先週初開催されたMUSIC AWARDS JAPANについては、業界内外から様々な反応がみられます。その中で、Number_i等の制作に関わるMONJOEさんの指摘に強く納得します。
京都で開催されたMAJ 2025関連のソングキャンプに5日間参加させていただきました。
— MONJOE (@monjoe_) 2025年5月24日
日本の音楽アワードがこのような取り組みを行うこと自体、とても意義深いなと思いました。…
MUSIC AWARDS JAPANが強く意識し、踏襲したと思しき米グラミー賞では主要6部門の中に最優秀プロデューサー賞(ノン・クラシカル)および最優秀ソングライター賞(ノン・クラシカル)が存在します。ノン・クラシカルは日本では”ノン・クラシック”とも表記され、すなわちクラシック以外の全ジャンルにおける最も優れたプロデューサーやソングライターを決めるというものです。
(今年のグラミー賞、最優秀プロデューサー賞(ノン・クラシカル)はダン・ナイグロが、最優秀ソングライター賞(ノン・クラシカル)はエイミー・アレンが受賞しています。)
この2部門は最近になって主要部門としてフックアップされた一方、テレビ中継時に発表されないのを個人的には残念に思います。しかし裏方の表彰は間違いなく必要なものと考えるに、MUSIC AWARDS JAPANがこれらの賞を用意しなかったことは気になっています。
そしてもうひとつ。MUSIC AWARDS JAPANの主要部門で気になったのが、最優秀レコード賞の不在です。
(画像は「MUSIC AWARDS JAPAN」新設 | MUSIC AWARDS JAPAN 実行委員会のプレスリリース - PR TIMES(2024年10月22日付)より)。
MUSIC AWARDS JAPANにおける主要6部門のうち最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞および最優秀新人賞は米グラミー賞の主要部門と重なります。一方で最優秀アーティスト賞はアメリカン・ミュージック・アワード的に近く、その他2部門は新設音楽賞ならではのグローバルを意識した部門となります。ただ、ここに最優秀レコード賞は存在しません。
||◤受賞速報📢◢||
— MUSIC AWARDS JAPAN公式 (@MAJ_CEIPA) 2025年5月21日
【最優秀ジャパニーズソング賞】
Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」( @Creepy_Nuts_ )に決定🎉
▼受賞速報はこちらhttps://t.co/YpMlIUyZeC #MAJ2025 #MUSICAWARDSJAPAN pic.twitter.com/bo75RKuJLm
MUSIC AWARDS JAPANには最優秀ジャパニーズソング賞が存在しますが、この賞は『音楽的に創造性、芸術性が優れていると思う日本国内の楽曲を讃える』ものです(『』内はBest Japanese Song : MUSIC AWARDS JAPANより)。そしてこの『』における”日本国内の”という箇所を削除すると、新設音楽賞における最優秀楽曲賞の説明文と合致します(最優秀楽曲賞の説明文はSong Of The Year : MUSIC AWARDS JAPANを参照)。
そのうち最も注目される主要4部門が、アルバム演奏者と制作者に贈られる「最優秀アルバム賞」、シングル演奏者と制作者に贈られる「最優秀レコード賞」、シングルの作詞・作曲者に贈られる「最優秀楽曲賞」、「最優秀新人賞」という計4つのカテゴリー。
・授賞式直前! 世界注目の「グラミー賞」今さら聞けない基礎知識と今年の見どころを解説 – THE FIRST TIMES(2023年2月3日付)より
一方で、米グラミー賞における最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞の違いは上記に。ここに自分なりの解釈を加えるならば、最優秀レコード賞はより社会的にヒットし、また話題性の高い作品が選ばれる傾向にある一方で、最優秀楽曲賞はソングライターの芸術性がより大きく問われるものではないかということを、近年の受賞一覧から感じています(最優秀レコード賞の一覧はこちら、最優秀楽曲賞はこちら(共にWikipediaより)。)
MUSIC AWARDS JAPANにおける最優秀楽曲賞には、最優秀レコード賞的な性質も含まれるかもしれません。しかし分かりにくいという面は否めず、また裏方にも光を当てるならば米グラミー賞を参考にして分けるほうがより好いでしょう。そう考えれば、やはりMUSIC AWARDS JAPANに最優秀レコード賞を設けることは必要ではというのが私見です。
実は、米グラミー賞における最優秀レコード賞的な役割を日本で果たしているのは、日本レコード大賞における(レコード)大賞ではないかと感じています。
第66回 輝く!日本 #レコード大賞 は#MrsGREENAPPLE の「ライラック」に決定!
— 輝く!日本レコード大賞 (@TBS_awards) 2024年12月30日
おめでとうございます🥳🏆🎉
#レコ大#TBS pic.twitter.com/KDlvr9JXZ7
昨年の日本レコード大賞はMrs. GREEN APPLE「ライラック」が受賞していますが、授賞式ではMrs. GREEN APPLEのみならずアレンジャーの久保田真悟さんやプロダクション、レコード会社にも授与されると紹介されています。贈呈先の多さからは、この賞が米グラミー賞における最優秀レコード賞的な位置付けと考えていいでしょう。
また日本レコード大賞受賞曲一覧をみると(TBSのホームページに掲載→こちら)、2019年度以降はストリーミングでのヒット曲が選ばれる傾向にあります。他の賞等の問題については後述しますが、社会的にヒットし話題性の高い作品が選ばれることの多い日本レコード大賞は、やはり米グラミー賞における最優秀レコード賞的といえるかもしれません。実際、この部門への納得度の高さはSNSのリアクション等からも感じています。
ゆえに、MUSIC AWARDS JAPANは最優秀レコード賞という位置付けを日本レコード大賞に譲ることで新設時にこの部門を用意しなかったのではないかというのが私見。可能性は低いかもしれませんが、あり得ないことではないでしょう。
ただし、日本レコード大賞は悪い意味で変わっていないということについて、このブログでは幾度となく批判しています。特にMUSIC AWARDS JAPANが掲げる透明性については旧来からの音楽賞が持ち合わせているとは言い難いのですが、新設音楽賞は透明性や公平性を強く掲げることで日本レコード大賞に変わるべきとのメッセージを送ったのではないでしょうか。
それでも、MUSIC AWARDS JAPANがGrand Ceremony(5月22日開催分)にて、冒頭VTRそして全イベント終了後にはステージのモニターにて、公平性を訴求していたことをトゥーマッチではとも感じています。意義を示すのは勿論重要ですが、やりすぎることで旧来からの賞との比較を必要以上に促し、”MUSIC AWARDS JAPANは好いが日本レコード大賞はダメ”という後者へのレッテル貼りに用いる人も表れるものと懸念します。
(個人的には、MUSIC AWARDS JAPANが公平性を謳うならば5千名を超える投票メンバーの所属やジェンダー等の比率はある程度明らかにする必要があると考えます。特にPremiere Ceremony(5月21日開催分)で発表された部門における受賞作品には2024年以前に話題になった曲が多く、その投票行動が保守的ではという疑問を抱くゆえです。)
ならば、MUSIC AWARDS JAPANはその公平性や透明性については勿論のこと、そもそも賞の新設や開催についてメディア、特にテレビにてもっと訴求できなかったのかと感じています。NHKは情報番組で発信が少なかったのみならずノミネート作品の一覧や発表会の模様を報じなかったこともあり、尚の事です。
MUSIC AWARDS JAPANの訴求は民放も交えて行うべきだったと考えます。ただ、民放が授賞式や結果について報じても音楽賞自体を事前に紹介しなかった(したとしても十分と言えなかった)のは、Grand Ceremonyを放送するNHK総合に視聴率を獲られたくなかったからかもしれません。仮にそうならばその姿勢は残念ですが、MUSIC AWARDS JAPAN側はそれも考慮した上で、テレビ局に発信の上昇を働きかけるべきだったはずです。
個人的には、日本レコード大賞が自問自答し改善するということは望み薄と感じてはいます。MUSIC AWARDS JAPANが十分な視聴率を獲得できなかったのならば尚の事、旧来の音楽賞が胡座をかくかもしれません。MUSIC AWARDS JAPANには主要部門の見直し、そして最優秀レコード賞の新設を願いますが、主要部門を今後も変えないのならば日本レコード大賞と両立し、そして好い形で旧来からの賞を刺激することが必要でしょう。