国際音楽賞、アジア版グラミー賞とも形容される日本の新設音楽賞、MUSIC AWARDS JAPANが今週開催。月曜の演歌・歌謡曲部門表彰、一昨日のPremiere Ceremonyに続き昨日はGrand Ceremonyと題して主要部門を主体とした発表が行われました。
MUSIC AWARDS JAPANの受賞内容やPremiere Ceremonyのステージ等においては違和感が勝ったというのが厳しくも私見ですが、Grand Ceremonyにおいてはその違和感よりも納得度そして満足度が上回ったと感じています。改善が必要と感じる点も複数あり、今回はその双方について記します。
今回の受賞結果、ならびにノミネート一覧はYahoo! JAPANに掲載されています。
Grand Ceremonyで発表された各部門の結果については、MUSIC AWARDS JAPANの公式Xアカウント(→こちら)のポストより画像を引用し、紹介します。
まずは主要6部門について。掲載はGrand Ceremonyでの紹介順となります。
個人的には納得度の高い結果と捉えています。というよりも、Premiere Ceremonyで発表された部門にみられたような保守的とも呼べる受賞傾向が薄れているというのが、まずは率直な私見です。
あとは「最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞」を「千本桜」が受賞したのは、正直「うーん……」という感じでした。というのは、この曲だけがすでに評価も知名度も確立したボカロクラシックで、他のノミネート4曲が2024年のボカロシーンを象徴する曲だったから。
保守的というのは、この1年でヒットしたというよりも数年前、もっといえば10年以上前の作品が選ばれやすい傾向にあるということ。この点はPremiere Ceremonyにてradiko、Grand CeremonyではNHKに参加されていた音楽ジャーナリストの柴那典さんによる指摘に強く納得しています。ただ、これが主要部門になると傾向は異なります。
【投票ルール】
・主要6部門のうち「最優秀楽曲賞」「最優秀アーティスト賞」「最優秀アルバム賞」「最優秀ニュー・アーティスト賞」の4部門は、一次投票は国内投票メンバー全員が、最終投票は、国内外投票メンバー全員が投票するものとする
・主要6部門のうち「最優秀アジア楽曲賞」は、一次投票、最終投票共に、国内外投票メンバー全員が投票するものとする
・「Top Global Hit from Japan 」は、一次投票は行われず、最終投票にのみ海外投票メンバー(International Voting Members)全員が投票するものとする
・その他部門に関しては、国内投票メンバーが、それぞれに任意で投票するものとする
・一次投票では、エントリー作品/アーティストの中から最低2票〜最大5票を投票するものとする
世界へ発信する国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」総勢5,000人の投票メンバーの選定・投票方法を発表 | MUSIC AWARDS JAPAN 実行委員会のプレスリリース - PR TIMES(2024年12月18日付)より
主要6部門中4部門は最終投票時に海外の投票メンバーも参加が可能となっており、これがPremiere Ceremonyの受賞結果に感じられた保守的な動向の是正につながったのではと捉えています。
最優秀アルバム賞を受賞した藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』は3年前の作品ですが、前作『HELP EVER HURT NEVER』収録の「死ぬのがいいわ」が世界で浸透し、海外でのライブ活動も精力的に行ってきたからこその支持といえるでしょう。ちなみに「死ぬのがいいわ」は、ビルボードジャパンによる海外での人気を示すGlobal Japan Songs Excl. Japanチャートにて、2023年秋の新設以降10位以内を常時キープしています。
一方で最優秀アーティスト賞を受賞したMrs. GREEN APPLEはGlobal Japan Songs Excl. Japanでの20位以内ランクインが未だないものの、Global Japan Songs Excl. Japanの基となる米ビルボードのGlobal 200には今年だけでも4曲を200位以内に送り込んでおり、その意味でも納得度の高い受賞と感じています。
一方で、主要部門のうち「Supernova」が最優秀アジア楽曲賞を受賞したaespa、最優秀新人賞を受賞したtuki.さん、また主要部門ではないもののGrand Ceremonyで紹介された最優秀アイドル賞を受賞したSnow Man等は未出席。出席率の上昇はMUSIC AWARDS JAPANの課題ですが、出席せずとも受賞可能という本来ならば当たり前のことをMUSIC AWARDS JAPANが行ったことは好いと考えます。柴那典さんの指摘に納得です。
最優秀ニュー・アーティスト賞
— 柴 那典 (@shiba710) 2025年5月22日
→ tuki.
最優秀アイドル賞のSnow Manもそうだけど、会場に居ないアーティストが受賞した時はプレゼンターがそのまま喋って終わるのね。そりゃ列席してる人が受賞したほうが授賞式は盛り上がるけど、逆に「事前に誰も告げられてない」のがガチなのがわかる。#MAJ2025
パフォーマンスにおいては熱量の高さを感じるに十分でした(ゆえに宇多田ヒカルさんが事前収録だった点は、その熱量が伝わりにくいという意味で勿体なく感じています)。特に、主要部門にノミネートされなかったもののAIさんとAwichさんのコラボやちゃんみなさんによる舞台は女性のエンパワーメントを示すに十分であり、前者のコラボにおける平和を願う曲のセレクトも含め米グラミー賞のそれに近いと感じています。
また、ちゃんみな「美人」やAwich「Butcher Shop」等ではFやBから始まる言葉が元々歌詞にあったものの、クリーンバージョンとして披露されていました。海外配信を踏まえれば当然の対応ですが日本の音楽番組ではこれまで疎かった配慮であり、この対応をきちんと行ったMUSIC AWARDS JAPANの礼節を感じます。
そしてパフォーマンス時等のテロップが必要最低限だったことも好感を抱いています。現在の音楽番組では披露中の楽曲に説明文が設けられており、おそらくは視聴者への解りやすさを過度に意識したものと捉えていますが、シンプルなスタイルがこれを機に音楽番組全般に浸透するならばと願わずにはいられません。
さて、一方では気になる点もみられました。
先ほどはAIさんやAwichさんのコラボパフォーマンスについて紹介しましたが、その際は水原希子さんが登壇しパフォーマンスする両名をプレゼンしていました。しかしパフォーマンスする歌手のプレゼンターは水原さんのみであり、披露する歌手に対し優遇と冷遇とが生まれていると思われかねません。すべてのパフォーマーにプレゼンターを用意することは必要ではないでしょうか。
また音楽賞の発表にはプレゼンターが登場していましたが、音楽関連でのプレゼンターは残念ながら少ないという印象です。それこそ今回登壇した松本隆さんのようなレジェンドといえる音楽関係者、ラジオ番組を持つ松重豊さんのような音楽にも精通した方の登壇率をもっと高めてもいいのではと感じています。しかしながら、音楽賞発表のプレゼンターに関する人選は良い意味で興味深いものが多かったという印象です。
一般投票部門にも気になる点が。ベスト・オブ・リスナーズチョイス:海外楽曲 powered by Spotifyを受賞したのはミーガン・ザ・スタリオン(ミーガン・ジー・スタリオンと表記するメディアも) feat. RM (of BTS)「Neva Play」ですが、この曲は海外でのヒットが大きくありません(Wikipediaより→こちら)。この賞は国内/海外の双方で一般投票が可能ですが、ビルボードジャパンソングチャートでも100位以内に至っていません。
一般投票は必ずしもチャートヒットと連動はしないものの、SpotifyはStationheadとの連携、またSpotify自身がリスニングパーティーを開催するようになったことでファンダムの熱量が反映されやすく、加えてSpotifyでは有料会員が無料会員の3倍にあたる3票を日々投じられるという投票ルールを採用しています(→こちら)。これではファンダムが多く且つ熱量の高い歌手の曲に人気が集まりかねません。
Spotifyを経由した一般投票部門の用意はこのサブスクサービスでの再生回数の過熱につながりかねず、真のヒット曲がみえにくくなると懸念しています。聴取せずとも投票は可能ですが、ライト層による聴取行動が可視化されやすいサブスク動向にコアファンの熱量が強く反映されかねません。音楽賞側、またビルボードジャパン側も投票期間中の聴取行動の変化を分析し、次回以降の見直しを見極める必要があると考えます。
今回の違和感は、「Neva Play」が受賞する前の段階から既に申し上げていることです。Spotifyにおいてはファンダムの過熱が反映され、他のサブスクサービスより偏りが、それも長期に渡って発生する傾向が高まっていると捉えています(日本のSpotify動向から真の社会的ヒット曲を見極める方法、そしてSpotifyの今後について考える(5月4日付参照)。ゆえに音楽賞はSpotifyではないところと連携することが必要でしょう。
(ちなみにGrand Ceremonyの途中、NHK総合にて放送されない時間は”Grand Ceremony MIDTIME”として、一般投票部門等の表彰が行われました。スポンサー関連部門のプレゼンターはそのスポンサーの代表者が務めましたが、その紹介等で”◯◯様”と呼んでいたことも気になっています。他のプレゼンターには”◯◯さん”という敬称が用いられていたゆえ尚の事です。礼節は大切ながら、それでも気になった次第です。)
他にもVTRの間違い(Grand Ceremony本編およびMIDTIMEで一度ずつ)が起きたことは残念ですが、個人的には菅田将暉さんの司会進行も気になっています。時間の制約を無視しようとした姿勢、スタッフが寝ていないと発言する等はサービス精神やリップサービスといわれればそれまでですが、しかし腑に落ちません。海外のエンタテインメント業界はきちんと休息を取る傾向にあるため、日本は大丈夫かと思われかねないでしょう。
またカンペ読みの目線が目立つこともさることながら、ノミネート歌手一人ひとりに声を掛けるのもどうなのだろうと感じています。米グラミー賞やアカデミー賞ではほぼみられず、日本レコード大賞における大賞候補者や日本アカデミー賞における俳優部門候補者一人ひとりをフィーチャーする姿勢を踏襲した日本的な演出に違和感を抱く方は少ないかもしれませんが、この演出は一方で他の部分の時間を奪いかねません。
テレビ中継前半の最後にはMAJ Timeless Echo部門を受賞した矢沢永吉さんがパフォーマンスを行いましたが、パフォーマンス終了直後に中継が終了。当初からこのタイミングで中継が終了する設定だったかもしれませんが、矢沢さんのコメントがテレビで流れなかったことに菅田将暉さんの進行やノミネート歌手との対話が影響しているのであるならば、その演出は矢沢さんに対し失礼ではなかったかと感じています。
その他、会場となる京都ロームシアターが米グラミー賞のそれに対し狭いという点も挙げられますが、伝統的な場所ゆえの使用であるならばその旨は中継時にきちんと伝えることが必要だったでしょう。またYMOの音楽をフィーチャーし、細野晴臣さんが登壇されたことについて、MUSIC AWARDS JAPANが今年の音楽賞を象徴する歌手としてYMOを選んだということも訴求する必要があったはずです。
ただ、YMOに関する紹介はおそらく、このGrand Ceremony冒頭で流れたオープニングショー映像でということかもしれません。この発信はGrand Ceremonyで紹介されなかったジャンルも網羅し(それこそPremiere Ceremonyとも分けられた演歌・歌謡曲も含んでいます)、日本の音楽の奥行き、そしてMUSIC AWARDS JAPANの本気度を示すことができたのではないでしょうか。このオープニングショーは素晴らしいと感じています。
疑問については次回以降の改善を願いつつ、Grand Ceremonyにおいてはその受賞結果も含め納得度の高いものだったというのが自分なりの総括です。次回はノミネート歌手の出席率、そして広く音楽ファンへの賞の認知度を高めるべく、一年をかけてMUSIC AWARDS JAPAN側が周知徹底を行っていくことが必要でしょう。
新設音楽賞に関わったすべての方に感謝申し上げると共に、自分はMUSIC AWARDS JAPANを機に日本の音楽が海外にも轟くかについて、チャート分析を引き続き行っていきます。