イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

動画再生指標への疑問に対するビルボードジャパンからの回答と、それを踏まえた上での私見や願いを記す

8月10~16日を集計期間とする8月24日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)ではTwenty★Twenty「smile」がトップに立ったことは昨日お伝えしましたが、今回のソングスチャートに関するビルボードジャパンの記事の中に興味深い箇所が。

今週の2位はYOASOBI「夜に駆ける」が、3位は米津玄師「感電」がそれぞれキープ。総合ポイントは7507→4900と確かに詰めてはいるものの、またサブスクの再生回数に基づくストリーミング指標においてはその再生回数差が1725251→230475と一気に縮めているものの(ただしストリーミング指標は有料サービスでの再生回数と無料とでウェイトが異なり適用されるため、再生回数がそのまま指標に反映されるわけではありません)、動画再生指標において「夜に駆ける」が「感電」の『ダブルスコア以上の大差を付けている』ことが「夜に駆ける」が勝った要因と言えます(『』内は上記記事より)。そして前週はその動画再生指標が、シングルCD未発売ながら2万ポイントを突破した要因だと考えられ、13日のブログで取り上げています。

「夜に駆ける」の動画再生指標が前週急激に増加したその中身について、チャート動向を追いかけるあささんのツイートにより一応の結論が出ています。動画再生指標増加の背景には、多数のUGC(ユーザー生成コンテンツ)の加算がある模様です。

(勝手ながら引用させていただきました。問題があれば削除いたします。)

 

しかしながら、このUGCの適用範囲について疑問が浮かんでいます。

まず、UGCとはなにかについて、動画再生指標の加算対象を確認します。

YouTubeについて

YouTubeでの動画再生回数はどのように集計していますか。

日本レコード協会が発行および管理を行っている国際標準コード「ISRC」が付番されたレコーディング(オーディオレコーディングおよび音楽ビデオレコーディング)を使用した動画を集計対象として、その国内週間再生回数を米国ニールセン経由で集計しています。権利者の許諾を受けていれば、「恋」や「ダンシング・ヒーロー」などで見られた、オフィシャル音源を使用したユーザー生成コンテンツ(UGC)も集計対象となります。

【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANより

その上で、下記キャプチャをご覧ください。

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上記は香取慎吾さんの「夜に駆ける」歌ってみた動画における説明欄(キャプチャはこの説明の目的で使用しました。問題があれば削除いたします)。あささんが紹介されていたFischer'sの動画2本等においても、”この動画の音楽”欄に上記と同じ権利者のクレジットが確認できます。となるとこれら動画はUGCとして動画再生指標の加算対象となるのでしょうが、しかしこれら動画で用いられているのは「夜に駆ける」のあくまでインストゥルメンタルバージョンなのです。インストゥルメンタルバージョンはYOASOBI側が無料配布しています。

オリジナルバージョンのインストゥルメンタルを用いて作成された歌ってみた動画ではインストゥルメンタル版をクレジットするのが正しい方法ではないかと思うと共に、たとえば無料配布された作品が売上に加算されないことは星野源「うちで踊ろう」のチャート推移(CHART insight)からも明らかであり、営利目的ではない(また営利目的を”おやめください”と謳う)バージョンを用いたものがカウント対象となることにも矛盾が生まれないかと感じた次第です。

 

それらを踏まえた上で、ビルボードジャパンが毎週水曜にアップするポッドキャストに対し、以下の質問を投げかけました。ビルボードジャパンでは"#ビルボードポッドキャスト"のハッシュタグを付けてつぶやいた質問に応えると仰っているため、それを活用させていただきました。

 

そして、ビルボードジャパンが昨日までに更新したポッドキャストにて回答をいただいたので、紹介させていただきます。ビルボードジャパンでは、UGCについてという点に絞って回答されていました。話し言葉のため、下記に簡潔にまとめています。

『どこまでポイントが付くのかというのはビルボードジャパンが決めていることではない。どこまでUGCにするかというのは、たとえばYouTubeだったらYouTube側が決めること。UGCとみなされるのは、90%以上の権利音源または画源を含み、権利者によるアップロードではないもの(つまりオフィシャルによるアップロードではないもの)。これ以外はUGCではない。』

つまり、UGCについてはYouTubeGYAO!といった動画再生指標の情報提供側の裁量に因るものであるということです。回答については上記引用分がすべてとなります。

(幾度となく質問をしながら、丁寧に回答をいただいたビルボードジャパンおよびビルボードジャパンのスタッフの皆さんに御礼申し上げます。)

 

先にツイートを取り上げたあささんは後に(上記ポッドキャストが発信される前に)、8月24日付ビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標についてこのようにツイートしており、歌ってみた動画のUGCもカウント対象となることをほぼ断定されています。UGCがカウントされることについてはビルボードジャパンからの回答を待たずとも、あささんをはじめとするチャート分析に長けた方の指摘で示されたと言っていいでしょう。

 

 

ビルボードジャパンからいただいた回答に対し私見を申し上げれば、納得した部分もあれば、釈然としない点あることも否定できません。UGCが『90%以上の権利音源または画源』が対象ということですが、歌声が差し替わったものもをカウント対象とするならば歌声は楽曲構成のおよそ1割でしかないのかということが一点(これはひねくれた考えかもしれませんが)。また、たとえばアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』で用いられたことを機にイエス「Roundabout」がアニメに倣った動画に用いられたことで動画再生指標でヒットし続けており、おそらくこの曲がUGCとしてカウント対象になったのだと捉えていますが(ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標で8位まで上昇したイエス「Roundabout」、流行の理由はアプリからだった(2019年7月19日付)参照)、8分半もある楽曲の一部のみの利用であり、尺的に『90%以上の権利音源または画源』を含まないのが明白だとしてもカウント対象となることに矛盾はないのかとも思うのです。

 

このUGCについては、今年はじめに米ビルボードがチャートポリシーを変更し、1月18日付よりUGCのカウント対象範囲を狭めています。これを適用したことで、たとえば先述したイエス「Roundabout」のUGCは除外対象となり米ビルボードソングスチャートにおいて加算対象外となるはずです。

song-UGCとnon-song UGCとをどう分けるか、その管理はYouTubeが行っているのかそれとも米ビルボードでできるのかは不明ですが、しかし仮に米ビルボードが管理できるのであれば同様のことがビルボードジャパンでもできるはずであり、先の回答における『YouTube側が決めること』という点は揺らぐのではないでしょうか。

 

また、UGCISRC(国際標準レコーディングコード)とは分けて考える必要があるかもしれませんが、ISRCにおいては『ボーカル曲から歌や台詞等を抜いて、カラオケ曲やインスト曲を作成した場合』はオリジナルバージョンとは別のISRCを付番する必要があります(『』内はFAQ|日本レコード協会-ISRC付番について - Q. リマスタリング・バージョン違い・カラオケ等は、別のISRCを付番する必要がありますか?より)。となると、仮にUGCISRCと紐付けされている場合、オリジナルのインストゥルメンタルバージョンを用いて作成した歌ってみた動画については、オリジナルバージョンではなくそのインストゥルメンタルバージョンに加算されないといけないのでは、そして先の香取慎吾さんの動画の説明欄に記述すべき曲名は「夜に駆ける」のインストゥルメンタルバージョンではないかと思うのです。

とはいえこの点については、UGCにおいてはインストゥルメンタルバージョンを使ったものでもオリジナルバージョンに加算されるようになっているのかもしれません。そして別指標において、カラオケ指標はオリジナルの歌手以外が歌ったものがカウントされるわけですから、UGCが加算されるべきはインストゥルメンタルバージョンではという自分の指摘は考えすぎの域を出ないでしょう。

それでもこの点を解決するとしたら、インストゥルメンタルも、リミックスも客演追加等も含め、オリジナルバージョンにすべて合算するという米ビルボードのチャートポリシーを採用することが、紛らわしくなくまた事務的にも煩わしくないと思われ、最善ではないかと考えます。

 

 

今回の質問や回答、その回答に対する私見等は非常に細かいことではあるでしょうが、動画再生についてはロングヒット曲においてチャート構成比の4分の1程度を占める重要指標ゆえ、ビルボードジャパン側には動画再生指標のみで記事を別途用意してほしい、そして各指標のウェイト変更や指標毎の見直し(チャートポリシー変更の協議)を行うと思いますので合算について検討してほしいと切に願うばかりです。

 

 

 

最後に、"#ビルボードポッドキャスト"と付けて質問した内容の中に、一発録りYouTubeチャンネル、THE FIRST TAKEの動画も合算対象となったのでは?というものがありました。仮にこの動画が合算されるとすれば釈然としないゆえ真偽を確かめたいというのがその理由です。

THE FIRST TAKE(この企画においては後に、コロナ禍により通常のスタジオで収録できず収録方法を変更したため、「夜に駆ける」については”THE HOME TAKE”名義となっています)はオリジナルバージョンとは音源が異なるため、リミックスや客演追加等をオリジナルバージョンに合算しないビルボードジャパンソングスチャートのチャートポリシーに倣うならば、THE FIRST TAKEシリーズはオリジナルとは別途集計されなければなりません。DISH//「猫」のTHE FIRST TAKEバージョンがオリジナル版とは別にチャートに登場しているのはそれゆえですが、仮に商品化していないTHE HOME TAKEバージョンがオリジナル版として動画に登録され、オリジナル版に合算されたならばチャートポリシーとの矛盾が発生するのです。

しかしながらこの件については自分の見逃しにより、質問せずに済んだのかもしれません。

この動画の説明欄には、このバージョンがTHE HOME TAKE版であることが記されていました。

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ゆえに、このバージョンはオリジナルバージョンの動画再生指標に加算されていないはずです。

 

ただ気になるのは「夜に駆ける」動画再生指標の急伸。THE HOME TAKEバージョンの動画は5月15日金曜にアップされたものですが、同月18日からの1週間を集計期間とする6月1日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、「夜に駆ける」の動画再生回数は倍増しているのです。

とりわけこの動画再生指標の増加が、6月1日付で「夜に駆ける」が初の首位に立った要因と言えますが、たとえば5月24日までに公開され現在までに共に300万回以上再生されている天月さんまふまふさんの動画が同指標を倍増に至らせた要因だと断定するのは難しいと思い、"はずです"と表記した次第です。

 

 

繰り返しになってしまうのですが、ビルボードジャパン側には動画再生指標のみで記事を別途用意してほしい、そして各指標のウェイト変更や指標毎の見直し(チャートポリシー変更の協議)を行うと思いますので合算について検討してほしいと切に願うばかりです。前者においてはTHE HOME TAKE動画合算の可能性等の疑問が、後者においては紛らわしさや事務的な煩わしさが、共に大きく解消されるはずです。