イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

紅白は今年リリースのヒット曲を重視か…YOASOBIによる2024年リリース作品の動向から考える

『第75回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか 以下”紅白”と記載)の出場歌手一覧にYOASOBIの名前がなかったことで、主にゴシップメディアがこの点を踏まえ紅白を非難する記事を発信しています。自分は予想段階にてYOASOBIを挙げていますが、NHKスポーツ中継のテーマソングに「舞台に立って」が用いられていたこと、NHK関連曲がパフォーマンスされやすいことを踏まえての選出でした。

今回の紅白の人選をあらためて確認するとオリンピック色は薄い一方、今年度ではなく今年のヒット曲を輩出した歌手が選出される傾向が強いと感じています。

 

今回NHKは中堅やベテランとも呼べる歌手を選出から外しています。紅組はPerfume、白組は鈴木雅之さんやゆずが外れました。またNHKオリンピック/パラリンピックでも使われた「舞台に立って」を歌うYOASOBIが未選出、オリンピックイヤーにもかかわらず『ハイキュー!!』映画主題歌「オレンジ」がヒットしたSPYAIRも選ばれなかったことから、NHK側は紅白でのオリンピックの取扱を減らすかもしれません。

ともすればオリンピックについては、昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)同様にTBSが押さえている可能性があり、ゆえに紅白でその色が出せない可能性が考えられます。また今年はベテランや中堅における常連歌手も選外となっていますが、これは今年のヒット曲を輩出した歌手を優先したことも背景にあると考えます。

今週発表されたDAMおよびJOYSOUNDの年間ランキングでは、2024年発売曲に絞った部門が用意。そしてその部門において10位以内に登場した歌手のうち6組が紅白出場を果たしています。上位10曲については来週金曜に発表されるビルボードジャパン年間ソングチャートでの100位以内エントリーも高いとみられますが、このカラオケランキングにYOASOBI、またAdoさんの作品はありません。

YOASOBIは「アイドル」、Adoさんは「唱」が昨年大ヒットし、YOASOBIにおいては「勇者」もロングヒットしています。ビルボードジャパンソングチャートでは前年度以前からのロングヒット曲も年間チャートで上位進出しやすいのですが、今年の曲がヒットしなければ紅白には選ばれにくいことがカラオケランキングからもみえてくるかもしれません。

 

YOASOBIは2024年のビルボードジャパンソングチャートに「HEART BEAT」「UNDEAD」「舞台に立って」「モノトーン」を送り込み、ドーム公演終了翌日となる11月11日にはライブでも披露した「New me」を解禁しています。一方でビルボードジャパンの成績は「HEART BEAT」が最高33位/100位以内4週エントリー、「UNDEAD」が10位/21週、「舞台に立って」が16位/8週、「モノトーン」22位/5週という状況です。

そして最新曲「New me」は前週11月20日公開分のビルボードジャパンソングチャートで初登場40位、当週61位に後退しています。今夜ミュージックビデオが公開されることで動画再生指標が加点されていく可能性も考えられますが、公開と同時に公式オーディオが用意されながら動画再生指標は現時点で加点されていません。

YOASOBI「New me」の初週順位に大きな影響を与えた指標のひとつがダウンロードであり、初週6,936DLを記録しています。ダウンロード全体が下がっていることも考慮する必要はありますが、前日まで17万人を動員したドームツアーを開催し、「New me」リリース日にはそのライブレポートを各メディアが公開した状況にあって、決して高い数字とは言い難いというのが私見です。

 

YOASOBIの2024年における動向は、ソングチャートとアルバムチャートを合算したビルボードジャパンのトップアーティストチャート(Artist 100)の推移からも判断できるといえます。

総合順位は棒グラフで示されますが、YOASOBIは緩やかに順位を下げている傾向にあります。また先程は年間カラオケランキングを紹介しましたが、YOASOBIは緑で表示されるカラオケ指標において順位が漸減しているという状況です。

 

コアファンとライト層(歌手のファンというわけではないが曲が気になる方)との差に表れるといえる所有行動(ダウンロード)がライブ規模やその反響に比べて大きくないこと、またライト層の支持が反映されやすいストリーミングが(300位以内に入り加点されてはいるものの)高くはない「New me」の状況を、歌手側は今後の運営に考慮していく必要があるといえるでしょう。

そして、ともすれば紅白側はソングチャートやトップアーティストチャートの動向からアーティストパワーを察知し、今回YOASOBIを選出しなかったのかもしれません。先に名前を挙げたAdoさんにおいても似た動きであり、この選出する/しないの仮説が当たっているならば紅白の人選が如何にシビアかが理解できるはずです。音楽チャート分析者として、この判断を興味深く感じています。

(無論、今後紅白が追加発表にてYOASOBI等を選出する可能性はゼロではありません。ただYOASOBIは昨年において最初の出場歌手発表段階でクレジットされていることから、今年の追加は厳しいのではと考えます。そして、紅白側が招聘しながら歌手側が断ったという可能性についても想起する必要があります。)

 

 

最後に。一部メディアではYOASOBIの紅白不出場の理由として、Ayaseさんのタトゥーを挙げています。それが事実かは解りませんが、仮にそうならばNHK側がタトゥーについてのガイドラインを前もって用意することが必要だったはずです。そしてそれこそ、自分が以前からこの場を借りてメディアや市井に対し提案してきたことでもあります。

自分がタトゥーについて真に問題だと考えるのは、これまで公私に限らず、広く社会的な議論がなされてこなかったということ。世代による認識の差等、多様な考え方があることを相互理解し、差を埋めようとする気概がなかったように思うのです。

紅白非難に勤しむメディアには疑問を発するのみに留めず、NHKに対しタトゥーに関するガイドライン策定の有無や、実際にタトゥーが人選に影響を及ぼしたかを問うよう願います。その姿勢こそ、報道する者に必要なジャーナリズムではないでしょうか。