イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

XGのアルバムチャート制覇、Mr.Childrenの解禁スケジュールから考える、デジタルの重要性と日本の問題

最新10月4日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートでは、XG『NEW DNA』が初登場で首位を獲得しています。実はこの作品、フィジカルセールス指標3位ながらダウンロード指標がトップとなり、総合で逆転した形です。

ビルボードジャパンによるアルバムチャートは、フィジカルセールス指標を制した作品がほぼ総合も制するという状況が大半であり、ゆえにXG『NEW DNA』の総合制覇を興味深く捉えています。

今回XG『NEW DNA』が総合アルバムチャートを制することができたのは、同作品がダウンロード指標でトップに立ったため。それでもフィジカルセールスと単純に合算した数値ではAXXX1S『Ability』のフィジカルセールスに及ばないのですが、ビルボードジャパンのチャートポリシー(集計方法)ではフィジカルセールス1枚よりダウンロード1DLのウエイトが大きくなっており、それが総合での逆転に影響しています。

総合アルバムチャート2位のAXXX1S『Ability』はフィジカルセールス指標首位の一方でダウンロードは300位未満となり指標加点なし、また総合3位のNCT『Golden Age』はフィジカルセールス指標2位の一方でダウンロード指標は加点されながら100位未満(300位圏内)となっており、デジタルの重要性がよく解ります。

 

ビルボードジャパンの最新ポッドキャストではXG『NEW DNA』の総合アルバムチャート首位獲得について紹介されていますが、個人的にはチャートの仕組みを伝えることも重要と考えます。フィジカルセールス1枚よりダウンロード1DLのウエイトがより高いということは先述したとおりですが、アルバムチャートが所有指標のみで構成されているということも今一度伝える必要があるでしょう。

 

ビルボードジャパンでは2023年度に入り、ソングチャート共々アルバムチャートからもルックアップ指標を廃止しています。ルックアップとはCDをパソコン等のインターネット接続機器にインポートした際、インターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指します。

ルックアップはCDの売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)、またレンタルCD人気の推測を可能としますが、昨年度でもってこの指標は廃止されています。Gracenote側の事情も背景にはあるのですが、これによってレンタルCD人気(実際はレンタル自体も縮小傾向ゆえ、その点からも指標廃止はやむを得ないと思うのですが)に伴う接触指標なくなり、アルバムチャートは完全に所有指標のみとなりました。

そこで弊ブログでは、ルックアップやTwitter指標の廃止がアナウンスされた直後にアルバムチャートへのストリーミング指標導入を提案しています(上記リンク先参照)。ルックアップはレンタルCDの取込分加算という接触指標的意味合いがあったこと、ソングスチャートでヒットした曲を含むアルバムがヒットしにくいという問題の解決にもつながること等が提案の理由です (中略)。

たとえばアルバムがグッズ的な意味合いが強いことを理由に売れたとして、収録曲がストリーミングでヒットに至れていない場合には総合アルバムチャートでの上位進出や安定にはつながりにくくなります。そしてそもそもデジタル未解禁作品は解禁を迫られ、日本の音楽業界全体の改善にもつなげられる可能性があるでしょう。

(※上記引用におけるリンク先はこちらになります。)

ビルボードジャパンは以前のポッドキャストにて、アルバムチャートへのストリーミング指標導入(米ビルボードが採用しているチャートポリシー)について否定的な見解を示しています。ゆえに叶わない可能性は高いとして、今回のXGによる制覇のみならず今週リリースされたアルバムのデジタルへの対応を知り、やはりビルボードジャパンが変革し音楽業界を誘導しなければいけないのではと感じています。

 

(なお、米ビルボードアルバムチャートにはストリーミング(動画再生含む)のアルバム換算分(SEA)のほか、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)も含まれます。仮にビルボードジャパンアルバムチャートにSEAやTEAが合算されたならば、XG『NEW DNA』は2位以下にさらに大きな差をつけることができたと捉えています。)

 

 

今週リリースされたMr.Childrenのアルバム『miss you』からは5曲を用いたトレイラーが前月に公開され、9月16日に「ケモノミチ」、そしてアルバムのフラゲ日となる10月3日には「Fifty's map ~おとなの地図」が配信リリースされています。しかし上記ポストのリンク先にあるように、アルバム全体の配信開始は5週後となっています。

アルバム収録曲はデジタルにて先行公開する一方でアルバムそのものの解禁は後発という例は、森口博子さんによるアニメソングカバー集でもみられています。またフィジカルシングルにおいてはB'z「STARS」や中島みゆき「心音」がデジタル後発措置を採っており、「心音」は2週後、「STARS」については2ヶ月以上解禁に時間を要しました。

(なおSpotifyでは、後発での解禁ながら「STARS」「心音」を新曲プレイリストに選出しているのを確認しているのですが、果たして解禁を遅らせた作品を新曲として扱っていいのか、疑問を抱きます。)

 

ビルボードジャパンは先月、世界における日本の人気曲を示すGlobal Japan Songs Excl. Japanチャートを新たに立ち上げました。日本の曲はデジタルで解禁していれば基本的に海外でも聴くことが可能です。そのGlobal Japan Songs Excl. Japanは米ビルボードのGlobal 200を基としていますが、そこから米の分を除いたGlobal Excl. U.S.にてYOASOBI「アイドル」が通算3週制したことは、今年を代表するJ-POPのトピックのひとつです。

なぜ「アイドル」はここまで海外でも受けたのだろうか。

 

「もちろんアニメや時代性、SNSでフォロワー数の多い人が発信してくれたこともあると思うんです。でも、『海外を意識した、意識してない』とかというよりかは『日本だけって意識をしていない』っていうイメージです。今までのレジェンド的なアーティストたちは、どこを市場のメインにするかを断定しないといけなかったけれど、サブスク時代にもなったし、SNSYouTubeもみんなシームレスで世界中で見られる状態にあるからこそ、別に市場を断定せずとも活動できるようになった。(以下省略)」(Ayase)

 

(中略)

 

「私たちが世界に向ける用に曲を作ってなくて、『アイドル』もそうですけど、J-POPをしっかり突き詰めて、一番かっこいいJ-POPを私たちでやる、っていうことが芯にあるからだと思います」(ikura)

YOASOBIは今週公開されたインタビューにて今のサブスク時代において日本だけを意識しているわけではないと話す一方、良いJ-POPを作ることを心掛けており、その結果としてJ-POPが海外にも轟いています。であれば、どこを市場のメインにするかを断定しないといけない時代にデビューしたベテラン歌手にも可能性は拡がっているはずです。ただしそのためには、デジタルをきちんと解禁していればという前提があります。

Mr.Children『miss you』とYOASOBI『THE BOOK 3』は同じ10月4日にリリースされ、後者のみデジタル解禁。ダウンロードの速報値は本日発表予定ですが、フィジカルセールス速報値(上記参照)を踏まえれば『miss you』が総合アルバムチャートで優位に立つと考えます。しかし『THE BOOK 3』は「アイドル」を筆頭にストリーミングで強く、仮に日本のチャートが米ビルボード的ならば『miss you』を逆転したかもしれません。

ソングチャート上位曲を含むアルバムが最上位に進出しにくい状況を見直すという意味でも、ビルボードジャパンにはチャートポリシー変更の議論を求めます。そして変更が成されれば、アルバムチャートはデジタルで強い作品がより社会で浸透していると示せるのみならず、ロングヒット化に伴うチャートでの評判が日本のみならず海外にも伝わりやすくなるかもしれません。

 

デジタル後発という措置は、主にベテランと呼ばれる歌手が採用しています。そのベテランと呼べる方々は、ともすれば必要以上に重用されていないかと思うことが少なくありません。たとえば昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)では大ヒットしたOfficial髭男dism「Subtitle」が短尺版で披露されていますが、たとえば桑田佳祐さんのVTR(主に寸劇)を短くすることで「Subtitle」をフル(に近い形)にできたのではと考えます。

また、ベテラン歌手のデジタルへの姿勢に対し業界が総出で説得しているかが疑問だというのが、厳しくも私見です。昨年は山下達郎さんがインタビューの中でサブスクを一生解禁しないと発言、さらにデジタルに関わる方への無礼な言葉も散見されますが、音楽業界から反対の声をあまり耳にしなかったのみならず、実はごく一部をサブスク解禁しているにも関わらずその点について追及されることもなかったと記憶しています。

山下さんは今年に入り、所属芸能事務所を離れた音楽関係者との行き違いにおいて強く非難されています(批判が乏しく非難が多かったという点は問題ですが)。その件自体への私見はここでは述べませんが、山下さんに対してはサブスクへの発言や、竹内まりやさんの過去のベストアルバム『Impressions』内ライナーノーツでの中森明菜さん側への非礼を踏まえれば、周囲がその都度きちんと訂正等を求める必要があったと考えます。

 

 

日本の音楽業界のみならず、エンタテインメント業界全体がきちんと指摘し、批判の上で改善を提案する気概をみせてほしいと願います。デジタルの利益が乏しいというならば、デジタルプラットフォームとの交渉もまた必須です。それが(見え)ないからこそ、日本においてデジタル後発の多さやアーカイブの少なさが未だ当たり前となってしまっているのではないでしょうか。

先述したGlobal Japan Songs Excl. Japanについての解説時に記した内容を再掲します。このチャートでは松原みき「真夜中のドア~stay with me」がチャート開始以降トップ10前後をキープしています。

私見と前置きしますが、シティ・ポップの流行がより大きく拡がらなかったのは同ジャンルのデジタルアーカイブが十分ではないために海外の音楽ファンが深掘りに至れなかったが原因と捉えています。言い換えれば、デジタルアーカイブが十分な「真夜中のドア~stay with me」が成果を上げたことが今回証明されたといえるでしょう。同曲はミュージックビデオの新規制作や、ライブ映像のアーカイブ化も実施しています。

今回のGlobal Japan Songs Excl. Japan等のローンチは、未だデジタル未解禁の目立つ日本の音楽業界に大きな刺激を与えるでしょう。今後シティ・ポップ以外の過去曲もTikTok等でヒットする可能性は十分考えられ(それこそ海外ではフリートウッド・マック「Dreams」がリバイバルヒットしたという例もありました→こちら)、機会損失がその都度生じるならば、業界全体での未解禁者への説得とデジタル環境改善は急務です。

上の者を(非難はすれど)批判し提案しないという姿勢が改善を防いでいるということは、問題の大小に関わらず様々な件が解決しないことの根幹にあると感じています。業界の本格的な取組がなければ日本文化全体の世界での浸透は厳しいでしょうし、今頑張っているクリエイターの足をベテランも業界も引っ張っているといえるのではないでしょうか。その点を理解してほしいと強く願います。