチャートを見て、またサブスクサービスの人気曲プレイリストを機に聴く方が出てくることで、より長く愛されていくことになります。その上、前週から動画再生指標100位以内に入ったことでそちらからの売上も見込めるわけです。そういう意味では、最近の作品だけ接触できる環境を与えられないというのはこれらの流れに至れないという点において機会損失なのです。それでも「大不正解」は不連続ながら、他3曲は連続して100位未満ながら300位に登場しているのはback numberの人気を裏付ける証拠ではあるのですが。

いずれ近年の楽曲もサブスクおよびミュージックビデオフルバージョンが解禁されるとは思いますが、その間も機会損失は続くと思うと残念でなりません。そしてこのようなアップロードの不十分さは、それを知った人にとっては主に歌手側への不信感につながるのではないでしょうか。不信感が所有行動やライブ参加等の敬遠につながる可能性を孕んでいるならば、所属レコード会社がやるべきことは不信感を生ませないことであるのは自明でしょう。

 

「水平線」に関するリアクションには、いずれデジタル解禁してほしいという声がみられます。ならばそれと同時に、「HAPPY BIRTHDAY」等『MAGIC』収録曲のミュージックビデオフルバージョン、そして『MAGIC』自体のサブスクでの解禁を呼びかけることも必要ではないでしょうか。

動画再生指標への疑問に対するビルボードジャパンからの回答と、それを踏まえた上での私見や願いを記す

8月10~16日を集計期間とする8月24日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)ではTwenty★Twenty「smile」がトップに立ったことは昨日お伝えしましたが、今回のソングスチャートに関するビルボードジャパンの記事の中に興味深い箇所が。

今週の2位はYOASOBI「夜に駆ける」が、3位は米津玄師「感電」がそれぞれキープ。総合ポイントは7507→4900と確かに詰めてはいるものの、またサブスクの再生回数に基づくストリーミング指標においてはその再生回数差が1725251→230475と一気に縮めているものの(ただしストリーミング指標は有料サービスでの再生回数と無料とでウェイトが異なり適用されるため、再生回数がそのまま指標に反映されるわけではありません)、動画再生指標において「夜に駆ける」が「感電」の『ダブルスコア以上の大差を付けている』ことが「夜に駆ける」が勝った要因と言えます(『』内は上記記事より)。そして前週はその動画再生指標が、シングルCD未発売ながら2万ポイントを突破した要因だと考えられ、13日のブログで取り上げています。

「夜に駆ける」の動画再生指標が前週急激に増加したその中身について、チャート動向を追いかけるあささんのツイートにより一応の結論が出ています。動画再生指標増加の背景には、多数のUGC(ユーザー生成コンテンツ)の加算がある模様です。

(勝手ながら引用させていただきました。問題があれば削除いたします。)

 

しかしながら、このUGCの適用範囲について疑問が浮かんでいます。

まず、UGCとはなにかについて、動画再生指標の加算対象を確認します。

YouTubeについて

YouTubeでの動画再生回数はどのように集計していますか。

日本レコード協会が発行および管理を行っている国際標準コード「ISRC」が付番されたレコーディング(オーディオレコーディングおよび音楽ビデオレコーディング)を使用した動画を集計対象として、その国内週間再生回数を米国ニールセン経由で集計しています。権利者の許諾を受けていれば、「恋」や「ダンシング・ヒーロー」などで見られた、オフィシャル音源を使用したユーザー生成コンテンツ(UGC)も集計対象となります。

【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANより

その上で、下記キャプチャをご覧ください。

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上記は香取慎吾さんの「夜に駆ける」歌ってみた動画における説明欄(キャプチャはこの説明の目的で使用しました。問題があれば削除いたします)。あささんが紹介されていたFischer'sの動画2本等においても、”この動画の音楽”欄に上記と同じ権利者のクレジットが確認できます。となるとこれら動画はUGCとして動画再生指標の加算対象となるのでしょうが、しかしこれら動画で用いられているのは「夜に駆ける」のあくまでインストゥルメンタルバージョンなのです。インストゥルメンタルバージョンはYOASOBI側が無料配布しています。

オリジナルバージョンのインストゥルメンタルを用いて作成された歌ってみた動画ではインストゥルメンタル版をクレジットするのが正しい方法ではないかと思うと共に、たとえば無料配布された作品が売上に加算されないことは星野源「うちで踊ろう」のチャート推移(CHART insight)からも明らかであり、営利目的ではない(また営利目的を”おやめください”と謳う)バージョンを用いたものがカウント対象となることにも矛盾が生まれないかと感じた次第です。

 

それらを踏まえた上で、ビルボードジャパンが毎週水曜にアップするポッドキャストに対し、以下の質問を投げかけました。ビルボードジャパンでは"#ビルボードポッドキャスト"のハッシュタグを付けてつぶやいた質問に応えると仰っているため、それを活用させていただきました。

 

そして、ビルボードジャパンが昨日までに更新したポッドキャストにて回答をいただいたので、紹介させていただきます。ビルボードジャパンでは、UGCについてという点に絞って回答されていました。話し言葉のため、下記に簡潔にまとめています。

『どこまでポイントが付くのかというのはビルボードジャパンが決めていることではない。どこまでUGCにするかというのは、たとえばYouTubeだったらYouTube側が決めること。UGCとみなされるのは、90%以上の権利音源または画源を含み、権利者によるアップロードではないもの(つまりオフィシャルによるアップロードではないもの)。これ以外はUGCではない。』

つまり、UGCについてはYouTubeGYAO!といった動画再生指標の情報提供側の裁量に因るものであるということです。回答については上記引用分がすべてとなります。

(幾度となく質問をしながら、丁寧に回答をいただいたビルボードジャパンおよびビルボードジャパンのスタッフの皆さんに御礼申し上げます。)

 

先にツイートを取り上げたあささんは後に(上記ポッドキャストが発信される前に)、8月24日付ビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標についてこのようにツイートしており、歌ってみた動画のUGCもカウント対象となることをほぼ断定されています。UGCがカウントされることについてはビルボードジャパンからの回答を待たずとも、あささんをはじめとするチャート分析に長けた方の指摘で示されたと言っていいでしょう。

 

 

ビルボードジャパンからいただいた回答に対し私見を申し上げれば、納得した部分もあれば、釈然としない点あることも否定できません。UGCが『90%以上の権利音源または画源』が対象ということですが、歌声が差し替わったものもをカウント対象とするならば歌声は楽曲構成のおよそ1割でしかないのかということが一点(これはひねくれた考えかもしれませんが)。また、たとえばアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』で用いられたことを機にイエス「Roundabout」がアニメに倣った動画に用いられたことで動画再生指標でヒットし続けており、おそらくこの曲がUGCとしてカウント対象になったのだと捉えていますが(ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標で8位まで上昇したイエス「Roundabout」、流行の理由はアプリからだった(2019年7月19日付)参照)、8分半もある楽曲の一部のみの利用であり、尺的に『90%以上の権利音源または画源』を含まないのが明白だとしてもカウント対象となることに矛盾はないのかとも思うのです。

 

このUGCについては、今年はじめに米ビルボードがチャートポリシーを変更し、1月18日付よりUGCのカウント対象範囲を狭めています。これを適用したことで、たとえば先述したイエス「Roundabout」のUGCは除外対象となり米ビルボードソングスチャートにおいて加算対象外となるはずです。

song-UGCとnon-song UGCとをどう分けるか、その管理はYouTubeが行っているのかそれとも米ビルボードでできるのかは不明ですが、しかし仮に米ビルボードが管理できるのであれば同様のことがビルボードジャパンでもできるはずであり、先の回答における『YouTube側が決めること』という点は揺らぐのではないでしょうか。

 

また、UGCISRC(国際標準レコーディングコード)とは分けて考える必要があるかもしれませんが、ISRCにおいては『ボーカル曲から歌や台詞等を抜いて、カラオケ曲やインスト曲を作成した場合』はオリジナルバージョンとは別のISRCを付番する必要があります(『』内はFAQ|日本レコード協会-ISRC付番について - Q. リマスタリング・バージョン違い・カラオケ等は、別のISRCを付番する必要がありますか?より)。となると、仮にUGCISRCと紐付けされている場合、オリジナルのインストゥルメンタルバージョンを用いて作成した歌ってみた動画については、オリジナルバージョンではなくそのインストゥルメンタルバージョンに加算されないといけないのでは、そして先の香取慎吾さんの動画の説明欄に記述すべき曲名は「夜に駆ける」のインストゥルメンタルバージョンではないかと思うのです。

とはいえこの点については、UGCにおいてはインストゥルメンタルバージョンを使ったものでもオリジナルバージョンに加算されるようになっているのかもしれません。そして別指標において、カラオケ指標はオリジナルの歌手以外が歌ったものがカウントされるわけですから、UGCが加算されるべきはインストゥルメンタルバージョンではという自分の指摘は考えすぎの域を出ないでしょう。

それでもこの点を解決するとしたら、インストゥルメンタルも、リミックスも客演追加等も含め、オリジナルバージョンにすべて合算するという米ビルボードのチャートポリシーを採用することが、紛らわしくなくまた事務的にも煩わしくないと思われ、最善ではないかと考えます。

 

 

今回の質問や回答、その回答に対する私見等は非常に細かいことではあるでしょうが、動画再生についてはロングヒット曲においてチャート構成比の4分の1程度を占める重要指標ゆえ、ビルボードジャパン側には動画再生指標のみで記事を別途用意してほしい、そして各指標のウェイト変更や指標毎の見直し(チャートポリシー変更の協議)を行うと思いますので合算について検討してほしいと切に願うばかりです。

 

 

 

最後に、"#ビルボードポッドキャスト"と付けて質問した内容の中に、一発録りYouTubeチャンネル、THE FIRST TAKEの動画も合算対象となったのでは?というものがありました。仮にこの動画が合算されるとすれば釈然としないゆえ真偽を確かめたいというのがその理由です。

THE FIRST TAKE(この企画においては後に、コロナ禍により通常のスタジオで収録できず収録方法を変更したため、「夜に駆ける」については”THE HOME TAKE”名義となっています)はオリジナルバージョンとは音源が異なるため、リミックスや客演追加等をオリジナルバージョンに合算しないビルボードジャパンソングスチャートのチャートポリシーに倣うならば、THE FIRST TAKEシリーズはオリジナルとは別途集計されなければなりません。DISH//「猫」のTHE FIRST TAKEバージョンがオリジナル版とは別にチャートに登場しているのはそれゆえですが、仮に商品化していないTHE HOME TAKEバージョンがオリジナル版として動画に登録され、オリジナル版に合算されたならばチャートポリシーとの矛盾が発生するのです。

しかしながらこの件については自分の見逃しにより、質問せずに済んだのかもしれません。

この動画の説明欄には、このバージョンがTHE HOME TAKE版であることが記されていました。

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ゆえに、このバージョンはオリジナルバージョンの動画再生指標に加算されていないはずです。

 

ただ気になるのは「夜に駆ける」動画再生指標の急伸。THE HOME TAKEバージョンの動画は5月15日金曜にアップされたものですが、同月18日からの1週間を集計期間とする6月1日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、「夜に駆ける」の動画再生回数は倍増しているのです。

とりわけこの動画再生指標の増加が、6月1日付で「夜に駆ける」が初の首位に立った要因と言えますが、たとえば5月24日までに公開され現在までに共に300万回以上再生されている天月さんまふまふさんの動画が同指標を倍増に至らせた要因だと断定するのは難しいと思い、"はずです"と表記した次第です。

 

 

繰り返しになってしまうのですが、ビルボードジャパン側には動画再生指標のみで記事を別途用意してほしい、そして各指標のウェイト変更や指標毎の見直し(チャートポリシー変更の協議)を行うと思いますので合算について検討してほしいと切に願うばかりです。前者においてはTHE HOME TAKE動画合算の可能性等の疑問が、後者においては紛らわしさや事務的な煩わしさが、共に大きく解消されるはずです。