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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

シックスナインが首位を逃したのはチャートに不正があったから?…彼のクレームへのアリアナ&ジャスティンおよび米ビルボードの反論、そして私見を記す

日本時間の昨日早朝に発表された5月23日付米ビルボードソングスチャートでは、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」が初登場で首位を獲得しましたが、それに対し同日リリースされた「Gooba」が3位にとどまったシックスナインが"ビルボードの不正操作" "「Stuck With U」側の不正買収"により自身が1位になれなかったと主張。チャート発表前の主張および最新チャートについては昨日ブログに記載しています。

そしてチャート発表後もクレーム。

これに対し、「Stuck With U」側のアリアナ・グランデ、そしてジャスティン・ビーバーは共にコメントを発表しています。

アリアナ&ジャスティン側の反論については、ビルボードジャパンが訳し報じています。

チャート発表から数時間後、米ビルボードが最新5月23日付ソングスチャートについて、シックスナインのクレームに丁寧に応えています。

ビルボードはどうやって最新チャートの計算を行ったか』…自分は記事掲載直後に意訳してみたのですが(→こちらのツイートが起点)、NME JAPANの記事後半に大まかな訳が掲載されていたのでそちらを紹介します。

そこで今回、シックスナインのクレームに対するビルボードの反論について取り上げます。

(個人的には、ビルボードジャパンがこの米ビルボードの回答を今現在翻訳して記事にしていないことを強く残念に思います。米ビルボードが示したのは、唯一無二のチャートに問題はなく、また仮に問題があるならば積極的に調べ、さらに年1回以上のペースでチャートポリシーを見直すという、チャート責任者としての堂々たる姿勢です。ざっと検索するとシックスナインに感情的に肩入れしビルボードを非難する日本人も少なくないことから、彼らに聞いてもらう意味でも今からでも訳し報じるべきだったと思います。)

 

 

まずは不正購入について。仮にそのようなことがあった場合は集計から差し引き、また不正がないかについては今週登場したすべての曲を監視対象としていると述べています。

フィジカルセールスも含むダウンロード指標において集計期間最終日となる5月14日に売上が急増したのは、この日が『アリアナ・グランデジャスティン・ビーバーの公式サイトでサイン入りアナログ盤が発売』されたため(『』内は上記NME JAPANの記事より)。サインの有無は別としても、「Stuck With U」のみならず、前週首位のドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」も、その前の週を制したザ・スコッツ(トラヴィス・スコット & キッド・カディ)「The Scotts」も、歌手の公式サイトでフィジカルをリリースしたことでダウンロード指標が伸び(フィジカルの購入者は手続き後、ダウンロードが可能となる)、首位獲得の一因となっていることから、歌手側がチャート上で仕掛ける常套手段となっています。また、そのような仕掛けがチャートに影響を及ぼした際、米ビルボードはトップ10速報等においてきちんと紹介しています。

フィジカル効果もあり当週10万を突破した「Stuck With U」。ビッグセールスとなった理由はアリアナ・グランデおよびジャスティン・ビーバーがアイドル的人気を誇るゆえにファンの所有欲が高いこと、サイン入りの発売がさらなる刺激を与えていること、そしてこの曲がコロナ禍に対するチャリティソングとしての特性も影響しているというのが私見。そして仮に今回のフィジカル施策をシックスナインが不正買収とするならば、「Gooba」が集計期間最終日になって同様の施策を採ったことにはどう説明するのでしょう。

 

そしてシックスナインのもうひとつの主張である、ストリーミングの不正操作により「Gooba」が不利になった点については、『ジャスティン・ビーバーと米『ビルボード』誌は共にストリーミング・サービスで表示される数字は世界的なものである事実を指摘している。米『ビルボード』誌はアメリカの数字のみを換算している』ため、この主張も誤りであることが判ります(『』内は上記NME JAPANの記事より)。これはビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標についても同様で、日本で再生されたものだけがYouTubeの加算対象となるのです。

付け加えるならば、米ビルボードソングスチャートを構成する3つの指標のうち最も大きなウェイトを占めるストリーミング指標においては、2018年7月13日付以降、指標内のウェイトが変更されています。簡単に言えば、有料サービスを利用するユーザーの1回の再生のほうが、無料サービスでの1回の再生より比重が大きくなるのです。

「Gooba」は後述する理由により、サブスクリプションサービスで配信はされていてもプレイリストからはことごとく外されています。多くの方がそれらサービスから直接楽曲検索してたどり着くこともあれど、一方YouTubeで再生した方も多いかもしれません。しかしそこで再生された分はサブスクの有料サービスで再生された分よりウェイトが小さく計算されるのです。

 

ビルボードは、チャートファンが提示するソングスチャートの予想については一切行っていません(ただし前週のドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」とミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」のようにトップ争いが熾烈であれば、どちらが首位になるかの観点から報じることはあります)。ゆえにチャート予想を鵜呑みにすることは間違っています。ただ、フィジカル施策について、そしてストリーミング指標のウェイト変更についても、米ビルボードは歌手やレコード会社等の関係者以外である私たちにも広く知らせているわけですから、発し手がきちんと調べた上でチャート上でより有利になるべくフィジカル施策等を仕掛けることは出来るはずです。

 

 

ここからは私見と強く前置きした上で記載します。今回、クレームの規模が大きくなったことで看過出来なくなったとしてアリアナ・グランデ等がシックスナインの才能をきちんと認めた上で反論し、米ビルボードが説明責任を果たす形となりました。仮に不正があった場合には断固たる姿勢で対処しまた適宜見直しを行う(そして少なくとも年1回のペースでチャートポリシーを変えていく)米ビルボードの姿勢も解りました。その内容を支持します。他方、それらとは対象的に身勝手なクレームを喧伝し、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー、もしくは米ビルボードへのヘイターや懐疑的だった人も巻き込んだ炎上的手段を採ったシックスナインについては、名誉毀損として訴えられてもおかしくないのではないかと思うのです。

元々シックスナインは殺人の共謀罪を認め、服役していました(→こちら)が、新型コロナウイルスの影響もあってか今年の春に釈放されています(→こちら)。元来刑期はこの夏までだったとのこともあり、反省し改心していると思いたいところですが、しかし米ビルボードへのクレームをみる限りはあまりにも自己中心的であり、他者非難をしないと自身の優位性を示せないという幼さを感じてしまいます。アメリカは罪を犯した者の社会復帰が速い印象がありますが、それはおそらく彼らがきちんと反省したと信じているゆえだと思うのです(他方、日本の場合は復帰にも時間がかかる上に、更正した後も周囲がいつまでも過去の犯罪を取り上げる傾向があると感じます)。しかしシックスナインにおいては今回のクレームで顕著なように、反省はほぼ見られないというように感じています。その姿勢ゆえでしょう、サブスクリプションサービスでは「Gooba」がプレイリストから外されているのみならず、ラジオ局からは無視とすら言える事態となってしまいました。ラジオエアプレイ指標はわずか172000であり、「Stuck With U」の2630万とはあまりにも対照的ですし、2週前に首位を獲得したザ・スコッツ「The Scotts」の550万にも遠くおよびません(2週前のチャート速報はこちら)。ヒップホップはラジオエアプレイに強くない傾向がありますが、「Gooba」の低さはあまりにも突出しており、彼の素行不良による敬遠だと考えるのが自然です。また、仮に「Gooba」が彼の望む通り今週の米ビルボードソングスチャートを制したところで、デジタル配信が初加算されダウンロードやストリーミングといった指標群が牽引して上位に登場した曲は翌週ダウンロードが急落、ストリーミングも緩やかに下降する傾向があり、他方ラジオエアプレイは徐々に上昇していくもののそれでも2指標を補完出来ないことが多いため、総合チャートでの急落は必至でしょう。「Gooba」が遅れてフィジカル施策を開始したことでがどこまで影響するかは解りませんが、次週トップ10入りをキープすることは厳しいのではないでしょうか。

 

 

チャートの計算方法等は難しいですが、調べればみえてくるものがあります。それをきちんと調べようとせずクレームばかり述べるのは問題です。ならば疑問をきちんと問い合わせることを勧めますし、問題だと思えば調べる気概を持ち合わせ、いずれにせよ謙虚であることを望みます。シックスナインからはそのような姿勢が何らみえず、炎上に加担するファン等共々、そのやり方は間違っていると強く思うのです。

アリアナ&ジャスティンが初登場首位、不正操作を訴えるシックスナインが破れた要因は? 5月23日付米ビルボードソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の5月18日月曜に発表された5月23日付最新ソングスチャート、アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」が初登場で首位を獲得しました。

ダウンロードは108000を記録し同指標を制覇。これはダウンロード指標(米ビルボードの記事では"Digital Songs"と記載)にカセットテープ、シングルCDおよびレコードというフィジカルも含まれており、歌手のホームページでそれらフィジカルを購入するとダウンロードも可能になるという施策が功を奏したため。この指標で10万を超えるのは、昨年5月11日付でテイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー「Me!」が193000を獲得して以来となります。ストリーミングは2810万を獲得し同指標4位に初登場、そしてラジオエアプレイは2630万で同指標33位に(ラジオエアプレイは他の2指標より集計期間が3日後ろにずれるため、前週は解禁後3日分が集計期間となり同指標43位)。

史上38曲目となる初登場での首位を獲得した「Stuck With U」。セールス、そして再生回数による収益がコロナ禍における募金に回る(詳細はこちら)という今回のシングルで、アリアナ・グランデは3曲目、そしてジャスティン・ビーバーは6曲目となる首位を獲得。また初登場での首位獲得は両者共に3曲目となり、マライア・キャリーおよびドレイクと並ぶ最多タイをマークしました。

デュエット作品での首位獲得はこの1年強で、レディー・ガガブラッドリー・クーパー「Shallow」(2019年3月9日付)、ショーン・メンデス & カミラ・カベロ「Señorita」(2019年8月31日付)に続く3曲目に。それ以前はエド・シーラン「Perfect」にビヨンセが共演したバージョンが2年半前に首位となり、さらに遡ると2000年代はアリシア・キーズが関わる2曲が首位に立ったのみであり、今の時代はデュエット曲が注目を集めていることが解ります。

 

ニッキー・ミナージュを客演に迎えたバージョンが合算され前週初の首位を獲得したドージャ・キャット「Say So」は2位に後退。「Stuck With U」同様にフィジカル施策を行った反動でダウンロードは前週比57%ダウンの29000に(同指標2位)。ストリーミングも同14%ダウンの2620万(同指標5位)となった一方、ラジオエアプレイは同6%アップの1億70万を獲得し同指標2位をキープ、遂に1億の大台に達しました。

シックスナイン「Gooba」が3位に初登場。ストリーミングは5530万を獲得して同指標初の首位に。2020年のチャートにおいてクリスマスソング以外で5000万超えを達成したのはロディ・リッチ「The Box」、ドレイク「Toosie Slide」に次ぐ3曲目となり、如何に注目されているかが解ります。

ただし、このシックスナイン(もしくはテカシとも呼ばれていますが)は"米ビルボードが不正操作を行ったせいで「Gooba」が首位に立てない"とSNS上でクレームをつけていました。その点については昨日お伝えしています。

たしかに今週チャートを制した「Stuck With U」はフィジカルセールスの影響が大きく反映されていますが、実はダウンロードで24000を獲得し同指標3位となった「Gooba」も、集計期間最終日にシングルCDをリリースし同じ施策を採り始めているわけで、それを最初からきちんとやっていたならば…とは思います。そしてそれ以上に問題なのはラジオエアプレイであり、同指標50位以内に入らないどころか172000しか叩き出せていません。

これは強く私見と前置きした上で書くならば、彼の複数の犯罪や塀の外に出ても無礼を繰り返すことへのラジオ局のボイコットと見られてもおかしくないでしょう。ラジオ局への賛否はあるでしょうが、彼の素行不良が大きく影を落としたと言えるでしょうし、仮に今週首位を獲得出来たとしても翌週はデジタルの急落をラジオエアプレイが補完できず総合での急落が必至だったゆえ(それこそ先述した「Say So」のような動きとなるわけで)、今週3位に入れただけでも凄いことだとは思います。

なお、トップ3に2曲が初登場を果たしたのは2015年11月14日付以来4年半ぶり。この時はアデル「Hello」が首位に、ジャスティン・ビーバー「Sorry」が2位に登場しました。

 

今週もラジオエアプレイを制したザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は4位に後退。ラジオエアプレイは前週とほぼ変わらず1億1460万となっており、ラジオエアプレイがピークに達しつつあるとみていいでしょう。前週ビヨンセの客演版が1週間フルで加算され、さらにフィジカル施策も功を奏して2位に達したミーガン・ジー・スタリオン「Savage」は5位にダウン。しかしラジオエアプレイは前週比21%アップの6170万となり、同指標での勢いが止まりません。

 

最新のトップ10はこちら。

 
 
 
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[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (初登場) アリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」

2位 (1位) ドージャ・キャット feat. ニッキー・ミナージュ「Say So」

3位 (初登場) シックスナイン「Gooba」

4位 (3位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

5位 (2位) ミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」

6位 (4位) ドレイク「Toosie Slide」

7位 (5位) ロディ・リッチ「The Box」

8位 (9位) ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」

9位 (6位) デュア・リパ「Don't Start Now」

10位 (8位) ポスト・マローン「Circles」

次週はケイティ・ペリーの新曲「Daisies」が登場予定ですが、Spotifyデイリーチャートではリリース日の43位を機にダウンしておりトップ10入りは厳しいでしょう。他方そのSpotifyを現在制しているのがダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」。今週米ビルボードでも最高位を更新したこともあり、次週以降要注目と言えます。

最新チャートにおけるデラックスエディション商法やバンドルのカウントの仕方について、米ビルボードの意見を求めたい

最新5月23日付米ビルボードアルバムチャートが発表されました。

カナダのラッパー、ナヴによる『Good Intentions』が首位に輝いたのですが、集計期間初日にあたる8日にリリースされたこの作品は、リリースからわずか3日後にミックステープ『Brown Boy 2』を『Good Intentions』に付随させ、2in1の形で投入しています。

このデラックスエディション策、さらには集計期間最終日に100種類ものグッズとの組み合わせ(バンドル)や3種のフィジカルによる合計18タイプ(レコード、カセットテープおよびCD各6種)も投入したことで、最終的には135000ユニットを叩き出しています。当初米ビルボードではデラックスエディションやバンドルが出る前、『Good Intentions』の初週が8万ユニットと予想していたため、施策が大きな影響を与えたことは明らかです。

施策、たしかに米ビルボードが認めている形ですが、個人的にはこれでいいのかなという思いを抱いています。今年に入ってからリル・ウージー・ヴァートやザ・ウィークエンドがオリジナルアルバムリリース直後にデラックスエディションを投入しチャートを制しているのですが、最初に出たアルバムを所有した者への配慮がない等の点強く懸念してしまうのです。オリジナル版のリリースからデラックスエディション投入までの期間が1週間を切ってしまっていることで、尚の事そう思います。

ビルボードではアルバムチャートにおいて、グッズとのバンドルに関するチャートポリシーを今年に入ってから変更しました(その一方で、チケットバンドルについては変更していません。理由は下記リンク先に記載されています)。

ナヴ等が採ったデラックスエディション施策については触れられていませんが、米ビルボードは柔軟に議論のテーブルを用意する傾向があるゆえ、近いうちに検討の機会を設けることを強く願っています。

 

さて、明日発表の5月23日付米ビルボードソングスチャートでも引っ掛かる点が登場しています。

最悪の場合終身刑の可能性もあったシックスナイン(上記ツイートの関係上、以下テカシと記載)。新型コロナウイルスの影響で現在は塀の外にいる彼が、新曲「Gooba」が米ソングスチャートを制することが出来ないのは米ビルボードの不正操作のせいだと言っているのです。しかしながら、たとえばヒップホップニュースも取り上げるフロントロウがこの件に触れていなかったり(テカシに関するニュース一覧はこちら。彼が服役した理由も解ります)、そしてこの件はあくまで米ビルボードソングスチャートの仕組みゆえではないかと思うゆえ、自分はこの記事への見解を記載しました。

SNSは自身の主張を一方的に流せる場です。それが問題の記事への反論等ならばわかるのですが、一方的に咎めるだけのやり方は看過出来ません。とはいえ米ビルボードへの"不正疑惑"は以前からあるとのことですので(テカシの動画を取り上げた日刊US HIPHOP NEWSによるこちらのツイートを参照)、ならば米ビルボードには先述したアルバムチャートにおけるデラックスエディション施策を議論することと同時に、アルバムおよびソングスチャートにおけるフィジカルの、それも歌手のホームページ経由で買われた分のカウントの仕方を提示する必要があると思います。企業秘密と言われればそれまでですが、テカシもフィジカルバンドルが出来る立場にありまた実際に『Dummy Boy』(2018)でその施策を行っていること(→こちら。ただこちらがテカシ本人と無関係で行われているのかもしれませんが)を踏まえれば歌手側もデータ提供について存じ上げている可能性もあるゆえ、ならば一般に向けても広く知らせて好いと思うのです。

 

ちなみに、テカシ「Gooba」は最新ソングスチャートを制する可能性は低いというのが私見チャート・マニア・ラボの管理人、トコトコさんの分析に納得するゆえ、勝手ながら取り上げさせていただきます。

ビルボードソングスチャートを予想するサイモンさん、そしてトコトコさんが制度が高いと述べるfhasさんは共に「Gooba」が2位と予想、首位はアリアナ・グランデジャスティン・ビーバー「Stuck With U」としています。

結果は日本時間の明日朝に判明、ブログでも取り上げます。

 

なお、ラジオエアプレイが低くとも首位を制した例としては、直近で5月9日付でトラヴィス・スコット&キッド・カディによるユニット、ザ・スコッツによる「The Scotts」が挙げられます、ラジオエアプレイ50位未満ながら初登場で1位となりましたが、翌週は12位に急落。フィジカルバンドルの反動やストリーミングの降下をラジオエアプレイの上昇分が補填しきれなかったためであり、仮に「Gooba」が首位に立ったとしてもその翌週の動向も把握し、中長期的にヒットしているか否かを判断する必要があるものと考えます。

サブスクで人気の瑛人「香水」はSpotifyで未だ首位ならず? サブスクサービスを比較すると面白い特徴がみえてくる

最新5月18日付ビルボードジャパンソングスチャートではサブスクの再生回数に基づくストリーミング指標で瑛人「香水」が、12週首位をキープしていたOfficial髭男「I LOVE…」からその座を奪ったことを先週お伝えしました(→こちら)。今週水曜に発表される5月25日付ソングスチャートではストリーミング2連覇が確実とみられ、総合でも首位に輝く可能性があります。

瑛人さんのみならずYOASOBI等新鋭歌手がストリーミング指標で上昇しているのですが、しかしサブスクのサービスによって順位に大きなバラツキがあるのです。昨年5月にICT総研が発表した"2019年 定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査"(→こちら)でアンケートに答えた方のうち利用者が多いサービスの中で、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標にデータを提供し且つサービス内のチャートが明示されているところにおける、最新チャートの動向をチェックしてみましょう。

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(※参考データはApple Musicがこちら、LINE MUSICがこちらSpotifyこちらApple Musicには日付もしくは日時が未記載であり確認日時を記載しています。)

作成してみて、結構な違いがあることに驚かされます。

なにより、先述した瑛人「香水」がSpotifyでは3位だという事実。5月4~10日を集計期間とする最新5月18日付ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標で首位となっているこの曲がSpotifyでは最高3位、それもこの順位にはじめて達したのが5月14日付なのです。SpotifyではYOASOBI「夜に駆ける」が5月15日付ではじめて4位となったこともあり、話題曲のランクアップが最も鈍いという印象を抱かされます。Spotifyでは他にも、バンドの神はサイコロを振らないによる「夜永唄」が81位、歌い手のyamaさんによる「春を告げる」が84位と、他サービスとの乖離が目立つのです。

一方でLINE MUSICは、他サービスと比べて独自性が強いと言えるかもしれません。先程の表において、40位以内の曲で他サービスには入っていない曲を黄色で表示すると。

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Apple Musicの3曲、Spotifyの8曲に比べてLINE MUSICは22曲と、LINE MUSICでは上位40曲のうち半分以上が他のサービスでトップ40内に入っていない曲となっています。その大半は5月15日金曜に全曲サブスク解禁に至ったRADWIMPSで占められているのですが、彼らの曲で最上位につけたのが「そっけない」(5位)というのが面白いところ。未シングルCD化曲ではありますが、ミュージックビデオはYouTubeにアップされている公式ミュージックビデオにおいて再生回数がトップ10内に入っており、その人気が反映されたと言えるでしょう。

YouTubeアカウントで発信される一発録り動画"THE FIRST TAKE"シリーズの音源化作品であるDISH//「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」や、同じくアコースティックを基調とする優里「かくれんぼ」もランクインしているLINE MUSIC。その中で個人的に注目したのはAAAのメンバー、Shuta Sueyoshiさんのソロ「HACK」が27位に入っていること。5月4日からの1週間を集計期間とするビルボードジャパンのTikTokソングスチャートで、この「HACK」が6位に入っているのです。TikTokの人気はまずサブスクや動画再生に波及するという特徴がありますが、サブスクのうちそれが最も反映されやすいのがLINE MUSICなのかもしれません。

LINE MUSICがTikTokの流行等をとりわけ敏感に取り込み、他方Spotify菅田将暉「さよならエレジー」やback number「高嶺の花子さん」、スキマスイッチ「奏(かなで)」といった定番曲が多く入り、そしてApple Musicはその中間…そんな印象を受けたのですが如何でしょうか(他方、LINE MUSICではトップ40に洋楽が一切入っていないのが気になるところではありますが)。一昨日公開された下記記事ではLINE MUSICの特徴や新たなサービスが記載され、ユニークユーザーが順調に増えていることが判明。同サービスの影響力はさらに高まりそうな気がします。

LINE MUSICの影響力拡大で瑛人「香水」等が若年層を中心にさらなる広がりをみせる可能性は高く、ブレイクのチャンスはどんどん広がっているのではないかと思うのです。チャートをチェックする身としては少なくとも今回取り上げた3つのサブスクサービスとTikTokとをチェックし、次なるヒットの芽を見つけないといけないとも実感しています。

来週のラジオ業界はスペシャルウイーク?な番組満載、しかし『村上RADIO』の放送時間は看過出来ない

首都圏ラジオ局は偶数月に聴取率調査週間があり、放送局の中にはスペシャルウイークと銘打って豪華ゲストやプレゼントを用意するところもあることは以前から記しています。しかし次週は奇数月でありながら、気になる企画が多数用意されるのです。たとえばTBSラジオは24日日曜に2番組が復活。

そのTBSラジオ"派"を名乗る鬼越トマホークは、23日土曜のニッポン放送オールナイトニッポン0(ZERO)』に登場します。

そして、首都圏ではないものの、北海道のHBCラジオでは大泉洋さんのラジオ番組が復活するのです。

これらの番組はいずれも週替わり枠や通常は放送休止の時間帯、もしくはプロ野球中継の枠(現在はプロ野球中継がないため、その中止用に充てられた番組枠)で放送されるため、通常の番組を休止するということにはあたりません。

 

それゆえに、次週放送されるこの番組には尚の事疑問を抱いてしまうのです。

記事からは、番組企画が村上春樹さん側による提案だと解ります。無論その心意気は素晴らしいのですが、問題はこの番組が金曜22時枠に放送され、人気番組『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM/JFN 月-金曜22時)の金曜版(『SCHOOL OF LOCK!FRIDAY』を差し替えるということなのです。

過去の『村上RADIO』について、再放送以外の回は基本的にスペシャルウイーク(およびその前後週)の日曜19時台、『TOKYO FMサンデースペシャル』という週替わり枠で放送されており、そのことについては問題だとは思いません(過去のオンエア日時は上記ホームページ参照)。しかしJFN系では同時間帯が週替わり枠ではないところが多く番組が差し替えられたり(たとえば自分の住むエフエム青森では『Joint&Jam ~global dance traxx~』がこの時間に流れているのですが、『村上RADIO』が差し替わる形に)、TOKYO FMでも新作公開直前には『村上RADIO』に注目を集ようとして他番組を幾度となく差し替えるという事態が発生。つまりは万全の『村上RADIO』シフトを敷き、『村上RADIO』を最優先しているのです。このやり方では他番組のDJやスタッフ、そしてリスナーに対して失礼ではないのかということを幾度となく指摘していますが、今回は週替わり枠の日曜19時台ではなく、人気番組の『SCHOOL OF LOCK!』を差し替えるという事態になってしまいました。

TOKYO FMは"スペシャルウイークイコール『村上RADIO』"という考えに執着するあまり、他番組の差し替えに躊躇がなくなったのかもしれません。もし仮に、村上春樹さん側が今回の放送時間を金曜22時台と指定してきたのだとしたならば、さすがにそれはどうかと思うのです。

 

レギュラー番組の差し替えに躊躇がないのはニッポン放送も同じですが、同局が長年TBSラジオの後塵を拝する形となっているのはこの姿勢ゆだと考えます。

このままでは同じFM局のJ-WAVEに追いつけないどころか、信頼のさらなる失墜は否めないと思うのです。

詩人、小林大吾による「処方箋 / sounds like a love song」の最高のセルフカバーに触れる

セルフカバーには賛否両論あると聞きます。ライブなどではなるべくならばオリジナルバージョンが聴きたい…テレビ番組でそう申していたのはマツコ・デラックスさんだったでしょうか、無論その気持ちも解ります。

しかしながら、オリジナルを超えたセルフカバーというのは存在するのだと思うのです。

『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ 月-金曜18時)等の構成作家としても活躍する古川耕さんがエグゼクティブ・プロデューサーを担当しているのが詩人の小林大吾さん。その小林さんと椎名純平さん、そしてKREVAさんやRHYMESTER等数多くの歌手のライブやレコーディングに参加するキーボーディストのタケウチカズタケさんの3名が2018年に行ったライブツアーに合わせて制作、会場でリリースされたアルバム『the 3』が、一昨日サブスクで解禁されていました。この3名でライブ活動していることは『アフター6ジャンクション』で知っていたのですが、CDをリリースしていたことは恥ずかしながら知りませんでした。そしてここに収められていたのが、小林大吾さんの代表曲と言える「処方箋 / sounds like a love song」のセルフカバー(厳密には"rebuild")バージョンであり、初めて触れたとき、感動で震えました。

小林大吾さん自体、胸を張ってこの新たなバージョンを勧めています。

リリースから8年たった今、新たに録り直したことで最終到達点とも言うべきバージョンに仕上がった「処方箋/sounds like a love song」が収められています。当時このクオリティで読むことができていればあんな恥ずかしい思いをしないで済んだのに!と地団駄を踏まずにはいられない完成度です。ふつうに読んでいるようでかっちりとリズムに絡み合うリーディング+音楽の神髄がここにあります。これに関してはもう、断言していいはずです。

ムール貝博士言行録: ツアー限定アルバム「the 3」のこと、ならびにツアーってなんだよ先に言え的なSolo Solo Solo TOUR 2018のお知らせ(2018年6月8日付)より

すべての言葉が説得力を増していますが、とりわけ魔女の言葉たるや! 発売から2年経ってはじめてこのバージョンを知ったのですが、一聴して今月のベストの1曲になりました。ライブ会場になかなか行けない身に、サブスクの解禁は本当にありがたいことです。

 

「処方箋/sounds like a love song」については以前紹介した際、当時のライブ映像を載せています。下記リンク先から辿り、セルフカバー版と聴き比べてみてください。

(※なお、ブログエントリーに貼付したポッドキャストは消えてしまっています。ご了承ください。)

 

サブスクにおいては、昨日はUNISON SQUARE GARDENがアルバム全曲を来月に解禁するとアナウンスし、今日はRADWIMPSが全曲を解禁とサービスがどんどん充実してきていますが、個人的にこの小林大吾さんによる今の「処方箋/sounds like a love song」に触れられたのは感謝しかありません。

そして、「処方箋/sounds like a love song」が磨き上げられてきたのはライブを重ねてきたからに他ならないはず。しかしそのライブハウスは今、苦境に立たされています。最も上に立つ者がライブハウスを名指しして行くなと言うのならば、きちんと補償をセットにすることは責務のはずでは…そう思い昨日、自分の考えを綴った次弟です。

5月18日付ビルボードジャパンソングスチャートでトップ3入りを果たした瑛人「香水」は、日本におけるリル・ナズ・X「Old Town Road」ではないか

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を、ソングスチャート中心に紹介します。

5月4~10日を集計期間とする5月18日付ビルボードジャパンソングスチャート。Official髭男dism「I LOVE...」が2週連続、通算7週目の首位を獲得しました。

ロングヒット中の曲のポイント前週比はその大半が9割台となっており、緊急事態宣言による店舗閉鎖や自粛等の影響が出ている印象があります。そんな中で勢いのあるのがYOASOBI「夜に駆ける」、そして瑛人「香水」。

前週はじめてトップ10入りを果たした瑛人「香水」は今週遂に、サブスクの再生回数を基とするストリーミング指標で「I LOVE…」を破り同指標を制覇。総合でも3位につけました。

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昨年4月リリースの曲が総合およびチャートを構成する指標群で300位以内に初登場したのはわずか2週前のこと。そこからの急伸は誰が想像出来たことでしょう。

瑛人「香水」の配信に携わったTuneCore Japanについては、前週のブログエントリーにて紹介しています。

インディペンデント歌手が、レコード会社に所属する歌手とデジタルの場で対等に渡り合えることを、TuneCore Japanそして瑛人「香水」が証明してみせたように思います。

 

さて、TikTok初のヒット、そして猛スピードでの上昇…これらから思い出したのが、昨年米ビルボードソングスチャートで史上最多となる19週ものナンバーワンを記録したリル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」。この曲もTikTokの流行から火が付きました。

無名のラッパーにすぎないリル・ナズ・Xが発表した「Old Town Road」は、当然ながらリリース後すぐにチャートインすることはなかったが、その間に彼は同曲を宣伝するためのインターネットミームを用意し始めていた。ここで興味深いのが、かつて彼はTwitterでニッキー・ミナージュのファンアカウントを運営していた、ということ。つまり、彼はその頃にいくつものバイラルツイートを作成していた経験から、ソーシャルメディアでバズを起こす術を心得ていたのだ。

こうした仕込みが結実したのか、2019年2月頃から「Old Town Road」は動画投稿アプリ・TikTokでバズを起こす。同曲に合わせてカウボーイ/カウガールに扮する「Yeehaw Challenge」が次々と投稿されたことによって、「Old Town Road」はストリーミングでの再生回数を一気に増やし、さらには次々に投下される動画が手伝って、「Old Town Road」=カントリートラップというイメージも定着していくのだ。

リル・ナズ・Xは、なぜブレイクを果たした? 「Old Town Road」全米17週連続1位の背景 - Real Sound|リアルサウンド(2019年8月12日付)より

リル・ナズ・X並みに瑛人さんがバズを積極的に起こしていたとは、瑛人さんのTwitterでのリアクションを見る限りでは考えにくいのですが、TikTokがヒットの火付け役となったのは確かであり、そこから接触指標群(3つの指標から成る米ビルボードソングスチャートではサブスクや動画の再生回数に基づくストリーミング指標、8つから成るビルボードジャパンソングスチャートではストリーミングおよび動画再生指標)に真っ先に波及。「Old Town Road」は昨年3月16日付で83位に初登場を果たすと、51→32→15位と上昇し、登場5週目となる昨年4月13日付で早くも首位の座に就いたのです。登場3週目から首位獲得に至るまでずっと、ストリーミングで最も大きく上昇した曲と紹介されていたことから、TikTokがサブスクや動画再生に大きく飛び火したのは間違いありません。さらに首位獲得2週目(昨年4月20日付)にはビリー・レイ・サイラス客演版が大きく加算され、ストリーミングで1億4300万という新記録を樹立(同日付チャート解説はこちら)。先述した19週首位獲得の足がかりをつかんだのです。

これまで一度も米ビルボードソングスチャートでトップ10入りしたことのない歌手が5週という短さで首位に至るのは極めて珍しかったのですが、このリル・ナズ・Xの勢いと瑛人「香水」は同じ動きを示している気がするのです。ちなみに今年米ビルボードソングスチャートで初めて首位を獲得し、11週もの長期政権を樹立したロディ・リッチ「The Box」も、登場5週目となる1月18日付で初の頂点に立っており、TikTokが人気のきっかけだったという共通点があります。

4月初めにReal Soundにアップされたノイ村さんの記事ではミーガン・ジー・スタリオン「Savage」も取り上げられています(なお、「Savage」は今週登場8週目にして2位に上昇)。TikTokの人気がかなり早い段階で総合チャートに反映されロングヒットに至るという状況は、今後ますます増えていくことでしょう。そしてその動きが瑛人「香水」によって日本でも生まれつつあると強く実感出来ました。

 

リル・ナズ・Xは「Old Town Road」がブレイクの兆しを見せた3月にコロムビア・レコードと契約しており、瑛人さんも今回のブレイクを機にレコード会社に所属する可能性があるかもしれません。そうなると月曜のブログエントリーで取り上げた、「香水」がさらなるブレイクを果たすために必要なラジオエアプレイとカラオケ指標の増強について、そのレコード会社で戦略を立てることになるでしょう。

 

TikTok経由でのヒットにより、新人やインディペンデント歌手が大ブレイクを果たすまでのスピードはかなり短くなりました。それにより、レコード会社が原石を見つけ契約することも、ラジオ局やカラオケ業者がヒットの兆しを察知し自ら積極的に発信する姿勢も、テレビの音楽番組がいち早くフックアップすることもまた、一層のスピードアップが求められていくことでしょう。無論、チャートを分析する者にとっても同様であり、アンテナの感度を高めねばと感じた次弟。瑛人「香水」の急伸は誰も想像出来なかったかもしれませんが、これからの時代はこの動きが当たり前になっていくのだという確信を抱いています。